TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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『ダイダロス通り』へ

 

 建物の屋根を飛び移り、何処かへ向けて一直線に移動するアイズを追うことは、レベル差のあるリヴェリアをもってしても困難だった。

 

 夜の闇の中でも微かな光を反射させて煌めく髪とアイズが通った跡と思しき追い風によって、何とかアイズの姿を見失うことなく街道を駆け抜けることが出来ている。そんな状況の中、リヴェリアは迷いなく動くアイズの行き先に対して思案していた。

 

 

(……アイズは一体何処へ行くつもりだ……まさか、『ダイダロス通り』か?)

 

 

『ダイダロス通り』。

 イデアの失踪が闇派閥の手による拉致だとしたならば、オラリオの中で闇派閥の者にとって最も潜伏が容易である場所がダイダロス通りだ。

『地上のダンジョン』と称されるに相応しい複雑な構造をした通りは、未だ全貌を掴めていない事を考慮すればダンジョンの上層以上にダンジョンをしていると言える。

 影に生きる者たちにとってこれ以上ない潜伏場所。他にもイデアと『ダイダロス通り』には、彼女自身さえ知りえない因果が渦巻いている。

 

 拉致されたというのはあくまで仮定であったが、イデアを捜索しているこの数時間のうちにそれは確信に変わってゆく。

 特異な能力から目を逸らせば、イデアは年齢に反して極めて落ち着いていた。

 同い年のアイズと普段から行動を共にさせていたこともあり、その特異性は顕著になっていた。アイズの暴走のストッパーになったり、逆に狂戦士として大いに暴れられるようにサポートを行ったりしつつも、それは状況を見据えた上での行動が多い。果たして同じくらいの年頃の自分にはアイズを御することが出来ただろうか、と考える事さえある。

 

 ……それらを踏まえて考えてみれば、イデアが独断で消息を絶つことなど考え難い事なのだ。

 彼女の扱う魔法が支援に重きを置いている事、それを十全に扱えるようにファミリア全体に周知している事などから、情報共有を疎かにするとはにわかには思えないというのがリヴェリアの見解であり、【ロキ・ファミリア】全体の総意であった。

 

 アイズとの下手な試練よりも困難なダンジョン攻略や、年齢とレベルを思えば異常な程の魔法の技量は、【ロキ・ファミリア】におけるイデアへの評価を確固としていた。

 それがロキから見せられたスキルによるものなのか、それとも本人の気質であったのかは現在において知ることが難しくなってしまったが……。

 

 彼女について知っていることはあまりにも少ない。

 様々な事情を腹に抱えて多くの冒険者たちはオラリオへとやってくる。そのため詮索をすることはある種のタブーとなっているが、それを破ろうと揺るがないであろう知的好奇心を彼女の在り方、振る舞いには抱かざるを得ない。

 

 彼女自身の謎。スキルの謎、生い立ちの謎。

 ロキが私室で語ったステイタスには、普段のイデアの秘匿していた因縁が可能性という形で表れていた。正体不明。理解不能。全知無能を自称する超越存在が知りえない『謎』。

 

 それらの形容し難い謎は、数か月前の『ダイダロス通り』でアイズの手によってロキ・ファミリアに絡まった。

 そして迷いなく煉瓦の屋根を走り、空を舞うアイズを信じるならば、再びあの通りが渦中になりつつある。

 

 

(あの様子なら……間に合うか?)

 

 

 目的地にアタリの付いたリヴェリアはアイズを見失わない程度に確認しながら、黄昏の館へと踵を返した。

 イデアが残した魔法、闇派閥に優位に立ちまわることが出来た主な要因、年齢から作戦に参加させていなかったアイズは知らない新たな【門】。

 闇派閥が潜んでいることは自明の理であった為に、ダイダロス通りを迷宮足らしめている背高な建造物の屋根の上には、イデアによって神秘の門がダイダロス通りを網羅するようにいくつも設置されていた。

 

 夜間であり危険性も高いことからイデアの捜索の範囲からは排除していたものの、アイズが一人で突入しつつあり、それを阻止することも困難であるのだからやむを得ないのだ。

 ミイラ取りがなんとやら、しかしそれを恐れていたらロキ・ファミリアからアイズとイデアの二人の命が失われる可能性がある。それは何としても阻止したいことであった。

 

 

 

 

 

 

「──リヴェリア、ロキから話は聞いたけど……やっぱり無理だったんだね」

「こんな事で成長を実感したくはなかったがな」

 

 

 最短ルートで黄昏の館へと戻ってきたリヴェリアを出迎えたフィン。

 一昔前ならまだしも、ここのところ成長が激しいアイズを確保するのは困難極まりない。リヴェリアを出迎えたフィンは、順当に行けば傍らに立っていたであろうアイズの姿が無いことにわかっていたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 

 フィンの他にも辺りには団員たちの姿もあった。昨日の午後から続いていた捜索は、闇派閥の拠点への攻撃まで残り数時間を切ったのもあり打ち切られつつあった。流石に疲労を見せる者が多く、わずかでも休眠をとらせるために、黄昏の館の門前にて情報収集を終え帰還した団員にフィンがその旨を伝えていたのだった。

 

 

「みんなからの情報ではイデアの手掛かりは多くない。通りをアイズと一緒に歩いていたという目撃談は多かったけれど、それっきりだね」

「ああ、イデアからアイズと共にジャガ丸くんを食べに行くとは聞いていた。恐らくその時のモノだろう」

「アイズと別れた時刻と会議の開始時刻にはそう差異はないだろうと仮定すれば……」

 

 

 下手人は恐らく細心の注意を払って人目のない場所を通り、身を隠したものだと思われる。

 イデアは子供であり、その上吹けば飛びそうな雰囲気さえあるが、それでもヒト一人を抱えた状態で音沙汰なく逃走するのは困難極まりない。

 それはイデアがそう遠くには運ばれていないというポジティブな可能性と、この時世で調査を慎重にならざるを得ない場所に囚われているネガティブな可能性を浮き彫りにした。

 

 

「──それで? アイズがどこに向かっていたのか、それくらいは掴めたのかな? まさか見失ったなんてことはないだろう?」

「勿論だ。 ダイダロス通り、そこにイデアがいることをアイズは何処かで知ったみたいだ……フィン、何か感じるか?」

「確かに、親指は疼く。 ……だが、これは?」

 

 

 ダイダロス通りにアタリを付けてみれば、右手の親指は他の場を調べていた時以上に疼きを強める。

 しかし、フィンの経験上で現在感じる疼きは信用しきれないものだった。

 

 

「どうかしたか?」

 

 

 親指を咥えるフィンの顔は、少し煮え切らない表情を浮かべていた。

 限りなく核心に近い答えでありながら、何かが間違っている感覚。

 

 

「……うん、そのあたりにいるような気は僕にもする。──だけど……これはダンジョンか?」

「ダンジョンだと……?」

 

 

 リヴェリアの問いに、自身の中で浮かび上がった不明瞭な答えを口にするフィン。

 勘を頼った答えでありながら、口にしたダンジョンという言葉をゆっくりと噛み締めて頷く。

 

 

「……ウン、闇派閥がどうやってダンジョンに侵入しているのか、度々提起されていた問題だったけど……リヴェリア、多分だけどイデアはダイダロス通りの地下にいる」

「──まさか、ならばなぜモンスターはオラリオに溢れ出してこない?」

 

 

 今こそヘラ・ファミリアによって討伐されたリヴァイアサンのドロップアイテムでせき止められてはいるものの、過去にはダンジョンとロログ湖を繋がっていた穴からはダンジョンで発生した水棲系モンスターたちが流出してしまっていた。

 当時の様子を見たことのある世代だからこそ漏れ出す疑問に、フィンは見当もつかないと首を振った。

 

 

「──さあね、闇派閥の弛まぬ尽力のお陰かもしれないし、他の要因かもしれない。 一つわかるのは其処が今まで終ぞ尻尾の掴めなかった闇派閥の本拠地である可能性が高いってことくらいか……。 作戦の参加を取りやめたくなってきたな……」

「罠の可能性、か」

 

 

【ヘルメス・ファミリア】によって発見された闇派閥の三つの棲家がブラフであるのなら。

 新たに本拠地としての利便性が極めて高い場所の見当がついたことによって、今まで本拠地だと目されていたそれらが漏れなく闇派閥の罠である可能性も吊り上がる。ただでさえ『ロキ・ファミリア』の団員たちはイデアの捜索で疲労困憊になっているのだから、事故を招くような判断は憚られるのだが……。

 

 フィンの脳裏に先日相対した因縁の相手──【殺帝】が浮かび上がる。

 延々と絶やすことの出来ない根を張り続ける闇派閥にしては稚拙な隠蔽は、本命を隠す為であると同時に敵をおびき寄せる為のエサとしては上出来だ。

 であれば、何時獲物が食い掛るのかも知り得ていると考えた方がいいだろう。

 

「僕としてはリヴェリアに着いていきたいというのが本音だけど、今から作戦を中止したなら奴らは情報が漏れたことを確実に察知する筈。 僕は被害を最小限に抑える方がいいか……」

 

 作戦に参加するかどうか。見えてきた両方のリスクを天秤に載せ、より被害の軽い方を捨てる決断をするフィン。その表情は苦渋を噛み締めるかのようだった。

 

 

「やむを得ないか……。わかった、恐らくだが本拠地に残っている人員は少ない筈だ、有難い事にイデアが掛けてくれた魔法の効力は失われてはいない……単独でアイズと合流し、イデアを救出した後すぐ戻る」

「──よし、僕からロキ達に伝えておくから二人を頼んだ。 くれぐれも気を付けてくれ」

「ふん、誰に言っている」

 

 

 フィンと同じく苦い表情を浮かべていたリヴェリアは、少しでも余裕そうな様子を見せ気を和らげるために軽口を叩き、そしてダイダロス通りへと通じる神秘の門へと身を投じる。

 その姿を見送ったフィンは、自身の為すべきことを果たすために館の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 オラリオを囲う壁面より彼方の地平線が仄かに白くなってきた頃。

 ダイダロス通りの深奥で感じる反応を追って、屋根伝いに駆ける青い影──アイズはようやくダイダロス通りに辿り着こうとしていた。

 黄昏の館のあるオラリオ北部から南東へ向かって移動するのは風の後押しを受けても中々の時間がかかってしまっていた。

 

(はやく、たすけないと)

 

 普段感じたことのない得体の知れない感覚──焦燥感に駆られたアイズは、【エアリエル】の出力を上げて高く跳ぶ。上空から標的に向かおうという判断での行動、その瞬間。

 

(──っ、あれは?)

 

 広がる視界の先、微かに翡翠色の光が見える。それは建築物によって隠されている街灯の明かりではなく、アイズにとって見慣れたものであるリヴェリアの魔法円だった。

 

 他の者に察知されない為なのか、普段よりも抑えられた魔力光を見つけられるのは高所から見下ろすことが出来た人物のみ。

 確実に自身に向けて使われた手段に、行き先を魔法円へと変える。

 

 

「……来たか、よかった」

「やっぱりリヴェリア、どうして……?」

 

 

 魔法円のほど近くに降り立ったアイズを前に、ため息をついて顔を向けるリヴェリア。それは心底不思議そうに首を傾げるアイズを見て漏れた、呆れ交じりの溜息だった。

 

 

「どうもこうもあるか馬鹿者……はあ、お前と同じだよ。イデアを助け出す、その為に此処に来たんだ」

「……!」

「何か確信があってダイダロス通りに来たのだろう? 移動しながらでいい、説明してくれないか?」

「……うん!」

 

 

 時間は刻一刻と過ぎつつある。そんな中で立ち止まっている余裕はなかった。

 屋根伝いで通りを移動しながら二人は持っている情報を共有する。リヴェリアがダイダロス通りへとやって来た手段を、フィンと話して導き出した答えを、そしてアイズが所持している魔道具についても。

 

 

「……ずるいよ」

 

 

 お互いの持つ情報が出尽くした頃、アイズがぽつりと言葉を漏らす。

 神秘の門の便利さを良く知るからこそ漏れたアイズの苦言に、状況が状況ながらリヴェリアは軽く吹き出してしまった。

 

 

「ふ、それはすまなかったな……一応、後々伝えるつもりだったんだが、魔道具の事を含めて情報共有の大事さがよく分かっただろう? これからは重要な情報を得たらすぐに伝える事、分かったな?」

「うん……でも、忘れてたんだもん」

「忘れていた……か、その指輪からの反応は続いているのか? 強奪された事を知ったならば、破棄する可能性だってあるだろうに」

「……ううん、この先に一つと、あと下から幾つか感じる。……動いてるよ」

 

 

 破棄されたとしては明らかに不自然な動きを見せる他の端末から、依然として使われていると思われる魔道具。その動きは有機的であり、人以外が使用しているとは考え難いものだった。

 魔道具を強奪された事実を忘れている可能性は無いとも言い切れない程に、反応を近くしているアイズは無表情ながら微妙そうな雰囲気を浮かべている。

 

 

「末端の構成員にとっては、新たに値の張る魔道具を購入するのは困難極まりないのかもしれんな……。或いは責任を逃れるために隠蔽したか……どちらにせよ、闇派閥が愚かである事を祈ろう」

 

 

 魔道具の反応の多くはダイダロス通りの地下に広がる空間にある。

 フィンの出した答え──ダンジョンへの抜け穴と本拠地を兼ね備えた場所であると考えるのなら、恐らくそこにイデアは居る。

 そしてもう一つの反応。

 他の反応が一か所に集まりつつあることを考えれば、その魔道具の持ち主だってその場所へと向かおうとしている事は想像に難くない。

 

 何者かと会話しているかのように定点で細かに揺れる感覚は程近くに接近しつつあった。

 

 

 

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