ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

13 / 17
きくり・ヨヨコ・リナ その3

 

 こ、こんなの初めて。

 

 歌いながら、ギターをつま弾きながら、大槻ヨヨコは気を抜けば飛びそうな意識を、必死に引き留める。

 

 初めは普通のセッションだったはずだ。だけど、後藤ひとりに負けたくないと必死になって、私だけじゃなくメンバー全員の温度がどんどんあがっていって、いつのまにか気持ちよくなって……。

 

 この数分間のあいだにステージの上の自分の身に一体何が起きているのか、自分でもよくわからない。まるで夢心地。頭の中が真っ白だ。

 

 ちらり。

 

 隣で弾いている後藤ひとりに視線を飛ばす。あなたは、平気なの?

 

 目がくらむほど眩しいライトの中。一心不乱にギターをかき鳴らすその姿。

 

 か、かっこいい。

 

 ボーッとした意識の中、おもわず見とれてしまう。

 

 いま、わたしは、この人といっしょに、セッションをしているんだ……。

 

 そう思うだけで、頭の中が痺れていく。

 

 相変わらずの猫背のくせに。ピンクジャージのくせに。人見知りのくせに。陰キャのくせに! 

 

 せ、責任、とってもらうんだからね……。

 

 

 

 

 

 や、やばいね。これは……。

 

 全身から冷や汗を噴き出しながら、廣井きくりはつぶやいた。

 

 この即席バンド、たしかに声をかけたのは私だけどさ。だけど、だけどさ、まさかこんなすっごいセッションになっちゃうとは、想像できるわけないよね。

 

 リナ先輩が上手いのは知ってた。大槻ちゃんも、ぼっちちゃんも。

 

 でも、もちろん私も含めて四人とも、決して日本一ってわけじゃない。この会場にだってもっと上手い人はたくさんいる。四人のセッションとしての完成度だって、決してまだまだ完璧じゃない。

 

 でも、人間が気持ちよくなるのってさ、完璧な物を経験した瞬間じゃないんだよね。本当の快感を感じる瞬間ってのは、レベルが低いところから急上昇する瞬間なんだよね。絶頂って、そういうことなんだよね。

 

 そう、この曲。たった一曲の中で、……ぼっちちゃんの独走から始まって、徐々に他のメンバーが合わせていって、初めは呆気にとられていた客がだんだん温まって、最後に四人が全力になって、いま最高潮に。

 

 ほんの数分間の間に、セッションとしてのレベルが凄まじい勢いで上がっていって、それが実感できてしまって、……やばい、やばいよこれは、鬼ころよりも脳に効く。アドレナリンにセロトニン。脳内麻薬でびしょ濡れだ。幸せ回路全開だ!

 

 ああ、もし毎日こんなライブできたら、わたし酒止められるのになぁ!

 

 

 

 

 

「おいおいおい楽しいな!」

 

 リナは脳内で叫んだ。脳内だけのつもりだったが、実際に口に出して叫んでしまったかもしれない。

 

 まあいいか。ドラマーが叫んだっていいだろ。

 

 とにかく、いま私は楽しいぞ。こんなに楽しいセッションは久しぶりだ。

 

 それなりの経験を積んできたと自負している私がこうなんだ。もともと脳がやられてる廣井はともかく、前にいる女子高校生のお嬢ちゃん二人は、これがきっかけでもう一生バンドから抜け出せなくなってしまったかもな。

 

 それもいいか。いいだろ。おまえら一生バンドやれ。ロックやれ。

 

 一応先輩から忠告させてもらうとな、今日みたいなセッションなんてめったにないぞ。たとえ同じ面子で集まったって、おそらく二度と同じ演奏はできないぞ。ていうか、このまま二曲目やっても、絶対に同じようにはならないぞ。

 

 それでも、おまえらはもう一生バンドをやめられないんだ。今日のこの快感を知ってしまったからな。麻薬中毒と同じだよ。

 

 おまえらこれから死ぬまで音楽漬けだ。金に困るぞ。家族に泣かれるぞ。世間の理不尽に泣かされるぞ。メンバーとの喧嘩別れなんて珍しくもない。そんなに可愛くても陽キャの青春なんて絶対無理。これから人生修羅の道だ。私と同じだ。ざまーみろ! ひゃっはー!!

 

 

 

 

 

 

(バンドって、こういうことなんだ)

 

 今さらながら、後藤ひとりは実感していた。

 

 リナさん、廣井おねぇさん、大槻さん。三人ともとても上手い。だけど、それだけじゃない。それぞれ曲に対する、いや音楽そのものに対する考えとか姿勢が違うんだ。それが音からわかる。自由に弾かせてもらった曲の冒頭はともかく、三人が本気(?)をだしてくれた今、それがありありとわかる。

 

 そんな絶対に自分の主張を曲げないメンバーによる、お互いに個性をぶつけ合う全力のセッション。たった一曲の間に、これほどまでに完成度が高まるなんて。

 

 いつかリョウさんが言ってた事。バラバラの個性が集まって一つのバンドになるって、きっとこういうことなんだ。

 

 押し入れに引き籠もっていたひとりぼっちのギターヒーローのままでは、絶対にできなかったこと。わたしがバンドに求めているのは、きっとみんなでそんなバンドをつくりあげる過程を経験したいってことなんだ。みんなで一緒に成長したいってことなんだ。

 

 ……みんな?

 

 みんなって、誰?

 

 もうすぐ曲が終わる。終わってしまえば、この即席バンドも解散だ。

 

 私が一緒に成長したいのは、この即席バンドのひとりとして? それとも……。

 

 

 

 




 
 
いちおう次で完結の予定なんですが、どうなることやら。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。