ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

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きくり・ヨヨコ・リナ その2

 

「おい廣井。その、ぼっちちゃん? 緊張してるようだけど大丈夫なのか?」

 

 ステージの上、もくもくとチューニングしている少女をみて、さすがにリナは心配になった。

 

 さっきからずっとうつむいて、おどおどして、観客を一切みていない。

 

 そもそもあの子、あのピンクジャージのままステージにあがっちゃうの? 見た目を気にしないと言えばそれこそがロックと言えなくもないけど、せっかく可愛いんだからもっと綺麗な格好すればいいのに……。

 

「大丈夫大丈夫。リナ先輩、……度肝抜かれないでね」

 

 廣井きくりがニヤリと笑う。自信たっぷりだ。

 

 は?

 

「おーい、ぼっちちゃん! どうせ即席バンドなんだから、上手くやろうなんて考えずたのしく行こう!」

 

「は、はい」

 

 廣井の先輩風が鼻につくが、ぼっちちゃんは素直に頷いている。あんなアル中にこんなに懐いちゃって、お姉さんはぼっちちゃんの将来が心配だよ。

 

 ……それはそれとして、楽しく行くのは賛成だ。

 

 リナは思う。

 

 合わせの練習すらやったことがない面子でのぶっつけ本番なのだ。どうせそんなにうまく行くはずがないのだから。

 

「そーそー、ついでにさー、ここはSTARRYだからー、前半はぼっちちゃんが主役ということでどーかな?」

 

「え、えええ? そそそそんな、わたしごときが、おそれおおいです!」

 

「大丈夫だって、ぼっちちゃんなら!!」

 

 この点についても、リナとしては異論などない。もとより、自分が目立とうなんて思っていなかった。

 

 リナはプロだ。似たような状況は何度も経験してきた。十分な準備ができないまま迎える本番。思いもよらない現場のトラブル。あらゆる類いの大人の事情。……絶対的に技量が足りない共演者のサポートなど、珍しくもない。すべて、その場でなんとかしてきた。キャリアの糧としてきた。

 

 それにくらべれば、今回のこれはギャラもなく何の責任もない単なる場つなぎの余興でしかないステージだ。ほとんど顔見知りでノリが約束された客達。しかも、自分はともかく、……いや、廣井もともかく、若くて可愛いらしい女子がステージ上にいるのだ。

 

 よほど酷い演奏でなければ、盛り上がるに決まっている。……よほど酷い演奏だって、かえって愛嬌があるとウケるかもしれない。

 

 幸いにして、廣井の腕は信用できる。ボーカルの子も、配信で見た限りあの世代ではずば抜けているようだ。きっとぼっちちゃんも、廣井がああ言うんだったら大丈夫なんだろ。なら、せいぜい楽しくやらせてもらおうか。

 

「で、我々はぼっちちゃんの引き立て役に徹するのはいいが、前半だけなのか? 後半はどうするんだ、廣井」

 

「うーーん、客が暖まったら、……各自全力?」

 

 全力?

 

「私と大槻ちゃんはもちろん、きっとリナ先輩も、我慢できなくなるんじゃないかなぁ?」

 

 なんだそりゃ?

 

 

 

 

 

 

 曲は、廣井おねぇさんが提案した。バンドを組んだ経験のある世界中の老若男女すべて絶対一度はコピーしたことがあるはずの、ギターが超かっこいい名曲だ。

 

 もちろん、私もひたすら練習した。ギターヒーローとして何度もネットで披露した。弾くたびに上手くなったとコメントで誉められるのが嬉しかった。目をつむっても、なんなら背中でも歯で弾くことだってできる。

 

(リナさんのことはよく知らないけど、廣井おねぇさんと大槻さんとは合わせた事があるから、大丈夫。大丈夫。大丈夫)

 

 ぼっちは深呼吸。ステージに上がる前、背中を叩いてくれた仲間達の顔を思い出す。

 

 虹夏ちゃん。喜多ちゃん。……リョウさんが声をかけてくれなかったのは、照れているのだろう。

 

 もとよりここはSTARRY。店長さんもPAさんもいる。なにも緊張することはない、よね。いくぞ!

 

 

 

 

 

 う、うまいな、この子。

 

 リナは、ぼっちを全く知らなかったわけではない。たまたまSTARYに星歌をたずねた時、たまたま見た星歌の妹ちゃんと同じバンドでギターを弾いていた子。

 

 正直、あまりパッとした印象はなかった。

 

 ステージの上の様子は今日と同じ。ずっとうつむいて、猫背で、まったくもって華やかさの欠片もないリードギター。腕は、高校生にしては上手い方なんじゃないか、という程度だったはずだ。

 

 だからこそ油断した。

 

 曲が始まった瞬間、……ぼっちちゃんがギターの弦をつま弾き始めた瞬間、度肝を抜かれた。

 

 とにかくキレが良く正確な音を奏でる技術力。それだけじゃない。まるで歌うような表現力。

 

 廣井とリズムギターの子は、もともとぼっちちゃんのギターをよく知っているのだろう。そのうえで、ぼっちちゃんを引き立てることに徹しているのだろう。ぼっちちゃんも、そんなふたりを信用しているのか。のびのびとやりたいように技術を惜しみなく発揮している、というところか。

 

 そして、ソロ。

 

 

 

 

 ……なんだぁ、この早弾き。なんだ、この正確さ。

 

 誰もが知る曲だからこそ、そして誰もが一度は弾いたことがある曲だからこそ、誰もがそのテクの凄まじさを強制的にわからせられてしまう。

 

 技術だけなら、という条件はつくものの、並みのプロ以上の腕があることは間違いない。リナの知る限り、この年代では頭ひとつどころか、ずば抜けた断トツトップのギタリスト。

 

 観客達も唖然としている。おもしれー。普段はロックとか音楽業界とかに対して一言居士を気取ってる連中が、呆気にとられるその姿。

 

 まぁ、あんなジャージ姿の陰キャっぽい女の子にいきなりあんな演奏をみせつけられたら、そりゃ我が目を疑うだろう。なまじ業界通の連中ならなおさら。

 

 はっ、もしかして、……あのピンクジャージはそれを狙ってわざと?

 い、いや、そんなことはどうでもいい。

 

 まずは、目の前だ。『後半は各自全力で』と廣井は言ってた。……いいのか? 全力で叩いて。

 

 バンド演奏というものにあまり慣れていないように見える若者。私と廣井が本気になって引っぱってやれば、この即席バンドの演奏をさらにもう一段レベルアップさせることができるだろう。確実に。

 

 でも、いいのか? 本当にいいのか? ぼっちちゃんが自分のバンドに戻ったとき、虹ちゃん……だったかな、星歌の妹ちゃんと合わせられなくなったりしないか? 他のメンバーは?

 

 心の声が通じたのか、廣井が振り向く。そして、……私に向けてウィンク?

 

 な、なんだそれは? それがアイコンタクトのつもりなのか、酔っ払い。

 

 とにかく、その瞬間から、廣井の音があきらかに変わった。リズムギターの子も同じだ。ぼっちちゃんに対して遠慮しなくなった。ぼっちちゃんもそれに応える。バンドとしての音が変わる。やばい。

 

 ……えーい、くそ。私も我慢できん。自分よりも年下の連中がこれだけの演奏してるんだ。舐められてたまるか! もうどうにでもなれ! 全力だぁ!!

 

 

 

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