TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない 作:アあゝ
ありがとうございます!
「あの、お酒、好きなんですか……?」
場所は変わってロキの私室、リヴェリアとフィンとは別れてロキと二人でやってきた。
──酒、酒、酒。
見渡すとドアの横にある本棚の上に酒。
ベッドの隣に置かれたサイドテーブルの上にも酒。
『恩恵』とやらに対する疑問も酒の山の前には負けた。
「せやでぇ! 酒の魔力には逃れられない魅力があるんや……! そこにある奴なんてビンテージものやし、でもラヴたんにはまだ早いなあ~」
「おいしそうですね……」
「実際美味しいんや~! うち、ラヴたんと何時か飲みたいから命は大事にな?」
「勿論」と答えて部屋の真ん中あたりに立つ。
今度こそ『恩恵』について聞くために。
「恩恵って一体何をするんですか? ……儀式とか?」
「ないない! そんな堅っ苦しい事はせえへんよ!」
「じゃあ、何するんですか?」
「まずは服を脱ぐんや!」
────えっ。
服を脱ぐ。脱衣。
来ているものを脱いで生まれたままの姿を晒すこと。
意識すると途端に白い肌が赤くなっていく感覚が走る。
「恥ずかしがってる所もかわええなぁ、女同士減るもんでもないし、気にせんでもええんやでぇ~?」
手をくねくねと動かしながらロキが迫ってくる。自分にできることは顔を背けることだけだった。
赤くなった顔をふい、と逸らし流し目を送る。
「だって、自分の意思で誰かに見せるのは初めてなので……」
「あかん、あかんよそれは……! 自分がどうすればかわええのか無意識で解っとる……!」
恥ずかしさからしたその行動が悪手だったことを知る。
素振りを見たロキは興奮状態になってしまった。
「と、とととというか裸になって何をするんですか!」
一転ロキは落ち着いた姿を見せた。
「何も知らん子に何やっとるんやろ……」と罪悪感を抱えた様子だ。
さっきまでのは演技なのか如何かを判断するにはまだ付き合いが短かった。
「裸ゆうても、用があるのは背中や」
そこからロキの解説が始まった。
ロキの「ベッドに座りぃ」との言葉に甘えて、腰掛けながら話を聞く。
神が使う【神聖文字】という言葉、を神自身の血──【神血】を媒介にして肉体に刻み込む。
そうすることによって肉体や能力の成長段階を明確な形に具現化させることが出来る……と。
「それで具現化させた『恩恵』を【ステイタス】と呼ぶわけやな」
「なるほど……。じゃあ刻まれたステイタスは他の人にも見えちゃうんですか?」
「ええ質問や! まず【神聖文字】を読めるやつっちゅうのは神を除くとそうそうおらへん。 だからそのままにしとるなんて奴もおるんやけど、工夫があるからまず遠目から見てもバレへんの」
「それは……一体」
「ちょっとまっててな!」
そういうとロキは本棚へと向かって何やら漁りだした。
「どこやったっけな~」とぼやきながら探し当てたのは何かの図面。
「これや! なかなかいい趣味しとるやろ?」
「これは……」
サイドテーブルの酒瓶たちが退かされて新たに広げられた図面には、大きくピエロのデザインが描かれていた。
「ピエロ……?」
「そうそう、これがロキファミリアのステイタスの紋章なんや。ファミリアを開くってなった時に夜なべして考えたんやけど、まだ残っててよかったわ~」
北欧神話でラグナロクを起こしたロキ。
場をかき回すトリックスターだからこそのデザインなのだろうと思うと共に、似たものを見た事を思い出す。悪漢の背中に刻まれた入れ墨、今になったからわかる。あれもどこかのファミリアの紋章なのだろう。
──訊いてみようか。
闇派閥、そう呼ばれていた奴らにも家族と言える神が居るのか、と。
「ダイダロス通りで倒した男も紋章を刻んでありました……神は悪の道に堕ちることを善しとしているんですか?」
「う~ん、難しい問題やなあ。うちら【超常存在】かて一枚岩やあらへん、うちも天界では悪逆非道の限りを尽くしたもんや」
ロキから告げられる神の実態。
善神と呼ばれる神も居れば悪神と呼ばれる神もいる。けれど最も多いのは世界が掻き回されるのを眺めるのが好きな邪神ども。
「なんでまだ世界が滅んでないのか、そう思ったやろ?」
「……ハイ」
神は天界から降りてくるときに、超常のチカラの殆どを手放して降りてくる。
それは天界で定められた掟であり、破ったものは天界へと送還される。チカラを失う事よりも地上で間近から冒険を眺める娯楽の方が神にとっては大事なのはどの神も共通のようで。
「まあ悪いヤツは残された力を悪用するわけやな」
「力、ですか」
「ふたつや!」とピースサインをするロキ。
「一つ目はこれからやる『恩恵』やな、思想が歪んどる奴に力を与えたらどうなるかなんて、すぐにわかるやろ?」
「それがあの時の……」
「もしかして紋章覚えてたりするんか? 闇派閥に所属してる神も素知らぬ顔で『神会』に参加するからわかるかもしれへん」
これに書いてみてーや、とロキは部屋の雑多の中から適当な紙を差し出した。
思い出す、あの男の紋章が一体どんなものだったのか。渡された高級そうな羽ペンをインクに浸けて、描き出した。
壺、女、逆さの天秤。そして強く記憶に残っていた『Πανδώρα』の文字。
決して繊細で綺麗な図面ではないけれど、要点を捉えた図を描きだす。
「確か、こんな感じでした」
「う~ん、少なくともうちのシマじゃあらへんな……【共通語】でも、【神聖文字】でもない、となるとローカルの言語って事になるんかな」
ロキが首を傾げる。神聖文字が使われるようになったのは、神々が自分たちの暮らす所とは別の神話体系があることを知った後の事らしく、元々はそれぞれの言語があった。地上に降りた後は殆ど神聖文字か共通語を使うから、こういった文字を読むのは難しいらしい。
「全知ってわけでも無いんですね……」
「そりゃまあ、全知全能なんて言葉の綾やしな。他の神話のことを知らない井の中の蛙状態で言ってたに過ぎないんやでぇ?」
「そっか……」
夢が崩れた、とは言わない。
不完全な神だからこそ、娯楽に飢えて、酒を飲み、家族を求めたのだろうから。
この世界の神様は完全無欠なモノではなく、親しみが生まれるような存在。それでいいのだ。
「……確か、ゼウスもいるんですよね。オリュンポス十二神の」
「居ったな。……もしかして分かったんか?」
「多分ギリシャ文字……そこの神々の言葉です」
「まじか~」
どチビのやつはまだ天界やろうし……今度神会でヘファイストスに聞いてみるか。
そう一人で結論に辿り着くとロキは笑みをこちらに向けた。
「ヨシ! この件はうちに任せとき! 犯人は見つけ出したるさかい。さ、待たせたけど『恩恵』を刻もうか~」
「よ、ヨロシクお願いします……!」
「いい肌しとるな~、大事にするんやで?」
「……はい」
軽い体躯をベッドに沈みこませる。
ステイタスを見るだけならそう時間がかからないから座ってもいいけれど、今回は初回で時間がかかるから~と言われうつ伏せになる。
腰の上に軽い重さがのしかかった感覚を受けた後、晒された白い肌に指を突き付けられて少しくすぐったい。
「なあなあ、さっきの面談、嘘吐いとったやろ?」
びくり。背中を指がなぞり始めてから少しの時間が経過した頃、突然ロキの口から放たれた言葉に体が跳ねる。
確かに嘘をついた。何度も何度も下手な嘘を。
「……嘘?」
「誤魔化さんでもええよ、分かっとるから。二つ目や、神が地上に降りた時に残された能力。うちらは子供たちが嘘をついたかどうかがわかるんや」
凍り付く。
それが真実なら自分がさっき必死になって絞り出した話は、全て偽りの物だとバレていたことになる。今自分の上に乗っかったロキは一体どんな顔をしているんだろうか。
親しみを感じていたはずなのに、得体の知れない神が其処にいるように感じて体が強張った。
「……じゃあなんで不合格じゃなかったんですか?」
問いかけを受けて一瞬背中を伝う指が止まる。
そしてまた指が動きだした頃にロキの言葉が耳元で呟かれた。
「そりゃあラヴたんに何か思惑があるように、こっちも打算があったからなぁ」
「打算……してたんですか」
「もちや! アイズたんがラヴたんを助けたのは全くの偶然やけど、その遠因はフィンにあってな。我らの団長は予知に近い力を持っとる、疼きという形で何かがあることを教えてくれるって能力、まあ疼きの原因が一体どんな形で降り注ぐかはわからないんやけどな」
ゼウスファミリアとへラ・ファミリアが崩壊した後、闇派閥の活動が裏で活発になっていたから闇派閥に関することの可能性が高く、ダンジョン攻略を早めに切り上げたと続けているが、その疼きが自分の事なのだと言外にロキは示していた。
「まあそういうことや、何が起こるかわからないと身構えていたらアイズたんがラヴたんを連れて来た。疼きの正体としては分かり易いよな」
「それで闇派閥の人間との接点があると思ったわけですね」
「せやな」
確かにそうだ。ダイダロス通りというただでさえ怪しい場所で襲われているところを助けられるなんて、内部に入り込むための演技の可能性もある。
ダイダロス通りに入り込むという情報が事前に流されていたならあり得る話だが、襲われた少女を助けたのが完全な気まぐれでやってきたアイズな時点で破綻している。
「能力を聞いた限りじゃ逃したくない掘り出しもんやし、実際会ってみたらうち好みの娘やし、よっぽど酷くなかったら普通に合格させるつもりだったんけども」
酷くなかったら。……多分出身地の事だ。
「名前が無いのはまあわかる、歳のこともな。でもな……インスマスって何処やねん!」
「あはは……、ごめんなさい」
「いきなり嘘を言いだしたと思ったらまた嘘を言いだして、でも何故か真実が混じっている。わけわからんかったんやで!?」
神が真偽を見破れることを鑑みて、今自分の言葉を振り返ってみると確かにわかりにくい事この上なかった。
インスマスもアーカムも存在しない、だけどラヴクラフトがアーカムを創り出したのは事実。自分のことながらふざけている。
「だからあの時にどうして故郷を出たのかって質問を……?」
「せや、虚飾で覆われた中にあった真実を深堀りしようと思うてな、故郷云々は兎も角、ラヴたんの真意を知りたかったわけや」
──あかん、もしかしてこの子地雷原か……?
ロキだけが被害を被るなら良かった。だが、ファミリアの皆に被害が出る可能性を考慮したら合格させるわけにはいかない。
不合格と合格の最後の分岐点を前に、ラヴクラフトが答えた回答は、どうやらロキのお眼鏡に適ったようだ。
「まさか最後の答えは全部が本当だとは思わんかったよ」
──妥協して生きるのは嫌だ。自分が後悔しない生き方を。
「だからうちはラヴたんをファミリアに歓迎したんや。誰しも抱えてる闇はある、今じゃなくても話せるときになったら話せばええ」
ぽふっと頭の上に何かが乗っかる。手のひらだ。
ロキの空いている片手が髪を撫でた。慈愛が込められたような手つきに心地のよさを感じる。
こんななりでもやっぱり女神なんだな……。
「待たせたなぁ、これがステイタスや」
腰からロキが降りて羊皮紙を差し出してくる。
うつ伏せの状態から起き上がり、さっきから着ていた服を再び羽織って羊皮紙を受け取った。
「……同じ文字が並んでますけど、これで合ってるんですか……?」
羊皮紙を上から目を通すと、名前らしき記述とレベル、そして各技能らしき欄にごとに数値が表記されていた。
下の方にはまた別枠の文字列が並んでいる。
……読めない。
ギリシャ語なら兎も角、金貨に記されていた文字と同じ言語体系で記されたステイタスを読み解くにはまだ経験が足りなさ過ぎた。
「マジか……、でも片田舎暮らしならローカルの言語で話すこともまぁ、あるんかなあ」
「申し訳ないです……。多分アマテラスが主神の神話大系の言語なら読めると思うんですけど……」
「アーカムの文化めちゃくちゃやな!?」
極東の神の影響を受けた閉鎖的な街。
……誤魔化したのは自分だが、怪しすぎるというのも頷ける。
「ようし分かった。 共通語に関してはゆっくり覚えてくとして、今回はウチが読んだる! 大サービスや!」
「……ありがとうございます!」
「一緒に羊皮紙見ながら解説するから、ベッドに腰掛けてな」とロキに促されてベッドに座る。
「まずは上から、これはラヴたんの名前と今のレベルやな。ランクアップするには下にある技能の値を伸ばすしかないから、ひたすら経験を積むが成長への道や」
「えっ、最初のレベルアップってモンスター数体程度で上がったりはしないんですか?」
「そんな甘っちょろいわけないやろ……」
自分が常識知らずだという事実、薄々勘付かれると思っていたがどうやらとっくに看破されているみたいで……。
呆れ交じりにロキが「でもしかたないかぁ……」と呟いている姿を見て、少し申し訳なく思った。
「さっきにラヴたんが言ってた同じ文字の羅列、っていうのが技能の値やな。最初は全部ゼロ! ここから自分の冒険に応じて伸びていくわけやな」
「それが経験ってわけですか……」
魔法を使えば魔力が、攻撃を受け続ければ耐久が、経験を積むごとに技能は伸びていく。
それがこの世界のステイタス。
ならば自分の目指す型とは魔力一点特化型。
魔力を上げて魔法で殴る、それが一番効果的だ。
「それは分かりました……。じゃあ下にある別枠はなんなんです?」
「魔法や」
魔法。
「リヴェリアから聞いたけど、ラヴたん魔法使えるんやってなあ……。ステイタスなしで魔法を行使するヒューマンなんてむっちゃ珍しいんやで? 魔法の効果だってステイタスなしじゃ把握しづらいしな」
「へえ……」
「やっぱりピンと来てないな、まあええわ」
イチかバチかで行使した幽体の剃刀について記載されているのか、はたまた別のナニカなのか……。自分ではわからないのでロキの言葉を待った。
「【ガンダールヴル・ヴォルヴァ】召喚魔法、任意の詠唱で無意識下の発動は不可能……紙に写したのはウチやけどそれにしても情報が少なすぎひん!? なんや任意詠唱って!? ラヴたんはどうやって魔法を使ったんや……?」
「えっと……即興で」
【ガンダールヴル・ヴォルヴァ】
北欧神話チックな命名をされた私の魔法。
ロキの説明を聞いて、自分にはピンとくることが幾つかあった。
任意詠唱の意味、そして無意識化での発動。
それっぽく記載されてはいるが、詠唱式の内容は完全にオマカセ、ただ意識しない時に誤発動はしないから安心してねと書かれているに過ぎないのだ……。
召喚魔法だという点には少し首を傾げたくなるが、まあそういう物だと思うことにする。
「即興ってなんでもええんか……? でも使い勝手が良さそうでええな」
自分もそう思う。
詠唱破棄よりかは使いにくそうだが、それでも活用法は多岐に亘るだろう。影打ちとか。
「本当はこの下にもスキルの欄があるんやけど、ラヴたんにはまだ無いみたいや、当然っちゃ当然やけど」
「スキル? 技能とは別なんですね」
「特定の敵に強くなったり~とか自分を強化したり~とか、あると便利だからラヴたんも頑張ってスキルを芽生えさせるんやで!」
そう言うと説明も終わったからかロキはベッドから立ち上がった。
「これでステイタスも刻んだことやし、晴れてラヴたんはファミリアの一員や! 名前の事もあるから今日はダンジョンには行けへんけど、明日までにはいい名前考えとくから楽しみにしとき!」
「ありがとうございました!」
「かまへんかまへん、他の団員たちにもステイタス更新せなあかんから忙しいときは無理やけど、他の時だったら何時でも歓迎するで~!」
今の自分の背中には奇術師の紋章が刻まれている。
根無し草だった自分がまさか手に入れられるとは思っていなかった恩恵。家族。
ロキの部屋から出て、見送ってくれるロキに対して再び感謝を告げると、今度は先ほど会う約束をしていたリヴェリアさんを探しに館を彷徨う事にした。
ラヴクラフトが去ってから暫く経ち、部屋の外に物音がしなくなったことを察知してロキは机の上に隠していたもう一つの羊皮紙に手を伸ばす。
その紙には共通語でスキルについて記されていた。
「魔法だけじゃ飽き足らず、まさかスキルまであるなんてなあ」
ロキが見つけたラヴクラフトの可能性。スキル。
普通のスキルであれば教えるのもやぶさかではなかった、しかし知らないほうがいい効果もある。
羊皮紙に記載された内容はこうだ。
【スキル】
【
・晩成する。
・理想を求める限り効果持続。
・思いの丈により成長速度上昇。
・理想へと辿り着いた場合、耐久力の低下と引き換えに戦闘時に全能力超高域補正を得る。
ロキをもってしても過去に類を見ないスキル。
ステイタスを上げる者はあれど、成長性が上がるなど前代未聞だった。
「教えたら効果が下がるのは明白、今後の成長具合に応じてやな……」
ロキはもう一つのスキルに目を移す。
前者のスキルがポジティブにおかしいスキルならば、こちらはネガティブにおかしいスキルだった。
【νιαρλατ òτεπ】
・精神に起因する異常に対するレジスト。
・
(胡散臭いなあ、このスキル)
そう思ったのは偶然か、否か。
ラヴクラフトから先ほど聞いたギリシャ語の羅列、それが今度は他ならぬラヴクラフトのステイタスから見つかった。
曲がり形にも他の神話体系と交流するために言語を学んでいたロキでも、特定のナニカを指し示すこの文字列の意味は分からない。
因縁から芽生えたスキルなのか、別のものか。
「これについても訊かんとなあ……」
知り合いの神に聞くことが増えた。
その事に辟易しながらも、ロキはテーブルの前に座した。
ラヴクラフトの名前を決めるために、新たな家族だと信じている証として。