TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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決別

 

 

 

「我が主神の教えに則り狂気を為すというのは、素敵だ。しかしその結果天界へと送還されるのは望ましくない。神々が己が同類に課した制約をご存じでしょうか?」

「……神としての過度の干渉を禁じたこと、でしょうか」

 

 

 男が尋ねてきたことを本腰を入れて調べようとしたことは無い。しかし想像するのは容易かった。

 ロキが読心術と恩恵を授ける以外に超常の力を行使しない事、ファミリアを擁してお気に入りの人間を抱え込む行為。前世に於いてネームバリューに優れ、様々な媒体でその名を見かけるような神格のする行為としてはかなり自重しているものだと思う。

 

 動物に変化しヒトへと近づいた神、自分の力を貸し与えた神。

 そんな、かつて読んだ神話の姿とは在り方をそう変えずにいながら、明確に異なる事。それは彼ら自身がこの世界の人間と比べて貧弱な存在へと成り下がっている事位だ。

 

 

「ええ、正解と言って差し支えないですね。太古の英雄たちは現在とは異なり、神から与えられた力によって平和を齎してきました、精霊もその力の一端でしょう。──神というのは娯楽に飢えた存在です、恐らく自身の力を与えられた人間の物語には飽きたのです、ですから現代のように力なき人々に可能性をチラつかせ、弄ぶ」

「……」

「その為には全能の力というのは邪魔だったのでしょうね。何せ、可能性に見捨てられた子供たちへ愚かにも希望を抱かせてしまう」

 

 

 目の前に立つ狂信者が放つ言葉の羅列は、理解できない脳味噌をしている相手のものではあったが、理解できない話ではなかった。

 本来万能であったとされる神という存在が如何に元来身に纏っていた威厳を削ぎ落して生活しているかは、火を見るよりも明らかだ。何処かのファミリアの冒険者がLv.2に昇華した時に神会で与えられた二つ名を、ロキが酒の肴に嘲笑していた事は記憶に新しい。

 実際その内容は私からしても滑稽極まりないモノであり、その名を背負う事になる冒険者を不憫に思った。

 

 だが私はロキが意図して顔も知らない他の愚かな神々とは違い、俗物の仮面を被っているに過ぎないのだと信じている。

 なにせ彼女は道化師の紋章を掲げるファミリアの主神。酒に酔って暴走する姿も、俗っぽい姿も、親身な姿も一側面に過ぎないのだ。

 様々な姿を見せて人一人手玉に取るくらい容易にしてくれないと北欧神話世界にラグナロクを起こした『トリックスター』らしくはない。

 

 そんな、少しそれた思考から戻ってきた私をさぞ嬉しそうにバスラムは迎える。

 

 

「──おや、如何やら心当たりがおありのようで、流石同志です」

 

 

 同志じゃないが。

 

 

「続きをどうぞ」

「おっと失礼いたしました。では……私たちはそんな玩具へと成り果てた人々を神の手から救い出したいのです。可能性などという使い古された常套句を捨て去り、再び人類に黄金の時代を……望めば皆平等に力を得る、そんな世界を!!」

……ああ、だからわたしなのか

 

 

 思わず零れた言葉はバスラムに届かない程にか細いものだったが、伴って生じた理解による満足感は比べ物にならないほど大きい。

 話半分に聞いていた説法の中に、自分がここにいる理由、その答えのようなものが混じっていたのだから当然のことかもしれない。

 

(なるほどなー……)

 

 自分では成し遂げることが出来なかった無念が別の姿、別の自分を誕生させる。

 ……あの時、力があったなら。もっと生きやすい世界であったなら。そんな誰もが一度は考えたような変身願望。

 

 可能性に恵まれなかった人々の架空の想いがかつての自身、『イデア・ラヴクラフト』となる以前の鬱屈とした想いと符合する。

 

 

「……で、その結果が精霊兵だと?」

「当初はそうでした。しかし精霊兵の製造という一大事業は、私たちの思考を新たなる次元へと昇華させてくれました。いつかの神々が取り決めた制約を打ち破るその手段を」

 

 

 バスラムはそのにこやかな顔を此方に向けて歩み寄り、そして手を頬へと差し伸べてきた。

 その素振りが、会話の文脈が、自分自身の出生の秘密を明白にしていた。

 

 

「────それが、貴女なのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そうなんですね」

「我等の思想に賛同する神を我らが造った入れ物へと招来する計画……言葉で言えば単純ですね」

 

 

 バスラムが軽々しく言葉にした内容に、私は顔を取り繕うのに必死だった。

 先ほどまでは誘拐された事実や精霊兵の惨い姿を見たことに対し、『あ、これどっかで見たやつだ!』と既視感に照らし合わせて楽しんでいたが、今は違う。

 

 

「私が、神……? そ、そんなわけないじゃないですか……」

 

 

 精々邪教徒に同志と称され邪神に生贄として捧げられる程度と思い込んでいたが、改めて状況を整理すればバスラムの態度にも納得がいく。

 

 ひ弱な体に宿る常人ではありえないほどの魔力、望めばどのような方法でも発動する呪文、浮世離れした容姿。人を人と思わない精神異常者が数か月かけても諦めないで確保しようとする身柄、仰々しく祭壇に寝かしつけられていた事、そして身内認定。

 

 ──成功していると思い込んでいるのだ、この男は。

 

 

「あ、あり得ないですよ。 大体手段が迂遠すぎません? 人に力を与えるだけであれば其処らの神が力を使えばいいだけなのでは? 例えばあなたの主神とかが」

「ふむ、分かってて言っていませんか? 神々は嘗て制約を敷きました、神の力(アルカナム)を行使した場合天界に強制送還されるという、全知零能である為の枷をです。 ……遺憾ですが、不正を司る我が主神も例外なく神の力(アルカナム)を発動すれば送還されます」

「……なるほど、けれど残念ながら私はそんな大層な力は使えませんよ? 精々がナイフを一本持つ程度ですかね」

「権能は記憶に由来している、と……わかりました。であれば話を続けましょう、思い出せるように手を尽くしますので」

 

 

 虚偽報告を信じ込んで、懐からメモ帳を取り出して会話の内容を書き込んでいるバスラムを前に、ひとまず目を瞑った。

 

 気が付けば異世界に投げ出され、心を許せるのはルーツが同じであるクトゥルフ神話の呪文のみ。天涯孤独で悪漢に襲われるのだと構えていた所を拾われ、あっという間にファミリアの一員になった。同じ目的の下に集い、共に戦い、そして酒を飲み交わす、其処での関係性は昔考えていた願望と差はなかった。

 ……年齢こそ足りないが、

 

 楽しかった筈だ。アイズとジャガ丸くんを一緒に食べる関係が、リヴェリアさんに様々な事を学んだことが、ロキの晩酌に付き合うのも楽しかった。

 それだけじゃない、フィンさんもガレスさんも、『ロキ・ファミリア』の皆との関係性は心地よいものだった。そう断言できる。

 

 バスラムの言葉には賛同出来る点もあったが、アプローチが悪かった。

 コミュニケーションにはファーストコンタクトが大事。それを疎かにした不正の信徒には悪いが、殺すその瞬間まで視界に映る同志の中には意にそぐわない邪神が宿ったことは知らないで居てもらおう。

 

 

「ああ、そういえば……その躰は如何でしたか? 私共の技術の粋を凝らして造り上げた嗜好の、至高の肉体なのですが」

 

 

 私の意識が別方向へと逸れている事に察したのか、バスラムはわざとらしく声を上げ、新たな話題を投げてくる。

 どう、と言われれば答えは一つだった。

 

 

「──いいとおもいます!」

「ですよねえ、いやそうでなくては」

 

 

 初めて鏡を見た時の衝撃は覚えている。

 余りにも好みだったから様々なポージングをして、それをアイズに見られて、そこにロキ達が混ざって。

 

(今でも時折、アイズにヨガを教えてほしいって強請られるけど……)

 

 ……いろいろな意味で忘れられない記憶だ。

 

 

 

「……なにか? もしかしてこれも『計画』の内だったりするのですか」

「もちろんですとも! もっともこれは博打に近い試みだったのですが……貴女は女神フィアナという存在を知っていますか?」

「まあ、一応」

 

 

 投げかけられた問いかけに頷く。

 

 女神フィアナ。

 その名前はファミリアに入ってすぐの頃、団長であるフィンさんについて聞いて回った時に聞いたことがあった。

 曰くパルゥム族の女神であり、嘗ては存在すると信じられていた神。神々が地上に降りてきたことで神話や信仰が現実のものとなる中、その姿は何処にもなかったとか。

 精神的支柱を失った小人族は急速に種としての力を失い、それを憂いたフィンさんは女神に代わる種族の希望になろうとしている……と。

 

 知りたかったことはフィンさんの事だったので詳しくは掘り下げて調べなかったが、単純に存在しない女神だったとだけは認識していた。

 

 

「これは小人族(パルゥム)の同志からの提案でしてね。精霊兵の研究成果が神にも応用できるのではないかと蒙が開いてから、彼は動き出したのです。──”女神フィアナは肉体を持たないのだ„と告げて」

「それは……どういう?」

「どうやら彼は女神フィアナを他の神々と違い、肉体を持たず概念上にのみ存在する神だと定義したのです」

「……ああ」

 

 

 その同志とやらが至った考えはこの世界の人々の神への認識よりも、私の世界に近いものだった。

 実体を持たなければ、存在を知覚する手段も無い。それでも身近にいて見守っていると信じて思い縋る存在。

 或いはヨグ=ソトースみたいな感じだろうか。

 どちらにせよ、超越存在たちが余りにもありふれたモノとして存在しているこの世界ではそう考え至るのは簡単ではなかったはずだ。

 

 

「納得いただけたようで何より。……肉体を持っていなければ地上にも降りてくることは敵わない。そう考えた彼は、彼自身の思う理想の女神像を再現するために各地をひた走る事になりました。……どこから手に入れたのか、高尚な土の精霊の血やハイエルフの血など希少な血を集め、そして最後に小人族(パルゥム)の血として彼自身の血を混ぜたとかで出来上がった人造人間(ホムンクルス)がその躰なのです」

「はいえるふ……?」

 

 

 恐ろしい行動力の同志について語られていく中で、聞き捨てならない言葉が滝の様に浴びせられてくる。

 ホムンクルスだとかは別に構わないにしろ、信仰する女神の現世での体に自分の血を混ぜるのは私情が混ざりすぎている、そしてそれ以上にハイエルフの血とは。

 

 耳に手を覆いかぶせてみれば、特に角ばったところもなく覆うことが出来る。

 ハイエルフとは確かエルフの王族的なものであり、その血族の中にはリヴェリアさんもいる。

 だがなにやら血縁関係上になってしまったリヴェリアさんのようには私の耳はとんがっていない。

 

 

「ああ、それは彼曰く”耳が尖っていたらそれは小人族(パルゥム)ではなくエルフの女神だろ„とかなんとか……」

「(こだわってる……)」

 

 

 そこまで拘るのは女神の神望故か、それとも彼自身の変態性か。

 話を聞いていたら一度会ってみたくもなる人物、いや傑物。

 話しながらに情熱を感じるだけに、執念を費やした対象がいるこの場に居ない理由が気になるのは無理も無かった。

 

 

「その人はどうしたんですか……?」

「死にました」

「しんだ……」

「彼は躰を完成させた翌日に満足した様子で亡くなりました。私にはその様子が貴女を天界に呼び出しに行ったかのように思えましたね……うっ」

 

 

 おかしいひとを亡くしてしまったのだろう。

 同じくおかしいひとであるバスラムの目には雫のきらめきが見える。

 

 

「だから私がこの体を気に入ると? あなたの同志が命を費やして生み出したものとして? 正解でしたね」

「それは結構です。ただ、一つだけ彼と私では考えが違ったのです。──その躰に降りてくる神は決して女神フィアナではないという確信がありました。何せ女神フィアナは秩序側にあるべき存在、仮に降りてくるとしても味方にはなり得ないでしょう?」

「……でしょうね」

 

 

 コイツの言葉に、体を作った男の執念に娯楽を見出している邪悪な私とは違い、種族全体を引っ張る女神ならば確実に小人族(パルゥム)側につく。そして闇派閥にいる小人族(パルゥム)も全員引き連れて正道を突き進むだろう。

 小人族(パルゥム)の希望の光が悪神であっていい筈が無い。バスラムすら持つそんな共通認識が、召喚された私を味方になり得る存在であると証明していたという事になる。

 

 

「その一点のみは否定していましたが、彼の理論は私には輝いて見えましたとも。天界にいる神々だけではなく、観測しえない範囲にも神がいるという考えは盲点でした。──これまで光の届かなかった深淵、此方の存在を認識していなかった名も顔も無き神々に交信を送ること。本来であれば接触すべきではない存在へのアプローチは、主神アパテーの逸話から則り『パンドラの狂気(ルナティック・パンドラ)』計画と命名されました」

「……」

 

 

 パンドラの箱。

 開ければこの世の全ての災厄が溢れ出る箱を開け、その中に唯一残された希望を見出す事。

 それはきっと狂気の所業だ。

 だから、その後に待ち受ける運命がどんな結果になったとしても承知の上の筈だ。

 

 

「この名称は同志の執念と狂気に敬意を表し、我が主神アパテーの誕生の逸話であるパンドラの箱を「『ああ、もういいです(不浄の締め付け)』」……どうしましたか? ご気分が優れない様子で」

 

 

 語る事で快感を得ているらしきバスラムの言葉を遮れば、怪訝そうな様子でこちらを窺ってくる。

 

 目の前の男から知りたいことは全て聞けた。

 まあ、このまま談笑を続けるのもやぶさかではないが、一応これでも誘拐された身だ。その場しのぎの娯楽に溺れてファミリアの皆にこれ以上の心配を掛けるのはいけない。

 

 もう終わらせてしまおう。

 

 

「『体調不良……いえ、むしろ逆ですね。(いやらしいくすぐり) とても有意義な話を聞けたお陰で、自己を取り戻すことが出来ました(黒魔術師の油断ならぬ復讐)』」

「────! もしやっ!」

 

 

 魔力を帯びた言葉の羅列が、己以外の誰からも察知される事もなく呪文を構成してゆく。

 男は向けられた殺意に気付く事すらなく、念願が叶ったと思い込んで感極まった様子を曝け出していた。

 

 

「ええ、私は正気に戻りました。──さあ、私の手を取って。 功労者たるあなたには一番最初に『祝福を与えます(ニョグタのわしづかみ)』」

「ああ、嗚呼……感謝を……」

 

 

 石の祭壇に腰掛ける私を前にバスラムは祝福()を拝領するために跪き、恐る恐ると手を伸ばし、触れる。

 その行動が示す結果を知らず、瞳に光を宿した一人の男はそして間もなく瞳を曇らせた。

 

 

「っが、っぁあ゛あ────」

 

 

 容態の急変。声にもならない絶叫を絞り出しながら、彼は顔面のいたるところから血を垂れ流して崩れ落ちた。同時に湯気だった温かい心臓が懐に隠していた左手の中に現れる。

 

ニョグタのわしづかみ(CLUTCH OF NYOGTHA)』とは、魔術的に心臓を握りつぶす攻撃呪文だ。

 通常ならば相手が仕掛けてくるという心構えさえあれば、或いは呪文に要する魔力と同等の精神力を保持してさえいれば容易く避ける事が可能だったかもしれない一撃は、完全に油断していた事とゴライアスの魔石を圧し潰す程の魔力が込められていた事で必殺の一撃へと昇華していた。

 

 ……どんなに堅牢で巨大なモンスターだろうと有効打となる事が証明されたゴライアスとの一件は、潰した得物が掌の上に現れるという仕様上の問題によって使いどころを見極めなければいけない秘儀という認識を植え付けてくれた。

 

 ほんの少し前まで存在していた心臓がその周辺の臓器と混ぜ合わさった肉塊へと変貌した事に理解が追い付かず、狂い悶えるバスラムを私は白々しい演技で見送る。

 

 

「『──ああ、残念です。どうやらあなたでは祝福に耐えられないようですね……。ならばせめてこれ以上苦しまないで逝きなさい、『萎縮(SHRIVELLING)』』」

「──! ────!!」

 

 

『不正』の狂信者の最期の願いは、死にたくないという純粋でありふれた願いであったのだろう。超短文詠唱として唱えられ発動された『萎縮(SHRIVELLING)』が形容できない程の痛みを起こしながらその身を焦がし尽くす間、縋りつくように手は私へと伸ばされ、血涙さえ焦がし眼球が蒸発した眼窩は力尽きるまでこちらに向けられていた。

 

 ……少なからず哀れに思う気持ちはある。

 彼が真にその信仰を向けるべき相手は、彼の主神たる女神アパテーだ。

 こんな魔術しか使えない女神モドキに願いを叶えてもらう為に黒幕ムーブで暗躍するのではなく、無力ながらも信仰心を持ち家族となった女神と共に過ごすことが出来たならば神官としてもっと有意義な人生だったと思う。まあ、それでも結果は変わらないかもしれないが。

 

 

「……どうしましたか? さあ、あなた達も順番に祝福してあげましょう」

 

 

 頭脳を失い、この場に残る敵は狼狽える末端と制御不能となった『オシリス・ファミリア』の精霊兵のみとなった。……なってしまった。

 ……本音を言えば、バスラムを相手にするよりも辛い状況に置かれている事は確かだ。下っ端ならば一人二人は祝福と称した殺戮で消すことが出来るかもしれないが、疑われればすぐに多対一で抑え込められる。

 

 精霊兵に対しては……詰みに近いといってもいいだろう。

 誘拐なんて普段ならまず上手くいかない寝ぼけた事が成功した原因、『肉体の保護(FLESH WARD)』を解除した上で再び掛け忘れていた事に加え、魔力攻撃を扱える精霊兵に対しては防御呪文が存在せず無防備。

 狂兵に言いくるめが効く訳が無く、初動で纏めて殺すか、目星で魔力依存っぽい個体を見極めるしかない。

 

 ……さて、これからどうしたものか。

 私は悩み込みながら、恭しく演じながら祭壇から降り立った。

 取り敢えず時間稼ぎ、状況打破の一手が見つかるかやってくるまでの拙い演技。

 

 そんな考えで始めた行動は、この場に現れた第三者によって遮られることとなる。

 

 

「……助けに来たよ!」

 

 

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