最凶の妖怪に呪われた一般人の妖怪祓い   作:霧夢龍人

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運命と絶望

入学式。

それは人生にとってとても大きな式の1つであり、新しい環境への不安とワクワクが渦巻くものだ。

 

かという僕も、その例に漏れない。

 

「ふんふんふーん」

 

天気は快晴。

絶好の入学式日和に、イヤホンから流れる歌に合わせて花歌を歌いながら、自転車で長い参道を進む。

春風が心地よく肌を刺激し、桜がはらりと地面に舞い落ちる。

 

なんて良い日なんだろう。

 

人は誰しも漫画やアニメのような展開に憧れる。

 

そう、例えば美少女の幼なじみであったり。

例えば屋上の空いている学校であったり。

例えば友達と放課後に遊びに行ったり。

例えば可愛い女子やかっこいい男子に告白されたり。

 

そして今思い浮かべたものの大半は、青春という2文字で片付けられるものだ。

つまり、学生は青春に憧れている。羨望していると言ってもいい。

その青春とは、高校生だったり、大学生であったり、あらゆる学生が体験出来る可能性のあるものだ。

 

だが1つ問おう。

 

この僕、『鬼如月(きさらぎ) 九十九(つくも)』には、その青春以外に憧れているものがあった。

 

それは例えば、テロリストから学校が襲撃されるのを止めたり。

例えば唐突に開催されたデスゲームから生き残ったり。

例えば異世界転生して最強になったり。

 

例えば───

 

「ふんふふーん・・・って、なんだあれ?」

 

───摩訶不思議なことに遭遇したり、だろうか。

 

「白い・・・鳥居?」

 

入学式という一大行事に浮かれていたはずなのに、その鳥居に気付けたのは、今思えば運命だったのかもしれない。

 

それはほんちょっと。

白い鳥居というほんの少し興味を持たせられる代物を見て、好奇心が沸いた俺は、その近場に自転車を停めた。

 

白い鳥居。

普通なら朱色が代表的だが、その鳥居は目を見張るほどに白かった。

 

「へぇ、珍しい鳥居もあるもんだね・・・あれ、でもこんな場所に鳥居なんて見たことないけどな」

 

ふと気になって、目に入った鳥居へと続く上に上がる階段を進んでいく。

 

入学式までまだ時間はある。

恥ずかしい話だが、かなり早めに家を出たため、現在時刻はまだ7時前半。

入学式が9時に始まるため、父さんと母さんが恐らくその10分前くらいに到着すると仮定するならば、あと1時間以上は暇だ。

 

「にしても、遠目で見た時より大きい・・・なんで今まで気付かなかったんだろ」

 

と疑問を口にしながら、一歩一歩鳥居に向かって歩いていく。

太陽の光を反射して輝くその鳥居の異様は、まさしく神聖という言葉が相応しかった。

 

鳥居周りには草花が生い茂り、まるでそこだけ別の空間であるかのような錯覚を起こす。

 

「つ、着いたぁ・・・なんでこんなに急なんだよぉこの階段」

 

かなり傾斜の高い階段を上り終えて、息も絶え絶えだ。

中学生の時はこれでもバドミントン部に入っていたが、今では見る影もない。

しかし今は、そんなことは気にならなかった。どうでもよかった。

 

「おぉ・・・すげーいい景色。ってことは案外、有名な場所なのかな?」

 

長い階段を登りきった先には、太陽の光を反射してキラキラと輝く白銀の海と、それを背景に建造された小さな神輿のようなものが、ポツンと置かれていた。

 

その近くには墓石のようなものがあり、判断が不可能な程に汚れた文字が書かれている。

 

「くび・・・つか?」

 

なんとか判断出来る文字を読めば、首塚と書かれていた。

首塚と言えば、首から上の頭の部分が地面に埋められているイメージだが、本当にその首塚なんだろか?

というか一体何の首塚なんだろうか?

 

こんなに景色のいい場所で、白い鳥居という珍しい建造物をくぐった先にある神輿と首塚。

とすれば、ここに首を埋められている人は生前、かなり偉い人であったことは想像にかたくない。

 

「まぁ、深く考えても仕方ないよね。せっかくだし、記念に写真でも撮るか」

 

イヤホンを耳から外してポケットからスマホを取り出し、パシャリパシャリと景色を切り取る。

もしかしたら、入学式で話せる話題になるかもしれない。

 

そんなちょっとした淡い期待を込めながら、1枚1枚あーでもないこーでもないと写真を撮り続ける。

 

やがて、スマホの中に切り取られた景色が10枚を超えた。

 

「そろそろいいかな」

 

まだ余裕はあるが、入学式なのだからいつも以上に余裕を持って登校した方がいいだろう。

 

そう判断して、何度も撮影した壮大な景色から踵を返し、階段を下ろうと視線を下ろした───その矢先だった。

 

「・・・か、階段が・・・ない?」

 

先程まで上っていた階段が消え、白い鳥居が幾重も奥へ奥へと続いていた。

しかも、まるで鳥居の続く森の中を抜けてきたように、鳥居の周りを囲むように木々が生い茂っていた。

 

ドサッ。

 

あまりの出来事に呆然とし、思わず手に持っていたスマホを落としてしまった。

 

何でだ。

とうしてだ。

さっきまで僕は階段を上ってきたはずだ。

 

しかし───ない。

 

あると思っていたはずの階段がない。

 

幻?夢?

いやいやまさか。

 

「でもそうじゃないと説明がつかないな」

 

今僕が見ているこの景色も、美味しいと感じるこの空気も、草花の香りを感じるこの匂いも、肌を刺激するこの風も、木々が揺れる音も・・・全てが現実だと訴えている。

 

だが本当にそうなのか?

 

見えている景色だけが幻で、間違って1歩でも踏み出せば階段から真っ逆さまに落ちてしまうのではないだろうか?

 

もしくは今まで見ていた景色が全て夢で、まだ現実の自分は寝ているだけではないだろうか?

 

───いや、ここで考えを巡らせてもしかたない。

少なくともグズグズしている場合ではないだろう。

何せ入学式までには高校についていないといけないのだ。

 

「・・・進むか」

 

恐る恐る足を踏み出す。

一歩一歩確実に、ゆっくりと前へ進む。

 

その度に地面に落下していた葉や枝を踏みしめるパキパキという音が、僕の耳にもはっきり聞こえた。

 

「やっぱり、幻じゃない」

 

ここで、実は地面に見えているだけで本当はそこに階段があるのではないか、という淡い期待が潰えた。

 

少し恐ろしかった。

 

自分は一体何処にいるんだろう。

いやそもそも、自分は本当に戻れるのだろうか?

 

数ある疑問が脳内にどんどん溢れ出す。

 

何重と続く鳥居の下をくぐる度に、その疑問はより増していく。

 

だが、足を止める訳には行かなかった。

止まるくらいなら先に進みたかった。

 

見渡す限り森の中。

その中で、自分の踏みしめる地面の音だけが唯一の心の支えだからだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・け、結構時間経ったかな」

 

体感30分以上歩いた気がする。

気になってスマホを確認してみるが、時間がまるで進んでいない。オマケに最悪なことに、ここは電波が通っていない。

 

つまり圏外だ。

 

だから憶測で測るしかない。

 

自分の体力にはそこそこ自信があったが、慣れてないローファーで険しい森を突き進んでいくのは、やはり体力が削られる。

 

「あーーー!!もう疲れた・・・少し休憩しよ」

 

どっこいしょ、とおっさん臭くその場にどかっと座る。

喉がカラカラだ。出来ればなにか飲み物が欲しい。

 

今思えば、水筒が入っていたスクールバッグを自転車のカゴに置いていったのは失態だった。

 

「はぁ・・・ローファーってこんなに走りづらいのか」

 

汗をかいているため、ブレザーを脱いでおしりの下に敷く。

新品だが、葉っぱのチクチクとした感触でろくに休めなくなるよりかはマシだろう。

 

鳥居に寄っかかりながら、疲れを癒すべく目を閉じた。

 

ザワザワと音を立てる木々に、心地よい太陽。

鳥居は固くて痛いが、万が一寝ないようにするためにはうってつけだ。

 

にしても本当に心地がいい。

確かにさっきは怖かったが、何十分も歩けば多少は慣れるものだ。

 

ならば少しの間、ここで肩を休めてもいいだろう。

 

そう思い、しばらく息を整えていた───その時だった。

 

目を閉じて風を感じているさなか。

 

ガサリ。

 

と、地面を踏みしめるが聞こえてきた。

 

気のせいか?

 

念の為、目を開き警戒する。

 

ガサリ。

 

今度はハッキリと聞こえた。

 

何かの獣だろうか?

該当するなら猪かもしれない。

いずれにせよ、いつでも逃げれるようにブレザーを着て立ち上がる。

 

ガサリ。

 

音の発生源はどうやら、自分が歩いてきた道の奥のようだ。

 

ガサリ。

 

でも気にせいだろうか。

 

ガサリ。

 

だんだんこっちに近づいてきている気がする。

 

ガサリ。

 

・・・いや、どんどん音が大きくなっていく。

 

ガサリ。

 

音の間隔も狭まっていく。

 

ガサリ。

 

そして気づいた。

これは・・・。

 

ガサリ。

 

ガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリガサリ。

 

「うわぁーーーーー!?」

 

情けない声を上げながら、慣れないローファーで必死で逃げる。

 

なぜならこれは。

この音の正体は間違いなく野生動物なんかじゃない。

 

実際にはその姿を見ていないが、それだけはハッキリと分かる。

そして、僕をじっとりと見つめるような視線と、どんどん早くなっていく足音。

 

それは僕を確実に追いかけてきている。

 

正体は分からない。

もしかしたら人かもしれない。

 

けど、何故か分からないけど、ソレから逃げないといけない、という“嫌な予感”があった。

 

ガサリガサリガサリ。

 

「ひ、ひぇーーー!?」

 

走る走る走る。

 

だがソレは僕より足が早いのか、さっきまであんなに遠くに聞こえていた音が、もうくっきりと聞こえてしまうほどの距離にいる。

 

・・・ダメだ、このままでは追いつかれてしまう。

 

ならば仕方ない。

買ったばかりであるが、今ここで行動しなければ僕はどんな目にあうか分からない。

 

買ったばかりで新品のローファーを両方とも前に蹴りだし、地面に落ちたところをすかさず拾う。

 

そしてそれを───

 

「おっりゃぁぉぁぁぁぁあああー!!!」

 

───後ろへ向けて思いっきりぶん投げた。

 

そしてすかさずもう一個のローファーもぶん投げた。

 

少し遅れて、ガコンッ、と勢いよくぶつかった音がする。

 

よし。

上手く当たってくれたようだ。

音が少し遠のいた気がする。

 

ついでにローファーが無くなったため、走りやすくなった。

お陰で地面の衝撃が直に来るが、今は気にして居られないだろう。

 

「うぉぉぉぉーーー!!」

 

あとは全力疾走あるのみだ。

 

後ろにいるナニカも少し怯んだようだが、きっとまた追いかけてきているだろう。

 

何が目的か分からないし、正体を知るために振り向こうとも思わない。

そんなことを考えている暇があるなら、足を動かすべきだろう。

 

「走れッ!走れッ!走れぇーーーー!!」

 

ただがむしゃらに、ひたすらに前へ前へと突き進んでいく。

すると、出口らしきものが見えてきた。

 

最後の鳥居の先には、神社らしきものが見えた。

 

逃げて隠れるならあそこしかない。

 

「負けんな僕ッ!早く逃げ出してぇーー!!入学しきで可愛い彼女作るんだァァァ!!!」

 

魂の叫びだったと思う。

喉が枯れたかと錯覚するほどの大声を出しながら最後の鳥居を潜り抜け、そのまま神社の御社殿の襖を明け、その奥へと隠れた。

 

そして襖に小さな穴を開け、その穴から音の正体を見ようと覗き見た。

 

「こ、ここなら安全・・・かな?」

 

痛む肺を抑えながら、必死に音の正体を探す。

 

その時だ。

 

「小豆はいらんかね?」

 

「・・・へっ?」

 

───すぐ後ろに、ナニカがいる。

 

「小豆はいらんかね?」

 

そのナニカは、まるで狂った機械のように僕に問い続ける。

 

「小豆はいらんかね?」

 

怖い。

怖い。

僕のすぐ後ろに得体の知れないナニカがいて、それは僕に問い続けている。

 

その声は老人のように嗄れており、シャカシャカと何かを混ぜている音も聞こえてきた。

 

きっと・・・今振り向けば殺される。

だが、振り向かざるをえない。

 

あぁくそッ!何でだ!

僕はただ・・・気になって見に来ただけなのに!

まだ、まだ可愛い彼女すら出来ていないのに・・・なんで、こんなところで・・・。

 

「小豆はいらんかね?」

 

あぁ、ダメだ。

もう体が動かない。

しかしまるで誘導されるように、頭が勝手に後ろを向いてしまう。

 

果たしてそこには・・・。

 

「っ!?あ、あぁ!?ぁぁぁあ・・・!!」

 

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