【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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まだ役割のないモブと、ただのモブ

「待ちかねたぞ!」

 

 トイレから出た瞬間にやたら大きな声で出迎えられる。

 黒一色の男。

 身に覚えはないし、知り合いでもない。

 

 そして男はご立腹な様子だった。

 

「おい、なんか随分と長かったな。便秘気味だったのか?」

「いや、普通に快便でした。ただまあ、少しだけ潔癖症なもので。だから余分にお尻を拭いてしまうと言うか」

「ウォシュレットを使え、そしてこの遊園地のトイレは温風も出るからな。ちゃんと乾かして来たか?」

「普通に紙で拭いて来た。でも、気遣いありがとうございます」

「よし、それならば……って、待てお前」

 

 男は体を怒りに震わせ、叫んだ。

 

「ちゃんと濡れた手はハンカチで拭け! 子供じゃないんだから!」

「あー、すまない。急いできたから━━」

 

 俺はポケットから取り出したハンカチで濡れていた手を拭く。

 ちゃんと俺が水分を拭き取ったのを確認した男は「よし」と頷く。

 

「子供は大人の真似をするからな。ちゃんと格好良くしろよ」

「お心遣いありがとうございます」

「うむ」

「それでは」

 

 俺は待たせているであろうリヴィアとタナトスの元へと急ぐ━━

 

「って、待て待て待て待て!!!!」

 

 と、男に呼び止められる。

 振り返ると、なんか男がさっきより怒り気味になっていた。

 

「俺は! お前と! 戦いにきたの!!」

「え、いやそのすみません。俺、そういう即興の演技は苦手で……」

「演技じゃねーし! 俺は【十三階段】の戦士だし!」

「!!!!!!!!」

 

 刹那。

 俺の身体に激震走る。

 そして改めて男の姿を確認した。

 どこか自信に満ちた表情。

 しかし愛嬌があり、それこそマヌケっぽい顔の造形。

 なにより、このペングィーンランドという舞台。

 ま、まさか━━!!

 

「お、お前は━━ラムダ!」

「おう、その通りだ!」

「あの、『激昂爆轟』のっ!!」

「お、おう? そんな二つ名はない、ぞ?」

「【十三階段】、第三階位の!!!!」

「い、いや。俺はまだ幹部にもなってないが……」

 

 あれ?

 

「……」

 

 俺は改めて男の顔を見る。

 自信に満ちてはいる顔。

 やはりマヌケそうな表情。

 いや、でも。

 

「なんだ、人違いか……」

「な、なんで俺は落胆されているんだ……?」

「よく見ると全然格好良くないな」

「はい?」

「なんかモブっぽいし」

「お、おうおうおうおう!」

 

 男はオットセイのように叫んだ。

 

「黙って聞いてたら好き勝手言いやがって!」

「いや、黙ってはいなかっただろ」

「五月蝿い黙れ!」

 

 グッッッッッ!!!!

 

 拳を、握りしめる。

 そして腰を落としファイティングポーズを取った、ラムダ。

 その動作は荒々しく、しかしその動作の一連はあまりにも洗練されていて思わず目が奪われる。

 

「もう許せねえ。相当な手練れだって聞いてたし相応の敬意は示そうと思ってたけど、止めだ」

 

 ここで━━臓腑を撒き散らして死ね。

 

「そうだな、ああ……激昂爆轟、突き潰すッッッッ!!」

 

 男の姿が━━

 

 

 

 

「……っ!」

 

 ブレた。

 消えた。

 空間が、揺れた。

 否━━砲弾の如き勢いで真っ直ぐに突き進む、男。

 その鉄拳が。

 

 突き刺さる━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズンッッッッ!

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「……あれ?」

 

 音はなく、そして衝撃もなかった。

 現象はなく、ただ目の前で俺の腹部に拳を当てる男がいるだけだった。

 

「ん、んん?」

「えっと、月並みな言葉だけど。凄い一撃だったな」

「え、いや。何でお前、無事なの?」

 

 恐る恐る尋ねてくる彼に俺は正直に答えた。

 

「魔法で受けた」

「あっそういう」

 

 合点がいったように頷くラムダ。

 

「一応その、今の俺が扱える唯一の魔法━━【切断】を使って威力を分散させて、それでいろいろとその、あっちこっちに分散させたり相殺させたり」

「……そんな魔法を使えるなんて情報、初耳なんだが」

「言った事ないからな」

「そっかぁ」

 

 うんうんと頷いたのち、男は。

 

「それじゃっ、俺。今日は帰るわ!!!!」

 

 脱兎の如く、逃げていった。

 いやまあ、そのまま無視しても良かったのだが、しかし彼が進む先は双子が待っているであろう場所があった。

 だから、

 

「ちょっと、待とうか」

「んなっ!」

 

 ラムダの肩を、掴む。

 

「え、いや。お前、さっきまで動く動作見せなかったよな……?」

「俺とお前との距離を『切った』」

「……無法過ぎないか、お前の魔法?」

 

 表情を引き攣らせる男に俺は言う。

 

「折角だし、ビールでも飲んでリラックスしながら話し合おうか」

「……それなら、『マリンスカイ』近くにあるレストランに行こうか。あそこで提供してるクラフトビール、美味いから」

 

 結構余裕あるなこいつ。

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