【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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モラトリアム
暗殺者を片手間に倒しちゃう系モブ


 ネオン輝くこの都市に闇は似合わない。

 いつまでも極光の如き光に照らされている場所、それでもこの都市には巨悪が根を張っている。

 それは都市を越え、この世界そのものにまで手を伸ばそうとしている。

 じわじわと染み渡る墨のようにゆっくりと、間違いなく確実にその勢力を広げていた。

 

 ━━その事を俺は原作知識として知っている訳だが、生憎とそれに関わる因果がない為、手を出す事が出来ない。

 

 オリジナルの和製RPG『ネオンライト』の舞台、ネオンシティ。

 俺は今、まさにその都市にいる。

 とはいえ俺はただその物語の舞台にいるというだけであり、原作とはまるでほど遠い位置にいる。

 原作知識を持つ転生者だというのにストーリーに登場しなかったどころか、主人公達と縁を持つ事すらできていない。

 だからそう、俺はただ原作の舞台にいるだけなのだ。

 ストーリーを間近で見る事も現状出来ていなければ、主要キャラクターと話したりする事も出来ていない。

 本当に、悲しい。

 ただまあ、ひとりの原作ファンとしてただの一般人が原作に関係を持って良いかと聞かれれば答えに困るのもまた事実。

 最悪、俺のせいで物語が変わってしまう可能性もあるのだから。

 好転するなら良いが、悪化したら最悪。

 ……俺が関わらなければ間違いなく原作通りに進むのだろうし、だからここは不干渉が吉だろう。

 

「探しましたよ、ルクス・ライトさん」

 

 と。

 早朝にネオンシティの公園にあるベンチで新聞を読んでいたところ、不意に声を掛けられる。

 何者かと思い顔を上げると、そこでいきなり目の前に剣の切っ先が突きつけられた。

 ……え、なんで?

 

「今はなき騎士の血族、その末裔。ライト家の男である貴方とこうして会う日を待ち望んでいました」

 

 ちなみに、騎士の一族はそこまで珍しくない。

 原作には多くの、敵組織によって衰退させられ没落した一族があり、そしてライト家はそのうちの一つ。

 もっとも、原作では名前すら登場しなかったが。

 

「……確かに俺はライト家のものだが。しかしこの都市はもはや騎士を必要とせず、そして同時に騎士の時代はとうの昔に終わっている──俺に何の用だ?」

「知れた事。貴方という存在は我等に関係ないですが、それでも無視出来るほど些細な存在ではない。だからこそ、ここで貴方を消させていただきます」

「なるほど」

 

 ……つまり原作の敵組織からの刺客ってやつか。

 マジかよ、ここ20年間全く関係を持たなかったのに、まさか向こう側からこうしてやってくるとは。

 いや、ていうかこっちは例によって不干渉であろうと思ってたのに、むしろそっちから関わってくるのかよ。

 

「……俺は君達の行っている事に興味はないし、敵対する意思もない。それではダメか?」

 

 どうにか穏便に済ませたい俺の答えに対し、その男は笑って返してくる。

 

「はは、は! あいにくと既に貴方は私の『領域』に入っている。ならばこそ、貴方の未来は一つと決まっている!」

 

 膨れ上がり、ぶつけられる殺気に対して俺はどうしたものかと肩を竦めたくなった。

 剣閃が文字通り雨のように降り注ぎ━━俺はそれを、受け止め刀身を掴みこむ。

 がしりと動かなくなった剣を見、動揺する男の様子を見て少しだけホッとする。

 この様子から見て、多分こいつはそこまでの実力者ではない。

 ならば、ここで倒しても問題ない、な。

 

 そう判断してからは早かった。

 

「ぎゅッ!!」

 

 頭を掴み、そのままシェイクする。

 脳みそを揺らされた男の意識はそのまま消え失せ、体から力が抜けた。

 無力化した男を片手で掴む。

 とりあえず━━警察に連れてくか。

 

 

  ◆

 

 

 これは彼━━転生者たるルクスが知らない情報だが。

 この都市の警察組織は既に悪の組織と癒着している。

 正しい事はなく、悪は裁かれない。

 だからこそ彼がその男を連れてきたところでそれは檻の中に入れられる事はなく、そのまま組織に引き渡されるだけとなる。

 

 それでも、驚きはあった。

 

(シゼンが倒された、だと……!)

 

 静寂のシゼンと呼ばれる暗殺者。

 暗殺者でありながら真っ向からの戦いを好む異端者。

 しかしその腕前は折り紙付きであり、数多の強者を屠ってきた。

 その男の暗殺が失敗に終わった事実は組織にゆっくりと浸透していく。

 

 ただの、物語に一切関係のない一般人。

 

 その存在は今のところ、物語からは『モブ』として把握されていた。

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