ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

10 / 17


あの人は今は幸せだと勝手に思っています





幕間 その2

 

 結束バンドの練習中。

 

「ぼっちちゃん!最近調子いいね!」

「あ、そうですか? 自分でもちょっとそう思ってたんですよね、えへへへへ」

 

 てれてれと頭をかきながら答えるぼっち。

 

「ひとりちゃんが引っ張ってくれるから、私も上手くなった気分になって気持ちよく演奏できるわ!」

「あ、き、喜多ちゃんは本当に上手くなりましたから……」

「ほんとう? ひとりちゃんのおかげだわ!」

 

 盛り上がる結束バンド。だが、ひとりだけ不機嫌な顔がいた。山田リョウだ。

 

「……ごめん。今日は調子悪いから帰る」

 

 吐き捨てるように、リョウが言う。

 

 えっ?

 

「ちょっと、リョウ?」

 

 リョウはそのまま、誰とも目を合わせずスタジオから出て行ってしまった。

 

 

 

 

 リョウは、ベースを背負いあてもなく歩いている。

 

(天才がわざわざ私達のレベルに合わせてくれているのわかってるくせに……)

 

(他のメンバーとセッションした方が楽しいこと自覚してるくせに……)

 

 心の中にあるモヤモヤを、言語化することができない。自分でどうしたいのか、自分でもわからない。どこかで落ち着いて考えたいとも思うが、そうするとどす黒い不安に飲み込まれてしまそうな気がして、足を止めることができない。

 

 ふと、人ごみに視線がとまる。

 

 路上ライブ? 弾き語り?

 

 初老の男性が、アコギを抱えてつぶやいている。幸が薄そうで、ついでにあたまがちょっと薄いおじさんだ。

 

 

 

 

 ちゃら〜ん

 

『友人に裏切られ〜、20代で1億の借金を背負いい〜』

 

 ちゃらら〜ん

 

『娘がやっと成人したと思ったら〜、妻に離婚を切り出され〜』

 

 

 

 

 暗い。とにかく暗い。気持ちよい青空の下、男性の周囲の空間だけが、どんよりと歪んでいる。

 

 リョウの足は、いつしか止まっていた。そしていつの間にか、弾き語りに聞き入っている人々の輪にはいっていた。

 

 落ち込んでいる時、とことん暗い歌を聴きたくなる人がいる。希望のない歌に浸ることにより、どん底まで落ちて行きたくなることがある。そうやって現実世界のイヤなことを一時的にでも忘れたくなる時がある。

 

 この人の弾き語りは、確かにそんな効果があるようだ。

 

 いまここにいる人々は、きっとそれを求めているのだろう。つまりは、自分も……。

 

 

 

 

「おや、あなたは……」

 

 一曲おわったおじさんが、リョウに声をかけてきた。

 

「確かベーシストのお嬢さん。……おぼえておられませんか? いつかライブハウスで一緒になりました」

 

 不思議そうな顔をしていたリョウに、おじさんはご丁寧な自己紹介とともに名刺をさしだした。

 

「臼井……さん?」

 

 リョウはもう一度おじさんの顔を見つめる。そして、記憶をひねり出す。

 

「ああ! 娘が非行に走り家が三度も全焼した……」

 

「ははは、そのとおりですよ。……結束バンド、あれからがんばっておられるようですね」

 

 気に掛けてくれてたんだ。一回同じライブにブッキングされただけなのに。

 

「袖すり合うもなんとやらですから。で、どうでした、私の弾き語りは?」

 

 これが四畳半フォークというやつなのだろうか。ライブハウスできいたときは退屈だとおもったのだが、今日はちょっと本気で聞き入ってしまった。

 

 そして、思ったことをそのまま口に出す。

 

「……離婚、しちゃったんですか? 長年寄り添ってきた奥さんと」

 

 

 

 

 は?

 

 臼井さんが目を丸くした。まさか見ず知らずの、しかも娘よりも幼い少女から、そんなことを聞かれるとは想像もしてなかったのだろう。

 

 リョウにしても、なぜそんなことを聞いてしまったのか、自分でもわからない。

 

 それでも、苦笑しながらも臼井さんは答えてくれた。

 

「いいえ。しばらく別居していましたが、話し合いの結果、いろいろと誤解が解けたので別れるのはやめました。それを歌にしないのは、……不幸そうな語りをした方が、お客さんに受けますからね」

 

 臼井さんは片目をつむりながら、ギターケースの中にたまった投げ銭を見せてくれた。

 

「……突然離婚を切り出してきた相手に、なんと言ってよりをもどしたんですか?」

 

 言ってしまってから、自分が失礼な人間だと自覚しているリョウでもさすがにこれは失礼すぎると反省した。でも、謝る気にはならない。答えを聞きたかった。

 

「は、はははは。……正直に言葉にしたんですよ。別れないでくれ、おまえといっしょにいたい、ってね」

 

 それだけ?

 

「ええ。恥ずかしながら、長年連れ添ってきた妻に対してそれを言葉にしたのは初めてでした」

 

 リョウは口を開かない。何かを考え込んでいる。

 

 

 

 

 ちゃら〜ん

 

 臼井さんは、突然ギターを抱えつま弾き始めた。

 

「何も言わなくたって、通じていると思っていたんだぁ〜」

 

 ちゃらら〜ん

 

「ギターさえ弾いていれば、気持ちはすべて通じると信じていたんだぁ〜」

 

 てれん、てれん、てれれん

 

「でも、それじゃぁだめなんだ。大事なことは口にしないとつたわらないんだぁ〜」

 

 じゃがじゃがじゃ〜ん

 

「その人を失いたくないのなら〜、格好つけずに泣いてすがるんだ〜!」

 

 

 

 

「事情はまったくわかりませんが、あなたもがんばってくださいね」

 

 ……わかった。ありがとう。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。