【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
その仔犬に連れられてやって来たのはショッピングモールから少し離れた場所にあるグラウンドだった。
風が「ひゅうう」と吹いて砂塵が舞い、少しだけ目が開けてられなくなる。
思わず目を瞑り、そして次に目を開けると視界の先にはじっとこちらを見ている(ように見える)仔犬――【光王】の姿があった。
『ねえ、どうしても私と戦いたいのかな――無駄っていうか、意味はないよ。貴方の気分が晴れるというのならば付き合うけど、だけどそれならばここで帰って美味しいご飯を食べる方がずっと有意義だと思うけど』
「お前と俺がこうして戦う事に意味はない事は、俺も分かっているよ。だけど、俺はこの世界の住人としてお前に反乱しなくてはならない」
『それは、どうして?』
「……理解は出来ないと思うよ」
人間の営み、人々の繋がり。
人は一人だけでは生きていけない、というよりも人は生きていくのならばどうやっても他人と繋がり関わっていく事となる。
それによって生まれる熱はきっと尊いものだし、大切にしなくてはならないものだ。
人はきっと、そうやって孤独の冷たさを耐える事が出来る――でも。
【光王】はあくまで効率やメリット、功利的な思考でしか物事を判断する事が出来ない。
より正確に言うのならば、多分人がそのように他人との繋がりを大切にしている事は知識としては理解出来るのだと思う。
だから【光王】は人々を幸せにする事を目的とすると言っておきながら、人々の自由意思を尊重するようなそぶりをしている。
しかし、それでもそれは表面的なものでしかない。
そうでなくては、【光王】は人々の事を『替えが利く』『最大的な人々の目的は変わらない』などとは言わないだろう。
人々の全体的な目的なんてものは存在しない。
もしかするとそれは『種の繁栄』と表現する事は出来るかもしれないが、しかしそれは生物としての本能でしかなく、そして人という種は意思によって発生する各々の幸福をその本能よりも優先する事が出来るのだ。
だから人は協力するし、また、時に対立する。
そういった行為はきっと全体から見れば決して意味はないだろうし、だけど個人にとってはきっと大切な行為だ。
それを無駄だと断ずる【光王】は、だからこそ人とは相容れない。
人の隣人としてある事を望まれて生まれた存在だが、重要なところが欠けている。
……そんな存在に、人々の未来を託す事は、出来ない。
「お前が将来的に歌って踊れるスーパーAIになれたとしても、人間の生の喜びを知れない事には変わりない」
『それはそうだね。でも、そこは果たして重要かな? 人々の欲求というものは確かに十人十色だけど、だけどサンプルを揃えれば対応する事は出来る――人々はみんな、幸せになれるんだよ』
「その先にある未来が果たして最善なのかは生憎と俺は分からないし、そして俺がお前と対立した事によって発生する未来が良いモノかも俺には分からない――けどな」
俺は剣を向けて言う。
「人はやはり人の力で生きるべきだよ」
『……うーん』
対し、【光王】の反応はいまいちだった。
どこか苦笑を浮かべるようなそんな雰囲気でそれを言う。
『私が作り、あるいは勝手に作られていた【十三階段】。その中には私を利用してそのままこのネオンシティを乗っ取ろうとする者はいた。私そのものの構造を変えようとする者もいた』
「……」
『そんな意味のない事をするよりも、もっと有意義な事をして幸せになるべき。私が考えている事はただそれだけ――でも』
その時、だった。
空から轟音が鳴り響いた。
……より正確に言うのならば、遠くから響いていた大きな音がどんどんと近づいてきている。
そしてその音を発生した主はすぐに空から降って来て、そして俺の目の前に姿を現した。
それは、なんと表現すれば良いのだろう。
二足歩行の、ロボット?
全体的に黒い塗装が施されていて、所々に青色のパーツが露出している。
貌は獣のようで――そう、犬のようだ。
背面に装着されているのは翼と、砲身。
腕にはブレードが装着されているが、あれはモノを切る事が出来るのだろうか?
そんな――そう、有体に言ってしまえば割とロマンたっぷりな武装ロボットを見、俺は表情が引き攣るのを感じる。
『そんなに驚かないで、これはただのオモチャだから』
【光王】はゆっくりとそのロボットに近づきながら言う。
そして【光王】がちょうどそのロボットの足元に辿り着いたところで、それはゆっくりと大口を開きながら顔を下に持っていき。
ぱく。
丸ごと、その仔犬を飲み込んだ。
『あまり効率的ではない、使い捨てにしてはあまりにも無駄が多い戦闘用ロボット。だけどまあ、コケオドシに使うのにはちょうど良いって私は思っているよ』
「こ、コケオドシ……?」
『強そうだし迫力があるからね、見るだけで戦闘意欲が失せそうだけど――貴方はどう?』
そのように尋ねてくる【光王】に対し、俺は答える。
剣を構え、威勢よく。
「別に、ただまあ見た目はカッコいいとは思うよ」
『そう? そんな風に思ってくれたならば私も嬉しい』
だから、と【光王】は言う。
『出来るだけカッコよく、魅せプしてあげる』
次の、瞬間だった。
――ヴィーン!
背面に取り付けられていた砲身が動き、こちらに向けられる。
砲身を向けられたら何をされるかなんて火を見るよりも明らかである訳で、だから俺は剣を振って逃げる事を選択する。
「距離を『絶つ』」
そしてすぐに背後でバカみたいな爆発音が鳴り響き、何かが撃ち込まれた事を肌で感じる。
そのまま俺は剣を先に向けたまま高速で移動し続け、思考する。
……すぐに攻撃するのは危険だ。
そして持久戦は明らかにこっちの方が有利である。
あのバカでかい見た目の巨体を動かすには相当なエネルギーを必要とするだろうし、そしてその為のエネルギーは外部から補充する術はなさそうだ。
つまるところ、ガス欠は割と早そうな見た目をしている。
そう、言ってしまえばガワだけ厳つい『見た目だけ』。
効率的ではなく、すぐに弱体化してしまいそうである。
……実際、最初の一撃以外で【光王】がこちらに攻撃してくる事はなく、ゆっくりとした動きでこちらを観察している。
それ自体、とても怖い事ではある。
相手は人間ではなく、人間以上の演算能力を持っている人外だ。
ロボットは時間に弱いが、しかし時間自体は【光王】の味方である。
恐らく、時間を与えれば与えるほどに俺の動きは解析され、捕捉されるようになる。
でも、それでも。
ロボットのスペックが足りてない。
それこそ――見た目だけの奴を持ってくるのではなく、高スペックのロボットを持ってくるべきだった。
最低でも、もっと小回りの利く小さなロボットで良かっただろう。
いや、でも。
それが分からない【光王】か?
そう思った瞬間、俺はそのロボットが空恐ろしいものに感じてくる。
【光王】はあくまで俺に対して優位であると思っている。
それは正しいだろう。
そもそも今回の戦いに勝ち目はない。
何故なら【光王】自体は電脳生命体であり、だから俺が直接的に止めを刺す手段はない。
だから俺がここで出来る事と言えば、あくまで【光王】の持ってきたあの『オモチャ』を壊す事だけ。
「ふー」
と、急に立ち止まった俺に対して【光王】はあくまで余裕そうに質問をして来る。
『どうしたの、そんな風に立ち止まってたらただの的だよ?』
「そもそもどうして俺、お前と戦っているのかなって不意に思ってな。勝てる見込みもないのに、ただ気持ちだけで戦いを挑んで、本当にバカだなって思って」
『まあでもそれもまた人間らしさだとは思うよ。その無駄な思考、無駄な行為も私は「あり」だとは思う』
「……あくまで俺の事をただの人としてしか認識出来ないお前の事を、俺はどうしても許せないみたいだ」
『? 貴方は人間だとは思うけど、それ以上でも以下でもないでしょう? 魔獣や魔物みたいな存在でもなければロボットでもない。私みたいな電脳生命体でもないでしょう?』
「それはそうだ、俺は人間だ。だか、ら――っ!」
ぐっ。
俺は一息に足に力を込めて一歩踏み出し。
全力で剣を、薙ぐ。
「時を――『潰す』!」
瞬間、目の前にあった巨大な戦闘用ロボットが、空間ごとひしゃげた。
ぐしゃり、ぐしゃりと。
一瞬にして紙で出来たおもちゃのようにぐちゃぐちゃになってスクラップになったロボットを見、それでも俺は油断をしない。
そもそも相手は電子生命体。
器が潰された程度でどうにかなる存在ではない。
――実際。
『うーん、やっぱり意味はないよ』
それは。
『結局のところ、貴方にとっては徒労でしかないよ?』
同じ見た目の、戦闘用ロボット。
『そもそも、どうしてこんな風に私と戦う事に拘るのかな? 私は貴方の幸せを祈っているし、そして貴方を幸せにする力を持っている。貴方は私に従っていれば、幸せになれるんだよ?』
「……そうだな、俺はだからこんな風に言わせて貰う」
俺は空を見上げる。
そこには。
無数の同じような戦闘用ロボットが、無数に待っている。
舞っていて、俺に照準を向けているのが分かった。
あれを全部相手するのは、多分不可能。
恐ろし過ぎる。
それこそ、だから【光王】の言葉を使うのならば「コケオドシ」としては十分機能している。
だから、でも――俺は剣を向けて再度【光王】に告げた。
「人が――不幸になる権利を侵害するな」
俺は言う。
「人は好きで不幸になりたい奴だっているんだよ。自己加害の邪魔をするな」
『う、うーん?』
その言葉を聞き、どうやら本気で困惑したような声を出す【光王】。
『言ってる事が分からないけど、まあ、この状況でも戦闘を続行したいって事は分かったよ。意味ないのに』
「人間は意味ない事もしたがる生物なんだよ」
だから。
「俺は兎に角、お前に歯向かうよ」
そのまま剣を構え、俺は目の前に複数あるロボットのうちの一つを壊すべく一歩踏み出した。