TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない   作:アあゝ

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感想評価にお気に入り、ありがとうございました。
お陰で書き上げられました……!
誤用の指摘してくれるのも助かる…




魔導書

 

 ヘファイストスファミリアでの採寸を終え、バベルでの用事を終わらせた二人は、再び冒険者通りを通って次の目的地に向かっていた。

 

 

「次は杖ですか……。お店が冒険者通りにあるなら先に寄っても良かったかもしれませんね……」

「鎧は依頼さえ済んでしまえば後は完成を待つだけだが、こちらは自分で目利きすることになる。……二振り目以降ならそう時間はかからないだろうが、最初だからな。余裕を持っていた方がいい」

 

 

 オラリオの中心部にあるバベルから外周部の壁に向かってひたすら歩き続けた末に、大通りから外れた裏路地に入り込んでいく。

 ダイダロス通りほどではないが、若干陰鬱な雰囲気の漂う道を迷いなく進んでいくリヴェリアさんに、逸れないように着いていった。

 

 

「ここだ」

 

 

 しばらく歩き続けて漸く足が止まる。

 路地裏の深奥のその先、地下へと通ずる階段を下った先にその店はあった。

 如何にもな雰囲気を醸し出す外観、イギリスのどこかの横丁にありそうな風体の建物が、私たちを歓迎するように店を構えていた。

 

 本来ならば、迷い惑って漸くたどり着くような場所に建てられた店。

 短い期間でこの世界の様々な言語を見てきたが、掠れたりして一番読みにくい文字が扉の前に置かれた看板に記されている。

 店名、なのだろうが……記された意味を知るには知識が足りなかった。

 

 ──店の様子から想像してみるならば『魔女の隠れ家』……という名称が適当か。

 

 一体どんな店主が営業しているのかと期待が深まる。

 深い皺が刻まれた老婆か、はたまた眉目秀麗なエルフか。

 この世界の人間の姿は多種多様。

 ……もしかしたら想像すらつかない人物かもしれない。

 

 

「最初は道を覚えるのが困難だろうが、得意先だ。すぐに覚えることになるぞ」

 

 

 そう言ってリヴェリアさんが慣れた手つきで朽ちて傷んでいる扉を開く。

 ぎぃーッと木が軋んだ音を立てながら扉は開き、来客を知らせるベルが鳴った。軋みの音で聞こえないが。

 

 

「おやおや、つい先日魔石を交換したばかりだと思ったがもう壊したのかい? リヴェリア」

「いや、今日は付き添いだ。うちのファミリアの新人に杖を見繕ってやりたくてな」

 

 

 扉を開けた音に気付いたのか、店の奥から一人の老婆が出てくる。

 想像以上に予想通りの容姿をした古典的な魔女がそこにはいた。

 気兼ねなく接することのできる仲なのか、リヴェリアさんが杖の整備を頼みすぎているからなのか、小言を言いながらやってきた老婆に私はぺこりと会釈をした。

 

 

「ラヴクラフトです。よろしくお願いします……!」

「あたしゃレノアだ。そこのハイエルフは杖遣いが荒くてね……。お嬢ちゃんは頼むから二の舞を演じないで、同じ轍を踏まないでほしいね」

「あはは……」

 

 

 レノアさんの言葉に愛想笑いで誤魔化す。

 リヴェリアさんの無言が怖い。

 

 

「お嬢ちゃんくらいの魔導士や魔法使いは大抵『学区』にいるものだと思っていたが、何かありそうだね。詮索はしないよ。──それで? どんなひと振りをご所望だい?」

 

 

 杖。

 杖と言っても長杖、短杖、錫杖、棒状の物と多岐に渡る。

 

 呪文を試し撃ちした時こそ、短めの手頃な大きさの杖が良いと思っていたが、改めて考えてみると別の選択肢があるような気がする。

 自分が使うことが出来る攻撃呪文は幽体の剃刀だけではない。

 一辺倒で行くなら即決だが、他の手がある中で戦闘手段を狭めていくのは得策とは思えなくなっていた。

 

 

「この子は詠唱時間が短く、小回りの利く魔法を使う。威力よりも立ち回りを重視させたい」

「ひひ、なるほどね。それじゃああたしは倉庫を探してくるから、その間此処に置いてあるもので良さげなのを探してみな」

 

 

 自分に代わってリヴェリアさんが杖について話す。

 レノアさんは在庫に思い当たりがある様子でバックヤードに入っていった。

 

 カウンターを挟んで取り残された私たちは、任された作業に取り掛かる。

 マジックポーションから使い方の分からない道具まで様々なアイテムが置いてあるので、誤って壊してしまわないように恐る恐るとだが、言われたとおりに店の品ぞろえを見て回る。

 

 

「いまいち実感がわかないんですけど、魔法って杖によってどう変わるんですか? 唱えるだけなら無手でもできますし……」

 

 

 杖を探すにあたって尋ねておきたいこと。

 今私の杖への判断基準がリヴェリアさんとはかなり異なる。

 自分は持ちやすさだけを考えて探しているが、恐らくリヴェリアさんは材料から知ることのできる特性や質など、深いところまで考えているようだったからだ。

 

 

 

「主な効果は魔法の威力向上だな。上層では余り問題にはならないが、下層からは前衛だけでは倒すのが困難なモンスターが出現し始める。……そこで私たちの出番だ、前衛が敵を抑えているうちに詠唱を終わらせ、一網打尽にする」

 

 

 嘗て人間は怪物に挑むために技術を磨いた。

 自らの背丈を優に超える化け物を前に狂わず、自らの持てる全てを込めた一撃。それは圧倒的な種族差を無視して怪物を斃すに至った。

 

 ──マーシャルアーツとキック。

 

 つまりはそう言う事なのだろう。

 決定打を与えられない一撃を、斃し得る一撃にまで押し上げる魔導士のとっておき。

 

 

「なるほど……」

「まあ、例外はある。それこそ、無手で放った魔法で倒せるのが理想ではある……魔宝石代は馬鹿にならないからな……」

 

 

 レノアさんの店に来る理由である杖に取り付けた石の交換。

 

 先ほどヘファイストスファミリアで笑えてくる値段の装備を見ていたので、当然魔導士の装備も値が張ると思っていたが、やはり一流魔導士の持つ杖の整備代はリヴェリアさんでも痛い出費らしい。

 

 ──結局、話を聞いてみた上でも、杖を選ぶ判断基準は増えそうになかった。

 

 素手で発動しただけで軽くヒトを殺せたのだから、威力を高める必要はない。

 魔力の使用効率なんてのも、呪文の影響での疲労感は殆ど無いことから無視してもよさそうだ。

 詠唱時間の短縮などの便利な効果があるなら手に取ってもいいが、多分そんなものは無い……。

 

 威力不足なら、確実に殺す呪文を選ぶだけ。

 切迫した状況なら瞬時に発動する呪文を選ぶのみ、懸念と言えば数多くある呪文から最適なものを選べるかどうかくらいだ。

 

 

「……あれ?」

「どうかしたか?」

 

 

 杖が置かれているスペースから目線を逸らし、レノアさんが消えたカウンターの方を見た時、あるモノに気付いた。

 商品とは思えない乱雑な置き方で捨て置かれている分厚い本。表紙の何処にも題名が書かれておらず、詳細は開かないとわからない。

 本としての便利さに欠けた欠陥品ではあるが、少し興味が湧いた。

 

 

「それは恐らく魔導書(グリモア)だな、商品ではなくても開くんじゃないぞ」

「グリモア、ですか?」

 

 

 此方の価値観でも、魔道書とは気軽に開けるものではない。

 知るべきではなかった世界に気付いた閲覧者は、種族の繁栄という与えられた命題に疑問を抱いてしまうから。

 

 その事に気付いているのにも関わらず、自分が正気を保って呪文を唱えられるのは、異界の啓蒙をゲームの中の出来事として矮小化しているからか。或いは元から正気ではないからか。

 呪文より、別の世界に別の人間として投げ出され、汚物にまみれたあと人を殺したのにも関わらず正気を保っているという事実の方が狂気的だ。

 

 ……全ての出来事には意味があるというが、そうやって最悪の方向に深読みするのは良い習慣とは言えない。やめよう。

 

 きっとリヴェリアさんが止める理由はもっと健全な物だろう。

 大方ロキの言っていた、最初から魔法が使える人間は珍しいという話に繋がる物。

 

 

「──読めば魔法が使えるようになるといった代物だよ」

「……ああ、だから読んじゃいけない訳なんですね」

「そういう事だ。市場価格は想像の通りだろう、うっかり読んでしまった時にはヘファイストスの所にあった武器や私の杖の魔宝石と同等の金額を払う事になるな」

「ひえっ……」

 

 

 伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。

 私には宇宙的な恐怖よりも金銭的な恐怖の方が身近にある根源的な恐ろしいものに思えた。

 

 

「またせたね、お嬢ちゃんに丁度良さそうなものとなるとこれとかが……この本が気になるかい?」

「レノアさん……まあ、ソウデスネ」

 

 

 絶妙なタイミングで店の奥から帰ってきたレノアさんは、私たちが本の前にいることに気付いてニヤリと嗤った。

 

 

「それは魔導書(グリモア)の失敗作さ、魔法を覚えさせる機構を極限まで最適化しようとして、肝心の内容を記すことに失敗した欠陥品。恩恵に干渉する機能だけは一丁前にあるから魔力の通りは良い、杖の代わりには丁度いい一品さね」

 

 

 まあ、杖を持たずに本を持つ物好きがどれくらいいるかって話で、処分方法を考えていた所なのさ、と言うレノアさん。

 言外に持っていってくれという意思を感じる気もしなくはない。

 

 

「ということは読んでみても、いいんですかね?」

「勿論。まかり間違って魔法を覚えられたなら今度から店に並ぶようになるだけさ」

 

 

 許可をもらったことで心置きなく手に取れる。

 分厚いとは言っても紙と皮。悪漢から奪ったナイフよりも、標準的な大きさの杖よりも軽い。手頃な重さだ。

 

 カウンターの上で開いて見せると、何ページにもわたって白紙のページが広がっていた。

 最適化の末に内容が無い本が生まれたということだが、逆に好都合に思えてきた。

 ──種類が多い弊害として、最適なものを選べない事。

 

 薄々考えていた欠点だが、本に全て書き記してしまえば問題ない。

 ──しかも魔力の通りが良くてお得だ。

 

 

「この本、いただけますか?」

「ひひひ、まいどあり」

 

 

 子供は他と違うものを欲しがるんだよなと言わんばかりのレノアさんと、呆れ交じりのリヴェリアさん。

 使える呪文が多い事を知っているので納得はしつつも、もどかしそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無銘の魔導書を購入した後、私たちはレノアさんの店を出て再び冒険者通りに帰ってきた。

 魔導書は今、片手で胸元に固定する形で持っている。

 

 

「良かったんですか? 魔導書だけじゃなく杖まで買ってくれて……」

「気にするな、ミスリル製の杖だから刺突武器にもなる。護身用に持っておけ」

 

 

 破格の値段で魔導書を譲り受けた後、リヴェリアさんはレノアさんが倉庫から持ってきた杖も買ってくれた。

 魔法の威力を高める効果こそないけれども、ミスリルを使ったことで魔力効率は良い、レベル1に渡すには少々お高い一本。

 今日一日でリヴェリアさんをはじめ、ロキファミリアには大きな恩を貰っている気がする、一生かけて報いねばなるまい……。

 

 

「用も済んだことだ。さっき言っていた店に寄ったらホームに戻ろう」

「そうですね! 所で聞いてませんでしたけど、アイズが好きな食べ物ってどんなのなんですか?」

 

 

 アイズの好物。

 そういえば何も食べていないので、流石にそろそろお腹が空いてくる。

 一体どんな食べ物なのだろうか、子供らしく甘いお菓子? それとも冒険者らしく豪快に焼いたお肉とか……? 

 想像しただけで期待が深まる。

 

 

「ジャガ丸くんだ」

「じゃが丸くん!???」

 

 

 今日一番の驚愕の声が自分の口から漏れ出る。

 想像していなかった。想像するわけがなかった。

 じゃが丸くんという食べ物について知らない訳ではない、私も今のこの体くらいの頃は給食の時に好んで食べていた。

 ジャガイモをまるまる一個揚げて、ケチャップやお好みのソースを掛けたり、プレーンで食べる料理。

 

 異世界独自の郷土料理だったり、色々な神話世界の文化が融合して生まれた料理を期待していたわけではないと言ったら嘘になる。

 親しんだ料理がもう味わえないなんてこともない、私は恵まれている。

 

 だけどまさか異世界で最初に食べる料理がじゃが丸くんになるとは夢にも思わないだろう!? 

 

『得体の知れない恐怖の存在として生まれたはずが、極東の地では美少女として萌えの対象になっていた……』

 

 少し違うかもしれないが、大体そんな感覚。

 しかもリヴェリアさんが特に気にしている様子が無いことからポピュラーな料理かもしれない。

 まさか知る人ぞ知るマイナーな料理が異世界で幅を利かせているとは考えもしなかった。

 異世界カルチャーショックである。

 

 

「……失礼、取り乱しちゃいました。芋がホクホクで衣はサクサク、美味しいですよねじゃが丸くん」

「食べ過ぎは良くないがな。先程の様子を見れば心配はないが、アイズにも持っていってやってくれ」

 

 

 一緒に食べれば仲も深まるだろう、という思いやりが込められた言葉に涙が出そうになる。

 良い人だ……。今日あった散々な事がリヴェリアさんのお陰で全てチャラになったとさえ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐで日が暮れそうな時間帯。

 冒険者通りを歩く人々も家路を急ぐ者が多くなり、店仕舞いを始める屋台も出て来た。

 片付け始めている所は食料品ではなく雑貨を取り扱っている店が多く、逆に酒場や食品を取り扱う屋台はこれからが稼ぎ時、客を呼びこむ声が盛んに響き渡っていた。

 

 私たちは冒険者通りからロキファミリアへと続く道の近くにあったじゃが丸くんの屋台の前で足を止める。

 

 

「店主、品ぞろえを聞いてもいいか?」

「おっ、アイズちゃんにかい? 今はソース味にプレーン味、小豆クリーム味に抹茶クリーム味まで全部できたてだよ!」

「──らしいが、何か食べたいのはあるか?」

「うーん……店主さん、お勧めはありますか?」

「記憶の限りじゃ初めて見る顔だねえ、ウチの店のジャガ丸くんは全部オススメだけど、最初はやっぱりソース味かな」

 

 

 とのこと。

 リヴェリアさんに目配せしてみれば、分かっているとばかりに頷いてみせた。

 

 

「全種類1個ずつ頼む」

「あいよ!」

 

 

 分かっていなかった。

 無表情でリヴェリアさんを眺めている間にじゃが丸くんたちが紙袋に詰め込まれていく。

 詰め終わったじゃが丸くんたちはリヴェリアさんに渡されて、ロキファミリアに帰ろうかというところで店主さんから声が掛けられた。

 

 

「お嬢ちゃんに1個サービスだ! 今度はアイズちゃんと一緒に来な!」

「ありがとうございます……!」

 

 

 持ちやすいように下半分を紙で包まれたじゃが丸くんを魔導書を持っていないもう片方の手で受け取る。

 できたてという言葉に偽りはなく、ほかほかと温かさを感じるじゃが丸くんをくれた店主さんに礼を言い、私たちはロキファミリアへの帰路についた。

 

 ──歩きながら食べるじゃが丸くんソース味は、食感から味まですべてがコロッケだった。

 

 

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