TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない 作:アあゝ
とてもたすかります。
「……」
準一級の冒険者集団である【ロキ・ファミリア】の一員であるアイズ・ヴァレンシュタインが騒ぎに気付いたのは偶然だった。アイズはダンジョンへの遠征中に団長のフィンがスキルで何かを察知したことにより早めに撤退指示が出された事が原因で不満を募らせていた。
ロキファミリアに拾われて冒険者としての生活を始めてから二年、ランクアップを遂げてLV.3になり、ダンジョン攻略の本隊にお守りはあるものの参加するようになってからしばらく経ったアイズはモンスターを狩りたいと猛反発したが、近頃闇派閥が何かきな臭い動きを見せていることもあり決定は覆らなかった。
復讐心からくる衝動を発散できない事で欲求不満になっていた彼女は諸悪の根源である闇派閥の団員へと怒りを向けたのだ。
多くのモンスターを狩れない、それは闇派閥のせい。なら邪魔できないようにしよう。
幼いながらに復讐の鬼だったアイズは、成長することで育まれるであろう自制心を未だ持っていなかった。モンスターを狩る邪魔をする奴らはモンスター同然だと断定し、治安の悪そうな場所を探し当てる。
後に起こる大抗争、それが目前まで迫り嵐の前の静けさかオラリオは平和だった。
母親代わりをしているリヴェリアも、じゃが丸君を買いに行くと言い張って信じ込ませられるほどには平和だ。
それだけにフィンが感じ取ったナニカをアイズは信じきれなかった。
人だかりの出来ている大通りを外れ、高い建物が並び立つ日の差し込まない通り。【ダイダロス通り】と呼ばれるその場所へと辿り着く。
「『目覚めよ』」
エアリエルの力で屋根上へと飛び乗ると、上から何か起こっていないか覗き込む。これから襲いに行くとはいえ闇派閥を探すためだけに迷路で迷うのは割に合わない。
そんな考えからの行動は本人が思っていた以上に早く功を奏した。
「あのガキ、いったいどこに逃げやがった!」
冒険者よりも荒くれものの呼び名の方が似合う男が路地を走り抜ける。アイズは天然だったが、男の文言を聞いて『迷子を捜しているんだ!』となるほど平和な頭はしていなかった。
「……どうかしたの?」
「あぁん?」
屋根上から追跡し、男が立ち止まったところを背後に飛び降りる。
突如背後から聞こえた声に胡乱げに振り返るも、アイズの姿を見てすぐに目の色を変えた。
「上玉なガキ探してたらもう一人出てきやがった! これが一石二鳥ってやつかア!? 幸運だぜ~!」
「……『目覚めよ』」
不快な視線を受けて目の前の男は敵だと、そう判断して自分の武器、デスペレー卜を向ける。
エアリエルも発動したことにより、戦いは一瞬だった。
「二兎追うものは何とやらかよォ……」
下っ端も下っ端、レベルの差もあれど四六時中戦いに飢えていたアイズとの差は歴然。
腕を切り落とされて戦闘不能になった男を殺すことに忌避感はなかったが、気になることがあってデスペレー卜を突き付けるだけに至った。
「……何?」
「なにってなにがだよお!」
「上玉って何?」
無くなった腕の痛みに悶え、涙を流す男に問いかける。
復讐に憑りつかれたアイズにも誰かを助けようとする優しさはあったのだ。
「じょ、嬢ちゃんと同じくらい見た目がいいガキのことだよ……」
「どこ?」
「そ、そりゃわかんねえよ……だから探してたんだしっ! って痛ええ!!」
「分からないの?」
しどろもどろに堪える男に痺れを切らしデスペレー卜の先端を傷口に刺す。優しさと復讐心は共存する、アイズは人を助けるついでに欲求を解消したいのだ。
「s、それ……俺の腕についてるやつ……それがあればわかるはずだ……仲間が何処にいるかを知らせる魔道具だっ。直に見つかれば動き回る必要もなくなる……動かない奴のところにいるだろうよぉ……」
「そう」
切られた腕に嵌められていた指輪のような魔道具を回収するアイズ。
男の言う事が真実なら要救助者がいる場所がすぐにわかる。そして男が腕を切り離されて確認できていない間に要救助者は見つかってしまったようだ。止まった反応が二人分ある。
「なあ……頼むよ。俺ぁ家族を売ったんだ、見逃してくれよぉ」
駆け抜けようとエアリアルを発動させかけた寸前、男から命乞いをされてアイズは振り向く。
とどめを刺す時間を惜しむくらいに事態は切迫している可能性がある、一瞬の判断が大事なことを冒険者として過ごしてきて学んでいたのだ。
男は止めを刺さずとも無力だ。『銀の腕』を取り付ければそうは言えないだろうが、難しいだろう。
「いいよ」
一言そう告げるとエアリエルを発動し風になった。
☆
魔道具の反応を頼りに風になったアイズは、その不自然さに疑問を抱いていた。
狙われている要救助者は先ほどの木っ端でも捕まえられるほどの存在だから、何人かから分散して一人で探している。
ならどうして二人が固まって同じ場所にいるのか。
反応が重なる地点で動くのは一人、ゆっくりとした動きでまるで獲物を追い詰めているみたいだ。逆にもう一人は微動だにせず同じ場所にとどまり続けている。
その答えはすぐにわかる。エアリアルのチカラの前に迷宮のようなダイダロス通りは無力だった。
「────っと」
風に乗り、空から強襲する。
反応が歩みを進める反対側へと降り立ち、前を見る。
「きたねえ……お前、よくもうちのファミリアの団員をやってくれたなあ?」
壁に囲まれて外界の音が届かない通りの中、男の声ははっきりと聞こえた。
目を凝らす。男の先、其処にある景色を覗き込むと、
「……!」
いた。
その傍らの首のない死体と共に。
「~~~~ッ」
風に乗り、駆ける。
これ以上男の都合を尊重するつもりもなかった。
月を思わせる銀髪は土色に汚れ、潤んだ瞳の色は暗黒を内包した漆黒。長髪とミノムシのような外套のせいで判らないが多分ヒューマンの少女。悪漢に迫られ壁際に追い詰められている。
防具でもない貧相な身なりから冒険者ではないことが窺える。冒険者なら、推定レベル1のこいつらを撒く事も不可能じゃなかっただろう。
奴隷や或いは商品として扱うことを脳内から消し去った男は、仲間の命を奪った相手としてミノムシに迫る。
絶体絶命の危機、追い詰められた少女は恐怖からの震えを抑えきれずとも歯を食いしばり、抵抗の意思を瞳から放つ。
アイズは男を標的に捉えた。
「『目覚めよ』」
「……え?」
ミノムシに男が何かしようとした瞬間、エアリアルを纏った突きが男を貫き、爆発する。
──内側から風の奔流を受けて吹き飛ばされるように大穴が開いた。
茫然とした声。
それは突如敵の体が消し飛んだからか、血飛沫の殆どが身に降りかかったからか、或いは突然現れたアイズに対してか。
土に汚れ、光を反射しなくなっていた銀色の髪が今度は赤黒い血に染まる。アイズは少し申し訳なくなった。
「……」
「……」
目と目が合う。
呆気にとられた様子で大きく開かれた瞳には光が戻り、確かにアイズを捉えている。
……こまった。人間関係をロキファミリアとその関係者だけで完結していたアイズには、こういう時に掛ける言葉が思いつかない。
ほとほと困り果てて、少女が何か切り出すのを待ちながら様子を窺う。
私と同い年くらいかな……。恩恵を持たないままで自分より強い相手を倒すなんて、すごい。
今なお視界の端に映る首なし死体、殺した男の言葉が確かなら下手人はこの子ということになる。あたりを見ても首を切れるような武器は見当たらないこともあって、アイズの中でこの少女に対して興味が生まれていた。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「……うん」
意図を汲んでくれたのか話を切り出してくれた少女に、アイズは相槌を打った。
そして本人に問いかけようと思った。
どうやって倒したのか、どうして戦えたのかを聞き出そうとして口を開いた瞬間。
(──!)
「……できたら安全なところに連れてってもらえませんか」
汚れた白い肌が青ざめていくのが目に入る。限界状態だったのか今にも倒れそうなのだ。
「いいよ」
即答。興味を抱いた相手、アイズにとっては貧弱な相手だとしても彼女にとっては絶望的な相手だった。それを前に打破し、ピンチを前に折れない姿。
アイズの眼には輝いて見えた。
「ありがとうございま……す……」
その言葉を聞いて安堵した様子で少女はバタリと倒れる。
倒れる予兆は見せてはいたけれどすぐに倒れたものだから焦り、とたとたと駆け寄る。
──まだ、話を聞いていない。
アイズはエアリアルで体を補助して少女を抱える。
アイズにとっての安全な場所。
家族のみんながいるロキファミリアへ。
☆
「──ん゛ん……あれ……」
深いまどろみの中から意識が昇ってくる。瞼を開くと温かな光が差し込んできた。
目覚めだ。
何処かの建物の部屋の一室、電化製品の眩しい灯はないが、何か仄かな光を発する明かりが見えた。一時はもう体験することもないと思っていた感覚を前に、自分が生き残ったことを改めて実感する。
「ああ、目が覚めたようだな」
女性の声。さっき助けてくれた女の子じゃない、となればお母さんだろうか。
声がした方向へと顔を向けると、
「えっ」
其処には非現実がいた。
美しい、その言葉が似合う風貌をした女性。新緑の若葉のような鮮やかな緑色をした髪。艶のある髪はまるで高級な糸のようであり、首元で結ばれて腰まで伸ばしている。
白い肌、新雪のようにきめ細かいきれいな肌が緑髪とこれ以上ないまでにマッチしていた。
そしてそんな彼女の耳、ピンととがった耳は彼女がかの有名なエルフであり、自分が幻想の世界に入り込んだ事を強く自覚させる何よりもの証左になるものだった。
「まずは、謝罪させてほしい」
「……謝罪、ですか? いったい何を?」
「君が会った少女、アイズのことだ」
髪の色よりも濃い緑を湛えた瞳で自分を見つめ、そう告げてくるエルフの人。
謝罪と言われてピンとこず、つい問いかけると思わぬ回答が返ってきた。
アイズという子、意識を失う前に男から自分を助けてくれた金髪の子が自分に何かしただろうか?
……ピンとこない。
「アイズが一人でいるところに闇派閥から襲撃を受け、其処に偶然いた君は巻き込まれた。そう認識しているのだが、違うのか?」
闇派閥という知らない単語が盛り込まれていて一瞬判断が遅れる。
知らない単語だがそれがこの世界での悪漢たちを指す言葉なのだろう。だとしても事実とは大分異なる認識をしている彼女に疑問が浮かんだ。
「一体その話は誰が……?」
「アイズだが……。 まさか!」
アイズ。そういえば彼女無口だったがちゃんと説明できたのかな……。
自分が意識を失った後、彼女がこの場所まで連れてきたのだろうけど、汚れた知らない子供を連れて帰ってきたとなるとこのしっかりしてそうな見た目のエルフの女性は当然問い詰める。
……。多分ダメだったな。
「ええと……。実は襲われた所を助けてもらったんです、追っ手を一人倒したところを他の奴に見つかって殺されそうなところを、アイズさんに」
「何? 倒しただと? 君が?」
冷静そうな顔が驚きに染まる。
「すまないが身を清めさせてもらった。手当に支障が出るからな」
「ああ、そういえば……」
いつの間にか体にこびりつく不快感が無くなっていることに気付く。流石にあの状態のままで寝かせられていたら自分も周りも気分は良くなかっただろう。
「消毒目的もあって体全体を診させてもらった、その上で聞こう。君はどこのファミリアにも所属していない、そうだろう?」
「ファミリアですか……」
知らない言葉。
言葉を額面通りに受け取るならば家族だが、いきなりこの世界に投げ出された自分にとって肉親と言える人はいないはずだ。
そしてこの言葉が別のナニカを指すとしてもその答えは否だろう。
「……すみません、そういったことは何もわからないです」
「そうか……」
「ファミリアって、なんですか?」
「……はあ」
エルフの女性は再び驚いたかと思うと、今度はまたかと言わんばかりに息を吐いた。
『家族の場所がわからない』と受け取ったものが『世界の常識がわからない』というものにすり替わったかのような反応だったが、思ったより反応は激しくない。
もしかしたら前にも似たような人がいたのかもしれない。
「……なんというか、これが因果か」
呆れ交じりの言葉から、この世界のあり様の説明が始まる。
遥か昔に天界から降りてきた神たちの眷属になった者たちの集団をファミリアと呼ぶこと。
自分たちが今いるこの都市がこの世界で一番神とその眷属たちが密集している都市であること。この都市──オラリオがそうなっている理由は都市の中心部に聳え立つバベルと呼ばれる塔、その地下に延びるダンジョンであり、神とその眷属たちはダンジョンの最深部を踏破するために日々研鑽を積んでいる……。
……簡潔に纏めるとそういう事を子供にも分かり易いように説明してくれた。
「ということは……アイズさんとええと、貴女もどこかのファミリアで?」
「ああ、自己紹介を忘れていたな。私はリヴェリア・リヨス・アールヴ、【ロキ・ファミリア】で副団長をしている」
「リヴェリアさん……、ってんん? ロキ? ロキって言いました今?」
「ああ、そうだが……?」
知っている名前。リヴェリアさんの名前を聞いて発音を確かめていると近年報復するアメリカの映画でよく聞いた北欧神話の神の名前が耳に入り込んできた。
「トリックスターで悪戯とか好きだったりします……?」
「まあ、そうだな。……真面目なところもあるぞ」
「────っはあ~。もしかして他のファミリアの神にはゼウスだったりアマテラスだったりクァチル・ウタウスだったりがいません?」
「最後の神は聞いたことが無いが、アマテラスとゼウスに関しては居るし居たぞ」
金貨を見た時点でギリシャ神話の流れは汲んでいると思っていたが、どうやらこの世界は元の世界の神話が闇鍋状態になっているみたいだ……。
「なにか気になることがあるようだが、それはおいおい調べていくといい。ところで、だ」
「はい」
「良ければ君の名前を教えてくれないか。これから長い付き合いになるかもしれない」
未だベッドに腰掛ける自分に、リヴェリアさんは目線を合わせてそう訊いてきた。
名前。
一瞬反射で前世の名前を口に出そうとしてしまうが、慌てて口を閉じた。
自分の名前は女性名としては不自然な名前だし、異世界とはいえアマテラスがいるだけに押し通す気にはなれなかった。
……いざこんな状況になると、作家から引用したとはいえ咄嗟にこれから使う名前を決められた名探偵はすごいなと思う。
(……作家かあ)
脳内で零した戯言に思わぬ着想を得る。
自分が生き残るために手を出したのは宇宙的な恐怖を孕んだ冒涜的な世界観で生まれた呪文。
生きてゆく上で手放せない呪文たちを使ううちにその事を忘れないための戒めとして。この世界では初めて産声を上げる神話の内包者として。
彼の御大から名前を拝借する。
「……ラヴクラフト、姓です。名前はありません」
「そう、か」
俺の返答に悲しそうな目を向けるリヴェリアさん。
違うんだ。只名前が思いつかないだけだったんだと猛烈な罪悪感が芽生えた。
「ラヴクラフト、ロキファミリアに入る積もりはないか?」
硬い口調、だけど確かに慈悲が込められたような声色で伝えてくるリヴェリアさん。
問いかけている体裁を保っているけれど揺るぎない意志を感じる。
拒否する理由はなかったけれど、もう断ることは出来なさそうだ。
どうやら自分は新たな家族を得るらしい。