【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました   作:音々

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鬼畜ボスがチュートリアルになる系モブ

「……また会いましたね、ルクス・ライト」

 

 その男は間違いなく俺に対して敵意と害意を向けてきていたが、しかしその姿を見た俺は「一体その身に何があったのか?」と思わず心配をしてしまった。

 その男はどうやら最近俺の命を狙い、そして失敗した暗殺者である事は辛うじてわかった。

 しかしその姿は衣服含めてボロボロであり、まるで狂犬に襲われた後のようであった。

 だが、その狂気に染まる瞳の焦点はしっかりと俺の事を捉えている。

 表情は薄ぼんやりとしており、しかしながらどこか嬉しげでもあった。

 明らかに普通でない。

 まるで━━そう、一般人である俺でも分かるほどに、狂っている。

 

「お前は」

「そういえばまだ自己紹介がまだでしたね、ええ。私の名前は━━あー、くそ! くそがァ!! んな事どうでも良いだろうがッッ!!!!」

 

 いきなり髪を掻き毟り、それから充血した瞳でこちらを睨みつけてくる。

 辛うじて残っていた理性の気配が薄れていっているのが見て取れた。

 空恐ろしい。

 人の外見をしていながら獣の如き形相をした男に殺気を向けられた経験なんて、当たり前だが一度もない。

 それでもこの状況で背中を見せて逃げ出すのは悪手である事は分かった。

 腰を落として重心を低くしてすぐに行動出来るようにする。

 

「てめえ、てめえ! ころ、こ、殺してやる……殺す!!」

 

 刹那。

 男の身体から夥しいほどの禍々しい魔力が迸り、そしてその手には悍ましい見た目の巨大な戦斧が握られていた。

 血管のように走る亀裂は脈動するように赤く発光し、魔力を溢れさせる。

 その、異常な武器と男の異常に関しては、原作知識があったから理解出来た。

 あれは━━魔剣。

 血統によって代々受け継がられてきた技術である聖剣魔法に対し、魔剣はそれを人工的に再現したもの。

 理論上は誰でも扱えるが、代償がある。

 莫大な魔力を消費するのは前提条件、生命力を吸い上げ命を削る。

 意識、理性すら朧げになっていき、文字通り全てを破壊し自壊するまで暴れ回るバーサーカーに成り果てる。

 それが、魔剣。

 ……【十三階段】が生み出した狂気の発明。

 

「消えろォ!!!!」

 

 男の姿がブレる。

 速い、眼で追う事が困難であるほどに、しかし。

 男の目標、その本能によって行う行動は知っている。

 果たして━━俺はその場から飛び退いて振り下ろされたその戦斧の直撃を避ける事に成功する。

 が、しかし。

 

 

 ゴッッッッ!!!!

 

 

「く、ぐ……!」

 

 その余波、いや、それこそが本命であったのだろうかと思ってしまうほどのインパクト。

 衝撃波、そしてその場には大きなクレーターが出来上がった。

 完全にその威力を逃すことは出来ず、身体に痛みが走る。

 大丈夫、そこまでダメージはない。

 むしろ……その攻撃を放った男の方が大きな傷を負っていた。

 

「ぎ、ギギ……!!」

 

 腕から血が噴き出し、身体を痙攣させる。

 ピクピクと震える腕は、しかし戦斧を手放そうとせずむしろ力強く握り直していた。

 

「ぁ、ああああ!!」

 

 跳躍、そして再びの振り下ろし。

 攻撃は単調だったが、しかしいかんせんその攻撃によってもたらされる被害は尋常ではなく、どんどん公園は原形を消していく。

 マズイ、しかし逃げると被害の範囲が増してしまう。

 そしてこのまま男を放置してガス欠を狙うのも、悪手。

 だから━━

 

「死ねェぉぁああ!!!!」

 

 ブォン!!!!

 

 嘘みたいな勢いで戦斧が投擲される。

 稲妻のような勢いで突っ込んでくるそれを俺は大袈裟に避け、そしてそのまま素手になった男に襲い掛かる。

 ……こうなった以上、あれは死ぬまで全てを破壊し尽くすだろう。

 そんな鉄砲玉と表現するにはあまりにも強力無比な存在。

 それを無力化する手段を、俺は一つしか知らない。

 

「聖剣、抜刀」

 

 極光、真昼の如き光が手の中に集まっていく。

 熱い。

 ━━その熱はまさしく命を絶つための凍えるほどに冷たい炎。

 果たして、そして。

 その手に握られた白銀の直剣。

 

 

 ━━デュランダルで、薙ぐ。

 

「グ、ぅ、ぁ」

 

 袈裟懸けに切り裂かれ、その身体は純白の炎に呑まれていく。

 恐らくその体が残っていたのは10秒にも満たなかっただろう。

 あっという間に男だったものは掻き消え、残されたのはボロボロになった公園、その跡だけ。

 

「━━おーおー、すげえ事になってんのな」

 

 と、そこに少年、ネインが帰ってくる。

 俺は、彼が戦闘に巻き込まれなかった事に安堵しつつ、とはいえ「良かった」と声をかける。

 

「何があったんだよ? いや、マジで隕石が降ってきたみたいになってんじゃん」

「……色々あったんだよ」

「いや、誤魔化すの下手すぎか?」

 

 苦笑したのち、「まあ、良いけどよ」と追求する事をやめてくれるネイン。

 

「まあ、ルクスさんにも色々あるよな、うん。この規模の色々は流石に想像しなかったけど」

「俺だってそうだよ。まさか死にかけるとは思ってなかった」

「その割に、結構余裕そうじゃん」

「……どう、だろうな」

 

 確かに、あの程度の敵ならば一方的に排する事は出来るだろうけど、しかしだからといって「なかった」事にする訳にもいかない。

 命の灯火を消す行為。

 それを「甘い」などと、茶化す事は流石にできそうにない。

 

「……」

 

 ネオンシティ。

 悪が蔓延る常昼の街。

 果たして俺は、巨悪を前にしてもなお剣を手に戦う事が出来るのだろうか?

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