ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

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伊地知星歌とPAさん

 

 下北沢STARRY。

 いつもより少々早く到着してしまったバイトの後藤ひとりは、ドアをあけた瞬間その場に固まった。

 

 ぼっちの視線の先、店の中には見知らぬふたりの女子高生がいる。

 

(女子、……高生?)

 

 ポーズを決めて自撮り中のふたりと目が合ってしまったぼっちは、何度もまばたきを繰りかえす。

 

(こ、高校生というには、しょうしょうトウが立っているような……)

 

 そして気付いた。

 

「え、ええええ? 店長さんとPAさん?」

 

 

 

 

(見なかったことにしよう……)

 

 開けた扉をそっと閉じ、黙ってその場から帰ろうとしたぼっち。

 

「ま、待って! ぼっちちゃん!!」

 

 しかし、女子高生のコスプレ姿の店長さんとPAさんに、がっしりと腕を掴まれる。そのままずるずると無理矢理に店の中に引きずり込まれる。

 

 おびえるぼっちを前に、店長さんPAさんがアワアワしながら言い訳を始めた。

 

「ぼぼぼぼっちちゃん。こ、こ、これは、だな、えーと、言い出したのは私じゃなくて……」

「ええ? クリーニングに出すついでにもう一回だけ着てみよう! って言ったのは店長じゃないですかぁ!」

 

 ふたりの必死の言い訳によると、これは以前廣井お姉さんのおかげで伊地知家のクローゼットの奥から発掘され、店長さんとPAさんが着用することになった二種類の女子高校生制服だそうだ。だが、あの時とは、ふたりが着用している制服が入れ替わっている。

 

「おまえが、そっちも着てみたいって言い出すから!」

「店長だってノリノリだったじゃないですか」

 

「あわわわわ、わ、私は何も見ませんでした。きょ、今日はもう帰りますのでお二人でお楽しみくださいいいい」

 

 床を這いつくばりながら、ぼっちは再び逃亡を図る。

 

 

 

 

 まずい。このままだと、ぼっちちゃんの中の私のイメージが大幅にダウンしてしまう。

 

 伊地知星歌としては、なんとしてでもそれだけは避けたいところだ。

 

「そうだ!」

 

 星歌がPAにアイコンタクトを送る。

 

「そ、そうですね。もう手遅れなような気もしますが、それしかないでしょう」

 

 PAが頷く。

 

「ぼっちちゃん!」

「な、なんですか? わわわわ私をどうするつもりなんですか?」

 

にじり寄るふたりの女子高生、……のコスプレをしたやさぐれ女。

 

「君も仲間になるんだよ」

 

 

 

 

 気付くと、ぼっちはセーラー服を着ていた。

 

 え、え、え、私、どうして……。

 

「後藤さん、似合いますよぉ」

「……よく考えてみたら、ぼっちちゃんはこんなもの着せなくてももともと本物の現役女子高校生じゃないか」

「そうですね。なのにコスプレ感が最強なのは、普段のジャージ姿とのギャップ萌えっ、でしょうか」

「まぁ、かわいいからこの際どうでもいいや」

「たしかに美少女ですねぇ。オーソドックスなセーラー服が似合いすぎてちょっと妬けちゃうくらい」

 

 勝手なことを言いながら、記念写真を撮りまくるふたり。ぼっちが抵抗できるはずもなく、為すがままだ。

 

「ふう。他の連中が来るまではもうちょっと時間があるな。……なぁ、せっかくだからこのままセッションしないか? ガールズバンドということで」

 

「いいですねぇ。ね、後藤さん、いいですよね!」

 

 え、えええ? ……ガール、ズ?

 

 

 

 

「ぼっちちゃんは当然ギターとして、わたしはベースやってみようかな」

「じゃぁ私はボーカルと、……実は小学生の頃ピアノ習ってたんですよ」

 

 うっきうきのふたりは、空いているスタジオにテキパキとベースとキーボードを用意しはじめる。

 

「ベースなんて10年ぶり。……へへへ、学生時代を思い出すな」

「ここだけのはなしですけど、いつも楽しそうな結束バンドのみなさんを見てたら、私もいつか仲間に入ってみたいなぁ、なんて思ってたんですよ」

 

「ででででも私、セッションなんて……」

 

 愛用のギターを構えながらも、最後の抵抗を試みるぼっち。

 

(結束バンドのメンバーとでさえ、最近やっと少しだけ合わせられるようになったのに、普段あわせていない人となんて……)

 

「合わせる必要なんてないだろ」

 

店長さんが、ぼっちの不安をひと言の元に斬り捨てる。

 

「誰も見ていないし。そもそもこんな格好なんだし、そんなにマジにならないでもいいと思うぞ?」

「そうそう、楽しければいいんじゃないですか。裏方の私が言うのもなんですが、音楽ってそういうものでしょう?」

 

 は、はぁ。

 

 

 

 

 ついに準備が整った。整ってしまった。

 

 曲は結束バンドのオリジナル。もちろん作詞はぼっちだ。

 

(合わせた事がない人とセッション。やっぱりちょっとドキドキするな……)

 

 メトロノームに合わせ、女子高校生(?)三人の演奏がスタート。

 

 しかし、……やっぱりあわない。当たり前だが、そう上手く行くはずがない。

 

 もとギタリストといっても、店長さんもともとベースは本職じゃないうえにブランクも長そう。初めての曲にリズムは狂いがちだし音運びもたどたどしい。

 

 PAさんは言わずもがな。歌は決して下手じゃないけど、手と口がばらばら。ていうか、そもそもPAさん合わせる気がまったくない。なんとなくメインの旋律をそれっぽく勝手に自由に弾いているだけ。

 

 それ以前の問題として、そもそもこれは完全な即興だ。一緒に練習したことさえない三人なのだ。あうはずがない。

 

 

 

(し、仕方が無い。ここは、私がなんとかしないと……)

 

 ぼっちが気合いをいれる。

 

(私だってすこしは進化したはず。中心になって、おふたりを引っぱるんだ!)

 

 あの台風の日のライブのように、顔をあげ、あしを踏ん張る。だが……。

 

「ぼっちちゃん!」

 

 店長さんが振り返った。

 

「わかってます! 私がなんとかします!!」

 

(この中で現役は私だけ。しかもこの曲は結束バンドの曲。私がやらなくちゃ!)

 

「ちがうんだよ、ぼっちちゃん」

 

 えっ?

 

「……さっき言ったろ。無理にあわせる必要なんてないって。ぼっちちゃんがなんとかする必要なんてないんだよ」

 

 店長がにやりと笑った。

 

 えええっ?

 

「後藤さん、先日の妹さんとの配信みましたよ。私達ともあんな感じで気楽に楽しくやっていだけませんか?」

 

 PAさんも笑う。普段はもの静かでおしとやかなイメージの女性だが、こんな晴れやかで楽しそうな表情はじめてみた。

 

 は、……はい。

 

(そ、そうだ。無理に合わせる必要なんてないんだ……)

 

 そう気付いた瞬間、ぼっちの周囲の世界が変わって見えた。

 

 これは本番のライブじゃない。レコーディングでもない。失敗したってぜんぜん問題ない。そう、……私がなんとかする必要なんて、まったくないのだ。

 

 店長さんのベース。リョウさんと違ってテンポが合わせにくい。演奏も、……言いづらいけどあんまり上手くない。でも、その場しのぎのアレンジが、意表をつかれてかえって面白い。

 

 PAさんのボーカルに至っては、完全我流の演歌調。サビではこぶしまできかせている。だけど、……その自由さがとても楽しい。

 

『恋がぁ……、愛がぁ……、なんだぁぁぁぁぁぁ!』

 

 ノリノリで絶唱のふたりに圧倒されるぼっち。セッションとしては、まったくもってひどいできだ。でも、このふたりと一緒に演奏するのは楽しい!

 

 ギターヒーローも、結束バンドも、私は演奏を聴く人の評価ばかりを気にしていたかもしれない。でもでもでも、音楽は、それだけじゃないんだ!

 

 自分でも気付かぬうちに、いつのまにかぼっちも二人に合わせて絶叫していた。

 

『らーぶそーんぐーなんて、もう……! いやだ、いやだ、いやだぁぁぁぁ!!』

 

 

 

 

「おねーちゃん、何やってるの?」

 

 入り口のドアの前、バイトにやってきた学校帰りの結束バンドのメンバーが、目を丸くして固まっている。

 

「え、制服?」

「そのコスプレ、また罰ゲームですか? って、ひとりちゃんも?」

「あ、あ、あ、こ、これは、その……」

「ぷぷぷ。やさぐれヤンキーふたりがセーラー服の陰キャを囲んでカツアゲ?」

「あんだと、こら!」

 

「でも、セッション楽しそう。……三人でずるいよ」

「ベースが酷すぎる。私と代わるべき」

「私達も仲間にいれてください!」

「まてまてまてこれは私達三人の……」

 

「やっぱりドラムがいるとセッションが締まるよねー」

「うふふ、みんな制服で文化祭みたいですね!」

「記念に動画も撮影しなくちゃ!」

「なんの記念だよ! ていうか絶対ネットにアップするなよ」

「ふふふ熟女制服動画はマニアに売れる」

「誰が熟女だてめぇしばくぞ!」

「きゃーー、あっという間にいいねが沢山!」

「アップするなっつってんだろぉ! 消せぇぇぇ」

「ひーーーーー」

 

 

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