ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし 作:koshikoshikoshi
アンコールにこたえるためギターを抱え再びステージにあがろうとしたぼっち。しかし、彼女を止める者がいた。
「……ぼっち」
不意に袖をつかまれ、ぼっちが振り向く。
え?
それは、おもいもよらない人。
「リョウさん?」
「ぼっち。い、いかないで……」
えっ? えええ?
ぼっちの袖を掴む直前まで、……ぼっちが振り向いた瞬間でもなお、リョウはぼっちに何を言うべきなのか決めることができていなかった。
虹夏に促され、ふらふらとステージに向かっている間は、頭の中でいろいろと考えていたのだ。
『あんな癖の強い面子とバンド組むのはぼっちには無理……』『ていうかぼっちと組めるのは結束バンドの3人だけ……』『今はともかく将来性は結束バンドの方があるし……』
だけど、振り向いたぼっちの顔を見た瞬間、リョウの思考は完全に停止してしまった。他人の目をまっすぐ見れない人見知りのくせに、仲間であるリョウを見つめる信頼しきったぼっちの瞳。
この期に及んで屁理屈をこねている自分自身に、猛烈な自己嫌悪を感じた。自分がひねくれた性格なのは重々承知しているし、いまさら直すつもりもない。屁理屈と減らず口はアイデンティティーみたいなものだ。他人にそれを指摘されたって、かえって嬉しいくらいだ。
だけど、今だけは、それじゃぁだめなんだ。……ぎりぎりのところでそれに気付いた自分自身を誉めてやりたい。
そして、心の中に湧き上がる。いつか頭と影が薄いおじさんが教えてくれた言葉。
『大事なことは口にしないとつたわらない。その人を失いたくないのなら泣いてすがるんだ』
頭の中から理屈や理性がふきとぶ。感情だけが溢れていく。
リョウは、自分でも意識しないまま、ぼっちにすがり付いていた。秘めていた想いが、勝手に口からこぼれだす。
振り向いた先、そこにいたのは山田リョウ。予測できるはずもない出来事に、ぼっちの身体が固まる。
「い、いかないで……」
えっ?
目の前、リョウの身体は細かく震えている。うつむきながら上目遣いで見つめる青い瞳。いつもの傍若無人な態度から想像も出来ない、すぐにでも消えてしまいそうな姿。
「ぼっち。ひ、ひとりで、……私達をおいて、遠くにいかないで!」
えっ? リョウさん? えっ? えっ?
困惑しているぼっちに、リョウが抱きつく。全身で引き留める。
えええええええ?
ぼっちが知るリョウは、いつも凜々しくて、飄々として、図々しくて、無口で、金に汚いけど頼りになって、クズだけどかっこよくてクールなベーシストだった。今もそうであるはずだ。
そんなリョウさんが、こんな切なそうな顔で……。
「リョウ先輩?」
「山田、おまえがそこまで……」
周囲にいた人々も動けない。どうしてよいのかわからない。
一番最初に再起動したのは、……ぼっちだった。
「……あ、ええと、リョウさん。その、だ、大丈夫です。私はどこにも、と、遠くになんて、いきませんから」
「だ、だって……」
リョウが顔をあげる。あの山田リョウが涙ぐみ、鼻をぐしぐしとすすっている。
「私は、……結束バンドの後藤ひとりとして、即席バンドの助っ人にいくだけですから。このライブが終わったら、私は結束バンドに帰ってきますから」
目の前のリョウを正面から見つめる瞳。
「ほ、ほんと?」
「私はどこにもいきません。わ、わたしは、結束バンドのみなさんといっしょに、一歩一歩進んでいきたいんです。そして、結束バンドとして、チヤホヤされたいんですから」
それは、メンバー達も初めてみる顔。あのぼっちが、こんなに頼もしく微笑むことができるなんて……。
「ひ、ひとりちゃん! 素敵!!」
喜多ちゃんが感激のあまり泣き出した。
「私は最初からこうなると思ってたけどねぇー」
「く、虹夏のドヤ顔うざい」
そして、いつもどおりの幼馴染みコンビ。
「あ、あああああ、……私みたいなゾウリムシが偉そうな事いってすいません。ごめんなさいごめんなさい。この場で切腹するので許してください!」
当然のごとく、我に返ればそこにいるのはいつものぼっちだった。
「ほらほらアンコールだ。ぼっちちゃん、……行っておいで」
星歌が促す。その瞳にも涙がにじんでいる。
は……、い? え?
気付くと、STARRY全体がなにやら異常に盛り上がっている。だがそれは、結束バンドの少女達による涙の感動シーンのせいではない。
ぼっち達があわてて振り返った視線の先、そこにみたものは……、もみくちゃにされながら客の上を流れていく廣井きくりだった。
「あ、あのバカ。ここでステージからダイブしやがったのか!」
「あーあ、もともとベロベロに酔っぱらってたくせにあんなことしたら、……さすがに酒が脳に回りまくってもうベース弾くのは無理だろ」
「う、うわぁぁぁ、やめろ廣井! そこで吐くな、ばかやろー!! お客さん、逃げてぇ!!!」
響き渡る悲鳴と絶叫。阿鼻叫喚につつまれるSTARRY。その日のライブは、うやむやのうちにお開きとなった。
「かんぱーい」
うちあげは、いつかの台風ライブの時と同じ居酒屋だ。
「ぼっちちゃん、バイトのみんなも今日はありがとう。私のおごりだから飲め」
音頭をとった星歌が宣言。参加しているのは、店のスタッフ・バイトと即席バンドのメンバーだ。
「へへへへ、先輩すきー」
「バカ野郎、おまえは自腹に決まってるだろ」
「ていうか廣井。あれだけみんなに迷惑掛けておいて、よく打ち上げに参加できるなおまえ」
呆れ顔の星歌とリナが廣井きくりを攻め立てる。
「えへへ、そこはそれ、これぞロックということで」
「あの醜態のどこがロックだ! おまえ、そんなだからSICK HACKの連中に邪険にされるんだぞ!」
「そんなことないもん! わたし、バンドの仲間とはうまくやってるもん。……大槻ちゃんとちがってさ!」
「え、えええ? 姐さん、私にふらないで! し、SIDEROSだって、メンバーみんな仲いいし、よく一緒に遊びに行ってますよ! ……わたし以外は」
「大槻ちゃん……」「おまえ、……若いのに苦労してるんだな」
廣井と星歌が、両側から大槻ヨヨコを抱きしめる。
「その点、ぼっちちゃんや妹ちゃんのバンドはいいな、みんな仲よさそうで」
リナが結束バンドのメンバーを見渡しながらしみじみ語る。
「そうだろう? 結束バンド、いいバンドだろ? 青春って感じでさ」
すっかり出来上がって赤い顔の星歌が、自分の事のようにドヤ顔で応える。
「『いかないで』『私はどこにもいきません!』……青春ですよねぇ」
「……いいなぁ。私にもそんな時代があったよなぁ」
「うそつけ、私達のバンドは殴り合いばかりだっただろ」
成人組が、遠い目をしながらしみじみ語る。
「うわーーーーー」
突然、狂ったように頭を抱えのたうち回りはじめる山田リョウ。膝を抱えてゴロゴロと小上がりを転げ回る。
「え? リョウ先輩! どうしたんですか?」
そして、リョウは壁に向かって体育座り。念仏のように何事かをぶつぶつ唱え始めた。
「ぶつぶつぶつぶつ。……あれは気の迷い。……あの時の私はどうかしていただけ」
「リョウ先輩?」
「あ、リョウさん、だだだだいじょうぶですか?」
「気にしないでみんな。ただの発作だから」
「え、えええ?」
「発作? どういうことですか?」
「たぶんリョウはね、ぼっちちゃんに泣いてすがった自分の姿を思い出してるのよ。そして、恥ずかしさのあまりのたうち回っているだけだから」
はぁ?
「ちがう! ちがうぞ虹夏! 私がぼっちに泣いてすがるなんてあるはずがないだろう。ないとも。ね、ぼっち。そうだよね、いくよ?」
「はい。もちろんです、リョウ先輩!」
「あ、リョウさんはいつだって格好いいです」
呆れ顔の虹夏。ため息をひとつついたあと、メンバーに気合いを入れ直す。
「もう、喜多ちゃんもぼっちちゃんもリョウを甘やかさないの! リョウもしっかりして、フェスの本番も近いんだから!!」
そして、虹夏はぼっちの顔をみる。さりげなく、本当にさりげなく、問い掛ける。
「ねぇ、ぼっちちゃん、……いろんな人とセッションして見つかった? ぼっちちゃんのロック」
「あ、はい。……やっぱりわたしは、リョウさんや喜多さんや虹夏ちゃんの大切な結束バンドを最高のバンドにしたい。そして有名になってちやほやされたい。たぶんそれが、私のロックなんだと思います」
そうかぁ。……じゃあ、私も夢を叶えるためにがんばる。いっしょに楽しもう!
はい!
つたないお話にここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これでいちおう完結ですが、調子に乗っていくつか番外編も書いちゃうと思います。今後もよろしくお願い致します。