【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
ネインに連れられてやって来た場所と言うのは一種の吹き溜まりのような場所だった。
ビルとビル、その隙間に出来上がったデッドスペース。
かなり小規模な公園程度の広さがあるそこにはガラクタを寄せ集めて作ったような家(子供が作る秘密基地のよう)があり、三人がそこに近づくと、三人よりいくらか年上な見た目をしている少女が姿を現す。
「おっすー、おかえ、り?」
「おう、帰った」
「ちょ、ちょちょちょ! なに無関係な男女を連れて帰って来てるのさ! ウチ、そんな予定があるなんてまるで知らなかったんだけど!?」
「突発的なイベントで拾ってきたからな」
「おいー! そういう気分で行動するのはやめなー!? そういうのが巡り巡ってわが身を滅ぼすんだからなー!」
やいのやいのと騒いだ後、少女は「仕方ないなー」と呟きつつ再び家の方へと戻る。
それから掛けたティーカップが載ったお盆を持ち戻って来て、それからケビンとクレーに「粗茶ですが」とそれを差し出してくる。
「マジで粗茶だけどな。味は期待すんなよ?」
「ちょっと、常飲しているウチらがバカみたいだからそう言うこと言うのやめなー!」
「不味い、もう一杯!」
「そしてそこのかわいこちゃんは遠慮が随分とないなー!? マズイと言っておきながらお代わりを要求するとか!」
「ヒボンな私のヒボンなお父さんが、タダなものは何でも貰っておけって言ってたからねっ」
「わざわざ不味いモノを飲む必要はないと思うなー、ウチ」
早速馴染み始めているクレーに戦慄しつつ、少しだけ人見知りなケビンは恐る恐る薄いお茶を啜った。
……クソ不味かった。
薄い癖に謎の苦みとえぐみがあったが、決して飲めない訳ではない。
我慢してカップ一杯分のお茶を飲み、「……はい」とそれを少女に返す。
「あい!」
なんか、お代わりをなみなみと注がれて突き返された。
「……」
「あ、あれ? お代わりが欲しい訳じゃなかった?」
「むしろお代わりを要求したそっちがおかしいんだろ」
「えへん!」
「褒めてねえ」
よく分からないが、とりあえず涙目になりながらそのお茶を飲み干すのだった。
それから改めて、年上の少女が自己紹介をする。
「ウチの名前は、ステラね」
彼女は言う。
「趣味で魔法少女をやってるね」
「そして俺達は正義の味方をやってる」
少年、ネインは付け加える。
「ま、子供同盟って名前で如何にも弱そうな組織のトップ二人だ」
「凄いわ! 組織って言うんだし、沢山構成員がいるんでしょ!?」
「いや、二人しかいない」
「え」
「ちなみに俺達を含めて二人だ」
それって構成員誰もいないって事じゃあ……
そしてケビンが思った事を察したのだろう、ステラと名乗った少女は恥ずかしそうに「こ、構成員は今のところ募集中ねー」と言ったが、しかしそもそもとして何をやっているのか分からない正義の味方にわざわざ仲間になりたがる奴がいるとは、
「じゃあ、私が入れば実質トップスリーになるって事ね!」
「おい」
「そしてケビン、貴方も含めて四天王よ!」
超強そうだわと興奮気味に言うクレーに対して何を言って良いか分からず、ていうかツッコミどころが多くて何から尋ねれば良いか分からなかった。
仕方がないので、「正義の味方って、そもそも悪ってなんだよ?」と軽めなところから尋ねようと思ったのだが、しかしその質問でステラとネインの表情ががらりと変わる。
具体的に言うと、シリアスモードだ。
「……二人は、この街に蔓延る悪の存在に気付いているか?」
なんか陰謀論みたいな事言い始めた。
「この街、ネオンシティには一つの悪の組織が裏で人々の流れを操り、そして世界を支配しようとしているんだ」
ガチの陰謀論だった。
思ったよりヤバい奴等なのかなと戦々恐々するケビン、目を輝かせるクレー。
「まあ、一言で悪と表現するのは難しい組織なんだけどね、その【十三階段】は」
「……【十三階段】? テレビのスポンサー枠でよく出てくる、あれ?」
「それは多分【十三楽土】だな。一応その【十三階段】の下部組織みたいな連中だ」
「ふーん?」
「いわゆる【十三】グループはどこにでもあって、このネオンシティで暮らしているのならばその恩恵を受けないでいる事はまず不可能だね」
ステラの説明に対し、「それならば普通によくある大企業で悪い奴等ではないのでは?」と思ったケビンだったが、隣でますますクレーが目を輝かせているので何も言わない事にした。
「問題は。その【十三階段】は功利主義――大多数の幸福の為に一部の幸福を切り捨てるような考えで動いていて、それを長い年月続けて来た結果、その一部が今や暴走状態にあるって事なの……二人とも、テレビを見るならば、最近テロとかが増えているのは、知っているんじゃないかなー?」
「あ、それは知っているわ。お父さんも最近は物騒だから夜遅くに出歩くなよって言ってたわね」
「彼等は『レジスタンス』って名乗っているけどな。だけど一般人を巻き込んで迷惑をかけている時点でやってる事は極めて『悪』だ」
「そして厄介な事に【十三階段】はそれすらも予定調和のうちとして見ているらしくて、かつそれらによってもたらされる被害損失も『切り捨てるべき幸福』の一部として無視しているみたいなの」
「うーん?」
よく、分からなくなってきた。
功利主義と言うのがまず分からない。
多数の幸福を追求するのは良い事だと思う、それの為に一部の人が不幸になるのはもにょるけど、だけどこの世界ですべての人間が幸せになれる方法なんて、そう簡単にあるのだろうか?
そしてそれによって発生した反感。
それが爆発するのも理解出来るが、だからと言って他人に迷惑をかけて良い理由にはならない。
その【十三階段】はそういった一連の事件についても『無視して良い』問題として扱っているらしいが。
「何て言うか、あれだな」
「おう」
「そういうのは大人が考えるべき問題だと思う」
「……ま、そりゃそう思うよなー」
クレーは「何言っているのよ、私達は正義の味方よ!」と騒いでいるが、気にせずネインは言う。
「子供同盟、っていうか俺達がやっている事は俺達みたいな子供が不幸な目に遭わないようにしているって事なんだ。それこそ人の流れを読んでテロが起きそうなところに行って、子供がそれに巻き込まれないように誘導したりとか、な」
「大人に進言とかはしないの?」
「さっき言った通り、この都市のほとんどの機関は【十三階段】の息がかかっているから、全部無視されるわねー。ていうかそもそも警察機関はあくまで『異常の排除』って事が仕事であって『異常の阻止』は完全に仕事外の事なのよ」
「融通が利かないって思うかもだけど、仕事を好きでやっている奴等はごく少数だ。みんな各々の幸せの為に仕方なくやっている事だし、仕事そのものが幸福って大人はいないだろ」
「それは」
母親の事を思い浮かべる。
気丈に仕事を頑張っているけど、それが楽しいと思っている事はない――のは分かっている。
自分達が生きていく上でそれが必要である事も。
……子供である自分は、母親の為に出来る事は少ない。
そして母親がその『多数の幸せ』のために『切り捨てられる幸福』の側にいるかもしれないと思うと。
「どうにか出来ないかな……?」
ケビンの呟きをネインは「子供の言う事に耳を貸す大人は少ないよ」と非情に切り捨てる。
「だから、社会的地位のない俺達が大人に意見を聞いてもらうためには、相応の対価を差し出す必要がある」
「対価……?」
「それを今から、取りに行こうとしていたんだ」
にやりとネインは言い、そしてステラは「ちょっとー!」と慌てたようにその口を閉じようとする。
「勝手に巻き込もうとしないの!」
「だけどこいつは『特別』だ、ステラも気づいてんだろ?」
「それは、そうだけど……」
「それに、自分の意思でついてきたのはこいつ等だ。ならば、出来る事は手伝ってもらわないとな」
改めて。
ネインはこちらに振り返り、「俺達は一つの物を欲している」と懐から地図(古いものでボロボロ、所々汚れている)を取り出した。
「
「……聖剣?」
「あれ、知らないのかお前?」
まるで自身にとっては既知のものであると言わんばかりの物言いにケビンは「はて」と首を傾げる。
「なんで?」
「……まあ、知らないって事は知らされてないって事だろうし、俺からは言わねー……それよりも今はこっちの話だ」
地図の一部を指差し、「ここには【十三階段】の工場があった」と言う。
「何が行われていて、何をしていたのかは分からない。だけどここに聖剣があった事は分かってるんだが、結構前に起こった天変地異みたいな大雨で工場は閉鎖、そして聖剣はどっかに紛失したみたいなんだ」
「あー、局所的に大豪雨が降ってた事があったわねー」
「そして、紛失したと思われていた聖剣の在り処を、俺は突き止めた」
にやりと笑い、今度は違う場所を指刺すネイン。
「この位置にある、最近出来たらしいお店。そこに聖剣の反応があった。結構質素な作りをしてたからどんな店かは分からないけど、まあ、ロクなものは作ってないだろ」
「聖剣ねー」
と、クレーは良く分からんと言わんばかりに首を傾げながら思った事を口にする。
「聖剣って言うと、アレを思い浮かべるわね。聖剣きゅうり――ネットでも好評みたいだし、私も食べてみたいわねー。お父さんに一度通販で購入してみないか、聞いてみようかしら」
「あん? そんなヘンテコなものが今は流行りなのか」
「ところで」
と、地図を見てそこにある店が何なのかをスマホで調べていたケビンは極めて冷静な表情である事を心掛けつつ、検索結果を伝える。
「その、聖剣があるという店。どうやらその聖剣キュウリを作っているらしいんだけど」
「……は?」