(あらすじ)
ムリナールがロドスで保護した幼い子供たちに付きまとわれている場面に偶然居合わせたドクター。彼に助けを求められるも、ドクターには力不足だった。

ちっちゃい子供たちにムリおじ呼ばわりされるムリおじが書きたかっただけのなんでも許せる人向け。
エリジウムは絶対「ムリおじ~!」って軽く呼んで怒られる。ロドスキッチンで見た。

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騎士としてではなく

 ロドス本艦を散歩している最中、ドクターは面白い光景を見つけて足を止めた。

 

 廊下の窓際に設置されたベンチの上で、年端もいかない子供たちが、きゃいきゃいと騒ぎながらあるオペレーターに群がっていたのだ。

 

「……ムリナール?」

 

「ああ、いいところに来てくれた、ドクター。……助けてはもらえないか?」

 

 腕をぐいぐい引っ張られながら、ムリナールはうんざりした表情で流し目をくれた。

 

 周囲を拒絶するように新聞を広げている様は、ごく普通の社会人といった様子。そこに子供たちがまとわりつくと、途端に大家族を公園に連れてきた父親のようだ。

 

 なお、当然といえば当然であるが、集っている子供たちは皆、ロドスで保護した感染者の子供たちである。

 

「ねーね、ムリおじー。あそんでー?」

 

「何度も言っているが他を当たれ。私はこれから仕事がある」

 

「でもずーっとここにいるよね。おしごとないんじゃないのー?」

 

「ある。お前たちが退いてくれないせいで、動けないだけだ」

 

「じゃああそんでー!」

 

「断る」

 

「えー!」

 

 ―――なるほど、平行線の押し問答か。

 

 ドクターは大体の事情を察すると、ムリナールの隣に腰かけ、まとわりついている子供のひとりを抱えて膝の上に座らせた。

 

「こーら、ムリナールおじさんを困らせてはいけないよ」

 

「だってどくたぁー! ムリおじがあそんでくれなーいー!」

 

「彼にも仕事があると言っているだろう? またの機会にしよう。それと、ムリおじじゃなくてムリナールおじさんと呼ぶんだ」

 

「えー? ムリおじはムリおじだよ?」

 

「そーだそーだー!」

 

 子供たちから、口々にブーイングが始まってしまった。

 

 ムリナールも流石に辟易しているようだが、折れるつもりは一切ないようで、態度を改めることはない。

 

「ね、ね、ムリおじ、ここなんて読むの?」

 

「勉強すればわかることだ。私になど構っていないで、ドクターにでも習ったらどうだ?」

 

「やーぁ! おしえてー!」

 

 腕を潜り、新聞とムリナールの間に着た子供が大きな胸元にしがみつく。

 

 ムリナールは溜め息を吐いて新聞を閉じると、尖った耳を萎れさせながらぼやいた。

 

「ドクター。私は何故こんな目に遭っていると思う?」

 

「ムリナールのそっけない対応が珍しいのかもしれない。みんな、ここでは可愛がられているから」

 

「呆れたことだ。どうやらロドスは、職員のみならず患者の子供にまで甘いらしい」

 

「……まあ、ね」

 

 先日も見たスズランの報告書のことを思い出しながら、ドクターは苦笑する。

 

 もうひとり、子供を自分の方へ招き寄せ、頭を撫でて宥めてやっていると、白衣を羽織ったハイビスカスが走ってきた。

 

「見つけましたよ! もう、こんなところに……。お疲れ様です、ドクター、ムリナールさん。子供たちがご迷惑を……」

 

「そう思うのであれば、早々に引き取ってもらえると助かるのだがな。私もいい加減、次の仕事に遅れそうだ」

 

「ほ、本当ですか!? ほら、みんな。お部屋に戻りますよ。これから順番に健診の時間ですからね」

 

「えー!」

 

「やーだ! ムリおじとあそぶのー!」

 

「わがままを言う子は、ガヴィル先生に怒られてしまいますよ!」

 

 ガヴィルの名が出た瞬間、子供たちはぐっと言葉に詰まった。

 

 幼い子供たちは互いに顔を見合わせると、不承不承といった感じでムリナールから離れ、ハイビスカスの元に集まった。その眼差しは未練がましくムリナールに向けられたままだったが、当のムリナールは知らん顔。

 

 ハイビスカスが頭を下げ、子供たちを連れて行った後、彼は新聞を閉じて立ち上がった。

 

 ドクターも一緒にベンチを立ち、互いに何を示し合わせるでもなく、連れたって歩き始める。

 

「子供は苦手?」

 

「私の手には余る。今も、昔もな。私の言うことを聞かないのは、どこの誰の子でも同じことらしい」

 

 ムリナールは窓の外を見た。

 

 遠くにきらびやかなネオンサインに彩られたビルの群れ。遠くからでもよく見えるセンセーショナルな広告の数々が、大きな壁画のように広がっている。

 

 しかし彼の金の瞳には、そんなものなど映ってないだろうことは明らかだった。

 

「二アールや、ブレミシャインを引き取った時、随分苦労したんじゃないか?」

 

「あの子たちには常々苦労させられている。全く、誰に似たのだろうな。私やゾフィアが何を言っても頑として聞かず、今やこの通りだ」

 

 ドクターは金属マスクの下で頬をほころばせた。

 

 耀騎士二アールとブレミシャインの姉妹の性格は、きっと叔父から譲られたところも多分にあるのではないだろうか。

 

「……君たちは、よく似ているよ」

 

「少し話し過ぎたようだ。私はこれで失礼する」

 

「ああ、気を付けて。二アールによろしく」

 

「マリアには、機械いじりに熱中し過ぎるなと伝えておいてくれ」

 

 足を止めたドクターとは逆に、ムリナールは変わらぬ歩調で立ち去っていく。

 

 ドクターはしばらくその場で佇むと、角を曲がって通路の奥へと消えて行った。


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