【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
フラー・ナイトは人を待っていた。
会社の屋上で、彼の到来を待っていた。
呼び出したのは自分だったが、しかし彼がもしかしたら来ないかもと少しだけ不安になり、動悸がする胸をそっと押さえる。
幸い、彼はちゃんと時間よりも前にその場所へとやって来る。
同僚の――ルクス・ライト。
「何か、重要な話があるって聞いたけど」
少し緊張した面持ちの彼。
何を聞かされるのかドキドキしているみたいで、彼もそのように思う時もあるのだと少し意外に思う。
「その、ね。ルクス君はもしかしたら私が言う事を既にあらかじめ悟っているかもしれない」
「……」
「もっと早くからこの事を言うべきだったのかもしれないけど、ほら。いろいろとごたごたしてて、だからここまで時間がかかってしまったわ」
「……」
「だけど、流石にもうこの気持ちを私は抑え込む事は出来ないみたいなの」
今までずっとだましだましでやって来た。
自分の思いに蓋をしていた。
だけど、もうこの気持ちを無視し続ける事は出来ない。
だから――勇気を振り絞って彼に言うのだ。
「あのね、だから。ちゃんと私の言う事を聞いて欲しいの――ルクス君」
「……ああ」
神妙な面持ちで頷いてくれるルクス。
そんな彼に対し、フラーは一つ深呼吸した後に、言う。
「あの、ね。ルクス君――
――私と一緒に、辞職しない?」
◆
何でもみんなで一緒に仕事を辞めようという話になっているらしかった。
マジかよと思ったが、しかしフラーが嘘を吐くとは思えないし、だからきっと事実なのだろう。
最近は仕事の粗さ加減というか無茶振り加減も酷くなっているし、だからみんな辟易としているんだと思う。
……俺も流石に気が付いたし、ていうかいろいろな人から愚痴とか真実を聞かされたので、だから嫌でも分かってしまう。
俺の職場は、ブラックなのだと。
しかしこのご時世。
いろいろと社会というかネオンシティ全体がほんの少しだけ不安定になっている今、仕事を安易に辞めても良いのかどうか迷ってしまう。
特に、今の【十三階段】や【光王】の状態などを考えると。
とはいえ、今はとりあえずその結論を出すのはお預けだ。
いつも通りに考える事は後回しにして、とりあえず疲れた体を引きずって家へと帰る。
すると玄関前にはリヴィアと、相変わらず死人のように顔色が悪いタナトスが立っていた。
「あ、おじさま」
「……おじさま」
リヴィアは割と元気そうに、そしてタナトスは顔色通りの声色で声を掛けてくる。
「お疲れ様――と言いたいところだけど。今日は家に戻る事をお勧めしないわ」
「それは、どうして?」
「家に戻ると、多分死ぬ事になるわ」
「知ってるよ」
「そ、なのに戻るの?」
「まあ、俺の責任みたいなものだからな」
対し、タナトスは笑おうと口を動かすがしかし失敗して唇の先をひくひくさせただけだった。
「そんな事より、うちでタコパでもしません? タコパ」
「いや、それよりお前はまずお腹の調子を戻す方が先だろ……大丈夫なのか?」
「事実は結構ヤバめです……死にそう」
「そりゃあそこまで顔色が悪いならな」
「……通販なんてもうしない。怪しいものに興味を持つんじゃなかった」
そんな風に反省しているが、多分長続きしないと思う。
すぐにまた通販で怪しげなものを購入しそうだ。
そんな二人にひとまず挨拶をし、それから俺は一つ深呼吸をしてから――扉を開ける。
……その先からは怒鳴り声がした。
しかしそれは俺に向かって発せられたものではないらしく、だから俺は息を潜めて部屋の奥へと歩いていく――
「だから! 言ったじゃないですか!! そこは人材不足だから補充しないと将来的にヤバくなると!!!! 直ちに補填に回ってください今すぐに!!??」
そのように叫んでいるのは一人の少女だった。
少女の見た目に関して一言で説明するのならば――俺に似ている。
それこそ昔、魔法少女ごっこしていた頃の俺に似ている。
そんな彼女は今、ソファの上に胡坐をかいて、膝の上にそれぞれタブレットを乗せ、そして目の前にはノートPC、手には電話に使用しているらしいスマホが握られていた。
ノートPCの近くにはエリクサー缶が幾つも並んでいて、そしていくつかは転がっている。
どうやら既にいくつかは飲み干した後らしい。
そんな彼女は俺の存在に気付くなり、嫌みったらしく言ってくる。
「おかえりなさい、今日もお仕事大変だったでしょう?」
「……いや、なんか皆で辞職しようって話になってるみたいで」
「仕事から逃げるつもりですか! 私がこんなに大変な目に遭ってるのに!?」
「……やっぱり大変なのか?」
「ええ、ええそうですね。貴方にこの肉体を与えられてしまったおかげで、【光王】として行っていた作業の速度が一割ほど落ちてしまいましたよ!」
「それでも効率は一割ほどしか落ちてないのか……」
あの日。
俺は自らの肉体を『割き』、そして【光王】に半身という感じで肉体を与える結果となった。
現状、俺と彼女は一蓮托生であり、俺が死なない限り彼女は今までのように肉体のない電子生命体に戻る事はない。
だから割と頻繁に俺の命を狙ってくるが、しかし生憎と彼女は非力なので今のところそれが達成される事はない。
「貴方がここまで愚かだとは思ってもみませんでしたよ、ええ! 私はこれでもネオンシティの管理及び運営を担っていた存在なのに、それをこんな風にして、一体どれだけの人々に迷惑が掛かると思っているんですか!」
「それに関しては、ああ。だから一応お前に振られた仕事のいくつかはやっているだろ?」
「……【十三階段】のうち、私の失脚を狙っている者達だったり私を都合よく利用しようとしていた人間だったりが活発に活動をしています。それらの対処もお願いしますよ……全く、人間ってなんでこんなに愚かなんですか!!」
そのように叫ぶ彼女を見、俺はひとまず手を洗うために洗面所へと向かう。
鏡の向こう、少しだけ前より老けた顔。
まったく幸せそうじゃない顔だ。
……結局のところ、俺がやった事と言えば【光王】に人間の身体を与えて、そして人間の不幸を直に味わえるようにした、ただそれだけ。
今のところネオンシティ全体に混乱は起きていない。
ただ、将来的に【光王】が人間の管理に辟易し、逃げ出そうとしたらどうなるか分からない。
だから、大局を見るのならば、俺がした事というのは――
「……」
人間は人間の力で幸せになるべきか。
それとも超常的な存在の力で不幸を知らないままに幸せになるべきなのか。
ただ幸せになるだけの存在は人間と言えるのか。
はてさて、俺がやった事は最終的に愚行となるのか英断となるのか。
結論はまだ出ない。
明日にもまだ出ないだろう。
いつ、この行為に結論が出るのか、それは俺にも――
「ルクス! 早く戻って来なさい仕事があります!!」
「……」
とりあえず手を拭いて、俺は急いで彼女の下へと戻るのだった。
あとがき
今話で物語は小休止となります。
毎回頂いた感想は確認させていただき、そして落胆などの声がある事を把握しています。
今回の物語は自分にとって初めての長編にしてしっかりときりの良いところまで書き切る事を目標として書き始めました。
その為ある程度の骨格を作ってから書き始めたのですが、しかし途中で自分の書きたいと思った事などを優先してしまった事が多々ありました。
その結果、描写されるべき箇所が不十分であり、主人公の行動が曖昧になってしまったのだと思っています。
自らの書き手としての未熟さが浮き彫りになる結果となってしまいました。
一応この物語にはまだ書き切れていない内容がありますが、しかしそれは改めてしっかりと骨格を組んでから書いて行こうと思います。
その為、それまでこの作品はひとまず「完結」という形にさせていただきます。
今後、発表出来るだけの形になった時にまた連載をさせていただきます。
最後に。
この物語を読もうと思ってくださいました読者の皆様に感謝を伝えたいです。
ここまでこの物語にお付き合いしていただき、本当にありがとうございました。