TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない 作:アあゝ
力尽きるまでは連続投稿を目指すのでヨロシクお願いします……!
「……ラヴクラフトか、待って居たぞ」
新しく住むことになった黄昏の館を彷徨い歩き、ファミリアの団員の人に挨拶を交わしながらリヴェリアさんの所在地を尋ねることに成功した私は、十数分かけてやっとリヴェリアさんを見つけることが出来た。
ファミリアの蔵書を纏めた書斎、そこに彼女は居た。分厚い書物を開き、集中した様子でその内容を閲覧していたリヴェリアさんだったが、私が部屋に入った時にドアの軋んだ音に耳敏く反応し、視線を本から私へ向けた。
「どうやら無事に事が済んだようだな……ロキに何かされなかったか?」
「アハハ……これといったことは特に……親切でしたよ?」
本日三度目の対面となったロキファミリアの副団長、リヴェリアとの会話は、主神からセクハラされなかったかという気遣いから始まった。
ロキと二人で会うことは心配されること……ロキがどういうスタンスで生きているのか気になるのは仕方ないことかもしれない。
被害者の団員同士の話のタネになってファミリアの仲が潤滑になる……みたいな思惑の上での行動、ではないか……。まあ悪辣な神ではないだけマシというものである。
「それは良かった、が……無抵抗でいるといずれ増長する。嫌になったら私に言えばなんとかする」
「その時はお願いします……!」
ロキについての話がひと段落付いて、数瞬の無言が流れた。
リヴェリアさんが私を待っていた理由、それはロキからの被害について話す為ではない筈だ。
何かほかに理由がある、そうじゃなかったらこんなところに呼び出しはしないだろう。
「用ってこれだけじゃないですよね?」
「当然だな。 本来ならファミリアに入団した者は実力の近い者同士で経験を積ませていくのだが、特例でな……ダンジョンの上層で死なない程度に私が指導することにした」
「えっ、ホントですか」
「話し合って決めたのだ」とリヴェリアさんは言う。
技能を伸ばすために指導してくれるというのは思ってもないチャンスだ。
幹部陣で話し合ったのだから、リヴェリアさんはこの上ない適任なのだろう。
団長は魔法を主体に闘うタイプではなさそうだし、面談の後で会ったガレスさんも物理型。バランスを鑑みればリヴェリアさんは魔導士なのだろう、杖持ってるし。
「……でも、本当にいいんですか? 副団長なんですよね、他にもすることがあるんじゃ……」
「必要な事だからな、ダンジョン攻略には協調性が必要になる。身体的な差、年齢差があるとそういう物が構築しづらい事をウチのファミリアは重々承知していてな……」
明確に特定の誰かを指して過去を振り返っている様子のリヴェリア。
思い当たる節がある。アイズだ。
自分の年齢はアイズと同い年の9歳ということになった。
……ではアイズが入団したのはいつなのか。謎だ。
同い年で悪漢を軽々しく屠るまでに膂力を上げることに成功している、つまり悪漢よりステイタスが上という事だ。
このファミリアで生まれ、生まれながらに恩恵を刻んでいたからステイタスが高いのか、それとも短期間で成長を果たしたのか……。
前者であれば良かったが、リヴェリアさんの様子から恐らく後者なのだろう。
ダンジョンというのだから場合によっては撤退も余儀なくされる、それでもなお戦い続けていたならば正しく協調性に乏しい。
外面だけ見れば自分が言えたことではないが、9歳児にして殺しを厭わない精神性は異常ともいえる。
それが一体何を要因としたものかはわからないけれど、ファミリアのメンバーが手をこまねいているのは確実だった。
「だから団員の人たちが妙に余所余所しい感じだったんですね……わかりました、ご指導ご鞭撻のほどよろしくおねがいします」
「納得してくれたようで何よりだ。さて、今日はダンジョンには行かないが、代わりに魔法の試し撃ちをしてもらう。その後に装備品を買いに行こう」
「魔法に関しては了解です。でも、私お金ないですよ?」
装備品のお値打ちは知らないが、今の私にはお金が無い。
悪漢からもらった雀の涙ほどの金貨だけだ。
その事を伝えてみれば、リヴェリアは呆れたように首を振った。
子供が遠慮するものじゃないと言わんばかりの仕草が様になっている。
「……見せたほうが早いか。着いてこい…倉庫にいく」
黄昏の館の地下、外気よりも涼しげな雰囲気のする場所に倉庫はあった。
重そうな木製の扉を細い手で軽々しく開いたリヴェリアさんに呆気にとられつつ、開かれた先の光景を見る。
「見てわかると思うが、鎧や武器であれば予備として備蓄してある。だが、こういったものは基本的に冒険者の平均的なサイズで作られているんだ、着れないだろう?」
リヴェリアが言ったように、倉庫の中にはいつでも使えそうな状態の鎧や武器が陳列してあった。
防御力の高そうな金属製の鎧から、動きやすさを重視した革製のものまで。武器だってロングソードやハルバード、長槍といった様々な種類のものがある。
……無理だな。
大きめなナイフ一本持つのもやっとな自分が装備できる防具はないし、扱える武器もない。
身の丈に合ったモノが無いのだ。言葉通りの意味で。
「着れないですね……」
「だろう? アイズもフィンも特注品を着ている。同じところに発注しに行こう、杖も同じくな」
「……あれ、そう言えば杖は置いていないんですね?」
何時武器が壊れても構わないようにと用意された武装の山の中には、杖らしきものが無い。
ファミリアに所属する魔法使いがリヴェリアさんだけというわけがないのに。
「ああ、杖は基本的に消費が少ないからな……代わりの杖が必要になるという事は即ち死を意味すると言ってもいい」
魔法使いが後衛だというセオリー通りならば、確かにそうだ。
前衛がモンスターの接近を許し、後衛に牙を剥く。
杖が折れるという事は咄嗟に防御に使ったか或いは……。パーティが全滅したら予備があっても意味はない、そう言う事なのだろう。
「戦闘スタイルはすぐに決まるわけじゃない。だから鎧は取り敢えず軽装の物を頼みに行くが、杖に関しては別だ。発動時間と威力を鑑みて杖のサイズを考える必要がある」
確かにそうだ。
身長ほどの長さの杖があったとして、その杖で幽体の剃刀を十全に扱えるか。否。
杖は杖でも、イギリス魔法界に流通しているくらいのサイズの方がいいだろう。燃費に優れ、取り回しが楽だ。
逆に一発の威力を求めた詠唱時間と威力が甚大な魔法があったならば、威力の向上や消費魔力の軽減を期待できる素材をふんだんに使った杖の方がいいに決まっている。
「見極めるわけですね、杖を」
「そうなる。早速鍛錬場に行こう」
鍛錬場。
黄昏の館の敷地内に作られたスペースには、幾つか人の形を模した案山子が置かれている。そのことから察するにダンジョンには人型の魔物がいるのかもしれない。
時折それがヒトに見えることがあったが、長い一日も恐らく午後になり、鍛錬場を利用している者は自分たちしかいなかった。
「さて、見せてもらう前に聞いておく。以前魔法を行使した時に精神疲弊は起こしたか?」
「マインドダウン……ああ、気絶ですか。今のところは無いです」
この時間は、魔法にどんな杖が向いているのかを経験者と共に確認する時間。
魔力を使い果たしても何とかしてくれるはずだ。この後のスケジュールはつぶれるが……。
「そうか……わかった。一応マジックポーションは用意している、気分が悪くなったら直ぐ言うように」
「はい」
リヴェリアさんを後ろに付けて【ガンダールヴル・ヴォルヴァ】を詠唱する。
詠唱式は最初と同じ、片腹大激痛のものだ。
「掛けまくも畏きよぐそとーす……御身の力の一端をわが身に宿さんと願う……恐み恐みもうす……」
二度目の魔力の奔流を制御している感覚、無意識下での発動抑止効果のお陰なのか、呪文名を唱えるまでは魔法が誤爆することは無さそうだ。
【ガンダールヴル・ヴォルヴァ】の説明に有った通り、呪文の行使に使用する詠唱は特定のものでなくても良さそう。
一応発動するようにと、四大精霊みたいにクトゥルフ神話世界では全てのモノを構成されているヨグ=ソトースを詠唱式に組み込んだが、次の詠唱は組み込まないで詠唱してみてもいいかもしれない。
手を杖代わりに、視線の先にある人の形をした案山子へと振り下ろす。
「『幽体の剃刀』っ!」
頭頂部から一気に振り下ろした手の延長線上。
案山子から地面まで、まっすぐ一文字に切れ目が走った。
──威力は変わらず、気分を害すこともない、余裕だ。
とてつもなく鋭利な刃物で空間を切り伏せたかのようにさえ空目する魔法、消費魔力が多いかと思えばそうでもない。
これから恩恵の効果で魔力はもっと伸びるというのにこの威力。心配すべきは如何に魔力をセーブして威力の調節するかという点かもしれない。
「……驚いた、詠唱式も長くないのにこの威力。それに消費も少ないと来たか……極めたら化けるぞ……」
「これだけだったら短剣と杖を合体させたものとかもいいかなあって思うんですけど、まだあるんですよね……」
「……何?」
一度しか行使できる機会が無かったから、決定打になりえる『幽体の剃刀』を選んだ。
だが、あの神話体系に位置する呪文はこれだけではない。
「実は自分の魔法って【ガンダールヴル・ヴォルヴァ】って言うんですけど、これ召喚魔法らしいんです」
「……まさかとは思うが魔法を召喚した、と言いたいのか?」
その言葉に頷いて見せると、リヴェリアさんはハァーッととても長い溜息を漏らしながら蟀谷を押さえ始めた。
自分がリヴェリアさんの頭痛のタネになってしまった事に申し訳なく思いつつも、事実は変わりようが無いので立ち直るのを待つ。
これが彼女の常識をどの程度壊しているのかはわからないが、一分もしないうちに整理をつけて立ち直るのは流石だった。
「──よし、ありがとう落ち着いた。それで? 他に何が使えるんだ?」
悟りを開いたかと錯覚するほどの落ち着いた姿、もう驚かないという意思が強く感じられる。
若干気圧されながらも、ここで使えそうな魔法を思い出す。
神話生物の召喚はムリ、他の攻撃魔法は外目が良くないのでダメ。となるとここで使えるのは支援系と回復系のものだろうか。
「じゃ、じゃあ今度は敵からの防御に有効な呪文を一つ……」
そう告げてから、まだ傷のついていない案山子に近寄る。
これから使うのは『
自分や対象にした相手に対して、込めた魔力の分だけの物理攻撃耐性を持たせる呪文。
無論、自分みたいな魔力一辺倒な相手には無力ではあるが、そういった敵には近寄ればいい。そんな前衛職全般に有効な呪文だ。
「恐み恐みもうす……」
今度は力を借りる神の名前もない詠唱を唱える。
本来ならば絶対に呪文として成り立たない意味のない詠唱だというのに、先ほどと同じく力の蠢きを感じる。
発動させるために必要な詠唱時間の違いから、先ほど唱えた『幽体の剃刀』との感覚の差異が生まれるが、少しずつ発動時の感覚に近づいていき、そして重なった。
「……『肉体の保護』」
視覚的な変化は殆どない、しかし呪文は成功したはずだ。
適当に見繕って持ってきた軽量ナイフを使って案山子をめった刺しにしようとするが、当たった感覚がしない。まるで何かが遮っているような感覚。
恐らく刺さってはいるけれど、ダメージは案山子とナイフの間に生じた紙一枚にも満たない薄さの障壁が全て肩代わりしている。
──目と鼻の先にあるはずなのに、案山子との間には無限ともいえる隔絶があった。
ひょろひょろな自分では絶対に壊せない障壁。
上手くいったことに内心満足してナイフを突き刺し続けていると、私の狂気じみた行動を止めるためにリヴェリアさんが声を掛けてくる。
「精神を崩壊させる呪文か何かか……?」
「ちがいますよ! さあ、リヴェリアさんもどうぞ!」
引いているリヴェリアさんに無理やりナイフを押し付けると、恐る恐るナイフを案山子に突き刺した。
直後、腑に落ちない表情でさっきの私みたいにナイフを刺し始めたのでストップをかける。
「どうですか? すっきりしないですよね」
「あ、ああ。手ごたえが無さ過ぎて気味が悪い」
釈然としない様子のリヴェリアさんに呪文の効果を教えてみれば、納得した様子で頷いて見せた。
「負傷するリスクを負わずに敵陣の中に攻め込むというのは理想だな……。この魔法だけで引く手数多だぞ……」
アマゾネスだけで構成されたファミリアのような脳が筋肉で構成されているファミリアの事を話すリヴェリアさん。
聞き慣れない単語がさらっと出てきたが、よくよく考えてみればこの語源もギリシャ神話だ。紆余曲折あって世界屈指の宅配サービスの名称になるのだから世界は面白い。
「他にも呪文は色々ありますけど、決められた手段に沿わないといけないモノから使い勝手が悪いものまであるので、『幽体の剃刀』をメインに据えて扱える杖でいいと思います」
「もはや魔法というよりは呪術だな、それは……ところでこの魔法はどの程度で解けるんだ?」
グサグサと滅多刺しにし続けているリヴェリアさん。
それはストレス解消の為ではなく、呪文の効果が消えるのを期待しての行動だった。
「さあ……? 一日経ったら消えますよ多分」
他にも防護呪文はあったが、その中からこの呪文を選んだのには事情があった。
この世界の魔力量がマジック・ポイント換算だと、どの程度の値になっているかをまだ知らない。少なくとも弱くなっていることは無いので、周囲に影響が出ないこの呪文を選んだというわけだ。
『
「はあ……、放っておけば消えるんだな? なら切り上げてこの後はバベルに行くぞ」
「はいっ! ……はい?」
人類の思い上がりの象徴、以後何千年と続く悲劇の発端になった塔の名前を冠する場所。
リヴェリアさんにある方向を指さされてようやく存在に気付いた、高層ビルよりも高く天まで伸びた塔。
多種多様な文化圏の言語があるにもかかわらず意思疎通を可能としているその理由。人類の成長を傲慢と捉えた神と、愛おしさを覚えた神々の在り方の違いが生み出した可能性。
──どうやらこの世界ではバベルは崩壊していないようです。