【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
リヴィアは半ば苛々としていた。
自ら、どうしても見たいテレビ番組の為に1人で帰って来た訳だが、折角の想い人とのデート(同一存在である『他人』と一緒とはいえ)から離脱したのは、あまりにも勿体無い事だったと今更ながら思った。
テレビ番組までまだ時間はあり、だから今日の夕飯のための準備をしたり、食器の用意をしたり━━
がちゃん!!
「あ」
手が滑り、一枚お皿を割ってしまった。
「はあ」と嘆息した彼女。
「新しいものを買ってこなきゃ……」
と、そこでリヴィアは「そういえば」と思い、ひとまず割れたお皿の片付けをしてから冷蔵庫を開ける。
案の定、彼女の思った通りだった。
「あちゃー、牛乳買ってなかった」
失敗と失念。
がっくりと肩を落としながら、彼女は呟く。
「買い物、行かなきゃ」
◆
スーパーは混んでいた。
それでも久しぶりに息子━━ケビンと共に買い物をする時間はとても貴重で、だからフラーは大変でも気持ちはとても穏やかだった。
とはいえ、ケビンは退屈な買い物に付き合わされただけなので、いかにも不服そうにムッとしている。
どうやら今日は彼が好きな珍獣の特集がテレビでされるらしく、だから早く家に帰りたいのだろう。
そうでなくてもスーパーにいるのは不本意だろうし━━
「帰ろうぜ、母さん」
駆け出しそうな勢いで荷物の半分を持ちながら、スーパーを出るなり母であるフラーを置いて行かないような勢いで歩み出すケビン。
その背中を微笑みながら追いかけるフラー。
……明日からまた忙しい日が始まるけど、だけど息子がいるから彼女は頑張れる━━
「フラー・ナイトだな」
━━その場所に人がいなかったのは果たして偶然なのだろうか?
ひとりの痩躯の男性が、目の前にいる。
何かしらの意図を持ち目の前に現れた男、だからこの場に人がいないのは恐らく、必然。
「か、母さん……」
不穏な雰囲気を感じとって身を寄せてくる息子の肩に手を置き、フラーは目の前の男に尋ねる。
「貴方は?」
「単刀直入に言う、貴方の力が必要だ━━最後の騎士」
「……」
「この、何かを犠牲にしなくてはならない事を前提にし、それをネオンの輝きで隠そうとしているこの都市で、共に戦う同志が」
お前だって、分かっているはずだ。
男は続ける。
「今も誰かが犠牲になっていて、それが光の源になっている。そんな現実、間違っていると思わないか?」
━━予感はしていた。
フラーは、感じていた。
物語の、そう。
運命の始まりを。
それはきっと全ての終焉であり、あるいはここが始発点なのだろう。
だから━━
「不審者ーっ!!!!」
思い切り、腹から声を出して叫んだ。
「露出魔ーっ!!!!」
「いやっ、服はちゃんと━━ちっ」
人の気配が近づいてくる。
それに気づいたらしい男は踵を返して一目散に逃げ出す。
残された家族、そしてその元に何事かとひとりの少女が走ってくる。
「大丈夫ですかっ!」
「は、はいその、不審者がいて。でもあっちに逃げていきました」
「……分かりました、念のため警察に連絡しますね?」
少女はスマホを取り出し、どこかに連絡をし始める。
「か、母さん?」
と、不安そうにフラーを見上げてくる息子の頭を、彼女は優しく撫でる。
そして言う。
「大丈夫よ、ケビン」
たとえ、世界が英雄を求めているのだとしても。
━━貴方を
◆
そして、警察への説明をした後にその場からようやく抜ける事を許された少女。
リヴィアは呟く。
「さっきの、聖剣の━━いや、どうでも良いかしら」
はあ、と空を見上げる。
雲一つない星空、しかし彼女の心は晴れなかった。
「もう夜だぁ」
次回から本編(?)スタートです。