【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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非日常が近いモブ

 当たり前だが、社会というのは個々の努力や頑張りによって成り立っている。

 よくブラック会社で辞めたがっている社員に向けて言うらしい言葉に「お前の代わりなんていくらでもいるんだからな」というものがあるらしいが、これは逆に言うと「代わりがいないと成り立たない」という事でもある。

 社会の歯車とはよく言ったもので、人が1人でも欠けてしまうとその穴を埋める為に何かしらの措置が必要になってくるのだ。

 

 ……とはいえ、そんな当たり前の事を理解していない人間は、悲しい事に一定数いるのも事実。

 

「お前の代わりなんていくらでもいるんだからな?」

 

 脅しで使うにしてはあまりにもお粗末な言葉だなーと思いつつ上司にペコペコ頭を下げながら内心溜息を吐く。

 確かに俺の仕事を代わりに担える人間はたくさんいるかもしれない。

 だけどそれは俺がいなくなっても構わないって事ではない。

 抜けたら困るのは会社の方だと思うのだが。

 ……追放系ファンタジーはリアルじゃない、有能な人間をわざわざ辞めさせる訳ないというツッコミはよくされるみたいだが、しかし俺みたいな人間ですらこうなのだから、多分個々の重要性を理解できないまま重要人物を追放、なんてのはむしろ社会全体で見るのならば結構ある話のような気がする。

 

 とはいえそんな事を上司に言えるはずもなく、ただ話を適当に聞き流し仕事に戻る。

 幸いうちの会社は上司があれなのは置いておくとしてわりかしホワイトなので、残業も2時間ちょいしかしなくて済んでいる。

 とはいえ疲れるし上司がクソだし、辞めたい気持ちは変わらない。

 あるいは、一兆円が道端に落ちてたらなーとは思う。

 そんな事を馬鹿みたいに思いながら、俺はくたくたな身体を引きずるようにしながら帰路についていたのだった、が。

 

「……」

 

 落ちてた。

 

 具体的に言うと、道端に落ちていたジュラルミンケース。

 開かれたそれの中にはぎっしりとお金が入っていた。

 いやまあ、一兆円っていうと確か現金にするとトラック一台分くらいになりそうだし、だからここにあるのは一兆円より遥かに少ないのだろう。

 とはいえ、少なくとも一千万円はありそうだった。

 

「……」

 

 じ、事件の香りがする。

 この大金の出どころがどこなのかは分からないが、何にしても道端に落ちていて良いものではない。

 ど、どうしよう。

 こういうのってやっぱり警察に連絡するべきなのかな?

 いやでも、創作物の中に登場するような悪の組織【十三階段】がある世界で明らかにヤバい大金が道端に落ちているのって、やっぱりその、イベント的なアレなのだろうか?

 あるいはゲームで言う「お金を拾った!」的なやつなのか。

 

 ゲームの主人公はこんな生々しい気持ちを毎回味わってたのか。

 ……普通に気持ち悪くて吐きそうなんだが。

 

 少なくとも、俺みたいな一般人の手には余る問題なのは間違いない。

 これが500円ならば問答無用で財布に入れてただろうし、千円札でも同じ。

 一万円から流石に警察に届ける事を考えるかもしれない。

 ……そんな大金が落ちてることなんて、想定出来るわけねぇ。

 そう判断した俺はクルリと踵を返し、

 

「見なかった事にしよう」

 

 匙を投げて棚上げして、無かった事にするのだった。

 

 きっと誰か、親切な人に見つけてもらえるでしょう。

 優しい人に見つけてもらえよー。

 そう思いながら俺はそそくさとその場から立ち去る━━

 

 

 

「……で、そんなことがあったのですが」

 

 人生は儘ならない。

 しかし同時にドラマチックでもある事は儘ある。

 だから、あんな非日常を目撃してタダで済むとは思っていなかったのだが。

 

「なんか、普通に帰ってこれたな」

 

 部屋の電気を点け荷物を片付け、ソファに腰掛ける。

 ビールの一口でもいただきたい気分だったが、生憎と明日は仕事なのでそんな事はできない。

 ふー、と息を吐くとソファに横たわって目を閉じたい気持ちにかられるが、我慢我慢。

 食事の用意をしないと。

 

「おじさまー」

 

 と、そこで扉を開けてタナトスが入ってくる。

 なんかとても嬉しそうだった。

 

「なんか、お金が落ちてたので拾ってきました!」

「……」

 

 なんか、さっき道端に落ちてた大金が入ったジュラルミンケースを差し出された。

 え、なんでそれ持ってきたの?

 

「凄いですよ、おじさま。これだけでなんと三千万ちょい入ってました!」

 

 マジかよ、内容を見たって事はお金に触れたのか。

 指紋、付いちゃってるじゃん。

 だとするともう、またあった場所に返してきなさいは通用しない。

 最悪、窃盗の犯人として捕まるかもしれない。

 ああ、なんていう。

 死を告げる星が、室内なのに輝いて見える……

 

「これで、おじさまも仕事を辞めて新しい事に挑戦出来ますねっ」

 

 懲役かな?

 

「今日はめでたい日ですから、すき焼きですっ」

「……その前に、ちょっと出かけてくるわ」

 

 俺はそのジュラルミンケースを受け取り、そして向かった場所は。

 

 

 

 

 

 

「拾得物です」

「えーと。紛失者の手にこちらが届いた場合、謝礼を受け取る権利が発生しますので、住所と名前、あと電話番号を」

「いえ、棄権します」

 

 絶対に関わりたくねえ。

 原作キャラと接点を得られるイベントだとしても関わりたくねぇ。

 

「……」

「よう」

 

 交番を出たら、男がいた。

 

「お前がご丁寧にも届けてくれた非凡なる恩人か」

 

 違うって言いてぇ。

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