【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
そんなこんなで、前日。
「ごめん、仕事が入った!」
「え、明日休日ですよね?」
「……休日出勤を唐突に強要してくる仕事なんて潰れるべきと思うのは私だけかしら?」
それは俺も思うけど。
◆
とはいえ上司の呼び出しには応えなくてはならないのがサラリーマンの辛いところ。
こちらとしても心の中では既にテーマパークに行って二人と思う存分遊んでいるのだが、しかし身体は不思議な事にパソコンのキーボードを叩いている。
実に不思議だ。
全然楽しくない。
なんか視界の内にいる、ゴルフのドライバーをニヤニヤ顔で見つめている男をそれこそ一刀両断すれば気持ちなんてすぐに晴れそうなのだが、生憎とそんな事をしたらこっちの首が飛ぶ。
ああ、なんて悲しい生き物なんだサラリーマンというのは。
休日出勤させられている人間は俺だけではない、同志がいるというのが救いと言うべきか。
……いっそ、同志がいるのならばストライキの一つでも起こした方が良い気もするが、しかしこのネオンシティでそれをやったとして仕事の環境が変わるかどうか分からないし、ていうかむしろこっちの命が【十三階段】に狙われかねない。
ストなんて起こす奴は粛清、とかなったら最悪だ。
とはいえ、積まれている仕事も粛々とこなしていけばいずれ消化されていくもの。
午前9時前から始めて、現在14時。
ようやっと一息吐けるタイミングを作れた俺は、昼ご飯を買うために近場にあるコンビニエンスストアへと向かった。
俺は手軽に食べられて片付けも簡単であろうハムとタマゴのサンドウィッチ、野菜のスムージーにパリパリ麵の入ったサラダを持ち、レジへと向かう。
「……」
と、一緒にコンビニエンスストアへと来ていたフラーが何やらレジの前で何かを見ていた。
その視線の先にあるものを見、首を傾げる。
『魔法少女ライム☆レイン』。
あまり深夜帯のアニメを見ない俺でも知っている程の大人気オリジナルアニメ。
それのグッズ――キャラクターが印刷されたクリアファイルと小さなノートが置かれている。
どうやら指定の売り物を購入し、それらが1000円以上になった時にそれらグッズを一つ貰えるらしい。
「息子さんにか?」
「ふぇ……!」
急に声を掛けられ驚いたのか、フラーはびくりと身体を震わせこちらに振り返る。
「え、ぁ……な、なんだルクス君か」
「欲しいなら俺も協力するけど」
「……いえ、なんだか懐かしいなって思っただけで、別にこのグッズが欲しい訳じゃないの」
「懐かしい?」
それは、若い頃(今でも十分若いけど)にこういった魔法少女ものの娯楽を楽しんでいたって事だろうか?
「あー、と。その、ね? 私、昔は――その。魔法少女に憧れてて」
「へえ?」
「正義の味方になりたい、って感じかしら。兎に角そんな若くて恥ずかしい思い出。それを不意に思い出しちゃって」
あー、恥ずかし。
少し頬を赤らめて彼女は言う。
「それもこれも昔、魔法少女に助けられた事があるからなんだけど」
「へえ!」
「ず、随分と食いつくわね?」
「いやまあ、魔法少女。素敵な響きの方々と知り合える機会なんて早々ないだろうからな」
原作にもしっかりと魔法少女は登場する。
ネオンシティにて【十三階段】と戦うレジスタンス――抵抗組織の一つとしてメインシナリオではなくサブシナリオで関わりを持つ事が出来た。
ちなみに元々は【十三階段】によって生み出された改造人間が正義の心に目覚めた結果産まれたというどこぞの特撮ヒーローみたいな設定を持っている。
話を戻そう。
「その魔法少女って、どんな奴だったんだ?」
「んー、銀髪でモノクロームの大人しい色彩で統一された衣装を着たカワイイ女の子だったわ」
「へー」
「ちなみにサヴァンって名乗ってたわね」
「ブホッ!!!!」
思わず、噴き出す。
「ど、どうしたの?」
「……い、イヤナンデモナイヨ」
「その表情と声色で何でもないは無理でしょ……」
とはいえこの話題が俺にとっては凄く触れたくないものである事は察してくれたらしく、フラーは「……それじゃ、折角だし一つぐらい、グッズを貰っていきましょうか」と対象の商品であるエナジードリンクを手に取り、レジの方へと向かった。
俺は「はあ」と嘆息し、思い出したくもない『黒歴史』を思わぬところで掘り返されてしまった事に頭を抱えたくなりつつ、必死にそれを忘却の彼方へと追いやろうとした。
『ふふ、ヴァルハラの戦士――黒炎より産まれし白亜の申し子は決して消える事はないよ……!』
なんかそんな声が聞こえた気がしたけど、とりあえず聞こえなかったふりをして俺もレジに並ぶのだった。