【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
ケビン・ナイトにとって唯一の家族である母親のフラーは言葉通りの意味でこの世で最も大切な人間だった。
そんな彼女が自分のために日夜働いている事は彼もよく知っていたし、だから自分が母親の重荷になっている事について子供ながらとても苦しんでいた。
自分はまだ子供であり、だから母親に頼るしかない。
だけどせめて母親の助けになりたいと手伝いをしたりしているが、それでも母親の顔色は常に疲れている。
それならばとネットで見た栄養剤を飲んでみたらどうだと子供ながらに思い、さりげなく購入を勧めてみたが、しかし結局体に悪いという事で買うことはせず、むしろ自分はそんなものを母親に飲ませようとしていたのかとケビンは強く後悔した。
そんな彼は一日のほとんどを一人で過ごしていた。
少なくとも最近までは、友達とは遊ばず学校が終わった後はすぐに自宅に帰還し家事をする。
しかし母親が「貴方もまだ子供なんだから外で遊んでなさい」と言ってきて、渋々公園で遊ぶようにした。
とはいえずっと一人で勝手に帰っていた自分勝手なやつと遊ぼうと思うやつはおらず、だから彼は今日も公園で一人きりだった。
その筈だった。
「ほら、ケビン! ヒボンな私、クレー様の華麗なパスを受け取りなさい!」
と、サッカーボールを思い切り蹴り完全に明後日な方向に飛ばしてしまう友達のクレー。
ケビンは急いでサッカーボールを回収しにいくが、それが逆にクレーの逆鱗に触れた。
「貴方、私が下手くそだって言うのっ!!??」
「い、いやだけどサッカーボール」
「私が変な方向に飛ばしたんだから回収すべきは私でしょうがっ!?」
知らないよ……
しかし子供ながらに女心は複雑であることは理解していたので、彼はクレーに対して言い返す事はせずに「わかったよ」と相槌を打つだけにした。
そしてサッカーボールを蹴飛ばしクレーの方にパスをする。
華麗に足で受け止めたクレーは再びドヤ顔をしながらサッカーボールを蹴り飛ばし━━やはり、ケビンのいないところへとすっ飛んでいく。
「……」
「……」
「……」
「……ちょっと」
「なんだよ」
「ヒボンなレディに取らせに行くつもり?」
「え、いやでもお前さっき」
「レディの言葉をそのまま受け取ってるなんて、あなたもまだまだこどもねぇ〜」
こいつぶっ叩いてやろうかとも思ったが、しかし母親から女の子には優しくしなさいと言われているので渋々言葉を紡ぎサッカーボールを回収しに行く。
……なんだかんだでいつのまにか彼女、クレーと遊ぶようになっていた。
人並み以上に明るい、と言うか激しい女の子のクレーと遊んでいると、日常の中で悲しんでいる暇がまるでない。
本当に人の心を照らしてくれる太陽みたいな女の子だなと思いつつ、それを言ったら間違いなく調子に乗るので「なんだかなー」と思いつつ苦笑する。
「あん? 何笑ってるのよ?」
「いや、今日も楽しいなって」
「ふ、ヒボンな私がいる限り貴方は退屈を感じないわ」
「そうだな」
「き、今日はやけに素直ね。いつもはなんか無駄に口答えしてくるのに、もしかして何かあった?」
そうやってしっかりとこちらの心配をしてくるあたり、彼女の性格の良さが表れていると思う。
何にしてもと彼は再び彼女に向かってサッカーボールを蹴り━━
「君が、ケビン・ナイトかい?」
不審者が現れた。
というか、その男の事、その顔について朧げながら記憶していた。
こいつ、以前なんか母親に対して宗教の勧誘をしていたやつだ。
……やばい。
つまり人の話を聞かないタイプの危険人物って事だし、そして今、この場には母親はいない。
「驚かせるつもりはない、ただ君には俺達の協力者になって欲しいんだ」
「ち、ちょっとあんた! いきなり私の友達になにやってんのよ!」
そこで、割り込んでくるように走り寄ってくるのはクレー。
ケビンの腕を抱き締め、きっと目の前の男を睨みつける。
「あ、あんたが誰なのかは知らないけど、すぐにケーサツが来るんだからねっ!」
「このガキ……っ。け、ケビン君、俺は━━」
「黙れって言ってるのよっ!」
一触即発。
その場合、やばいのは自分よりもクレーの方だ。
大切な友達が不審者によって傷つけられるのはみたくない。
だけど、口は震えて足はガクガク。
動く事すらままならなかった。
それでも、頑張らなくちゃ。
自分の為に前に出る女の子がいるのに、ここで震えているばかりでは、男じゃない!
「あ、あんたの事なんか、どうでも良い!」
ケビンは叫び、その声を聞いて誰か来てくれないかと願う。
しかしそんな都合の良い事なんて、起こる筈が━━
「おい、子供相手に何やってやがる」
「……っ!」
鋭い、まるで流星の如き飛び蹴り。
それを紙一重で躱した男は叫ぶ。
「てめ、誰だ!」
「俺? 俺の名前は、ネイン。趣味でガキ大将やってる奴だよ」
そう言い放ち、それからトントンと地面を爪先で叩く。
「続けるか? 別にこっちは有象無象を蹴散らす事に容赦はしねえ」
「……ちっ」
男はそれを聞いてどう判断したのかは知らないが、それでも舌打ちをしてその場から急いで逃げる事を選んだ。
残された3人。
ケビンは腰が砕けそうになり、しかしその前にクレーにぎゅっと強く抱き締められる。
「こ、怖かったよーっ!!」
「んぎゅ!」
わんわん泣く事一分間。
「ふん、ヒボンな私のお陰でなんとかなったわねっ!」
いつも通りに戻った、真っ赤になった目を見ながらケビンは「そうだな」と頷く。
「ありがとう、クレー」
「や、やけに素直ね」
「それで」
と、そこでケビンは帰ろうとしていた少年に話しかける。
「君は」
「ネイン、聞いてなかったか? 趣味でガキ大将やってんだ」
「その、えと」
「用事がなければ、帰るが? 俺もパトロールで忙しいんだ」
「……その!」
ケビンは、帰ろうとする彼に対して勇気を振り絞って言う。
「お、俺。あんたの舎弟にしてくれないか?」
出来る事ならばもっと強くなって、そして母親の助けになれるように。
クレーを守れるように。
そんな、強い男になりたかった。
「ふぅん?」
そして、頭を下げたケビンを見たネインは興味深げに唸り。
「……ま、それじゃあ。俺のパトロールに付いてこいよ」
そのように言うのだった。