【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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未亡人の運命を狂わせる系モブ

 穏やかな日常の裏では能力バトルが行われている。

 

 多分、誰もが一度は想像した事がある荒唐無稽な妄想だろう。

 絶対、学校に突然テロリストがやってくる事と同じくらい妄想されていると思う。

 そして悲しい事にこの世界では本当に裏社会では悪の組織が悪巧みをしている訳だが、あいにくと俺にはあまり関係のない話である。

 騎士の血族と警察に引き渡した例の男は言っていたが、しかし俺に騎士らしさというものはかけらもなく、ていうか数十年前に没落した家が行っていた事に従事しろという方が難しいだろう。

 

 ただ、まあ。

 実際のところここ数年は騎士として人々を守っていた誉れ高き者達の事を結構羨ましく思ったりしていた。

 それに付随してくる責任などはさておき、その役割が持つ社会的地位は正直、羨望するしかない。

 何故なら━━

 

「す、すみません。今回は完全に私の確認ミスです……」

 

 へこへこと頭を下げ謝罪する。

 対し、太っちょな上司は俺の事など見向きもせず、退屈そうに頬杖をついて欠伸をした。

 

「ルクス君さぁ、こういう間違いをするの何回目だよ。俺は優しいから大目に見ているけど、他の会社じゃすぐクビを切られるよ?」

 

 ちなみに確認ミスというのはこの上司に無断で取引先と話を進め、そして仕事をもらってきたという事である。

 恙なく取引が進んだのならそれで良いじゃんと思うが、しかしそれは社会的には不味かったらしい。

 会社に利があったのは結果論だし、まあ、怒られるのは理解出来る。

 でもこっちだって上司に何度も連絡を取ろうとしていたし、そして最後まで俺の話を聞こうとしなかったのは上司なのである。

 ずっとどこかで油を売っていた上司にも問題がある━━なんて。

 そんな事を本当に言ったらそれこそクビが飛びそうだが。

 

 ちなみに、俺が勤めているのは普通の電子部品を扱う会社である。

 つまり、サラリーマンなのだ俺は。

 かつて騎士だった者の末裔の姿か、これが?

 あいにくと騎士だって時代の流れに身を任せなくてはならないものなのである。

 その結果、上司に理不尽に怒られているのはなんだか凄く、悲しいが。

 

「はぁ」

 

 こっ酷く上司に小言を言われ、解放された俺はビルの休憩ルームでこっそり溜息を吐く。

 脱力していると、そこでくすくすと笑い声が聞こえてきた。

 顔を上げると、女性の同僚。

 フラーがはにかんでいるのが見える。

 

「今日もまた小言、言われてたのね」

「……これも仕事、だからな」

「反論すれば良いのに」

「したらもっと話が長くなる、だろ?」

 

 フラーは俺と同期で、そして一児の母である。

 同時に、未亡人だ。

 見た目はとても若く、実際実年齢は一児の母にしては若い、らしい。

 そんな彼女がどのような過去を持っているかは、簡単に踏み込んで良いものではないだろう。

 現状、俺は彼女とは同期の同僚でありただの友として付き合っている。

 

「ルクス君、バカ真面目よね。もっと怒ったってバチは当たらないだろうに」

「真面目バカなだけだよ俺は。融通が利かないし、人付き合いもあまり得意じゃない。ほら、こうやって気兼ねなく話せるのはフラーくらいだし」

「もう、そういうのは女の子に簡単に言わないの! 勘違いする子もいるかもしれないのよ?」

「言う相手は少なくとも選んでるよ。ほら、フラーは真面目だし、だから俺の事なんて相手にしないだろ?」

「……もう」

 

 困ったように肩を竦める。

 そんな彼女とちょっと話して少し元気が出た俺は「よし」と呟き、オフィスへと向かう。

 

「今日は長い夜になりそうね!」

「出来るだけ残業しないよう、お互い頑張ろう」

 

 

  ◆

 

 

 フラー・ナイトが夫を亡くしたのは今から10年前。

 子供のケビンが生まれて間もなくであり、彼女は息子の姿を彼に見せる事は出来なかった。

 ……騎士の血族の末裔、ナイト家の末女である彼女。

 フラーにとって夫の存在はとても大きい。

 付き合っていた時間はとても短く共に過ごした時間も短いけれども、彼がいたから今の自分がいる。

 だから、そう。

 

 彼の事をずっと愛している━━

 

 そのように、思って、いた。

 

 

「……」

 

 ネオンに照らされた宵の街。

 眩く闇など感じさせない道は不思議と人がいなかった。

 彼女と、隣を歩く同僚━━ルクス。

 言葉は交わさない。

 なんとなく、気まずい。

 元々、夜の街を一人で歩くのは危険だからと彼に言われたからこうして一緒に帰っている訳だが、最近は彼女が頼む事が多くなっている。

 怖いから、心配だから。

 

(本当に?)

 

 本当だ。

 だって、夫という心に決めた人がいる自分は、他の男に特別な感情を抱く事はない。

 彼がいなくなってから、10年

 寂しいと感じた時は━━

 

 

「……ぇ」

 

 眩い光。

 ……それがトラックのライトである事を理解したのは、隣にいた男━━ルクスに抱き寄せられた後だった。

 ゴロゴロとコンクリートの地面を転がり、硬い腕と大きな胸元を感じる。

 

(ぅ、ぁ)

 

 頬が熱くなる。

 頭がぼーっとなる。

 そして、不意に彼が自身の身体を起こした時になってようやっと自身の心の異変に気づく。

 

(わ、私ったら)

 

 彼が何かを言っているが、理解出来ない。

 ……気づけば彼女は家に着いていて、そして息子のケビンに手を握られていた。

 

「どうしたんだよ、母さん。風邪?」

「あ、ぃ━━いえ、大丈夫よ」

 

 頭を振り、それから明日も仕事があるからと息子に言い、それから自室へと戻る。

 

 ……夫とのツーショットの写真が入った写真立て。

 申し訳なくて、それを倒して見えないようにする。

 ベッドの上にパタリと倒れ込み、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んん……っ」

 

 

  ◆

 

 

 そして、運命は少しずつ軋み始める。

 

「ナイト家の末裔の暗殺に失敗した?」

 

 本来、死ぬ筈だった者の運命。

 

「んー?」

 

 本来、母を失い世界を恨んだ『主人公』。

 

 それらを歪めた男はただ、

 

「酒も飲めねぇ……」

 

 安いノンアルコールビールの不味さに顔を顰めていた。

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