TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない 作:アあゝ
「私が呼ばれたという事は……必要になったんですね、『門』が」
黄昏の館の作戦会議室。
普段は幹部陣とロキ、そしてベテラン組といった作戦実行に関係する者のみが入室することを許された部屋に、私は居た。
扉を開き迎え入れた団長、フィンさんにそう問いかけると、話が速いと言わんばかりに頷いて見せる。
「うん、そうなった。詳細はこれから説明するからまずはリヴェリアの横に座ってほしい」
「……わかりました」
見慣れない部屋の中を見回してみれば、見慣れた面々と顔を合わせる。
軽く手を振っているロキ、どっしりと鎧を着こんで椅子に座るガレスさん、複雑そうな表情を浮かべているリヴェリアさん。
そして幹部陣よりもベテランのノアールさんとダインさんとバーラさん。
三人は後進の育成に力を注いでいる様子ではあったが、リヴェリアさんに教えてもらっている関係上、共にダンジョンに潜ったことは無く、ホームで可愛がられた程度の仲だ。
きっとこれから成長して、魔導士として一人前になった時にはお世話になるかもしれない。
主要メンバーが揃っている事実が、事の重大さを感じさせる。
要件は火急の物かもしれない、呼ばれた理由を考えればのんびりしている暇はない。
リヴェリアさんがこっちだ、と席を引いているので急いで座る。
「よし、はじめようか。先ほど諜報に出ていたギルドの手の者が、闇派閥のきな臭い動きを感知した。どうやら大規模な襲撃を企んでいるらしい」
フィンさんはそう言って大きなテーブルの上に広げられたオラリオの地図の幾つかに、闇派閥に見立てた駒を置く。
置かれた場所は全て、占拠されれば都市の機能を麻痺させ得る程の致命的な被害が予想される地点。
暗黒期の終わりを迎えるためには、絶対に獲られるわけにはいかない場所達だった。
「奴らは並行して陽動作戦を企んでいる様子だった。だから、陽動が動き出す前に襲撃部隊を攻め込んで壊滅させる」
「イデアの『門』を使う事で別動隊に察知されることなく倒す、そういう事だな」
「そうだ、恐らくだが陽動だと察知されない為に、幹部クラスが動くと思われる。だからリヴェリアかガレス、僕の中から誰かが囮として陽動部隊と交戦することになる」
「──なら、それは儂の役目だな。陽動などと宣うからには、襲撃が起こるのは人が多い地点、そこなハイエルフでは少々危険が過ぎる。……確か農産系大派閥協力での炊き出しが明日行われるのでは無かったか」
円滑に進む会議。
途中、癖なのかガレスさんがリヴェリアさんを茶化すが、事態が事態だからとリヴェリアさんの仕返しは溜息だけで終わる。
私も情報を少しでも多く聞き取ろうと努力するが、一体感が生まれ加速しつつある古参メンバーの問答を前に全てを把握するのは至難の業だった。
「──そこだ。市民が大挙して訪れる筈だから、溶け込むのも騒ぎを起こすのも容易にできる。──チッ、被害を抑えるのは難しいか……?」
「困ったなあ……」
フィンさんが親指を咥えて思考の淵に潜る。
人混みの中で戦う以上、防衛側よりも襲撃側の方が有利に事を運べるのは分かり切った事実ではあった。
ガレス一人では幹部を抑えることは出来ても、他の木っ端たちを始末することが出来ない。
闇派閥の手口を近頃の被害から考察する限り、何かしらの魔剣を用いた自爆攻撃だと考えられる。
陽動部隊全員がそれを持っているという最悪なケースを考えて作戦を組み立てなければならない。
選択が迫っている。
二者択一、炊き出しを貰いに来た市民たちを助けて重要拠点を占拠されるか、市民を見捨てて襲撃を未然に防ぐか。
両方遂行するのが理想ではあるが、両方に手を割けるほどの戦力を持ち合わせていない。
「……襲撃部隊を壊滅させたのち、再び『門』を開いて炊き出しの現場に飛ぶというのはどうでしょうか……? 被害が拡大する前に移動することが出来れば、最小限の負傷者で済みます」
会議室を包んでいた沈黙を破ったのは私の一言だった。
どちらかの被害を減らす為にはどちらかの被害を見逃すしかない、という思考は距離を無視して移動できる『門』の前には無意味だった。
「何? 『門』の連続使用が可能なのか!?」
「可能です、必要とあれば何度でも、どこにでも飛ばせます」
「ふむ……イデアの魔法への認識が僕らとは少し齟齬がある、摺り合わせが必要だね。想定していない事があると全てが狂ってしまう。今回はありがたい限りだけど……」
私の言葉はどうやら劇薬に等しかったようで、部屋の中にざわめきが起こる。
リヴェリアさんはあれほどの魔法を……と驚愕した表情を、フィンさんは活路を見出した表情を浮かべて、ロキは愉快な表情をしている。
「……待てよ? 安全地帯で詠唱を終わらせて、『門』の先で発動したら短い時間で掃討できるのではないか?」
「いやそれは反則やろ……気に入ったけど……!」
ポンと浮かんだ発想を口に出したリヴェリアさんに、ロキが悪い笑顔を浮かべる。
他の神がいれば『チートや!』と言いかねない行動を咎めるものは此処には誰もいなかった。
「それは良いね……リヴェリアは魔法を放った後『門』に退避、今度は回復魔法を詠唱しながら炊き出しの開催地点へ繋がる『門』に向かうっていうのはどうかな。生き残りだけなら少数でも掃討できる」
「ならばそれは俺たちに任せてもらおう」
ベテラン組からノアールさんが代表して答える。
三人の総意だと言わんばかりの言葉に、フィンは頷いた。
「わかった、計画を変える。奴らの作戦に釣られてやろう。────炊き出しの場には僕も行こう」
翌日。
作戦を決行する時間が近づき、私は軽い緊張感を感じる。
自分が戦うわけではない、しかし、これから開く『門』が多くの人の命を左右するのだ、緊張しない訳が無い。
「少しいいかい?」
「あっ、フィンさん、ガレスさん……」
炊き出しが始まるのももう少し、警邏として炊き出しに参加するフィンさんとガレスさんが、ホームの庭で突っ立っていた私を見つけて声を掛けてくる。
「儂らは不審に思われないよう、歩いて現場に向かうからな。防護魔法を掛けてもらうついでに激励しに来た」
「激励、ですか」
「作戦決行の時には別の場所にいるからね、先に言っておこうと思って」
ガレスさんが言った激励の意味を私はくみ取ることができなかった。
確かに緊張はしている、だが私がすることは『門』を開くことだけ、『門』を開けてしまえば後は仲間たちの努力の末の結果が待っているのみ。
自分に声を掛けるより、他の人たちへ伝えたほうが士気も上がる筈と思えば、ますます彼らが『肉体の保護』ついでに激励を伝えてこようとする意味が分からなかった。
「未来は誰にもわからない、それは僕たちがいくら手を尽くしたって変わりようのない事実だ。だから少なくない被害が出るかもしれないし、僕たちの誰かが死ぬ可能性すらある。──だけど、それは君のせいじゃなく間違った判断を下した僕の責任だ」
「そういうことさな、Lv.1が背負う重みではないのだ。『門』の先で何が起ころうと気を病むんじゃないぞ」
「そう、ですね……ありがとうございます、少し気が楽になりました」
ピンと来ていなかった私に投げられた言葉、それは激励というには穏やかで、落ち込んだ気持ちを励ます方向性のものだった。
彼らからしてみれば、私はまだ9歳の少女。
便利な魔法が使えるからと言って、作戦の要として利用するのは流石に良心が痛むらしい。
アイズも私も、自衛手段として鍛えることはあろうと、決して戦場に出さない事からもその事が窺い知れた。
……ダイダロス通りでの出来事はアイズの独断なので……。
「【──大いなる一撃を逸らせ、血潮の盾、遺志の鎧】」
呪文の詠唱を始めつつ、二人の装備を眺める。
動きやすそうな軽装でありながら、急所とされる場所を最高級の素材で的確に守る設計をされた鎧とどこを攻撃されても絶対に崩されることのない鉄壁という言葉がふさわしい重装の鎧。
私服姿である時など見た覚えがないと錯覚するほど、彼らが鎧を着ている姿ばかり見てきた。
それは、彼らが主力として常に戦い続けている証でもあり、ロキ・ファミリアの短所。
フィンさん、ガレスさん、リヴェリアさんの幹部三人によって、ロキ・ファミリアはオラリオ最強勢力として成り立っている。
ノアールさんたちもいるにはいるが、戦力と比較して考えれば幾分か劣る。
だから昨日、フィンさんは思考の渦に陥っていたのだ。
戦略を考える者の視点に立てば、ロキ・ファミリアには手駒があまりにも少なすぎる、今回は他の地点を別のファミリアに委託したが、ロキ・ファミリア単独での作戦や、緊急時に於いては致命的な問題になり得る。
──もう少し年齢が高くてランクが彼らに追随するものだったら、彼らと肩を並べて戦えたのだろうか。
「【
今の私ではできない願望を胸に秘め、代わりに呪文を二人に掛けた。
──いつか同じ戦場に立つために、今出来る最大級の力を。
『
符牒はロキの家族であること。部外者は誰一人として通り抜けさせない。
ふと先ほどフィンさんたちが出立の前にこう言っていたことを思い出す。
『最初は協力体制を築いたファミリアに『門』を公表することを考えた、だがそれは切り札を晒すことと同義だ。多くのものが知ることになれば、何処から情報が洩れるかわからない。そうなれば闇派閥の行動基準がこれまでとは大きく変容するだろう』
別ファミリアの動員にも使用すれば……今回だけは事を有利に運べるだろうが、今後は『門』の存在を認知したうえで相手も動く。
敵勢力が事前に阻止できない奇襲手段を得たことを知って、破滅主義者達は何をするのか。
今でさえ突発的な犯行を繰り返しているのに、より頻度が増えることが想像に難くない。
だから『門』の存在はロキ・ファミリアの中だけで秘匿する。
セットアップを完了させ、突入待機している各々の中からリヴェリアさんに声を掛けた。
「用意は済ませました。『門』を抜けてすぐ正面に密集している集団があります。それが恐らく襲撃部隊です、周りには市民と判断できる反応はありません、つまり……」
「全力で撃って構わない、ということだな。了承した、では行ってくる」
杖を構えて『門』の前に立つリヴェリアさん。
始めた詠唱に合わせて膨大な魔力が彼女の周囲に集まってくる。
「────【間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】」
確実に敵を屠る切り札が、何者の妨害もないまま完成しつつある。
多くの人々を絶望へと叩きこもうとしている闇派閥の者たちを、死の恐怖に陥れることが出来ないのはつまらないが、一網打尽出来ると考えただけで溜飲が下がる思いだった。
最後の一節を残して、『門』の中に消えるリヴェリアさん。
それから間もなくして、遠くから爆裂音が響いた。
別地点を攻め込む用意をしている別ファミリアに奇襲が成功したことを伝えるとともに、闇派閥の陽動部隊に味方が拠点を襲撃し始めたと誤認させるだろう爆裂音。
いかな強者であろうと、爆心地で生き残るのは容易くない。
そう強く確信させる魔法の発動からしばらくして……帰ってきた。
「────残党はほぼいない、仮に生き残りがいたら捕縛をした後、別動隊への援護に向かってくれ」
『応!』
待機していたダインさんたちにそう告げて、今度は回復魔法を詠唱し始めたリヴェリアさん。
彼女の装束には傷の一つどころか、煤も付いていなかった。
『門』に慣れない様子で飛び込んだノアールさんたちを見送った後、詠唱を続けるリヴェリアさんの手を引いて、炊き出しが行われている通りに繋がる『門』へと連れていく。
今頃、ガレスさんとフィンさんが戦いを繰り広げている頃だろう。
リヴェリアさんのものと比べれば小さい爆発音が何度も、繰り返し起きつつある。
『門』の先へと消えていくリヴェリアさんを見つめた後。
手持無沙汰になった私は晴天の空を見上げる。
この空の様に、澱んでいた空気が浄化されていくことを願って閉じた瞼。
爆発音に紛れて聞こえていた叫び声が次第に収まっていくのを感じながら私は、誰かが帰ってくるのを待っていた。
『大抗争』まで、後四日────。