ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

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大槻ヨヨコ その3

 

 

 ひとりの暴走はとまらない。クライマックスに向け、ただひたすら全力疾走をつづける。

 

(こ、これは? 大槻さん、まだついてこれる? これならどう?)

 

 これは挑発だ。自分の配信でさえつかったことが無いあらゆる技巧を駆使して、ひとりはヨヨコを挑発する。追い詰めていく。ある意味こんなサディスティックな一面が自分にあるなんて、思いもよらなかった。

 

 そして、そのほとんどについてくるヨヨコ。

 

(……すごい! これでもしっかりついてくるなんて、さすが大槻さん。ホントにおねえちゃんみたい)

 

 ヨヨコとしては冷や汗をかきっぱなしの限界ギリギリなのだが、そんな事にひとりが気づくはずもない。

 

(楽しい! 合わせてくれる人がいると、セッションってこんな楽しいんだ!!)

 

 

 

 

 

「くっ、くやしいけど、自分勝手に弾かせれば私よりも上みたいね……」

 

 大槻ヨヨコは戦慄している。

 

 うまい。本当にうまい。それは認めねばならないだろう。

 

 今日この瞬間まで、同年代で自分よりうまいギタリストがいるなんて、思いもよらなかった。それも、これほどまでに差をつけられているとは。

 

 瞬間的に繰り出す小手先のテクニックだけじゃない。正確性。曲の解釈。込められた感情の表現。そして集中力。そのすべてが。しかも、これはもともと私達の曲。彼女は一度聞いたことがあるだけだと言っていたのに……。

 

 これが、……天才?

 

 たしかに、常人とは根本的に異なる感性の持ち主ではある。もしかして、ギター以外のすべてを悪魔に捧げ、それを代償に常軌を逸する圧倒的な技術を得たとか? まさか我々凡人には決してたどり着くことができない神々の境地まで手が届く、選ばれた孤高のギタリストだとでもいうの?

 

 ぞくり。

 

 ふたたび背中に電気がはしる。それが恐怖なのか、あるいは感動なのか、自分でもわからない。

 

 いいえ。いいえ、いいえ。私だってあんなに練習してきたんだ。この私が練習量で負けるはずがない。練習は裏切らない。絶対に。

 

「負けるわけにはいかない。私はSIDEROSのリーダーなんだから」

 

 そう、たとえ単純な技術で負けたって、バンドの経験は私の方が遙かに上。セッションはひとりでやるものではない。それを思い知らせてやるわ!

 

 ヨヨコは深く深く息を吸う。気合いを入れ直す。隣でうつむいたまま一心不乱にギターを弾き続けるひとりを睨みつける。

 

 さぁ来なさい、後藤ひとり。

 

 

 

 

【女子高校生がここまでできるなんてロックの未来はあかるいな】

【どれだけ練習したんだろう】

【うまいのは確かだけどこれバンドとしてはどうなんだろね】

【テクニックに走りすぎて嫌味と思う人もいるかも。とくにギターヒーロー】

【老害の説教かよ】

【妹ちゃんと一緒の時みたいな感情豊かな旋律をしみじみ聴きたいんだよ】

【オレはこれ好き。生で聴いたらションベンちびる自信がある】

【なんにしろもう少しまともな配信機材つかって欲しい】

【超ハイレベルのセッションを畳の和室からパジャマ姿で配信するのがいいんだよ】

【本人達が楽しいのならいいんじゃね】

【まぁ配信だし。客の反応が返ってくるステージじゃないから】

【お互いこれだけ弾けたらセッション楽しいだろうな】

【きいてる方も楽しいぞ】

【これライブで聴きたいなぁ】

【同感】

 

 

 

 

 

 気付いたら、いつの間にか曲がおわっていた。

 

 ひとりは数分間ぶりに呼吸を思い出す。何度目かの深呼吸。一回。二回。三回。心臓の鼓動がおさまらない。

 

 あらためて自分の手、愛用のギターを見る。

 

(……こんな演奏、はじめてだった。押し入れの中とも、結束バンドともちがう)

 

 終わってしまった脱力感。加えて満足感が全身を支配している。

 

 そして、隣を見る。ヨヨコは、……同じく脱力している。

 

 ぐったりと、ギターを抱えたまま頭をあげる事ができない。荒い呼吸音だけが部屋の中に響いている。

 

「だ、大丈夫、ですか、大槻おねぇちゃん?」

 

(あ、おねえちゃんって、思わず言っちゃった)

 

 ガバッ。

 

 その瞬間、ヨヨコは再起動した。跳ね上げた顔がこちらを向く。頬が真っ赤に染まっている。

 

「ま、ま、まだ勝負は終わってないわよ! ご……、じゃなくてギターヒーロー!!」

 

「へっ?」

 

「朝までは、まだまだ時間があるってことよ! さぁ、次の曲いくわよ」

 

「え、えええええ?」

 

 

 

 

 

 結束バンドのメンバーのロイン。動画を見ながら、誰ともなく会話が始まった。

 

「ちょっと妬けるわよねぇ。ぼっちちゃんが結束バンドのメンバー以外とこんなに息があうなんて」

 

「虹夏、これは息が合っているんじゃない。ひとりで突っ走るぼっちに大槻ヨヨコが無理矢理なんとかついていってるだけ」

 

「……逆に言うと、もし私たちがひとりちゃんについていけるなら、ひとりちゃんは結束バンドでもこれだけできるはず、と言う事ですか? 先輩」

 

「郁代の言うとおり。だけど今は出来ていない。言い方をかえれば、私たちはぼっちに信用されていない、とも言える。ぼっちがそれを自覚しているかどうかはわからないけれど」

 

「そんな……」

 

「もう、リョウは捻くれすぎ。そもそも私達が目指しているのは、こんな観客を無視して好き勝手に弾きまくってテクニックを誇るバンドじゃないでしょ。ぼっちちゃんだってそれがわかってるから、人見知り直そうと努力してくれているんじゃない。もちろん、私達もぼっちちゃんについていけるよう、がんばらなきゃだけど」

 

「そ、そうですね。私がんばります!」

 

(でも、ぼっちがいつまで私達を待っていてくれるか……)

 

 リョウは、一度は書いたそのメッセージを、発信できなかった。

 

 

 

 

 

 終演は、唐突に訪れた。

 

 それは、カーテン越しに朝日が部屋に射し込み始めた頃。いったい何曲目になるのか、本人達もわからない曲のエンディング。

 

(す、凄い、……大槻さん)

 

 ひとりは、素直に感動していた。

 

(技術はもちろんだけど、この集中力。6時間弾きっぱなしについてこれる人がいるなんて……)

 

 ひとりにとって、一晩中ひたすらギターを弾き続ける程度のことは、それほど珍しいことではない。時間だけならば、一日の練習量としては短いくらいだ。だが、星歌にそれを話した時ちょっと引かれてしまった経験から、音楽のプロの世界ですら決してそれが一般的なことではないことを知っている。

 

 それだけじゃない。今日のセッションは時間がたつにつれ明らかに完成度が高くなっていった。ひとりは最後までひたすら自分勝手に弾き続けたにもかかわらず、だ。

 

 すなわち、これはすべて曲を重ねるごとにひとりの演奏の癖を学習し、最後には完璧に合わせて見せたヨヨコのおかげなのだ。

 

(今演奏したSIDEROSの曲は、完璧な出来だったと思う。私は勝手に弾いていただけなのに。すべては……)

 

「か、完璧でした。大槻おねぇちゃんのおかげです!」

 

 ひとりの口から、自然に感謝の言葉が出た。

 

 ピクリ。ヨヨコの身体が反応する。肩で息をしながら、ゆっくりと顔だけがこちらを向く。

 

「あ、あ、あ、あなたも、なかなか、よかった、わ、よ」

 

 ちょっと引きつりながら力なく微笑むヨヨコ。その顔には、演奏前の上から目線のトゲトゲしさは感じられない。そして……。

 

 こてん!

 

 ヨヨコの上半身が、ひとりに向けて倒れ込む。ひとりの膝の上に頭を乗せる。

 

 え、えええ! 大槻、さん?

 

 スピーーーー。

 

 ね、寝てる?

 

 そうだ。大槻さんは昨日ライブだったんだ。大槻さん、ライブの前3日間は緊張で寝られないって言ってたっけ……。

 

 年上とは思えないその可愛らしい寝顔。ひとりはあたまをなでる。

 

 ふ、ふ、ふふふ。……私も眠くなってきちゃった。

 

 

 

 

【さすがに限界か】

【最後の大槻は鬼気迫るプレイだった】

【なんか青春って感じでおじさん感動しちゃった】

【最後まで聴いている俺らもなかなか】

【大槻ヨヨコの寝顔!】

【ギターヒーローの膝の上やわらかそう】

【これは尊い!】

【尊いな!】

【うむ尊い!】

【尊い!】

 

 

 

 

 ギターヒーローの膝枕で安心しきった大槻ヨヨコの寝顔。あわてた虹夏やあくびの電話により二人が起こされるまで、それは世界中に晒され続けたのだった。

 

 

 

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