【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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よく漬け込まれていた

 一週間後。

 改めて集まる事となった通称『子供同盟』達はそれぞれ微妙な表情を浮かべながら聖剣があるとされる漬物販売店へと赴くのだった。

 そこはネオンシティの外れ、高めのビルディングは少なめで自然の緑色が多く見られる。

 更には一般人が住まう住宅街もある為にネオンシティの内部にありながらまるで異なる都市にでも足を踏み入れてしまったかのような錯覚に陥る。

『子供同盟』のみなは基本的に都会で育った子供達なので、だからそんな風に自然が結構な頻度で街中に点在しているのはなかなかに物珍しく目に移った。

 都会の中にある公園はしっかりと手入れが施されていて落ち葉も滅多に落ちていない。

 しかしここにある木々はそれこそ勝手に生え散らかしており落ち葉も落ちている。

 小さな虫の集まりに顔を突っ込んでしまいクレーは悲鳴を上げていたが……

 

「帰りたい……」

「いや、俺もびっくりしたけどその言葉を吐くのは流石に早過ぎだろ」

「ヒボンな私でもあの虫達には度肝を抜かれたわ……」

「いやまあ、基本的に都心ではあんなに虫が飛んでいるところはないからなぁ」

「そりゃそうだ。虫もネズミも全部怪しい電波の影響で他所に移動しているか、あるいは死んでるからな。むしろここには結構生きてやがるんだなって感じだ」

「帰りたい……」

「おいステラ、てめーは一応この中では一番年長だろうが。もっとしゃきっとしやがれ」

「生まれ落ちてから今に至るまでの年月を考えるのならばむしろ一番若いでーす。赤ちゃんでーす」

「いや、お前な……」

「ばぶばぶ」

 

 しな垂れかかってくるステラを適当にあしらうネイン。

 それから彼は地図を見ながら「あっち、か」と呟き、それから顔を上げて溜息を吐く。

 

「いや、ていうか漬物販売店ってなんなんだ。きゅうりだけじゃなくてナスとかダイコンも漬けてやがるのか?」

「聖剣ナスは売ってないみたいだけど」

「そう言う事を言ってるんじゃねえ。ていうか、聖剣をどのように使ったら聖剣キュウリなんて出来るんだ……」

「更に言うとダイコンってぬか漬けに適しているのかな」

「知らねー」

 

 そうぼやきながら歩く事数分。

 一行の目の前に、目的地である漬物販売店『クラフト』が現れる。

 ……そこは傍から見ると普通の店舗のように見える。

 外から見ると結構大きな建造物だが、中で漬物を漬けているのだろうか?

 外に二つほどあるのぼりには『聖剣キュウリ販売中』と書かれている事からも、そこが目的地である事は間違いないだろう。

 ネインのテンションは下がった。

 

「……」

 

 そして、店の外にはこの都市ではあまり見ない和装をした小さな白髪の少女がいて、木々から落ちてきたらしい落ち葉を箒で掃いていた。

 その少女はすぐに子供同盟の存在に気付き、「おや?」と首を傾げてみせる。

 それから少女はどこか思案顔をし、一度店舗の方へと戻っていった。

 

「いらっしゃい」

 

 一人の男が現れたのはすぐだった。

 青い色をしたビニール手袋をつけ頭にはちょうど髪が全部隠れるような真っ白な帽子がある。

 お腹はやや出ていて顔は若めだが年相応ではない事も伝わって来る。

 表情はとても柔和で如何にも優しげ、しかし場所が場所だけにネインの表情からは警戒が抜けない。

 

「……貴方は」

「ようこそ、君達は漬物を買いに来たのかな」

 

 漬物というワードにネインは眩暈がしそうになり、ステラは苦笑し、ケビンはどう反応すれば分からず黙り込み、そしてクレーは「そうよ、聖剣キュウリが食べたいわ!」と答えた。

 

「ああ、聖剣キュウリね……ごめんなー、今はちょっと販売を中止しているんだ」

「販売を、中止?」

 

 首を傾げるケビンに男は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「まあ、折角この店に遊びに来てくれたんだし、お茶でも飲んできな」

 

『子供同盟』は顔を見合わせ、それから声を合わせて「分かりました」と頷くのだった。

 

 

 ……それから店の中にある休憩スペースで椅子に座った『子供同盟』達。

 先ほど店の中に戻っていった少女がお茶を持って現れる。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

「粗茶」

「いや、何期待してやがるんだ粗茶っつっても俺達がいつも飲んでるような奴じゃねーだろ」

 

 くいっとお茶を口に含み、それから感動顔になるステラ。

 

「美味しいねー」

「それは良かったのじゃ」

 

 白髪の少女がふわりと微笑みながら答える。

 

「やはり若人に美味しいと言って貰えるのは何時でも嬉しいものよ」

「な、なんか独特な話し方なんですねー」

「む……まあ、今どき風ではないのは自覚しておるよ。が、こればかりは染みついてしまったものだからなかなか直せなくてなぁ」

「もしかして、外見通りの年齢じゃない感じ?」

 

 クレーの問いに対し、少女は「うむ」と頷いて見せる。

 

「私は、実は漬物の精霊なのだが」

「そうなんですねー」

「道理で」

「そんな気がした」

「んな訳あるかい」

 

 ネインが突っ込む。

 

「いや、ていうかあんた聖剣の精霊だろ」

「……いや? 普通に漬物の精霊じゃが?」

「じゃあ今の間はなんなんだよ」

「ち、違うもん。今の私はもう漬物の精霊じゃもん!」

「ほら、ネイン。本人も言っているし漬物の精霊だって」

「いや、本人も聖剣の精霊だって認めてるじゃねえか……」

 

 ずーん、と落ち込んでみせる少女に男は「あまり虐めてやらないでくれ」と助け船を出してくる。

 

「彼女はちょっと今、ナイーブなんだ」

「ナイーブ?」

「それって聖剣キュウリが販売していない理由に関係している?」

 

 ケビンの言葉に少女はびくりと身体を震わせた後、「実は、そうなんじゃ」と素直に答える。

 

「最近、聖剣キュウリに長文の低評価レビューが付けられてな。それでなんじゃが私、凄く傷ついてしまって」

「……」

「……」

「ちょっと今、聖剣キュウリを漬けるような気分じゃなくなってしまって」

「……え、それだけ?」

「そ、それだけとはなんじゃあ。あのあまりにも長ったらしい低評価レビューを読んでしまった私は本当にそれはもう傷ついたんじゃぞ!」

「よ、読まなくても良かったんじゃ」

「……うー、それもそうなんじゃがなー。つい好奇心が抑えきれずに」

 

 自業自得じゃねえかとケビンは思ったが、それを言うと猶更彼女を傷つけてしまいそうなので流石に自重した。

 

「ていうか、それをなんで俺達に?」

「いや、お前達。あれじゃろ? 私に何か用があって来たんじゃろ?」

 

「だが、答えはノーじゃ」と先に彼女は断りを入れてくる。

 

「先ほども言った通り、私はもう漬物の精霊。戦いに参加しようとは思わんのじゃ」

「どうして、俺達が戦いをしようとしていると……?」

「お前達の身体からは私と同じ気配を感じるから。特にそちらの、ケビン、じゃったか? そちらからは強力な力を感じる」

「……」

「お前はこれから間違いなくこの都市を丸ごと巻き込むような戦の渦中に身を置く事になるじゃろう……数年前ならば私もお前の味方になってやっていたかもしれないが、済まない」

 

 頭を下げ、それからちらりと男の方を見、それから――如何にも幸せそうな笑顔をする。

 

「私には、心に決めた男がいるのじゃ……ようやく知り得たこの幸せなひと時を手放したいとは、申し訳ないが思わない」

 

 私は、漬物の精霊じゃからな。

 そのように答える少女に『子供同盟』は沈黙する。

 いや、クレーは「それもその通りね!」と元気よく答えていたが、三人は沈黙した。

 より正確に言うのならばケビンは己の身体に秘められているらしい力の正体について考え、そしてステラとネインは目の前の聖剣の精霊、そしてそれに連なるであろう聖剣の事をどうすれば良いか思案した。

 ……既に聖剣は戦いからは身を引こうと思っている。

 勿論、そもそもとして『子供同盟』は聖剣を交渉道具として使用しようとしていたし、それを用いて戦うのは最終手段だ。

 だから別に戦う意思がなくてもただの道具として扱う事は、きっと出来る。

 だけど、でも。

 

「……」

 

 どう見ても、男とその精霊との間には強い絆があるように見える。

 それを切ってまで得られるものが、果たしてこちらにはあるのだろうか?

 

 兎に角、聖剣を手に入れるという計画はひとまず中止かと思いそれを宣言しようとしたネインだったが、しかしそこで一つの気配が店へと近づいている事に気付く。

 それは――強大な力を有している。

 そして皆にそれを警告しようとする前に――その力は店の中に足を踏み入れる。

 

 

「……ていうか、なんでこんなところに子供がいるんだ?」

 

 それは、黒一色の男だった。

 

「子供は公園か、それこそテーマパークで遊んでいろよ」

 

 何ならペングィーンランドの割引券渡すぞ。

 

 男はそのように口にするのだった。

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