TS転生貧弱冒涜ロリ 変身願望を持つのは間違っていない 作:アあゝ
励みになりました!
「お帰りぃ~! 用事ってラヴたん連れてのオラリオ巡りやったんやな、教えてくれればウチもついてったのに~」
「知ってたら言わなくても着いてきていただろうに……」
昼頃に用事といって出掛けて行った二人がようやく帰ってきたので、出迎えるロキ。
リヴェリアの抱えるジャガ丸くんコンプリートセットとラヴクラフトが持つ魔導書を見て、買い物に行ったことに気付いた。
オラリオ巡りの成果としてじゃが丸くんは兎も角、本の方は何やら特別そうな雰囲気を感じ、一筋の汗が垂れる。
ロキの想像通りならその本は一年間ほど酒を我慢するかもしれない値段の代物。
ーー訊きたくない、だが訊かねばなるまい……。
もし本当にあれが
共通語を読めないにも関わらず、いきなり本を買うのはロキをしても意味が分からなかった。
「それで? 一体どんな掘り出しもんを買って来たのか教えてもろうてもええかな……?」
「はい、これなんですけど、レノアさんって人が経営してる魔道具店で格安で譲ってもらったんです!」
「へ、へえ~でもそれ
リヴェリアが連れて行った店の事は、当然ながらロキも知っていた。
魔法大国アルテナとのパイプを持つ店主の老婆、レノアによってリヴェリアの杖は力を取り戻し、ファミリアの予算は溶けていくのだ。
その事を踏まえてみれば、
「そう心配しなくていい、その本は失敗作らしいからな。」
「……そ、そうなんや? それは一安心ーーって失敗作掴まされたんか!? ちょっと聞き捨てならんのやけど?」
普通に
だが、失敗作を不当な値段で売ったのだとしたらそれはロキファミリアへの宣戦布告。
本来の一割の値段と言われても、効果の無い
ただの重いだけの
あどけの無い子供にお得だと信じ込ませて購入させたなど、今まで築き上げてきた信頼関係を崩す行為だ。
「この本、
「杖探しに行った結果がこれだ。相手も処分したがっていた品で、一緒に買った杖の方が高い」
「あっそうなんや」
ならええか。
事を構えるのもやぶさかではなかった気持ちが急速に冷え切る。
ラヴクラフトが持っているのは
杖みたいに魔法が使える本である、そう思えば高い買い物ではない。
杖ばかりで陳腐化している魔導士たちの中で一人魔道書を片手に戦ったっていいのだ。どうせならもう片方の手に錫杖をもって、自分と同じ訛りで話してくれたらもっと良いが。
「後はバベルに行って【
「ゴブニュのとこじゃないんか」
「まあ、そこはオラリオの案内もある。バベルにあるんだ、行かない理由もないだろう?」
「それもそうやな」
ゴブニュファミリアは確かに得意先ではあるが、団員によって懇意になるファミリアも変わる。
沢山いる鍛冶師の中から相性のいいパートナーを見つけ出す事になるのだから、特定のファミリアだけとの交流とはならなかった。
ラヴクラフトが入団したことによってこれからはヘファイストスファミリアとの交流も活発になるだろう。
「報告は以上だ。後ほど明細は纏めるが、ロキからは何かあるか?」
「おう、あるで。ラヴたんに朗報や~!」
本題。
今朝で会ってからずっと考えていたラヴたんの名前、その決定案。
ファミリーネームであるラヴクラフトではなく、個人を指す名前を与える時が来た。
突然の知らせに驚いた少女を前に、ロキは愉快そうに笑った。
「朗報、ですか?」
ロキが心底面白そうにニヤニヤ笑いながら言い放った朗報。
いきなり朗報と言われても、少し対応に困る。
今日一日、ロキファミリアに関わる全ての事が朗報であり、吉報だったのだから。
とはいえ他ならぬ主神からの朗報。
興味を持たない訳が無かった。
「ラヴたんの名前、決まったでー!」
「ほう……!」
名前、マイネーム。
特定の呼称で呼ばれることは滅多になかった為に、ラヴクラフトだけでもあまり違和感を抱いていなかったのだが、リヴェリアさんが自分以上に反応したところを見てその重要性に気付く。
自分が適当にこじつけたラヴクラフトと一緒に生涯名乗ることになる。ーー家族から与えられる名前。
「そうなんですか……!」
「うん、件のローカル言語を調べてたから少し命名センスがそっち寄りにズレたんやけど……縁がありそうやからな、それでもええかと思って」
ローカル言語。という事はギリシャ語から名前を決めたのだろうか……?
ロキのいた北欧神話世界から引用した名前を貰えると思っていただけに、少し残念だ。
フェンリルとかヨルムンガンドとか、ロキの子供に当たる存在はかなりいた筈であり、彼らの語感は嫌いではなかった。
「魔導士としての大成を祈って『アルヴィース』なんてのも考えたけど、少し仰々しすぎるからな、没にしたんや」
確かに仰々しい。
ロキ自身から全知の存在は居ないなんて言われたのに、それが名前として周知されたら私は神お墨付きの何でも知ってる人になってしまう。
確かに呪文のレパートリーこそ多いが、何でもは知らないのだ、知っている事を有効活用しているだけである。
「勿体ぶらずに早く言え。この子以上に私も気になっているんだ」
「もうちょっと引っ張ってもええかと思っとったけど、リヴェリアが言うならしょうがないな……ーーラヴたんのこれからの名前はな、イデアや」
「ーーっ!」
中々話さないロキに痺れを切らして、リヴェリアさんが一言告げる。
引き延ばすのも限界だと悟ったロキは、あっさりと私の名前を伝えた。
イデア。
イデア・ラヴクラフト。それが私の名前。
ーー得体の知れない一族の、名前もない娘。
目を離せば、すぐに消えてしまいそうな雰囲気すら感じたロキは、ギリシャ語で見えるもの、姿を指す言葉であるイデアを選んだ。
ファミリアの
「イデア、か。ロキにしては良い名前ではないか?」
「ウチだって真面目に考えることはあるわい!」
ロキが
リヴェリアの、酷かったら私が考えていたという言葉は噓偽りではなく、実行しうる凄味があった。
ロキに一言言ったのち、リヴェリアさんは私に確認を取るために目線を合わせてきた。
「どうだ? この名前でいいか?」
「……はい!」
家族が私の事を思って考えてくれた名前。
意味が無い文字の羅列ではなく、三文字にちゃんとした意味が込められている。
どうして断れる理由があろうか。
「そうか……ではイデア、改めてファミリアにようこそ。私たちロキ・ファミリアはお前を歓迎する」
「では私も改めて……イデア・ラヴクラフト、このファミリアでお世話になります!」
「そういうのって主神が言うもんやないんか……?」
今日一緒に過ごして、リヴェリアさんは話し方で距離感をとっている印象と一緒に優しさが溢れる人だと認識していたが、言葉からいきなり纏っていた棘がはじけ飛ぶ。
リヴェリアは困っていたのだ。
名前すら付けない一族の名称で呼ぶことを。
エルフたちが自身の生まれ育った地を名字にし、誇りに思う種族である以上当然のことだったのだが、時には汚点にさえなりうる姓を呼び続けるのは如何なものかと悩んでいたのだ。
そして自身が信じる神が名付けた名前であれば忌避することでもない、今まで名前が無かった分、名前で呼んであげる事が大事だと。
「ありがとうございます! この名前、大事にしますね!」
「明日の朝、朝食の時みんなの前で挨拶してもらうからな~!」というロキと別れ、今度はアイズの部屋の前へとやって来た。
扉をノックしようかというところで、リヴェリアさんから声が掛かる。
「今日は救護室で寝てもらう事になるのだが、イデアには明日からはここでアイズと共に生活してもらう事になる。大丈夫か?」
「ええと、はい」
歳が同じもの同士、同室にしない理由もない。
リヴェリアさんはアイズとの仲を深めさせるためにじゃが丸くんを買ってくれたのだと思ったが、まさか引っ越し挨拶という名目でもあったとは……。
この私の目を以ってしても分からなかった。
「後は当人同士での話題だからな、私は失礼するぞ。おやすみ」
「おやすみなさい」
リヴェリアさんの、仲介が無くとも上手くやれる、そんな信頼を込めた一言。
確かにアイズは私に興味を抱いてくれている事もあり、壁も無いに等しいが……。
少し私を過信してないだろうか……?
手を振った後、廊下の先に消えてゆくリヴェリアさん。
ここから先は自分の意思で動かねばいけない。
即断即決、扉をノックした。
「……」
少しだけ開かれた扉の先にあったのはアイズの用事を聞くための無言の姿勢。
物静かな印象を抱いてはいたが、もしかしたら人見知りをするタイプなのかもしれない。
「……あっ」
「こんばんは……」
朝一緒にジョジョ立ちをしたこともあって若干仲が深まっていたからか、私の姿を視界に捉えたアイズは少し声を上げたあと、扉を開けて部屋の中から出て来た。
「こんばんは――ッその匂い、ジャガ丸くん……!?」
「う、うん、そう。良かったら一緒に食べませんか?」
近くに来たことで、紙袋の中のじゃが丸くんの存在に気付いたアイズは食い気味に詰め寄ってくる。
紙袋を広げて中身を見せると、無表情だった顔をパッと輝かせ、部屋の中に戻っていくアイズ。
――来て。という声が程なくして部屋の中から届いた。
目に見えて機嫌を良くしている理由は多分中身のじゃが丸くんが一個だけじゃないから。
好きなものを沢山貰ったら嬉しくなるのは当然の事である。
リヴェリアさん、ナイス判断でした。
先程までと比べたら喜色が混じった声に連れられ、部屋の中に入るとベッドの上に座っているアイズがいた。
「ここ、すわって」
「あ、はい……。失礼します」
自分も同じくベッドの上に乗っかってみると無言の時間が流れる。
――持ってきたものを催促するほどにはまだ馴染んでいなかったのだ。
「これ、ファミリアの近くにあった屋台で買ったじゃが丸くんなんですけど、先ず何味を食べます?全種類ありますけど」
「小豆クリーム味!」
店主のおじさんはアイズと顔見知りのようだったが、この食い付きを見せられたら覚えるなと言われても無理がある。
袋の中から小豆クリーム味のじゃが丸くんを取り出して手渡すと、私も抹茶クリーム味のじゃが丸くんを手に取った。
至福の時間だと言わんばかりに美味しそうに食べ始めたアイズを傍目に、私も噛り付く。
抹茶クリーム味だ。
「そういえば自己紹介してませんでしたよね、私の名前はイデア・ラヴクラフトです。さっきロキに名前を貰ったばかりで……ようやく自己紹介できました」
「忘れてた、私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。よろしく」
アイズの小豆クリーム味のじゃが丸くんを齧りながらの自己紹介は、アイズがじゃが丸くん大好きな子という話が誇大されたものではない事実だということを実感させる。
ソース味のコロッ……じゃが丸くんは商店街のできたてコロッケの味がしたけど、小豆クリーム味は一体どんな感じなのだろうか……?
いや味に想像はつくが……。
「……良かったらちょっと食べる?」
「いいんですか!?」
「代わりに抹茶クリーム味もちょっと頂戴」
美味しそうに食べている小豆クリーム味を分けてくれるとは思わず、驚きの声を上げると、どうしたと言わんばかりにアイズは首を傾げた。
もしかしたら各種一個しかないから抹茶クリーム味が食べたくなっただけなのかもしれないけれど、アイズの思いやりを感じて頷く。
「じゃあ、はんぶんこですね……!?」
じゃが丸くん抹茶クリーム味を半分に割ろうとしていると、口の前にじゃが丸くん小豆クリーム味が差し出される。
あっ、一口なのか……。本当にちょっとだった。
「どう?美味しい?」
「おいひいでふ」
小さな口で一口かじってみると、サクサクな衣の中からジャガイモとクリーム、小豆が交わった味が口に広がる。
甘い。小倉トーストのトーストがコロッケになった感じである。
主食として食べるのはどうかと思うが、コロッケ味のコロッケを食べていたこともあり、スイーツとして楽しめた。
アイズが食い気味に聞いてくるので飲み込む前に答えたが、飲み込んだ後も感想は変わらなかった。
「アイズが好きになるのも分かる気がします……! 今度一緒に買いに行きませんか?」
「うん!」
ダンジョンで稼いだお金であのお店にじゃが丸くんを買いに行く。
そんな約束をしてからは話が早かった。
じゃが丸くんによって生まれた私たちの縁はじゃが丸くんによって深まってゆく。
アイズに残りのじゃが丸くんを食べさせながら、今日の事、部屋の事と様々なことを話していくうちに夜は深まっていった。
深夜、人々が寝付く時間帯。
陽が出ている時でさえ薄暗いダイダロス通りが、完全に闇に染まった頃。活発に走り回る男たちの姿があった。
皆が皆、切羽詰まった表情を浮かべて周囲を執拗に探して回る。
「探せぇ! あんな小娘がダイダロス通りから逃げられるわけがない! きっと未だ近くに隠れているはずだ! 計画の要が無けりゃ闇派閥の他の勢力に後れを取る、見つけるんだ、『依代』を!!」
不正の名を冠するファミリアの団員達は必死で少女を探す。
脈動する邪悪。大抗争は近い。
今回迄を一章に、次回から二章になります。
書き溜めするために少々お時間いただきますね……!