【書籍化】物語に一切関係ないタイプの強キャラに転生しました 作:音々
幸いというか何というか、仕事場で理不尽な文句や説教をされる事は数多くあれど、それでも無茶振りをされる事は少ない。
いきなり呼び出される事はあっても、それでも休日はちゃんと取らせてくれるし、だからうちの職場はかろうじてブラックではない……筈。
とはいえいきなり呼び出しを食らったという前科があるのは確かだし、だからまた呼び出しを食らうのではないかとハラハラしていたが、幸い上司からメールや電話がかかってくる事はなかった。
ほっと胸を撫で下ろし、そんな訳でようやっと俺はリヴィア、タナトスと一緒にアトラクション施設、ペングィーンランドへと電車に乗って向かうのだった。
「堪忍袋の緒が切れるところだったわ……」
「もし仮にまた電話が掛かってきたら、ふふ……」
兎にも角にも。
ペングィーンランドは遊園地であり、原作において主人公等はそこに訪れた際、来訪者50万人記念と盛大にスタッフから招き入れられる事となる。
もちろん、罠である。
主人公らはそこでキラキラと輝くアトラクションを行き来しながら敵と戦う事となる。
そして登場する敵キャラもまた、アトラクションに負けず劣らずなかなかに派手なやつだった事を覚えている。
……描画的な問題もあるだろうが、ゲーム内でこのペングィーンランドを訪れた際、他の客は誰1人としていなかったが、しかし現在、俺達の目の前には沢山の客がいて各々笑いながら遊園地を楽しんでいた。
この遊園地も当たり前だが将来的に主人公と【十三階段】とが戦う舞台になる事からも分かる通り、組織の手によって作られたものだ。
ここで得られる利益は全て、組織の運営資金となる。
そのため俺がペングィーンランドに入園した際に支払った8000円はすべて【十三階段】の懐に入ると考えると、まあ、良い気はしない。
とはいえ、リヴィアとタナトスは物珍しげにアトラクションを見ていていかにもワクワクしているし、だからそういう点でこの場所に来て良かったと思っている。
「と、いう訳で。まずはどこに行きたいか、要望はあるか?」
「『テラーオンテラー』に行きたいです」
「『レジェンドマウンテン』に行きたいわ!」
双子。
沈黙し、お互いに「何言ってんだこいつ」みたいな視線を相手に送る。
「……いや、『レジェンドマウンテン』とか乗ったところで何が楽しいのですか?」
「……『テラーオンテラー』って、あんなただ上下するだけの退屈なアトラクションでしょ?」
「『テラーオンテラー』はその舞台設定や施設の作りを見ながら楽しむものなのですが」
「『レジェンドマウンテン』の刺激的なスピード、常に変化する景色を楽しまないなんて」
「……息が合わないですね」
「……意見が合わないみたいね」
ばちばちと睨み合ったのち、2人はこちらを見上げてくる。
2人がこちらに意見を求めてくるのは流石に察したので、俺は苦笑しつつ答える。
「ここは間をとって━━」
「仕方ないですね、ここは『山脈より』に行きましょう」
「それじゃあおじさま、行きましょう?」
「……」
あれ、俺の意見は?
あの……『マリンスカイ』っていうコーヒーカップみたいなアトラクションでゆっくりしたかったのですが。
……ちなみに、『山脈より』というのはどことなくクトゥルフ神話っぽさを感じさせる立体迷路である。
ペングィーンランドの中央にある人口の山、その中にあるアトラクションであり、どちらかというと雰囲気を楽しむ系の施設である。
もうもうと煙が噴き出たり、血管のように走る脈動する赤い亀裂だったりとホラーチックな要素が沢山ある。
ちなみに観光本によるとここにはたくさんの『隠れペンギー』があるらしいのだが……
「きゃー」
「こわーい」
この双子、どうやらホラー系が苦手だったらしい。
目を瞑って俺の腕をキュッと抱きしめ、キャーキャー言っている。
なんていうかこういうのに強そうなイメージを持ってたから、すごく意外だった。
悲鳴もまるで気持ちがこもってないように感じるが、しかしそんな事をする理由がないしな。
「いやー」
「不気味ー」
ここは俺がしっかりしないと。
そう思いながら2人の身体を引っ張るように移動する。
いやまあ、子供騙しとは言えないほど本格的な作りをしているので、俺も少し怖く感じてはいる。
でも、子供の前で大人が怖がる訳にもいかない。
だから言葉を出さずに淡々とアトラクション内を移動していく━━
「はっはっは! 待ちかねたぞルクス・ライト! ここがお前の死地となる!!」
最近のアトラクションは名前を呼んでもらえるのか。
いきなり現れた黒装束の男に、しかし俺はなんて答えればいいか分からず、言葉に詰まってしまう。
参ったな、折角スタッフの方が世界観を大切にしてくれているのに俺が空気を読めてない。
しかし、アドリブは苦手だし……
と、
「あなた」
「……」
ずい、と不意に双子が俺の腕から離れて前に出る。
自然と2人の表情は俺から見えなくなった。
「ひぇ」
なんか、スタッフの方が表情を引き攣らせた。
おお、迫真の演技。
「いま、おじさまとのデートを楽しんでいるのですけど」
「水を差さないで貰えるかしら?」
ひえっひえに冷え切った2人の声。
凄いな、さっきまでの怖がりようからは想像もできない。
まるでさっき怖がってたのが演技だったかのようだった。
そしてそんな2人の言葉を聞き、スタッフの方も空気を読んだだろう。
「覚えてろよーっ」
一目散に走り出し、視界から消えるスタッフ。
いや、こうして俺達を驚かせに来たと言うのならば、あれも間違いなくアトラクションの一部、なのか?
「多分、ジャッカス君ですね」
「そうそう、マヌケキャラのジャッカス君。きっとそうに違いないわ」
「なるほど」
俺が納得して頷くと同時に双子がまた俺の腕にしがみついてくる。
「怖いですー」
「助けておじさまー」
怖がりだなぁ。
俺はやれやれと思いつつ、出来るだけ出口に早く着くよう早足でアトラクション内を移動するのだった。
結果、1分くらいで外に出れた。
「あれ?」
「……なんで?」
「ここって確か脱出に10分以上掛かる筈……」
首を傾げている双子。
しかし俺は不意にトイレへと行きたくなったため、一言断ってからトイレへと向かう━━
「ま、また会ったなルクス・ライト!」
「ジャッカス君?」
「……ジャッカス君って誰だ?」
眉を顰められる。
あの反応を見るに、どうやら彼はジャッカス君ではないらしい。
まあ、リヴィアもタナトスもペングィーンランドに精通している訳でもないし、スタッフが演じているキャラクターを間違えてしまう事だってあるだろう。
「あいや、その前にこの近くにトイレってありますかね?」
「え、トイレ? それならそこの角を右に」
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げて感謝をしながらトイレへと急ぐのだった。