TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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ホントに助かる……。


鍛冶屋

 

 今、私は冒険者通りと呼ばれる大通りを歩いていた。

 自分が最初に迷い込んだ迷路のような路地、ダイダロス通りというらしいあの道とは雲泥の差、月とスッポン。

 日中であるにもかかわらず光が差さず、影を生きる者たちにとっては住み心地の良さそうなあの通りがオラリオでも有数の裏通りだとするならば、リヴェリアさんに連れられて歩いているこの大通りは正に表通りだった。

 

 ダイダロス通りとは比べ物にならない人の賑わい。

 多種多様の人種、髪色から自分の知らない身体的特徴を持ち合わせた人間まで、色々な人物がいた。

 

 

「うわあ……! いろんな種族の人がいて新鮮です!」

「ああ、分かるぞ。初めてオラリオに来た時の感覚は私も覚えている」

 

 

 リヴェリアさんはエルフだ。

 そしてエルフには排他的な思想があるような印象を私は持っている。自分のは嘘だが、リヴェリアさんは本当にそういった環境から抜け出してきたのかもしれない。

 

 

「此処にいる皆、想いは違えど目的は同じなのだろうな」

 

 

 武装をした人──冒険者が多いのは、この大通りからまっすぐ行った先にバベルからダンジョンに潜れるから。

 リヴェリアさん曰く、ダンジョンを管理しているギルドの本部がこの通りにあるため、そこを経由してダンジョンに向かうことが多いらしい。

 この通りが冒険者通りと呼ばれている理由をこれ以上ない程理解させられて、これ以上ない名前だと頷く。

 自分たちはバベルの上層にあるテナント──商業系ファミリアの店に行くが、冒険者の波に流され途中までは周りにいる冒険者たちと一緒に向かう事になるだろう。

 

 ダイダロス通りと黄昏の館の赤い壁しか脳内に記憶していなかったから、辺りを見回しながら様々なものを記憶に収める。

 道の端には屋台が所狭しと並び、様々な売り物が売り出されていた。

 手ごろな大きさの果実など、ダンジョンで食べやすそうなものを求めて鎧を着た冒険者の男が吟味し、時には値切り交渉を行う。また別の場所では赤い髪をした快活そうな冒険者の少女が、顔見知りの店主に挨拶をして回っている。

 

 魔法やモンスター、神様も存在する世界。

 フィクションのような世界だけれど、其処では確かに日常が形成されていた。

 

 

「そうだ、バベルの塔までの道で何かお勧めのお店ってありますか?」

「生憎あまり立食はしないのだが……ああ、アイズが大好物の食べ物がある。帰りに買っていこう」

 

 

 アイズの好物。

 興味をそそられない訳が無かった。ステイタスを伸ばすために食生活が意味あるのかはわからないけれど、万が一の可能性として通い詰めるかもしれない、

 ともあれ、先に用事を済ませてからだ。徐々に近づき始めて眺めるのがつらいバベルを見ながら歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 様々な店を流し見しながらようやくバベルの真下に辿り着く。

 

 長い一本道を歩き続けていると、視線を感じることがかなりあった。

 ネガティブな物からポジティブなものまで様々な感情を孕んだ視線が私を……いや、リヴェリアさんを貫いていた。

 

 そんな状況にあるにもかかわらず、平然そうに歩き続けているリヴェリアさんに尋ねてみれば、こういったことはかなりあるらしい。

 羨望の視線であればファミリアに関する憧れを、視線の主がエルフであれば種族に関した事情を。下劣な視線であれば私を狙った悪漢のような容姿に関するものを、そして純粋な悪意であれば……。

 

 

『いちいち気にしていたら気苦労が知れないからな……気を許すのは良くないが、慣れるのが得策だ』

 

 

 そう言って切り出されたオラリオという都市の負の側面。

 此処になって初めて聞くことがかなりあった。

 世間が仮初の平和にある事、ステイタスの成長格差、ファミリアでの抗争。

 

 全てロキの言っていた悪神の事と少なからず関連性のあるものばかり。

 私が遭遇した逆さ天秤の紋章のファミリアをはじめ、犯罪に手を出すファミリアがオラリオのどこかで蠢いているらしく、奴らの事をひとまとめに闇派閥と呼んでいる事。

 

 恩恵を刻み込んだ冒険者は沢山いるが、レベルが2になる冒険者さえ実は一握りしかいない事。

 実力が低いという事は実入りも少なく、生活に困る可能性が高いからこそ、実力不足でも大規模なファミリアに入団しようとする事情。

 リヴェリアさんに対しての憧れの視線は、レベルが高いこともあるがロキファミリアが堅実な成果を出し続けている類まれなファミリアだからでもあった。

 逆に言えば、最低限の生活保障さえしてくれればいいと考える冒険者が、甘い話を持ち掛けられて闇派閥のファミリアに入団して悪事に手を染めるということもあり得る話ではある。

 

 そしてファミリア間の抗争。

 ファミリア同士が対立するというのは珍しい話ではなく、戦争遊戯という名前で娯楽になってもいるらしい。商売敵のファミリアに土地を譲らせたり、目を付けた団員をヘッドハンティングしたり動機は様々。

 傍から見る邪神達にとっては面白い話だろう。

 だが、それとは別に殺伐とした抗争がある。戦争遊戯に出来ない後ろめたい事情だからか、それとも徹底的に消し去りたいからか……。

 闇派閥がファミリアに襲撃を起こす事例が、オラリオ最大手の派閥が解体された時から頻発していたらしい。

 

 ”幸運な事にも”現在はそういった手合いは見かけないらしいが……注目を集めているロキファミリアがいつ誰に標的にされるかはわからない。

 

 

「だがまあ子供が気にすることではない、大人が何とかするべきことだ。……さあ行こう」

「……」

 

 

 心配させるようなことを言ってすまないな、と私を先導してバベルの中に入っていくリヴェリアさんに足早でついていく。

 そう言えば気になることがあった。

 

 

「リヴェリアさん、バベルの上階にはどうやって行くんですか?」

 

 

 高層ビルよりずっと高いバベルの塔。

 それを階段で駆け上るとしたら私は死ぬ。魔法的なナニカがあるという一縷の望みを込めて尋ねると、だろうなと言わんばかりに首を振り返答を返してきた。

 

 

「戦々恐々としてる所悪いが、移動手段がある。神も使うからな……流石に地下のダンジョンへと続く道は階段だが」

 

 

 後半は聞き流して胸を撫で下ろす。

 ダイダロス通りで悪漢に追われていた時は、火事場の何とやらと、適宜休憩を挟んでいたから走り続けることが出来たが……今は流石に無理だ。

 装備品を扱っている店が最上階にあることは流石にあるまいが、それでも辛いものは辛い。

 

 リヴェリアさんに手を掴まれて、されるがままにバベルの中を歩き回る。

 辺りを観察しながら建物の構造を把握していたら、目的の場所に着いたようで歩みが止まる。

 目の前には扉、煌びやかな装飾で飾られた石材の扉はファンタジーらしからぬ平行移動で横に開いた。

 中は個室、体格によって変わりそうだが、五、六人は入れそうなスペースがある。

 

 ……見覚えがある。

 

 装飾の違いはあれど、これはエレベーターだ。

 上下に移動するために発明された文明の利器。動力源は不明だが、確実に同じ機能を搭載していそうだ。

 

 

「この昇降機で上に上がる、見慣れないものだから不安だろうが、乗っていれば一瞬だ」

「アッ、ハイ」

 

 

 空いてから少しの間が空いている扉、センサー類も見当たらないからいつ閉まるかもわからない扉の先にサッと飛び込んでみせると、微笑まし気な視線を向けながらリヴェリアさんも乗り込んできた。

 誤解、なのだけど訂正するのも不毛だと思い、目的の階に上がるまで甘んじて視線を受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 気まずい時間が終わるまではそう長くなかった。

 商業フロアに到着したことを知らせる金属製らしきチャイムがなり、扉が開く。

 

 

「わあ……」

 

 

 圧巻とはこのことか、扉が開いた先には武器マニアなら垂涎モノの光景が広がっていた。

 全てのモノがエレベーターの装飾と同レベルに飾り付けられていて、まるで別世界に来たかという錯覚を覚える。

 下の階層とは全く違う装いを見せるフロアは等間隔でショーウィンドウが配置されてあり、その中には芸術品と見間違えるような武器が綺麗に陳列されていた。

 

 

「凄いだろう? これら総てが前衛職を守るために鍛冶屋が全てを尽くして造り上げた武具たちだ。まだ弱い冒険者たちはいつかこれ等を手に入れることを目標にし、手が届いた冒険者はこの武器をふるい英雄となる。冒険者たちがオラリオで追い求める夢の一つだな」

 

 

 目を凝らさなくても陳列されたそれらが一級品の武具だと解る。

 緩いカーブが続く廊下を見てみる限り、このフロア全体が店のようだ。冒険者たちを集めたファミリアとはまた違う第一級のファミリアの力を強く実感させられる。

 

 

「ここの神様って誰なんですか……? とてもすごいですけど」

「ヘファイストスという神だ。本神も凄まじい技量らしく、ロキが言うには神々の中でも名前が轟き渡っているらしい」

 

 

 ヘファイストス。

 ギリシャ神話の神だ。顔が焼け爛れた鍛冶の神。ギリシャ神話世界における神器の殆どを作った一柱だ。

 技術は受け継ぐことが出来る、並べられた武器たちは神から鍛冶の技術を指南されたからこそここまでの逸品を創り出すことが出来たのだろう。

 ふと寒気が走る。

 

 ──特注の装備とは一体おいくらの装備なのか……。

 

 お手頃の価格で作ってもらえるものだと考えていたが、もしかしたらそう甘くは無いのかもしれない。

 顔を青ざめた。自腹ではないにしても出費が多くなるのは心苦しい。

 

 

「わざわざ連れてきてもらって申し訳ないんですけど、特注じゃなくて市販の安いのでいいんですよ……? 良い装備だろうが悪い装備だろうが、どうせ攻撃を受けたら死ぬので……」

 

 

 倉庫の肥やしになっていた鎧を分解して適当に組み上げた装備でもいいし、最悪丸腰に呪文を付与してしまえばいい。

 杖は兎も角、鎧に出費を出すことに意味を見いだせないと告げてみれば、リヴェリアさんは呆れ散らかした様子で再び大きなため息を吐いた。

 

 

「ハア……。命を粗末にするところまでアイズそっくりか……」

 

 

 そう呟いてからしゃがみこんで私と同じ高さまでに目線を揃えた。

 リヴェリアは子供に言い聞かせるように、私の肩に手を預け話し始めた。

 

 

「いいかよく聞け? 私たち魔導士が高等な装備を揃えるのは生き残るためだ、一発でも多く相手の攻撃を凌ぐ為にな。手練れであれば言う通りに安い物でもいいかもしれない、だがお前は恩恵を刻み込んだばかりの冒険者見習い以下だ」

「……」

 

 

 正論だ。言い返す余地など欠片もありはしなかった。

 分かってくれるまでは決して逸らさないと言わんばかりの鋭い眼光。

 翡翠色をした瞳が私を捉えて離さない。

 

 

「私はお前を上層で通用するまで鍛え上げるといった。特異的なお前の魔法があればそう遠くはない未来だろう、しかし何事も上手くいくほど世界は単純には出来ていない。──気の緩みで深手を負う冒険者を沢山見て来たんだ」

 

 

 ──私たちは決して死ぬためにダンジョンに潜るわけではない。

 

 

「まだ若いお前たちには死んでほしくないんだよ。だから無事に成長するまでは金銭を惜しまないつもりだ」

「リヴェリアさん……」

「……それにな、確かにここに置いてある武具は小国の財政を賄えるほどの値段だ、だがな、それは材料費込みの値段なんだ。得意先の鍛冶職人に素材を持ち込めば手を出しやすい値段で作ってもらえる」

「そういうこったな」

「!?」

 

 

 リヴェリアの話が途切れた瞬間に第三者の声が入り込む。

 リヴェリアさんの顔しか見えていなかった視界を声の方向へと向けると、そこには褐色の女性がいた。

 豪快そうな雰囲気を纏った彼女は袴のような衣服をきており、長い黒髪をしている。深紅の目が私を射抜くとニカっと笑いながら歩み寄ってきた。

 

 

「コルブランドか……騒いでしまってすまない」

「なあにお主が気にすることでもあるまいよ! 手前も最初から死ぬつもりの奴に武器はやれんからなあ。それで、今日ここに来た理由はこ奴だな?」

「その通りだ。ファミリアが預けているドロップアイテムでライトアーマーを作ってもらいたい」

「ええと、ラヴクラフトです。今日ロキファミリアに入ったばかりですが、よろしくお願いします……」

「応よ! 手前は椿・コルブランド、ここで鍛冶をしておる! よろしくな!」

 

 

 気圧されそうな熱い雰囲気で握手をしてくる椿・コルブランドさん。

 名前からも見た目からも、この世界の日本と縁が深そうな彼女の手は硬い職人の手だった。

 

 

「依頼に関しては手が空いているから手前が受けよう!」

「いいんですか?」

 

 

 リヴェリアさんと顔見知りという事は、相当な手練れという事になる。

 もしかしたらショーウィンドウの中には彼女の作品もあるかもしれないのだ。リヴェリアさんの話を聞いてもなお惜しむつもりは無かったが、まさか依頼を受けてくれると思わず聞き返す。

 

 

「アイズとは違って生き急いでいる様子でもなし、というか死なないための鎧だものな。武器なら一考の余地があるが、そちらで断る理由は一切ない!」

 

 

 こんな親切な人物に依頼を断らせた振る舞いとは、一体アイズが何をやらかしたのか気になってならない。

 ……リヴェリアさんが親身になる理由とも重なりそうだ。

 

 

「所でリヴェリアよ、ライトアーマーをご所望とのことだが、このちんちくりんはどう見ても魔導士ではないのか? もっと軽装な物でもいいと思うが……」

「まあ、なんだ……。少し強引な手を使って指導するつもりなので安全を取りたいんだ」

 

 

 ──強引な手。

 上層がダンジョンのいったい何処までを指すのかは知らないが、初期レベルで踏破できるとは思えない。

 先ほど冒険者の能力格差について聞いたから解る。

 強引な手とは、ランクアップの壁をぶち破るための一手であり、正しく試練なのだろう。

 散々いのちだいじにと言われたが、生き残るためには死の淵に自ら飛び込まなければならない。

 

 今までの突然降りかかってきた試練とは違い、未来に起こる事が分かっている試練。

 それに万全を期して挑むための用意をする期間なのだ、今は。

 

 

「お、応……。お主のスパルタは手前の耳にも入ってくるが、まあ程々にな?」

「無論だ、所でそれは誰からの筋だ……?」

「大斧を携えた逞しい御仁の事など手前は知らんなあ~? さっ、ラヴクラフト、採寸するからついてこいっ!」

 

 

 くわばらくわばら、と雷が落ちかけているリヴェリアさんから逃げるように案内するコルブランドさん。

 無言で立ち尽くすリヴェリアさんの姿に、自分にも飛び火しないか不安になり急ぎ駆け足で採寸室までついていった。

 

 

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