TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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書き溜めが無くなりつつあるのでまたお時間いただきます……。


歪んで見えてくるもの

 

『闇派閥』の安全地帯、秩序側からしてみれば危険地帯と言い換えていいオラリオの暗部にて、憤激の叫びを上げるヒューマンの女の姿があった。

 

 

「嗚呼ああああぁ、痛え……! ちくしょう……フィンの奴、知らねえ手札を使いやがって、ふざけんなよ……」

 

 

殺帝(アラクニア)】、ヴァレッタ・グレーデ。

 殺戮の快楽に濡れていた表情は片腕の喪失と共に失われ、今は宿敵への憎悪だけが窺い知れる。

 陽動の為に行われた、北一帯の通りを狙った殺戮。

 宿敵の相手であるフィン・ディムナは予想と反して炊き出しの現場に現れ、参謀が現場に出ている事から陽動が成功したことを確信して歓喜したのも束の間、今まで一度も見たことないエンチャントによって剣戟も無いまま右腕を切断され、下っ端を盾に命からがら逃げ帰ってきたところだった。

 

 

「私の貴重な腕が犠牲になったんだっ……! 襲撃は上手くいったんだろうなあ、オイ!」

「──いいえ、残念ながらどの部隊も与えられた被害は軽微、それどころか一切行動する事無く全滅した部隊もありました、嘆かわしい事ですが……」

 

 

 叫んで痛みを紛らわせる荒業で報告を求めるヴァレッタに、隣に居た男が煩わしそうにしながら答える。

 恰幅のいい獣人。

 聖職者が着ているような黒い祭服を身に纏ってはいるものの、その眼には邪悪が宿り、本来見る者に与えるはずの聖なる気配などは微塵にも感じられなかった。

 神官バスラム。

 闇派閥最恐戦力【アパテー・ファミリア】の参謀として、その残虐性をオラリオに知らしめた一人。

 男が同じく参謀役をしているヴァレッタとの情報共有を図る場、それが此処であった。

 

 

「っチィ! 無能は役に立ってから死ねクソが……! それで、何かしら拾えたのかよ情報は?」

 

 

 無かったら殺す、と脅すヴァレッタに臆することなくバスラムは頷いた。

 

 

「先ほど述べた特筆すべき敗北を決した部隊、其処に攻め込んだファミリアはロキ・ファミリアだったそうです」

「……何? 主力のフィンとガレスの野郎どもがこっちに来てたっつうのに、どういう事だ……」

 

 

 遠くから観察していた伏兵の情報は、ヴァレッタの参謀としての能力をもってしても判断に困る物。

 二人を抜けば後は【九魔姫(ナインヘル)】を残すのみ、しかしその【九魔姫(ナインヘル)】も間もなくやって来たという事実が余計に事を複雑にして、疑問を口にするヴァレッタ。

 答えの見つからない謎として空に消えると思われた疑問は、バスラムによって回答が導き出された。

 

 

「実は、それは我々の落ち度なのです……。従ってこちらを進呈しましょう」

「はあ? 受け取ってやるからさっさと説明しやがれ、嘗めたこと抜かすと殺すけどな」

 

 

 懐から正規品とは大きく異なる様相をした薬瓶を取り出すバスラム。

 それは【アパテー・ファミリア】が行う凄惨な実験の副産物であり、豊富な治験の結果生み出された、正規品以上の効能を示すポーションであった。

 残された左手で奪い取ると、すぐ口に含んだヴァレッタを目にして笑みを深め、バスラムは話し始める。

 

 

「『精霊兵』の事は、ご存じでしょう? 我々が開発した傑作。オシリス・ファミリアの生き残り達に『精霊』を注入することによって、疑似的に御伽噺にあるような精霊の加護を再現したものを」

「ああ、あの趣味悪ィやつな。……それで?」

「そう焦らずに……『精霊兵』が実用段階に入った際に天啓を得たのです。──アパテー・ファミリアが失ったのは何も戦力のみではありません、同じ思想を共にする同志を失ったのです。だから、新たに造ることにした」

 

 

【アパテー・ファミリア】の因縁の相手、【フレイヤ・ファミリア】によって、団長を含む幹部陣は悉くが死に絶えた。

 残す幹部はバスラムのみ。

 下っ端の木っ端となると思想は異なる物ばかりになり、事実上の崩壊の危機が迫っている事をバスラムは危惧していた。

 

 

「無事造り上げた人形に後は最終工程を施すのみ、の所まで計画は進んだのですが……予想外な事が起こりまして」

「……おいおい想像ついてきたぞ。その“人形”とやらが何故かロキ・ファミリアに流れ着いて大活躍している訳かよ」

 

 

 【アパテー・ファミリア】の大失態に額に青筋を浮かべるヴァレッタ。

 目の前の神官が笑みを崩した瞬間殺すと決意し、その思惑を察知するかの様に皺が広がる顔に一発ぶち込みたくなるのを我慢する。

 

 

「ええ、想定外です。脱走したその日には魔法を行使していた様子で回収班を殺害、その後しばらく姿を見失ったところを先日ようやく発見できたのです」

「は? ステイタス無しでか?」

「それは想定内なのです。……近々起こる抗争、我々は参戦を遅らせてもよろしいでしょうか」

 

 

『大抗争』、後にそう呼ばれる日々はもう明日にまで迫ってきている。

『闇派閥』が総力を挙げて用意を進めて来た数か月。その成果がようやく実るというのに。

 バスラムに宿る狂気はヴァレッタとしても捨て置けるものではなかった。

 一枚岩ではない闇派閥の一陣営が齎す混沌が正義を蹂躙する姿は何にも代えがたい快楽、【アパテー・ファミリア】に返り咲いた“人形”が嘗ての味方を裏切る姿を想像すれば、どんなに愉快な事か。

 

 

「──面白れぇ、浮いた分の戦力は英雄サマたちに頑張ってもらうから、最低でも私の腕の分は取り返せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日の奇襲作戦は大成功で終わった。

 襲撃を企んでいた部隊を前に、『門』を使用した奇襲によってロキファミリアは負傷者ゼロで鎮圧。

 他の場所の鎮圧にあたったファミリアも、混乱に乗じて倒し切ることが出来たみたいだった。

 

 炊き出しを狙った陽動部隊の中には最重要幹部の『殺帝(アラクニア)』がいたらしいが、フィンさんとガレスさんが片腕を切り落とすことに成功。

 盾になった雑兵たちによって大物をむざむざ逃がしてしまう結果になったが、そのおかげで魔剣を使った特攻攻撃の殆どがフィンさんたちに向き、直接切り殺された市民たちを除けばリヴェリアさんの回復魔法と、待機させていたらしい製薬系ファミリアの大派閥【ディアンケヒト・ファミリア】による治療のお陰で何とか犠牲者は抑えられたようだ。

 

 戦力を削がれた闇派閥はオラリオ外周部に待機していた戦力をかき集め、慌てて戦力を取り戻そうとしている様子で、包囲網を抜けたオラリオ外の生産系ファミリアからの物資が潤沢に市場に入り込みつつある。

 奇襲攻撃を終えてから三日、建造物にこそ被害の爪痕が残るものの、以前に近い賑わいを見せる冒険者通りに再びアイズと向かっていた。

 

 

「……ジャガ丸くん、あるかな?」

「さあ……、手紙は届いてないけど多分やってると思うよ」

 

 

【ロキ・ファミリア】から冒険者通りに続く道を歩きながら、ジャガ丸くんに思いを馳せるアイズと私。

 今日冒険者通りに向かう理由は、言わずもがなジャガ丸くんだ。

 

 流通が盛んになったという事はジャガイモも多く取引されるようになったという事で、店主のおじさんなら喜んでジャガ丸くんを売っている筈という予想に基づいて私たちは動いている。

 ……昨晩、ベッドでボーッとしている時に呟いたら、アイズが予想以上の食い付きを見せてしまったのでやむを得ないのだ。

 

 手紙こそ【ロキ・ファミリア】には届いていないが、あの人柄でこのチャンスを前にジャガ丸くんを売らない筈が無いという信頼が築かれつつあった。

 

 

「……イデア、何味が好き? ……わたしは小豆クリーム味」

「でしょうね……私はプレーン味、かな。いろいろな味を楽しめるから……」

 

 

 私はプレーン味が好きだ。

 塩をまぶせば大好きな塩味を楽しめるし、オーソドックスにソースを掛けたっていい。

 この世界のジャガ丸くんは、じゃが丸くんというよりコロッケという認識に近いため邪道に感じるが、クリームを使った甘い味から辛い味まで、自分のさじ加減でどんな味にだってなる味。

 

 ジャガ丸くんの好みについて語り合いながら、いつも屋台が開いていた場所にやってくると、其処には何もなかった。

 

 

「あれ……」

「やってない、みたいだね……」

 

 

 辺りを見回してみると自分たちと同じようにジャガ丸くんを求めてやって来たと思しき人々の姿があるので、何処か違和感を感じる。

 閑散とした雰囲気は屋台が無いからか、それとも別の理由か……横で寂し気な様子を見せているアイズを見て、周りの露店の人に聞いてみることにした。

 

 

「いらっしゃい、子供には少し早い品揃えだと思うが、客となれば話は別だ。歓迎するぞ」

「じゃあこれと、これをください……あの、何時もここでやっているジャガ丸くん屋さん、知りませんか?」

 

 

 露店の中に前も近くで商売をしていた人を見つけ、声を掛ける。

 冒険者用の雑貨を取り扱った店のようで、店の前にやって来た時には多少驚いていたが、私が貨幣が入った小袋を取り出したのを見た瞬間に店主は商人の顔に変わる。

 

 一応、話を聞く前に商品を買っておく。

 特定の呪文を行使するための火起こし用のマッチと、それを入れるのに丁度よさげなケース。

 値段より多めに金貨を渡しながら聞いてみれば、彼は答えてくれた。

 

 

「……あー、あそこのおっさんな……」

「……どうかしたんですか?」

 

 

 歯切れの悪そうな表情で答える店主。

 子供に伝えるのは憚られるようなことが無ければしなさそうな表情に、自然と私も嫌な予感がしてくる。

 

 

「あのな、ジャガ丸くん売りのおっさん、この前の炊き出しの時に殺されちまったんだ……」

 

 

 殺された。

 ……誰に? 誰が? 

 

 数日前に話した記憶が蘇る、店主のおじさんはこう言っていた。

 

 

『おっちゃん、炊き出しがんばって仕入れの割合増やしてもらうから、また再開できるようになったらロキ・ファミリアに一番に手紙を送るぞ!』

「あ……」

 

 

 思い当たる節。

 私たちが襲撃を阻止して、陽動を最小限まで防いだ日。

【デメテル・ファミリア】を筆頭として農産系派閥が開いた大規模な炊き出し、その中にはおじさんもいたのだ。

 そして防いだと思った被害、最小限の中に彼は居た。

 

 

「え……」

 

 

 ぽつりと呟かれた声。

 隣から聞こえた声だった。

 

 横に振り向くと、アイズが目を見開いて固まっている。

 

 

「ジャガ丸くん、もう食べられないの……?」

「お嬢ちゃん、気の毒だし俺も残念だが、仕方ない事なんだ……」

 

 

 幼ないながらに、揺るがない強さを感じていたアイズの声が、震える。

 身近な人の死を受けて、動揺が広がっているようだった。

 露店の店主が慣れないながらも慰めの言葉を投げかける中、アイズの姿が消えた。

 

 

「っ────!」

「アイズっ!?」

 

 

 事実を受け止めきれないアイズはLv.3の身体能力を余すところなく使用して通りを走り抜けていく。

 

 

「店主さん、ありがとうございました──!」

「お、おう」

 

 

 咄嗟の事で声を掛ける事しかできなかったが、見失ったら大変なことになる。

 店主さんにお礼を言った後、私もアイズの走り抜けていった方角へ向けて足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズ! 一体どこに……?」

 

 

 レベル差もあり、完全に見失ってしまったアイズ。

 走っているだけでは完全に見つけられないことを悟った私は、一旦情報を整理するために立ち止まる。

 

 ジャガ丸くんのおじさんは良い人だった。

 一回しか会ったことが無かったのに顔を覚えていてくれたし、ジャガ丸くんをサービスしてくれたこともあった。

 笑顔の似合う明るい店主、それが彼に抱いていた印象。

 

 アイズ程とは言わなくても亡くなったのはショックの……筈なのに。

 

 

「え……、どうして……?」

 

 

 彼の死を前にして、私はちっともショックを受けていなかった。

 言葉では何とでも繕えるから一人では気付けなかったモノ、感情の薄いアイズが見せた情動を前にして漸く気付いた自分の異常性。

 ──昔の自分はこんなにも薄情ではなかった筈だ。

 

 変身願望をもって生きていた頃。

 自分がファンタジー世界に迷い込む事や、少女の姿になってしまう事を知りようが無かったあの頃、私はフィクションの中での出来事で容易く涙を流す人間だった。

 ……感情的な人間だった、のに。

 

 血潮を浴びて、腐肉の中に潜って何も感じなかったのは? 

 自分の意思で人を殺して、目の前で人を殺した少女と平然と話せたのは? 

 正気を失うハズの呪文を唱えて平然としていられるのは……? 

 

 この世界で意識を覚醒させてから起きた総ての事象が歪んで見えてくる。

 

 

「これじゃまるで……人間じゃないみたいだ……」

 

 

 人の形をした怪物。

 単純作業の様に人を殺す機械。

 自分について考え起こせば浮かんでくるのは総じて、人の振りをしたナニカ。

 

 変身願望とはこんなものではなかった筈だ……。

 一歩踏み出せる自分、掛け替えのないモノを得る自分、友と笑顔を浮かべて語り合う自分。

 輝かしい思い出を積み重ねていく自分の姿が次々と思い浮かんでは別のものに塗りつぶされていく。

 想いを嘲笑う様に生まれつつあるヴィジョンたちがどれも自分の姿とは思えなくて、振り払うように口ずさんだ言葉に答える声。

 

 

「勿論です、人間ではありませんので」

「!? ────っ」

 

 

 焦燥しきって辺りの様子を窺う事を怠った罰。

 知らない男の声が背後からしたと思ったら首元に痛みが走り、沈みゆく意識。

 浮かんだ疑問に答えを見出すことが叶わないまま、私の意識は途切れた。

 

『大抗争』まで後一日────。

 

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