【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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リザルト

 聖剣の精霊デュランダルの記憶。

 

『お前はただ我々を守る為だけの存在だ、それ以下でもそれ以上でもない。剣としての責務を全うするが良い』

 

 

『貴方は剣、私の相棒。私の延長線上にある存在です――共に、戦いましょう』

 

 

『済まない、デュランダル。私はお前の事は大切だ、けど。しかしそれ以上に我が孫――ルクスの事が大切なのだ』

 

 

『これが聖剣、ですか? 思ったよりも頼りないのですね』

 

 

『それはまあ、一応は魔を断つための存在だけど、所詮は骨董品だもの。魔龍を倒せるほどの力はないでしょう?』

 

 

 

 

 

『お前は――俺にとって大切な存在だよ……これからも、一緒にいてくれると助かる』

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 聖剣の精霊の身体が震える。

 目の前の敵、黒ずくめの男は強敵だ。

 恐らくは自身を破壊するだけの力はある。

 そして何より、それは間違いなく自身を狙ってこの場所へとやって来た。

 で、ある以上逃げる事は叶わない。

 そもそもこうやって自分の居場所を嗅ぎつける能力があるのだから、どれだけ逃げても捕捉され、そして捕まってしまう事だろう。

 そして再び――

 

 

(い、嫌だ……!)

 

(あの、冷たい水底には戻りたくない……!)

 

 

 体が震える。

 怖気で思考が定まらない。

 そしてそれは子供達も同じようで、ただただ目の前の男に圧倒されて何も出来ないでいる――

 

 

「あ、あんたはなんだ……!」

 

 しかし。

 

 その中で唯一、動けるものがいた。

 ……ケビン・ナイト。

 その内に聖剣の名残を宿す者、彼は足を震わせながらも立ち上がって「きっ」と黒ずくめの男を睨みつける。

 それは男にとっても予想外だったらしく、そして同時にやりにくそうでもあった。

 

「……困ったな、だから子供がいるのは想定外だっての」

 

 そう呟いた後、男は「別に、お前達に何かしようとは思っていない」と言う。

 

「ただ、この場所にある――そうだな。聖剣を探している。なあ、店主? この店で扱っているものが『聖剣キュウリ』である以上、何か事情は知っているんだろ?」

「……あんたに教えるものはない」

 

 そして勇気を振り絞って立ち向かったケビンに触発されたのか、店長もまた立ち上がり男に啖呵を切る。

 

「そして、お前に差し出すものもない」

「あのなぁ、一応これでも穏便に済ませようとしているんだぜ? その様子だと俺が欲しがっているものも分かってるんだろうし、早く渡してくれ」

「何度でも言う、お前に渡すものは、何一つとしてない!」

「……そうか」

 

 男はガシガシと頭をかき、それから「イヤになんな」と言葉通りイヤそうに呟いてから手を握りしめる。

 そしてちらりと手元にあった小型の機械を見、そして白髪の少女――聖剣の精霊を見る。

 

「お前か」

「……!」

 

 

 ――そこからはまるでスローモーションのようにゆっくりと時間が流れた。

 

 最初に。

 たったの一歩で聖剣の精霊へと最短距離で近づこうとする男。

 しかしその動きを予期していたのか、その間にネインが割り込んで強く握りしめた拳を男に突き刺そうとする。

 それは間違いなく当たったように見えた、しかし男はそれをまるでなかったかのように振る舞い、そのままネインの事を弾き飛ばす。

 悲鳴、クレーが思わずと言ったように頭を抱えて蹲る。

 

「止めろ!」

 

 ケビンが、叫ぶ。

 そして――すべてが終わりを迎える事となる。

 

 

 

 ゴッ!!!!

 

 

 

 ……ケビンを中心に熱波が吹き荒れる。

 しかしそれは店内に置かれているものを一切動かさず、ただし黒ずくめの男ただ一人を吹き飛ばそうとした。

 

(これは……やはりこの少年、聖剣の――いや)

 

 一瞬驚きに思考を奪われたが、しかしそれよりも前にすべき事があると彼女は判断した。

 恐怖に縛られるのはもうお終い。

 既に目の前には答えがある。

 ……幸せを見つけたのだ、そしてそれが奪われようとしているのならば。

 

 

 ただ、自らの手でそれを守るのみ。

 

 

「光よッ!」

 

 

 もはや懐かしく感じる冷たい金属の感触。

 白銀の剣の重みを感じながら空間を薙ぐ。

 切り裂かれた空間はそのまま空気の層となって黒ずくめの男へとぶつかり、そしてそのまま店の外へと叩き出す結果となった。

 

「ぐ、ぅあああああ!」

「貴様のような奴などに渡すモノなど一切ないわ!!!!」

 

 そしてそのまま聖剣の精霊は倒れる黒ずくめの男に接敵し、とどめを刺すべく剣を振り下ろす――

 

 

 

 

 

 

「少し、待とうか」

 

 気づけば。

 

 ――そこにいたのは、黒いローブを身に纏った男。

 深く被ったフードの奥には真っ白で不気味なデザインの仮面。

 何より聖剣の精霊が驚いたのは、先ほどの現象が一体どのような原理で引き起こされたのか、魔法の詳細が分からなかった事だ。

 しかしながら、どこか懐かしさを感じる。

 ……魂レベルで因果を感じる。

 自らが、男のモノになろうとしている。

 その事に気付きぞっとしてしまう。

 

「……っ」

「君がこの男にどのような事をされたかはあずかり知らぬ事ではあるが。それでもその剣は人を傷つける為のものか?」

「き、貴様――何者だ……!」

「名乗るほどの者ではない。ただ、この店にあるものを回収しに来たこの男、その付き添いでしかないさ」

 

 

 と、そこで続いて店の中から出て来たネインが急襲を掛けるが、しかしそれらも当然のように塞がれる。

 片手で、簡単に。

 

「君達に危害を加えるつもりはない――という言葉に意味はないだろう。少なくともこの男は君達に何らかの不利益を与えようとし、そして君達に武力行使を選択させる余地を与えた。その時点で俺の言葉など君達の前では正しく騒音でしかないのかもしれない」

「……」

「ただ、しかし。それでも俺は君達に武器を向けるつもりはない――ただ、そうだな。この店の『あるもの』はいただきたい。それはこの男が欲しているものだからね」

「く、ぅ……」

 

 駄目だ、あの男には勝てない。

 次元が違い過ぎる、遠過ぎる。

 何者なのかは分からない、いや、あれが人であるかすらも分からない。

 もはや勝ち目はないが、それでも聖剣の精霊は叫ぶ。

 

「貴様などのような者達に、私はもう、屈する事はない!」

「……」

「私にはもう……愛する者がいるのだからっ!」

「だがしかし、それが今何の関係がある?」

 

 ああ、そうか。

 目の前の『コレ』はどうしようもない程の略奪者だ。

 そして自らはもう略奪者に勝つ事は出来ないだろう。

 未来は悉く破滅だ。

 それでも、だけど。

 

 まだ、可能性は残っている。

 

 

「君にどのような意思があるにせよ。俺は君達を傷つけるような事はしたくない。ただ君がその剣から手を放すだけで、この場は極めて穏便にすべてが収まる事だろう」

「……そう、だな。私がどれだけ『これ』を振るったところで意味はないだろう」

 

 だけど、と聖剣の精霊はネインを見る。

 

「ネイン、私を使え」

「は?」

「私の力、一時だがお前に貸す。共にこいつを倒すぞ」

「……ああ!」

 

 二人の少年少女が手を取り、そして極光が迸る。

 そして――後には純白の大剣を握りしめる裏ボスの姿がそこにあった。

 

 

「行くぞ、化け物……ここでお前を、倒す!」

 

 久方ぶりの聖剣、デュランダルの顕現。

 その剣は正しく一刀両断。

 ――ことごとくを切り裂く刃そのもの。

 

 しかし、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■」

 

 何か、呟かれたような気がした。

 

 そしてすべてが終わっていた。

 

 

「な……っ」

 

 気づけば――1人と一振りは見知らぬ空間にいた。

 それ自体は別に問題ない。

 聖剣デュランダルの力があれば、この程度の空間など簡単に破る事が出来るだろうから。

 しかし、この力。

 先ほどの男が使ったあの力。

 

 あまりにも、聖剣デュランダルに似ている。

 

 しかし男は聖剣を持っていないし、何なら聖剣の気配を感じなかった。

 だとしたら、一体……

 

 

 ――そして。

 

 いなくなってしまった二人を見、身体を強張らせるケビン。

 それを為した男と、視線が合う。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり。

 

 だからこそ、その言葉が耳に焼き付いた。

 

 

 

「君は……彼によく似ているな」

 

 

  ◇

 

 

 車の中で、ひたすらラムダは落ち込んでいた。

 

「やっぱり俺、実力ないんかなー」

「い、いやまあ。瞬殺されてたけどあの子達が強かっただけだろ」

「そもそも子供に手は上げられねえよ。こちとらテーマパークで働いてるんだぞ?」

「それは上司に言ってくれぇ」

 

 こんな感じでしばらく俺の前で項垂れていた後、何やら覚悟を決めたような感じで顔を上げ、それから「よし」とラムダは言う。

 

「俺、やっぱり【十三階段】抜けるわ」

「え」

「で、これからは一般人としてペングィーンランドで働く事にするわ」

「いや、おま」

「止めないでくれ、ルクス。元から分かってたんだよ――俺、子供が大好きだし、だからテーマパークでスタッフとして働くのが似合っているんだ」

「ええ……」

 

 とはいえ本人の決意は固いみたいだし、なんなら彼が【十三階段】から足を洗うというのはむしろ良い事なのではないだろうか?

 それを、相手側が認めるかどうかは分からないけど……

 

 

 ぴろん♪

 

 

 と、そこで。

 タイミングよく、彼の手の中にあるスマホが鳴る。

 びくりと身体を震わせたラムダは恐る恐るスマホを開き、そしてぱっと表情を明るくさせた。

 

「辞めても良いって!」

「え」

 

 マジ?

 ていうか、まだ誰にも報告していないのに、誰がラムダの意思に対して了承を……?

 

「ああ、それと。ルクス」

「な、なんだ?」

「――【光王】様が、お前と是非一度話をしたいって」

 

 と。

 

 どうやら【十三階段】のボス。

 

 ――このネオン輝く都市を支配する王と繋がっているらしいスマホを、ラムダは気軽で気楽に俺に差し出そうとしてきた。

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