TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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合流

 

 

 信用ならない下っ端の案内の下、漸くたどり着いた終着点。

 幼いながらに焦燥しきったイデアの姿を想像したアイズは、きっとこの先にいるはずの彼女を元気づける為に隣で詠唱を始めたリヴェリアを置いて勇んで飛び込み、不慣れながら精いっぱい出せる限りの声を出し、そして落胆したのだった。

 

 

「……えと……」

 

 

 ──ばしょ、間違えちゃったかな……? 

 

 其処にいるのは様子のおかしい闇派閥の人々のみ。数秒もの間見渡した限り、脳裏で助けを求めていた捕らわれのイデアの姿は見当たらない。

 想像との食い違いに、思わず構えたデスペレートの切っ先が下がってしまう。

 

 そして、そんな隙を狙い澄ましたかのように狂兵の一撃がアイズを襲う。

 

 

『ッ……殺ス!!』

「────……っ!!」

 

 

 ガキンッ、と細身の刀身を備えたデスペレートが鉄火を散らしながら狂兵の振るう刀身が湾曲した刀剣と交差して、嫌な音を上げる。

 それと同時にアイズは、デスペレート越しにぶつけられた衝撃によって大きく仰け反ってしまう。

 

 

「──『目覚めよ(テンペスト)』っっ!」

 

 

 咄嗟の判断。

 油断しきった思考を即座に切り替え、接地していた両足裏に『風』を展開、爆発。

 

『ヴッっっ!!!』

 

 魔力由来の風の爆発により『肉体の防護』の干渉が透過した脚部は、受けた衝撃による指向性を保持したまま一回転し、直上にあった精霊兵の顎に鋭い一撃を与える。

 拙いながらもサマーソルトキックとして成立した一撃により、アイズは目下の狂兵の一瞬の怯みと体勢を整える事による仕切り直しの好機を得ていた。

 

 今度はちゃんと構えた状態で、油断ならない相手として目の前の敵と相対する。様子がおかしい敵はまだ他にもいた事が脳裏に過り、冷たい汗が額を伝った。

 

 自分自身のレベルが3である事を前提にすれば、こちらが力負けするほどの膂力を持っているこの狂兵は同格の筋力特化か、それ以上のレベルの相手。

 この場にはいなかったイデアによる防護魔法に全幅の信頼を置いている事もあり、ジャイアントキリングは不可能ではないと分かっている。

 しかし、それ以外の要因によってアイズのコンディションは揺らぎつつあった。

 

 

(……っ、何この感覚……、きもちわるい)

 

 

 酷く不快な感覚を目の前の相手から感じる。

 それは、自分自身がずっと昔から持っていて、リヴェリアやイデアからも感じたモノを、ぐちゃぐちゃに掻き乱されたような感覚。

 

 ──このひととは話が出来ないけれど、きっと話すことが出来てもわかりあえない。

 そんな強い確信を伴って、心中に取り巻く不快感は増大していた。

 

 そして、それは憎悪の対象(怪物)へと募らせているそれの疑似にまで増幅し、禁じ手を躊躇していた自制心のタガを外す。

 

 

「『──目覚めよ(テンペスト)復讐姫(アヴェンジャー)ッッ!!』」

 

 

 アイズの周囲に破壊を齎す黒い風が吹き荒れる。

 人を相手に発動する筈のないスキルと魔法との複合詠唱は、確かに効果を発揮していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けに来たよ……っ!」

 

 

 一対多数の緊迫した状況。

 是が非でも集中しなければいけない瞬間に、その声はひどく鮮明に聞こえてきた。

 この場にいる全ての存在から注意を向けられるために張り上げたであろうその声に、私は何故か数か月ぶりに聞いたような懐古に似た感覚を覚える。

 

 闇派閥にとって都合の良い神格を呼び出し、祀るために造られた無駄に仰々しいこの空間は教会に似た構造をしている。それも居もしない信徒の分を考慮した無駄に広いスペースのもの。

 それに加えて祭壇から降りた事、対岸の声の主までの直線上にアパテー・オシリス両者の団員が居るという不幸が重なりその姿を視認することは敵わなかったが、まず間違いなく声の主はアイズだった。

 

 

『……ッ!』

 

 

 頭目を失った事による混乱が収まる間もなく、今度は背後からの大きな声によって、もとより狂っていた精霊兵を除く雑魚とも呼称できる下っ端たちの統制が完全に崩れた。

 ……そして同時に、極限までに研ぎ澄まされていた聴覚を刺激された精霊兵がアイズへと牙を剥く。

 

 

「考える時間も与えてくれないのか、もー……っ! ──『肉体の防護』っ!」

 

 

 長々と打開策を考えるのも無理筋だったが、かと言って覚悟する前に戦いが始まるのも当然ながら辛い。

 私は、あたふたと困惑する雑魚たちの先で戦闘に突入したであろうアイズの支援にまわる為、短縮詠唱を済ませながら視界の開けた場所へ移動する。

 

 脇に逸れて視界を確保するために、少しの距離を移動するだけの短い時間。

 たったそれだけでアイズを取り巻く状況は大きく移り変わっていたことが窺い知れる。

 密閉された空間であるからか、反響した爆風の音が酷く鼓膜を刺激し、その後直ぐに黒色の風が解き放たれていた瞬間を直視できたのだ。

 

 

 ──先陣を切ったのはアイズだった。

 吹き荒れる黒い風に身を投じ、目にも止まらない速度で『精霊兵(かいぶつ)』へと突撃していく。

 

 

「──やあッ!!」

 

 

 デスペレートを持たない左の細腕に風を纏わせ、曝け出されていた腹部にストレートが突き刺さる。振り抜いた勢いのまま今度は前転の要領で踵落しが頭部めがけて叩き込まれる。

 感情の猛りに任せた動きは圧倒的な暴力を生み、レベル差を圧倒する攻勢を見せていた。

 

 

 ──『肉体の防護』。

 

【ロキ・ファミリア】の『イデア・ラヴクラフト』を象徴する呪文として二大巨頭にまで上り詰めたこの呪文は、格上との戦いにおいてブレイクスルーになり得る代物だった。

 

 そしてそれがこの場で意欲的に戦いを始めた理由であると同時に、アイズが躊躇なく【復讐姫】を行使できる理由。

 ダンジョン内では深く潜ることで格上との戦闘が必然的に増える。敵の攻撃を受ければ一発で継戦能力を失いかねないというのに、敵は増え続ける。

 そんな中で極めて攻撃の威力を上昇させる【復讐姫】は諸刃の剣だった。

 

 行使すれば確実に敵に有効打を与えられる、しかし負荷で武器が壊れる。武器が壊れれば継戦能力を失い、敵と対峙する手段が無くなる。

 しかも負の感情を増幅させるというバッドステータスが付いた自爆特攻みたいなスキルを使わせる理由は良識ある面々には無かった。

 

 そんな縛りによって死にスキルと化していた【復讐姫】が再び日の目を浴びたのは、イデアの入団によるものだった。

 自分とは違う方向へと邁進するイデアの姿を見たアイズは、強さの方向性には仲間との相互支援による連携が必要であると理解したのだ。

 

 

 普段から【復讐姫アヴェンジャー】を行使させてもいいのではないか、と幹部陣で話され始めたのはこの頃だった。

 

 

 ──使い捨ての武器を本拠の取りやすいとこに置いといて、壊したらその都度持ってくればええんやない……? 

 ……というロキの一声によって継戦能力問題は解決し、浮上したアイズの「黒い意志」問題に関しても。

 

 

 ──鬱憤が溜まった状態じゃかえって良くないなあ。アンガーマネジメントって知っとる? 

 というまたしてもロキの言葉からイデアのヨガ(笑)に混じったり、ストッパーのリヴェリアの同伴時(常時)に限り行使を許可されるようになっていた。

 普段から精神統一をしたり、暴走の危険性がある【復讐姫(アヴェンジャー)】を常日頃から行使することで、スキルを制御する術を得る。

 

 そんな挑戦的な姿勢は、変わりつつあるアイズの意識のお陰で少しずつではあるが効果を見せつつあった。

 

 同年代がおらず、一人で突っ走っていたアイズがツーマンセルを意識するようになり、『肉体の防護』の効果で物理現象に対しては無類の防御を得て、武器を壊せば即座に『神秘の門』で退却という選択肢が常に提示できるようになった。

 ────そしてある日突拍子もないアイデアをアイズは思いついた。

 

 武器を壊すたびに戦いを中断するのに億劫になったアイズは気付いたのである。

 

 ──わたしが武器になればいいんだ! ……と。

 

 防御は最大の攻撃。身体に最大限の黒い風を纏わせ、体当たりをすれば相手は死ぬ。

『肉体の防護』の魔法には作用しないという欠点が【復讐姫】を纏わせることを可能にし、デメリットであるデュランダルのデスペレートすら破壊する負荷は物理的なものとして大幅に軽減。アイズは質量兵器と化した。

 

 モンスターへの激情が続く限り、何度でも途轍もない威力の猛打が続く。

 ──相手は、死ぬ。

 

 

 そんな、対怪物最終兵器その一に残された唯一の欠点。

 モンスター以外には発動しないという彼女の憎悪に縛られた制約が、この瞬間においては破られていた。

 

 

「【暴れ吼えろ(ニゼル)ッ!!!】」

「ガっ──────」

 

 

 大きく姿勢を崩され、致命的な隙を晒した精霊兵をとどめの一撃が襲い掛かる。

 制約が破られたその理由に、私は製作者直々にネタバレを喰らった為に思い当たる節があったが、アイズはそれを無意識ながら理解できていたらしい。

 

 アイズの出生について、私は多くは知らない。自分自身偽りまみれの過去を公表した手前、自分から強く踏み込むことは好ましくないと思っていたからだ。

 とはいえ、数か月間一緒にいれば彼女の逆鱗という物は浮き彫りになってきた。

 

 モンスターへの憎悪、それは天涯孤独の身である事と強く紐づいている事。リヴェリアさんの教示から魔法には生来の才能に由来する場合がある事。

 大魔導士のリヴェリアさんが王族的な存在のハイエルフであることを前提として、私はハイエルフ、土の精霊、パルゥム、その他諸々の混血な大体クォーター神格と種明かしされた事で、由来が謎だった魔法の素質に一応の納得を得た。

 

 では、お手軽高威力で使い勝手の良い『エアリエル』を扱うアイズは何者なのか。

 バスラムのプレゼンはその疑問に答えを与えてくれたのだった。

 

 

……『精霊兵』。

 

 

 恐らくの目星として、アイズは『天然の精霊兵』とも言うべき存在なのだろう。

 言い換えれば血縁関係。精霊兵の発展形として因子を混ぜられ生み出された私のような、いや、精霊との血の盟約により魔剣を作成できるというクロッゾ一族が近いかもしれない。

 

 そう考えればなるほど、肉親の同族を生きながらに無惨な姿に改造され組み込まれた『精霊兵』とは怪物に比肩する憎悪の相手であった。

 

 

 ……大まかな見当もついたところで、ようやく私はアイズの支援を始めた。盤石となったアイズの勝利をより確実なものとするために。

 

 まずは目視で精霊兵の配置を確認、『肉体の防護』を貫通する魔力攻撃を扱うであろう個体を標的に捉える。

 簡単な指示すら受けられず、ただ敵に向かうだけの『精霊兵』達の中から的を見つけるのはとても容易だ。アイズによって戦闘不能に陥った個体に続いて戦闘を繰り広げているような個体やそれに続くものを除外。

 

 対して理性を失っているにもかかわらずその場に立ち止まっている個体を捕捉する。

 

 

「──『視力奪取(BLINDNESS)』」

『────ッ!???』

 

 

 文字通りに視覚を奪い去る呪文がその名を呼称した一節の詠唱で発動する。

 大がかりな魔法陣などの可視できる予備動作は一切なく、有効射程は視界に映る限り。誰からも察知される事無く対象の視界は奪われた。

 

 一体の精霊兵に起きた異常に気付くことが出来る者はその場にはいない。仮に当てずっぽうに攻撃を放ったとしても縦横無尽に暴れまわるアイズに当てる事は不可能に近い。

 機能停止に陥った個体からまた別の個体へと標的を切り替える。意識外の相手への不意打ちはとても気分のいいものだが、それだけに唯一の不満が浮き上がってくる。

 

 

「『視力奪取(BLINDNESS)視力奪取(BLINDNESS)視力奪取(BLINDNESS)……ああもう(BLINDNESS)数が多い(BLINDNESS)』」

 

 

 使用時のMP消費やSAN値を意識しないで済むというだけで十分手軽で優秀な呪文だが、欲を言うのなら複数対象を一網打尽にしたいと思う。

 参照している呪文の全てがTRPGを基にしている以上、そのシステム下でこそ成り立つバランスで調整されているのだ。詠唱文をプレイヤーやキーパーに委ねた事が影響したのか、なぜか詠唱破棄に近い所まで楽が出来ているが、それでも使い勝手に若干の違和感を覚えるのは決してこの呪文のみではない。

 

 恵まれた者の思考かもしれないが、必要に応じてその都度唱えることも億劫になってきてしまった自分がいた。

『幽体の剃刀』のような発動後に展開し続けることが出来る呪文であればこんな場合でもまとめてダメージを与える事が出来るかもしれないけれど、それも射線上に味方がいる事を考慮すれば選択肢から除外されてしまう。

 まず本質的に本元のお題目はホラーロールプレイングであって、自発的に複数体との戦闘に身を投じる事を考慮に入れている筈はないのだ。

 

 仮にこういった場面があるとすれば、キャラクターロスト必至のシナリオ上における負けイベントくらいだろう。

 

 

 ──だからこそ、こういった時には私はある人物を頼る事にしていた。

 

 

 思考を続けながらもアイズが確実に追い詰めている精霊兵を除いた、雑魚を含んだ敵に目くらましを掛け終える。

 唐突に暗黒に襲われた各々が慌てふためく姿に笑みを深めて、私は大きく息を吸い込んだ。

 

 

きゃあ────っ!?  っけほ、っっけほ!?? 

 

 

 声帯を震わせ、自分の口腔から絹を裂くような悲鳴が吐き出される。ついでにむせた事によるせきも。

 アイズの時に続き、この空間を響き渡った悲鳴はある種の音響兵器へと昇華させ、敵対者の唯一の情報収集媒体となっていた聴覚を潰し、前後不覚に陥らせた。

 

 次の瞬間。

 私の一芸を伺っていたかと言わんばかりにそこらじゅうの床から赤く光る魔法陣が展開する。

 

 

「────そりゃあ、来ますよね、リヴェリアさん、っけほ」

 

 

 アイズ一人で飛び込んで来たときにはまさかと思ったが、こんな危険な場所にアイズが攻め込む時に彼女がいない訳が無い。

 大方アイズが突っ走ったかで到着するタイミングが遅れているのだと推測していたが、その推理はどうやら正解だったようでハッタリは甚大な効果を発揮しつつある。

 

 

「──【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。……焼きつくせ、スルトの剣────我が名はアールヴ】」

 

 

 アイズが突入してきた通路を見れば、そこには最も親しい翡翠色の魔導士の姿が目に映る。

 リヴェリアさんだ。

 私の姿を認め、安心した様子ながらに着々と詠唱を完成させつつあった。用意周到にも魔法円まで展開済みである。

 

 

「──!? 耳もやられた!??」

「────【レア・ラーヴァテイン】ッ!!!」

 

 目と耳を潰され、何が起こっているかも理解できない彼らにその攻撃を避ける手段などある筈が無かった。

『精霊兵』達も、木っ端たちも、その多くがあっさりと炎柱の中へと飲み込まれていく。

 その中には当然の如くアイズの相手になっていた精霊兵も含まれていた。

 

 

「……ふう。待たせたな、イデア。 ……帰ったらアイズと一緒に説教だ」

『……えっ』

 

 

 聞きたくない一言は、とても鮮明に聞こえる。

 距離も離れているのに聞こえたその言葉に、音響兵器の巻き添えを喰らった筈のアイズが発した固まった声と共に私は聞き返す。

 そこにはその様子を見て呆れたかのように笑う、いつもと比べて穏やかな雰囲気を纏ったリヴェリアさんの姿があった。

 

 

 

 

 

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