エイシンフラッシュを担当したトレーナーの人生

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閃光の道に俺はいない

次はいつ会えるの?

 

彼女からLINEが来た。ざっと頭の中でレースの予定を考えて、空いてそうな日を考える。

 

次は3週間後かな、なかなかデート出来なくてごめんね。

 

返信をしてスマホを閉じた。

 

俺には彼女がいる、だけど、トレーナー業は案外忙しく、あまりデートができていない。

 

なんとか予定をあわせて会い、デートをして帰る。

 

長いこと付き合っていて、お互いのことを知り尽くしているから、新しい何かはもう見つからない。

 

それはすでに、義務のようなモノとなっていて、輝きは失われていた。

 

 

「今日のメニューは昨日伝えた通り────いつもと違って、力の掛け方に注意してこなしてみてくれ、何か質問は?」

 

「ありません」

 

「じゃあ、始めてくれ」

 

トレーニングの指示をして、様子を見る。

 

俺の担当バ、エイシンフラッシュは黙々とメニューをこなしていく。

 

俺は、彼女から目が離せなかった。

 

美しい黒鹿毛の髪と尻尾、端正な顔立ち、女性的で魅力的な肉体。

 

それだけじゃない、完璧であろうと努力する姿、計画が乱れた時の慌てる様子、ちょっとした仕草の隙、etc…

 

俺はフラッシュに惹かれていた平たく言えば、俺は恋心が芽生えていた。

 

 

 

しばしば、親睦を深めようと称してケーキ屋巡りをするようになった。

 

個人的には願ったり叶ったりで、彼女との予定も被らなかった時に行っていた。

 

これはデートじゃない、仕事の一環、信頼関係の構築なんだと言い聞かせた。

 

 

 

ある日

 

「トレーナーさん、今週の日曜日の予定なのですが、そろそろシューズと蹄鉄を新調しようと思います。ですので、トレーナーさんも一緒に見てくれませんか?」

 

今週の日曜………確か彼女との予定があったのだが……

 

頭によぎるのは、彼女とのデートの問題だ。最近はお互いに意見を主張し合うようになり、あまり楽しいものではなかった。

 

それと比べて、フラッシュはどうだ、一緒に居て俺は楽しいし嬉しい、それに、仕事の一環なんだから断っても問題はない───

 

ピースは出揃った。

 

「ああ、わかった、どこの店に行くんだ?」

 

 

 

その決断はあまりにも愚かだった。

 

「ねぇ!昨日のデート断ったのって浮気してるからでしょ!」

 

レースの予定などは知られていて、その上、数日前に急に予定を取り下げるなどすれば怪しまれるのは当然である。

 

さらに、運の悪いことに、たまたま同じショッピングセンターで買い物をしていて俺とフラッシュが一緒に居る所を見ていたのだった。

 

「本当に最低!信じてたのに!」

 

電話越しに別れを告げられたのであった。

 

 

 

その日から、俺はより仕事に身が入った。

 

仕事をすることはそのままフラッシュの為になる。

 

誰かの為に何かをすることがこんなにも楽しく、生き甲斐になるとは思わなかった。

 

こんな日常が、ずっと続けばいいのにと思っていた。

 

 

 

そうこうして日々は過ぎ、卒業式も間近となった。

 

フラッシュが卒業すれば、トレーナーという関係も無くなる、彼女に告白をして、関係を進めよう───と思うも頭によぎる懸念。

 

俺はフラッシュに入れ込んでいたが、彼女から見た俺はどうだっただろうか?

 

彼女は俺のことを異性として見ることができるだろうか?

 

信頼関係はあったし、善き指導者であったことは自負しているが、俺は"指導者"止まりなのではないか。

 

考えれば考えるほどドツボに嵌まっていく。

 

 

 

そういえば、俺がトレセンに入った頃に良くして貰っていたルドルフが担当だった先輩トレーナーはこう言っていた。

 

『愛って何なんだろうな?』

 

『俺の愛は愛じゃなかったのか?じゃあ、愛って何なんだよ…!』

 

飲み会でそう溢していたのを印象的に覚えていた。その後先輩は自殺してしまった。

 

 

 

自殺したトレーナーと言えば、内藤先輩も自殺してしまったのを思い出した。

 

メジロマックイーンが担当で、卒業式で告白してフられた事を苦い思い出として語っていた。

 

そんな内藤先輩は何の因果か、マックイーンの結婚式の日に自殺してしまった。

 

 

トレセン学園ではしばしば自殺者が出る。トレーナー業がいかに過酷で心身を削るかをよく表している。

 

死んでしまったトレーナーはだいたいが担当ウマ娘にフラれた過去がある。

 

もし、フラッシュにフラれたら俺も自殺してしまうのだろうか?

 

怖くなった。

 

俺は臆病者だったから、前に進むことを諦めた。

 

 

 

もし、俺がフラッシュと付き合ったとしても、きっとまた、"同じ事"を繰り返してしまうだろう。だったら、彼女の人生の幸せを願うのであれば、告白すらしない選択を取るのは真っ当なことだと必死に言い聞かせた。

 

 

 

それから、世界は灰色のままだった。

 

仕事はそこそこ上手くやれてるし、独り身だから金も余るし、使い方も自由。

 

ただ、心は死んでいた。

 

 

5年ほど経った頃だろうか、フラッシュから結婚式の招待状が届いた。

 

式場で見たフラッシュは美しくて、幸せそうだった。

 

その隣に俺が居た世界もあったんだろうかとぼんやりと考えた。

 

本当に、幸せそうでよかった。

 

そこからまた何年か経った頃、子供が出来たと年賀状に書いてあった。

 

ああ、よかったな、幸せそうで。

 

 

 

今の俺に後悔は無い。だってそうじゃないか?好きな人が幸せに生きてるんだ、それだけで十分だろう?な?

 


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