【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
テレジア・ライトについて。
その孫のルクス・ライト曰く━━
『凄い怖い人だったよ、凄く。厳しいし訓練も俺を殺すつもりかってくらいだったし。それになんか急に叫ぶし。とにかく元気でヤバい人だった』
◆
デュランダルという聖剣について。
テレジア・ライトはその終わりを今でもしっかりと覚えている━━
「……」
デュランダルはライト家に代々伝わってきた白銀の聖剣だった。
妖精からもたらされた隕鉄をドワーフが鍛えた事によって生み出された存在という言い伝えがあったが、その真偽は分からない。
どのような伝説がその剣によって築かれたのかも、テレジアはもう知らない。
ただ、両親から受け継ぎ、そして自身も両親と同じく娘に渡し、そしてそれはいずれ彼女の息子の手に渡ると信じていた。
しかし、騎士の時代は終わった。
『存在しない戦争』というものがある。
騎士達が次々と謎の失踪をし、失墜し、家は潰れていく。
それが何者か、あるいは何か強大で巨大な存在によってもたらされているものであると、そう気付いた時には全てが遅かった。
娘とその夫は死んだ。
そしてその魔の手はいずれ残された孫、ルクスに伸ばされる事は容易に想像出来た。
だから、テレジアは苦肉の策としてデュランダルを『破壊』する事にした。
より正確に言うのならば、それを溶かしインゴットにし、二束三文の金と交換したのである。
そうする事により事実上ライト家は降伏し、戦う意思はない事を示したのだ。
……恐らくそれは『何者か』の手に渡った事だろう。
しかし、それでも良い。
命には代えられない。
可愛い娘が残した可愛い孫の命が聖剣を手放すだけで守られるのならば、安い買い物だ。
とはいえ、後悔はある。
あの剣が新たなる犠牲を生み出しているのでは。
……騎士として、聖剣を手に巨悪と戦うべきなのでは。
今ではもう、何が正解か分からない。
テレジアは老い、過去に思いを馳せる日が増えた。
娘が残してくれた可愛い子供。
━━ルクス。
ああ、彼が今も笑い、そして未来もまた笑ってくれているのならば━━
「ばあちゃん、魔法ってなんだ?」
ある日の事、そのように尋ねられたテレジアはどう答えれば良いか困った。
彼に聖剣魔法は教えられない。
そもそも、ライト家の聖剣魔法は剣があってこそ成り立つものである。
今や家財の中に剣なんて文字通り戦う意思そのものみたいな存在は残っていない。
人畜無害な、落ちぶれた旧家を演じるためにはそうするしかなかった。
とはいえ、可愛い孫の頼み。
困った彼女は仕方ないので普通な魔法、その入門について教える事にしたのだった。
「良いかい、ルクス。魔法ってのは体内に宿っている魔力を外に吐き出し、形を与えることから始まる」
「こう、か?」
なんか、ピカピカ光る光球が生まれた。
「……」
え、なにそれ……こわ。
そもそも魔力というのは形なき存在であり、術者によって意味を与えられなかったら簡単に霧散するもの。
しかしながらルクスは魔力を『意味の分からない、意味不明な存在』なまま出力し、留めているのである。
テレジアもこの現象の意味が分からず、答えに困った。
「え、ええと。ルクス? 基本が出来てるのは分かったから次はそれにどうなって欲しいのか念じるんだ」
とりあえず困った彼女は、それでもあやふやな魔力をそのままあやふやなまま放置するのは危なそうと感じたため、彼に、それに意味を与える事を指示した。
「おー、よし。そんじゃあ━━おお! ばあちゃん、剣になった!」
ええ……?
なんか孫、魔力を握ってるんだけど?
棒状になったそれを困惑しきっている祖母の前で楽しげに振り回したのち、満足したのか彼は「よし!」と呟き天に掲げた。
「お前は、そう! デュランダルだ!」
「!!!!」
次の瞬間。
━━三千世界を照らすが如く、眩い極光が溢れ出し。
それが晴れた時、そこには白銀の聖剣があった。
まさしくそれは、かつてテレジア自らの手により葬った筈のモノ━━デュランダル。
「お、オオ……!」
さめざめと涙が溢れ出し、そして孫のルクスはそんな祖母の姿にドン引きした。
(え、ええ……?)
しばし涙を流したのち。
彼女は確信する。
(この子こそ━━この子こそが、この暗闇に染まりつつあるネオンシティを、真なる栄光によって照らす存在に、なる!!!!)
身体を震わせ、そしてルクスはなんかやべえ発作でも起こしたかとスマホを取り出し病院に連れてこうかと思った。
「ルクス!」
「は、はい」
その時、テレジアは覚悟した。
自らの全てを犠牲にしたとしても、この子供を最強の騎士に育て上げると。
……この世界を照らす、救済者にしてみせると。
「こうしちゃいられないよ! 今からあんたに、私が持つ全ての技能を伝える!!」
「え、いや」
「はいかイエスしか聞かないよ! 分かったかっ!!!!」
「は、はいっ」
なんか、祖母がいきなりハッスルし始めて発狂しているようにしか見えない件について。
ルクスはそう思った。
……その後、彼女は一切老いを感じさせる事なく自らの技術全てをルクスに伝授し。
それが終わった後、満足しきった顔で他界したのだった。
ある暖かい春の日だった。