ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

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大槻ヨヨコ その2

 

「ギタリストが会話するのに言葉はいらないわ。ギターさえあれば十分。さぁ、後藤ひとり、セッションするわよ」

 

 ギターを構えたヨヨコが迫る。

 

 深夜、ふたりきりの部屋。セッション配信を強要されたひとりは、その迫力に圧倒される。とても断れない。

 

「いい? 後藤ひとり。私を実の妹だと思っていいのよ。先日のあなたたち姉妹の配信の時みたいに、やさしく私にあわせてちょうだい!」

 

 ヨヨコはいつもの上から目線の命令口調だ。だがその表情は頬を赤らめて、あきらかに照れている。

 

「むむむむむりです。大槻さんはふたりとは違います。妹だと思うなんて無理!」

 

「どうしてよ!」

 

 ヨヨコにも妹がいる。それなりに仲は良い方だと思う。だからこそ、先日の後藤姉妹の配信をみて、身体が震えた。姉妹愛に溢れる演奏に素直に感動した。ギタリストとして、自分もあんな演奏をしてみたいと憧れてしまった。

 

 いまさら実の妹にセッションを申し込むのなんて照れくさい。でも、同じギタリストである後藤ひとりならもしかして……。ヨヨコはそう想ったのだ。後藤ひとり本人にはけっして言えないが。

 

「じゃ、じゃあ、逆に、私がおねぇちゃんならどう? 後藤ひとり、あなたは自由に勝手に好きなように弾きなさい。姉である私がやさしくあわせてあげるから」

 

「えええ、こんな恐いおねえちゃんいらな……」

 

「何ですって! 妹はだまって姉の言うことを聞くのよ!」

 

「は、はい。ごめんなさい、ごめんなさい、怒らないでおねえちゃん!」

 

 ふふふ。

 

 ヨヨコはほくそ笑む。後藤ひとりに『おねえちゃん』と呼ばれた瞬間、背中にぞくりと電気が走ったのだ。

 

 な、なかなか楽しいセッションになりそうね。後藤ひとり!

 

 

 

 

(曲はSIDEROS、リードギターの大槻さんの技巧を最大限に活かしたテンポの速い曲。一度聞いたことがあるからなんとかなる、と思う、……けど)

 

 二人の顔が映らないアングルにセットされたカメラの前、後藤ひとりはギターを構える。深夜だというのに異様なハイテンションのヨヨコが隣だ。

 

 すこしづつ心臓の鼓動が速くなる。落ち着くために深呼吸を繰り返す。一回。二回。三回。

 

(か、勝手に好きなように弾きなさいって大槻さんは言っていたけど……、いつもの押し入れの中の独りの収録と同じ感じでいいんだよ、ね)

 

 自分に言い聞かせる。

 

(大丈夫。大丈夫。大槻さんなら、『おねえちゃん』なら、きっとなにをやってもあわせてくれる。なんとかなる。私は勝手に突っ走ればいい。……行こう)

 

 配信開始。同時に、ぼっちのギターが爆走を始めた。

 

 

 

 

【おおギターヒーローまた予告無し配信?】

【ギターヒーローがふたりに分裂した】

【もうひとり誰?】

【おおおおお、ぱじゃまの女の子がふたり!!】

【やっぱり顔は見えないのか】

【始まった】

【うまい】

【あきらかにいつもよりテンションが高い】

【本当にうまい】

【二人ともマジ上手いぞなんだこの技術】

 

 

 

 

(いつもの動画収録と同じ。いつもの動画収録と同じ。いつもの動画収録と同じ……)

 

 後藤ひとりは自分に言い聞かせながら、ただただ一心に弦をつま弾く。

 

 隣で弾いている大槻さんの音が耳に入らないわけじゃない。でも、意識しない。

 

 今日は結束バンドの時のようにメンバーの音に合わせる努力は必要はないんだ。あわせなくたって、大槻さんがなんとかしてくれると言ってたんだから。

 

 

 

 

「え、ええ? ちょ、ちょ、ちょっと、確かに『勝手に弾きなさい』とは言ったけど、いきなりそんな全開?」

 

 最初から全力疾走で突っ走るひとり。ヨヨコはあわてて追いかける。

 

 彼女はSIDEROSのリーダーだ。SIDEROSの演奏を引っぱるのは基本的にいつもヨヨコの役目であり、メンバーはそれに従ってきた。

 

 だが後藤ひとりには関係ない。自分のテンポで、自分のノリで、自分の解釈で、勝手に突っ走る。

 

「ご、後藤ひとり、これは私たちの曲よ。仲間と必死に練習してきた曲なのよ! 少しは自重しなさい。勝手にアレンジして変なテクニック使いまくって……」

 

 しかも……、うまい。

 

 悔しいことに、本当に上手い。即興のアレンジも、もしかしてオリジナルよりもハマっている?

 

 ヨヨコは必死だ。合わせてやると言った以上、絶対に遅れるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

【どちらがギターヒーローなんだ?】

【妹ちゃんと合唱したときと声が違うな】

【この曲SIDEROSじゃないのか? 声は大槻?】

【シデロス?】

【インディーズのガールズバンド注目株だよ】

【まさかギターヒーローの正体は大槻ヨヨコ?】

【いやギターが違う。リードギターがギターヒーローでリズムとボーカルが大槻じゃね?】

【あの大槻ヨヨコがひらひらの可愛らしいパジャマ?】

【せっかくの女子ギタリストふたり共演なのになぜ顔をみせないのか】

【ギターヒーローさんはバンドやってないのかな?】

【実はすでにプロだったりして】

【大槻と仲良くパジャマ姿ということは高校生なんだろ?】

【このふたりホントに高校生? 上手すぎ】

【おじさん自信なくしちゃう】

【セッション仲間に入れて欲しい】

 

 

 

 

 ん? ぼっち、こんな時間に配信はじめたの?

 

 山田リョウは、ベッドに入ったばかりだった。通知音に起こされ、目をこすりながらスマホを手に取る。そして、固まった。

 

「ぼっち……」

 

 

 

 

「すごい!  ギターヒーローさんのチャンネル、接続数もコメントももの凄い勢いで増えていくわ」

 

 スマホを眺めながら、虹夏がつぶやく。

 

「音楽関係者から注目されてるって、本当なのね……」

 

 

 

 

「ひとりちゃん、かっこいい……」

 

 もちろん喜多も配信をみている。

 

「でも、いつのまに大槻さんと仲良くなっちゃったのかしら」

 

 私達だって、いっしょに配信なんてしたことないのに。

 

「……ひとりちゃん、私がもっと上手くなったら、ギターヒーローとして私ともセッションしてくれるかな」

 

 

 

 

(すごい、大槻さん。ちゃんとついてきてくれる。本当に私は勝手にやってるだけなのに)

 

 ひとりは、いま自分が調子にのっている事を自覚していた。いつもの結束バンドなら、ひとりが無意識に先走ってリズムを乱し、それを修正しようにも仲間達との意思疎通がうまくいかずに、さらに乱れてグダグダになる負のスパイラルが発生するのだが。

 

 だが、今日は自重しない。する必要がない。

 

(おもいつきのアレンジも即興のテクニックも、大槻さんは私の意図を読み取ってすべて先回りしてあわせてくれる。本当におねえちゃんみたい)

 

 楽しい!

 

 ひとりは思わず笑ってしまった。演奏しながら笑ったのなんて、初めてかもしれない。

 

 

 

 

 え、笑顔? 笑ってる?

 

 ヨヨコの隣、うつむき猫背のままただひたすら弦をつま弾く後藤ひとり。その横顔を視線の端に捕らえたヨヨコは、おもわず絶句。

 

 わ、わ、私がついていくだけでこれだけ必死に弾いているのに?

 

 そして、おそろしいことに気付く。

 

 ギターヒーローは、どんな曲でもたったひとりで完璧に演奏してきた。曲によっては『オリジナルのバンド演奏よりも彼女ひとりの方が上』という口さがない評価すら見受けられるほどに。

 

 まさか、いま弾いている、これも?

 

 ヨヨコの背中を、冷たい汗が伝う。

 

 

 





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