【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
バイトをクビになった。
つらたにえん。
ぴえんである。
とはいえ本職自体はまだ続いているし、ただ転職への道のりが遠のいただけだ。
そもそも副業がバレたらそっちの方がヤバかったのだし、それを考えるとむしろ良いタイミングだったのかもしれない。
辞めた時に相応のお金ももらったし、本当にあの職場には感謝している。
だからこそ、あの侵入者を捕まえられなかった事が申し訳ない訳だが。
『次のニュースです。先日発生した原因不明の局所的暴風雨が━━』
ブチ。
テレビの電源がいきなり切れたかと思ったら、リモコンを手にしたタナトスが「ご飯ですよ」とコチラに歩いてきたのが見えた。
「ああ、ありがとう」
「いーえー、こっちが好きでやっている事ですから」
ニコニコ笑顔な彼女と一緒に食卓へと移動。
既にリヴィアは席についていて、俺が席に着くなり「いただきます」と手を合わせた。
どうやらお腹が空いていたらしい。
……彼女達双子はこうして結構な頻度で俺の部屋に訪れては食事を共にする。
二人は二人で生活をしていて、そしてなんでも一緒に食事をして感想を言ってくれる人が欲しいのだそうだ。
なるほど納得。
俺としても疲れて帰ってきたら二人の手料理が作られているというのは本当に精神的にありがたかった。
二人は二人で俺の作る料理も美味しそうに舌鼓を打ってくれるし、なんていうかお互いにウィンウィンだった。
現在、夜の8時。
テーブルに並んでいるのはステーキ、スープ、それにパン。
スープはたくさんの野菜が入っているコンソメスープで、ステーキの乗った皿の端っこにはキャベツと胡瓜の酢の物(ザワークラウト)があった。
現在俺の年齢は29歳。
正直言うと焼肉系は重たくて食べられなくなってきたお年頃。
ついでに言うと野菜がありがたく感じるお年頃。
俺も「いただきます」をして、それから胃袋を動かすためにまず酢の物を食べる事にする。
「む」
「どうかしましたか、おじさま?」
「いや、なんか珍しく漬かり過ぎてるなって思って。少し酸っぱい」
「あー、多分新しい重石のせいね。良い感じに重要そうだから拾ってきたのに、重石にすらならないなんてダメねぇ。個人的にも重たすぎると思ってたし、捨てちゃおうかしら?」
「適当に処分しておきます」
「ふーん?」
よく分からないけど、しかし重石のせいで酢の物が漬かり過ぎるなんて事があるのか?
作った事がないから、わからない。
「時に、おじさま。アルバイト先から一方的にクビにされたと聞きますが?」
と、タナトスに聞かれて言葉に詰まる。
「そう、だね……まあ、こっちにも不手際があったから、しょうがないと思ってる」
「酷い、とても酷い話だと思うわ、私。真面目で素敵なおじさまを不当な理由で辞めさせるなんて、きっと今頃後悔していると思うわ!」
「そうですね」
きらりと目を輝かせながらタナトスが相槌を打つ。
「追放したおじさまが今頃有能だと気付いても、もう遅いってやつです」
「……なんか小説のタイトルっぽいな」
「あー。最近タナトス、ネットで小説を投稿しているみたいで」
「へえ! 凄いじゃないか、俺でも読めるのかな?」
「み、身内に見せられるほどの出来ではないので」
こほん、と咳払いをする。
「それより、おじさま。不本意ですけど、それでも今、アルバイトを辞めてある程度時間に余裕が出来たのですよね? でしたら、久しぶりに遊びに行きません?」
「あー、そうだな」
俺は考える。
……二人にはいろいろと感謝することも多いし、たまには一緒に遊ぶというのもあり、かな?
「うん、じゃあ折角だし遊びに行こうか。どこが良い?」
「だったら、あそこが良いわ!」
リヴィアが楽しげに提案してくる。
「ペングィーンランド! 最近出来たテーマパークとか、どうかしら!」
◆
一方その頃。
局所的な暴風雨。
……というのは世間に向けられて発信された情報。
あれは間違いなく人災だった。
意志を持った暴力。
しかし、人間が立ち向かったところで敵うわけもない理不尽なまでの力は、それこそ天災と変わらないだろう。
なんにしても、である。
「まさか一夜にして何もかもなくなるとは……」
そこは━━つい数日前まで魔剣の研究、および生産が行われていた施設だった。
あるいはルクスが働いていた工場とも言う。
そこは今やボロボロに破壊され尽くされ、瓦礫しか残されていない。
幸い被害者は出ていないが目撃者は多数いて、そして彼らは口を揃えて言う。
「あれは、意志を持った災害である」と。
「んなわけあるか……」
疲れたように呟くのは、その工場の責任者。
……だった者。
責任者としてそれら被害の責任を要求され、その結果、彼は今、無職となった。
溜め込んでいた私財は全て没収。
一夜にして安いぼろぼろなアパートの住人へとなっていた。
あるいは、工場の最も重要で価値あるもの━━デュランダルが失われていると言うのにも関わらず、その責任を『命』で支払わないで済んだのはある意味幸福と言える。
まあ、責任者であるが組織内で見るならば下っ端も下っ端。
彼はそもそもとしてデュランダルの存在すらも知らないのだが。
「はー」
くぴくぴと安いビール缶を傾けてやけ酒。
目の前にあるパソコンでネットサーフィン。
酔いながらだとロクな結果を招き入れないというのに、彼が見ているのはフリマサイトだった。
「んあ、漬物石だぁ?」
そこでなにやら『プレミアム漬物石(買うだけで運気が上がる!!)(マイナスイオン放出!)』なるものを見つけた彼は、よせば良いのに無駄に興味が湧いた彼はそれを買い物カゴに入れ、迷わず購入。
そしてそれで満足したらしく、パソコンの電源を切ってベッドに倒れ込む。
その時、既に彼の頭の中には美味しく漬け込まれた漬物の事しかなかった。
で、数日後。
「なんだこりゃ……」
なんかやたら絢爛な感じに輝く、絶対漬物石じゃない見た目の『プレミアム漬物石』が届き。
「まあ、良いか……」
とりあえず、漬物壺の蓋の上に置いてみる事にするのだった。
ちなみに双子の年齢は『不明』です。