ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

16 / 17
(番外編) 清水イライザ その1

 

 イライザの調子が悪い?

 

 それはSICKHACKの練習中。岩下志麻と廣井きくりは自分達の演奏にちょっとした違和感を感じていた。

 

 何が悪いというわけではない。少なくとも全員スコア通りの演奏はできている。ドラムの志麻とベースのきくりはいつも通りの絶好調だ。だけど……。

 

「イライザが……」

「……うん。なんかイライザ暗いよね」

 

 いつも明るく、音楽とオタク趣味と人生を全力で楽しんでいるギターの清水イライザ。その彼女が、今日に限って覇気が無い。演奏にミスはないものの、なんとなくショボーンとしているように見える。

 

「ど、どうしたイライザ。食べ過ぎか? ホームシックか?」

「そんなときはドーピング! 私の鬼ころしを1パックわけてあげる! ほら、キューッと一息で幸せになれるよ!!」

「やめろアホ」

 

 強引に紙パックを押しつけようとするきくりを無視して、イライザが重たい口を開き始める。

 

「……じ、実は、わたし」

 

 言いずらそうなイライザ。その深刻な顔に、志麻ときくりがごくりとツバを飲み込んだ。

 

「わたし、あ……」

「「あ?」」

 

「「あ……、あ……、あ……」」

「「あ、あ、あ?」」

 

「アニソンが、やりたいデス!」

「「アニソン?」」

 

「ついでにコスプレして、みんなに見てもらいたい!聞いてもらいたいデス! わたしモトモトそのために日本に来たデスカラ」

 

「アニソンって……。そういえばイライザ、昔から言ってたねぇ。いつかSICKHACKでアニソンコピーやりたいって」

 

 それほどまでに深刻な問題だったとは……。

 

 志麻ときくり、SICKHACKのふたりは仲間の思わぬ告白に唖然とするしかない。

 

 いまでこそインディーズでは有名になったSICKHACKだが、それなりに売れるようになったのはイライザが加入してからだ。今のSICKHACK人気は彼女のおかげといってもいい。そんなイライザの願いはできるだけきいてやりたいが。しかし……。

 

「志麻、できる? アニソン」

「いや、イライザにDVDはたくさん見せられたけど、アニソンはほとんど知らない。廣井、おまえは?」

「私もほとんど覚えてないんだよねぇ」

 

 ……私達じゃ無理だぁ。

 

 でも、このままじゃバンド不和の第一歩にもなりかねない。どうする?

 

 

 

 

 

 問題解決の糸口がつかめぬまま時間だけ過ぎていったある日のこと。いつもの新宿FOLTで打ち合わせ。

 

「相変わらず上手いわぁ」

「ギター弾いてるときだけは本当に格好いいっすね」

「アレンジも格好いい〜」

 

 隣のテーブルから若い子たちの歓声が聞こえた。SIDEROSの面々だ。楓子、あくび、そして幽々が、スマホを見ながら盛り上がっている。

 

 スマホからきこえるメロディ。これはギター? ……アニソン?

 

「あくび! それ、アニソンですヨネ?」

 

 イライザがすごい勢いで食いついた。

 

「え? ええ。ギターヒーローさんの新しい動画でアニソンメドレーやってるっす」

 

 あまりの勢いにたじろぎつつ、あくびが向けたスマホ画面の中。いつもどおりの薄暗い押し入れに篭もったピンクジャージ少女が、うつむきながらギターを抱えている。

 リクエストに応えたアニソンメドレーを、熱く、激しく、それでいて淡々と。いつものようただただギターを掻き鳴らすギターヒーロー。

 

「ふん。流行ばかりおっかけて受けを狙うとは見損なったわ、後藤ひとり。……たしかにちょっと上手いけど」

 

 隣で毒づくヨヨコ。だがイライザの勢いはとまらない。

 

「ヨヨコ! 知り合いですカ? そのオーチューブ動画チャンネル、知り合いですカ?」

 

 イライザが迫る。

 

「え? し、知り合いと言えないこともないですけど……」

「このひと、ギター凄く上手いデスネ。お友達になりたいデス! ヨヨコ知り合いなら連絡とれますカ。紹介して! おねがいシマス!」

「ええええ?」

 

 あまりの勢いにヨヨコはタジタジになる。その横で、SICKHACKの面々が顔を寄せ合いひそひそ話。

 

「志麻、……わたし、いいことを思いついたんだけど」

「まて、きくり。おまえが言いたいことはわかるが、ギターヒーロー後藤ひとりさん、……だっけ? 風の噂で、もの凄い人見知りときいたが。イライザみたいな究極の陽キャと合わせられるのか?」

「難しいかもしれないけどさ、いろんな人とセッションするって、ぼっちちゃんにとっても良いことだと思うんだよね」

「そりゃそうかもしれないが、相手のバンドの都合もあるだろ」

「うーん。そこはそれ、また取引するしかないかなぁ」

 

 

 

 

 

 ど、どうして、こうなった!

 

 新宿FOLTのスタジオ。配信用に設置されたカメラの前に、後藤ひとりはいる。もちろん抱えているのはギター。

 

 いつかと同じ。FOLTチャンネルとギターヒーローのチャンネルのコラボ企画だ。

 

 茫然自失でギターを抱えながら半分溶けかかっているぼっちの前、土下座しているひとりの少女。

 

「ぼっちちゃん、ゴメン!」

 

 結束バンドリーダー、伊地知虹夏だ。

 

「廣井さんが、例によってFOLTちゃんねるを盛り上げるためだって……。イライザさんとギターヒーローのコラボしてほしいって……。そしたら、またSICKHACKのライブに結束バンド呼んでくれるって……」

 

 

 

 

 

 け、結束バンドのためにもなるし、お姉さんにも感謝されるし、コラボということでギターヒーローの収益にもなるし、私の練習にもなるし。

 たしかに良いことだらけなんだけど、けど、けど、……わたし、イライザさんと話したことないし、知らない人とコラボなんて……。外国人のおねえさんとの二人きりのセッションなんて……。

 

 想像しただけでぼっちの身体は三分の二ほど溶けかかる。

 

「おー、結束バンドの後藤ひとり! アニソンに詳しくてギター上手い人。あなたでしたか! チャンネル見たデスヨ、ホント上手いネ!」

 

「ひゃあーーー」

 

 年上のおねえさんに全力で抱きつかれ、とどめをさされたぼっち。全身溶け落ちる。

 

 

 

 

 

「……FOLTの宣伝にもなるからありがたいとはいえ、あのふたりに組んでもらうってやっぱりちょっと申し訳ないわよねぇ」

 

 スタジオの外から眺めている銀次朗がため息をついた。

 

「それに、スタジオからそれなりの機材使って配信するのに、本当にギターふたりだけでいいの? せめてドラムかベースくらいいた方が……」

「そうは言っても、私も志麻もアニソンしらないし……」

「あくびちゃんや幽々ちゃんなら詳しいんじゃない?」

「練習も無しにいきなりこのふたりについていくなんて自分むりっす」

「わたしも〜」

 

「……虹夏は?」

 

 FOLTのメンバーとはちょっと遠くに陣取り野次馬している結束バンドの面々。ぼそりとリョウが隣に居る幼馴染みに問う。

 

「わ、わたしも私もむり」

 

 首を左右に振る虹夏。しかし顔に書いてある。

 

(本当はぼっちちゃんと一緒にギターヒーローのチャンネルに出たい。出たい。出たいよぉ。……けど、わたしなんかじゃ足を引っぱるし)

 

 そんな虹夏を見つめながらリョウは口の中だけでつぶやく。

 

(こんなお遊びの企画、そんなに真剣に考えなくてもいいのに)

 

「ヒトリ! 私達ふたりで大丈夫ですネ?」

「あ、えーと、はい。……たぶん」

「じゃあ、……はじめますヨ!!」

 

 

 

 

 

【配信始まった】

【はじめから凄い接続数だ】

【予告して生配信なんて珍しく気合いはいってるなギターヒーロー、ってこれどこ? 】

【いつもの押し入れじゃないのか】

【新宿FOLTのスタジオじゃね? FOLTチャンネルとコラボで同時配信してるし】

【で、コラボ企画ってなにやるんだ?】

【FOLTの方にはアニソンメドレーとあった】

【こないだアップされた動画と同じかな?】

【ギターヒーローが今さらライブハウスのチャンネルとコラボする必要なんてないだろうに】

【また誰かとセッションするんじゃねの】

【誰だろ。楽しみ】

 

 

 

 

 

「みんなー! ギターヒーロー&寿司侍のアニソンメドレーはじまるヨ!」

 

 配信開始。カメラの前でイライザが叫ぶ。演奏が始まる前からノリノリだ。ちなみに、カメラはふたりとも顔は写らない角度になっている。

 

「ヒト……、じゃなくてヒーロー! 曲順はわかってますネ。ぶっつけ本番だけど、難しいこと考えず自由に楽しくやるヨ!」

「あ、はい」

 

(決まっているのは曲順だけ。それぞれ自由勝手に楽しく、ということだけど……。まぁ、イライザさんやさしい人みたいだし、結束バンドのみんなや廣井おねえさんも側に居るし、そもそもどうせ思いつきのお遊び企画だし、勝手に弾いていいならなんとかなる、……かな?)

 

 イライザの合図で演奏が始まる。

 

 よし、いこう!

 

 

 

 

 

【ピンクジャージはともかく隣は誰?】

【寿司侍】

【着崩した和服がえろっぽい】

【金髪!】

【顔見えないけど外人?】

【身体に惚れた】

【すしさむらい?】

【SICKHACKの清水イライザだろイギリス人だ】

【寿司侍は同人誌のペンネーム】

【まちがいなく実力派】

【同人マンガの腕はアレだがコスプレはエロかわいくてギターの腕は本物】

【このふたりのセッションとか期待しかない】

 

 

 

 

 

 夢にまで見たアニソンライブ! ネット越しとは言えたくさんのお客さんの前で、すきなだけアニソンがやれる機会デス。体力が尽きるまで、弾きまくるヨ!

 

 イライザは、もちろんセッション相手に遠慮なんかしない。初めから全力疾走だ。息継ぎする間もなく、ハイテンポの曲を弾きまくる。

 

 うまい! うまいですネ。ヒトリ!

 

 そして、イライザは隣に視線をむける。

 ピンクの髪をふりみだすピンクジャージ。前屈みで脚を踏ん張り、ただひたすらエゴイスティックにギターを掻き鳴らす少女。

 

 早弾き技術だけなら、わたしよりも上かもネ。こんなにギター上手い女の子が日本にはいましたカ!

 

 自分より若い少女が見せつける超絶ギターテクに舌を巻く。

 

 これは、わたしもうかうかしてられないヨ!!

 

 一方、その隣のぼっち。こちらもセッション相手の技術に感激していた。

 

(イライザさんのギター、やっぱり凄い)

 

 ぼっちにとってイライザの第一印象は『感情的なそれでいてロジカルなギター』。それはいまも変わらない。

 

 初めて見たSICKHACKのライブはいろいろな意味でショックだった。なんといっても、あのおねえさんの衝撃的なライブパフォーマンスと、そのアドリブにしっかりついていってるギター。ふたりのアドリブの応酬。高レベルな掛け合い。ライブというものの神髄を見せつけられた気がした。

 

 今もそうだ。とにかく楽しそうに自由気ままにアドリブの連続。しかもそれでいて、同時にイライザさんのギターはすべてが冷静に計算され尽くしている。

 

 ……楽しい。

 

 そう。イライザさんのギターは徹頭徹尾にロジカル。合理的。だからこそ、普段はセッション苦手な私でも、特に意識しなくても自然に合わせることができてしまう。

 

 今になって思い返せば、SICKHACKはもしかしたらイライザさんこそがおねえさんを引っ張っているのかもしれない、とも思えるほどだ。

 

 こんなに楽しいライブセッション、はじめてだ。わたしもいつか、こんなギタリストになりたい!

 

 

 

 

 

【アニソンメドレーって電波ソングばかりじゃねぇか】

【よくこんな超絶早引きギター2本で合わせられるな】

【イライザの超ハイテンションに最初戸惑っていたギターヒーローものってきた】

【ふたりバラバラに弾いてるくせにちゃんと元のアニソンにきこえるのが不思議】

【顔見えないけどイライザ楽しそう】

【そりゃ楽しいだろ。アニメとコスプレ好きすぎて日本まで来た究極オタク女だ】

【セッション相手がギターヒーローだしな】

【踊りながら歌いながら楽しそうなイライザといつもどおりひたすら前かがみで前のめりのギターヒーローとの対比がおもしろいな】

 

 

 

 

 

「イライザさん、同じギタリストといってもひとりちゃんとはまったく違うタイプですね」

 

 誰へともなく喜多がつぶやいた。

 

「ほんと。楽しそうにギター弾くよね」

 

 虹夏が応える。うらやましそうな表情を隠し切れていない。

 

「それにしても先輩。アニソンって、……こんなおかしな曲ばかりなんですか?」

「わたしもそんなに詳しいわけじゃないけど、妙に速いテンポでガチャガチャしているメロディだよね」

 

「これは、アニメソングの中でも俗に言う電波系ソングとよばれるもの」

 

 リョウがしたり顔で解説をはじめた。

 

「特徴としては異常なテンションにめちゃくちゃの歌詞。しかし、一度聞いたら脳の中で無限リピートされ、中毒になることうけあい。そもそも電波系のはじまりは……」

 

 いつのまにかちょっと早口になっているリョウを無視して、虹夏と喜多が会話を続ける。

 

「まぁ、曲はよくわからないけど、ぼっちちゃんも楽しんでいるみたいでなによりだね」

「そうですね。わたしもいつか、格好いいギターヒーローとコラボ配信とかやりたいなぁ」

「そうだねぇ。いつかやらせてほしいよねぇ、……いつか」

 

 

 

 

 

 

 ステージの上のふたりのパフォーマンスに感心しているのは、SICKHACKのふたりも同じだ。

 

「ほんと。ぜんぜん聞いたことない不思議な曲ばかりだな。いまさらだけどイライザ、こんなのが好きなのか」

「ロックぜんぜん知らない人が聞いたら、私らが普段やってるサイケだって区別つかないと思うけどねぇ」

「はははは、たしかにそうかも。それにしてもあのふたり、事前にあわせの練習なんかしてないんだよな。よくあれだけ弾けるもんだ」

「イライザがライブで咄嗟に繰り出すアドリブって、レベルは超高いし意表は突いているけどちゃんと理屈に合ってるから、ある程度以上経験がある相手なら自然に合っちゃうんだよねぇ。SICKHACKでも初めから合わせやすかったし」

「そういやそうだったな。……ていうか、早弾きであのイライザがうけに回ってるぞ。すごいな後藤さん」

 

 えへん。

 

 人知れず胸を張ったのは、きくりと志麻のぼっちへの賞賛がたまたま耳に入った虹夏だ。

 

(妹ちゃん、自分の事のように……)

 

 それをみて、きくりが苦笑い。そして、口の中だけでつぶやいた。

 

「でもね、……イライザの本当の凄さはね、こんなもんじゃないんだよ。ぼっちちゃんも、それがすぐにわかるだろうさ」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。