ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし 作:koshikoshikoshi
ちょいと長くなっちゃったので3分割くらいになる予定です。
「どうして私の動画だけ再生数がのびないのかしら!」
開店前のライブハウス新宿FOLT。SIDEROSのリーダー大槻ヨヨコがスマホ画面をみながらつぶやく。
ヨヨコが覗いていたのは、新宿FOLT のオーチューブチャンネルだ。
「FOLTの宣伝用チャンネルなんだから、ヨヨコちゃんもがんばって貰わないと困るわよ」
開店準備中の店長、銀次朗さんがため息まじりにぼやいた。
「SIDEROSの宣伝のためにも、もっとがんばって欲しいっす」
「あれは、もともと私のチャンネルなの!」
そう、これはもともとはヨヨコが始めたチャンネルだったのだ。だが、ヨヨコの動画だけでは再生数が全く伸びず、場を繋ぐためにFOLTの関係者が動画をアップしているうちに、いつのまにか乗っ取られてしまったのだ。
今では、日替わりで個性豊かな配信が人気となり、あのギターヒーローには及ばないまでも、バンド関係者の間では話題のチャンネルとなっている。
「ヨヨコ先輩の動画が人気ないのは、メントスコーラばかりやってるからじゃないっすかね?」
バンドのリーダーに容赦なく辛辣なコメントを浴びせるのは、長谷川あくび。
「ヨヨコ先輩はギターもボーカルも上手いし演奏中は凜々しいんだからぁ、普通に歌ってギター弾いてる動画アップすれば人気でると思いますよぉ」
楓子による素直な褒め言葉だが、もちろんヨヨコは素直に喜んだりしない。
「そ、そ、それじゃSIDEROSの活動と同じじゃない! せっかくの配信なのに意味がないわよ」
頬を赤くしながらムキになって反論してしまう。
「それなら、だれかとコラボするとかどうっすかね? SIDEROS以外の……」
「ギターの腕で私と釣り合うコラボ相手なんているわけ、……い、いるかもしれないけど、私から頭をさげるなんて……」
何を言いたいのか察して欲しい、と言いたげに上目遣いのヨヨコ。だが、仲間達には伝わらない。
「あ、結束バンドのチャンネルが更新されたっす」
「どれどえぇ」
「みんな高校の制服だ。いかにもガーズルバンドという感じで人気でそう」
バンドマンといえども女子高校生だ。会話していても、とりとめなくフワフワと話題が移りかわっていくのは仕方が無い。
「こ、コスプレでしか勝負できないなんてなさけないわね、結束バンド」
つい毒を吐かずにはいられないヨヨコ。
「でも、制服でバンドってかえって新鮮でいいかもしれないっすね。……どうみても高校生には見えない大人がまじってるっすけど」
「……それは言わないでやって。大人だってたまには若者の中に混じりたくなることもあるのよぉ」
星歌と面識のある店長が、反射的に庇う。
「楽しそうですぅ」
「SIEDROSもやりましょうよ」
「セーラー服のおっじさん、美少女っすねぇ……。そういえば、こないだのギターヒーローさんの配信みたっすか?」
ギターヒーローの名前に、ヨヨコがピクリと反応した。
「もちろん見ましたよ〜」
「あれ、やばいですよねぇ」
「ギター一本であんなに感情表現ができるのねぇ。私、長いことこの仕事してるけど、あの年齢であそこまでできるギタリスト初めてみたわ。もう少し他のメンバーと合わせられるようになればと思うと、末恐ろしいわぁ」
強面の店長がここまで言うか。メンバー全員が驚き、ヨヨコの表情が厳しくなる。
「あの配信から伝わる暖かい波動で〜、この子達の魂が浄化されちゃって〜、しばらく闇の力がでなくて大変だったの〜」
霊感少女幽々が、お友達ふたりの頭を撫でながらしみじみと語る。そして、思い出したように口に出す。
「あ〜そういえば〜、後藤さんなら〜、ヨヨコ先輩とつりあうんじゃないですかぁ。肩に憑いてる霊の強さで〜」
「……霊の力はともかく、たしかにおっぢさんなら、ヨヨコ先輩とギターの腕も釣り合うと思うっすね。コラボあいてにどうっすか?」
「え? や、やっぱりそう思う?」
ヨヨコは、まんざらでもないという表情を隠せない。しかし、悲しそうに首をふる。
「で、でも、コラボなんて、どうやって申し込めば……」
まぁたしかに、コラボの申し込みなんて、人見知りのヨヨコ先輩にはハードル高いっすよねぇ。
あくびがため息をついた。
はっ! この私が寝過ごした?
ライブの後、ヨヨコが目を覚ましたのは終電の中だった。
窓の外は見知らぬ風景。ドアが閉まる直前にあわてて降りる。
「ここどこ? どうしよう」
寝起きで頭が回らない。
タクシーいくらかかる? うわ最悪、雨降ってるし。そ、その前に、まずはうちに電話しなきゃ。
スマホに手を掛けた瞬間、駅の出口の方から大声が聞こえた。
「そこの女の子、乗らない? 送っていくよ。」
車の窓から顔をだし、片っ端から女性に声をかけていく若くて軽薄そうな男。
「ねぇねぇ、セーラー服にピンクの髪の君。君だよ。それギター? いっしょにいいところ行こうよ?」
(ナンパ? 迷惑ね、……って、ギター? ピンクの髪?)
ヨヨコが視線をむけると、そこにはギターを背負ったピンクの髪の少女がいた。
(あれは? 結束バンドの動画の中で見たセーラー服?)
少女は、知らない人に声をかけられて硬直。その場から動けない。半分溶けかかっている。
あのバカっ!
ヨヨコは駆け出した。後藤ひとりの手をとって、強引に引っぱり、そのまま横断歩道を渡る。
「なにやってるのよ。車に連れ込まれたら終わりよ!」
「あ、あ、え、あれ? ……お、大槻さん?」
「もう! しっかりしなさい!! ……あなた、声をかけられた時いつもあんな感じなの?」
「え、あ、あの、声をかけられたのは、は、はじめてで……」
見た目こんなに美少女なのに意外だわ。
「そういえば、今日はいつものジャージじゃないのね」
「え、えーと、みんなでコスプレしたままバイトと練習してたら、着換える時間がなくなっちゃって……」
……いつものピンクジャージ、あれがナンパ避けになっていたということかしら?
「あなたの家、この近くなの?」
「あ、え、そ、そうです。……お、お、大槻さんも、だったんですか?」
「え、えーと、わたしは……」
「ひとりのバンドのお友達? おそくまで練習たいへんだね。もちろん歓迎するよ。ご飯はたべたのかい?」
もう遅い時間だというのに、後藤さんのご両親は快くとめてくれた。
雨に濡れた服を乾かし、ご飯をいただいてお風呂。母親が選んだという可愛らしいパジャマを借りて、ひとりの部屋。
「あ、あ、あ、ありがとうございました。あーゆー時どうすればいいのかわからなくて……」
何度目かの礼を口にした以外、後藤ひとりは口を開かない。たまに何か言おうとしているらしいのだが、口を開こうとして開けずに諦めてしまう。そして……
「で、では、私は階段で寝るので、ごゆっくり……」
部屋の外に出て行こうとする。
「どうしてそうなるのよ!」
ヨヨコはひとりの腕を握りしめ、無理矢理部屋に引きずり戻す。強引に隣の布団に寝かす。
「私といっしょに寝るのがいやなの?」
「あ、え、い、いやというわけでは、……ないです、けど」
「あなたも私と話したいことがあるでしょ? あるわよね!」
「あ、わ、私は……、は、はい」
ヨヨコの迫力に、ひとりが逆らえるはずがない。
(相変わらず人見知りが酷いわね。もしかして恐がられているのかしら。と、とにかく、ここは私がもりあげなきゃ。年上だし、泊めて貰っているのだし)
「こ、この部屋で動画を撮影しているの?」
「あ、はい」
「これが撮影用の機材ね?」
「あ、そうです……」
だが、やっぱり会話がつづかない。自覚はなくても、第三者から見ればヨヨコだってぼっちと同じくらいの人見知りだ。話題を広げ、会話を続けるスキルがないのだ。そんなふたりが面と向かっても、お互いすぐに沈黙するだけだ。
(どうしよう。この娘とはバンドのこととか動画配信のこととかいろいろと語りたいことがあったのに……)
ふと壁際を見る。ふたりのギターケースが並んで置かれている。
そうよ! 私達はギタリスト。ギターで語ればいいのよね。
深夜の謎のハイテンションが、ヨヨコを暴走させる。
「後藤ひとり! も、もし、……もしあなたがやりたいというなら、配信てつだってあげてもいいわよ」
「え、えええ? メ、メントスコーラは、私のチャンネルではちょっと……」
「ちがうわよ! ギターよ、ギター。せっかく一緒にお泊まりなんだから、夜を徹してセッションするのよ! したいでしょ?」
ええええ?
田舎者なので東京や神奈川の路線も駅の位置関係もさっぱりわからないのです。突っ込まないで!