ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし 作:koshikoshikoshi
すいません。今回はセッションなしです。
ピロリン!
STARRYでのバイト中、伊地知虹夏のスマホから配信開始の通知音。
「あ、新宿FOLT のオーチューブチャンネル始まった」
虹夏にとって、ギターヒーローの次に楽しみにしている動画チャンネルだ。曜日ごとに担当がかわり、内容も変化に富むんで飽きさせない。リョウや喜多も同様に楽しみにしているのだが……。
「でも、こんな中途半端な時間に予告無しで配信なんて、きっと…………、やっぱり」
スマホの画面をみて、虹夏は露骨にがっかりした。そこに映るのは、ギザ歯の女。紙パックの酒をストローで吸いながら、酔っ払いが叫ぶ。
『廣井きくりのグビグビ安酒レビュー!』
すっかり興味をなくしてしまった虹夏は、スマホを置きっぱなしにバイトに戻った。結束バンドのメンバー達も、同様に開店前の準備を始める。
『……では、コメントにこたえるよぉ』
画面の中、視聴者の都合などまるっと無視してアル中が叫ぶ。
『えー、廣井さんこんばんわ。おねえさんは大五郎とサッポロソフトどちらが好きですか?』
『うーん、どちらもコストパフォーマンスは最高だけど、私は苦手かな。なぜって? だってペットボトル重いし。それに私みたいな花の乙女が2リットルの焼酎ペットボトル抱えて路上で寝てたらヤバイとおもわない? ぎゃはははは!』
マイクの前で陽気に笑うアル中ベーシスト。安酒に浸された脳髄と舌は今日も絶好調だ。
「……鬼ころしの紙パックだって十分ヤバイだろ」
仕事中、偶然スマホから配信の音が耳に入ってしまった星歌は、突っ込まずにはいられない。もちろんきくりには聞こえないのだが。
『次いこー。廣井さんはギターヒーローと名乗る女性の配信者を知ってますか? こないだSICK HACKの曲をギター一本で弾いて配信していましたが本家より上手かったので今度コラボしてください』
ぶっ!
おもわず噴き出す星歌。ぼっちや虹夏を含め、バイト中の他のメンバーも同時に噴き出す。
『えーーそんな物好きな配信者がいるのぉ?」』
大笑いのきくり。ギザギザの歯に照明がひかる。
『しかぁし、私たちより上手いとは、ききづてならないぞお』
きくりは、手にした鬼ころしを飲み干す。紙パックをぐしゃっと握りつぶす。
『よーーし、そのギターヒーローとかいうのが誰か知らないが、次の配信でしょうぶしてやるろー』
え、え、ええええええ?
ぼっちが固まる。
『ねー、大槻ちゃぁん、そのなんとかヒーローって人しってる? コラボってどうやって申し込めばいいのぉ?』
きくりの配信は、おそらくFOLTのスタジオから行っているのだろう。そのカメラの外に居る大槻ヨヨコに向かって、きくりは問い掛けたのだ。
廣井きくりは、ぼっちがギターヒーローだということを知らないはずだ。
ぼっちとしては、ギターヒーローが結束バンドの後藤ひとりだということは、出来れば世間には公表したくない。ギターヒーローの正体を知っている結束バンドやSIDEROSのメンバーも、そんなぼっちの意思を汲んでくれている。
だが、酔っ払いきくりに対して、そんな気遣いを期待する方が間違っている。
画面の外で大槻ヨヨコが首を激しく左右にふっているのだが、もちろんマイペースの酔っ払いきくりはそんな事は気にしない。
『えー、大槻ちゃん、なんとかヒーローって知ってるの? 教えてよぉ。……お、またコメントが来た。なになに、ギターヒーローさんの動画はここ、だって。クリックしてみようかぁ!』
きゃーーー!
配信をみながら、虹夏が悲鳴をあげた。
『おおおお、この娘かぁ。……た、確かに上手いねぇ。(ごくり)うん、これはヤバイわ。本家より上手いというのもまんざら言い過ぎではないかもねぇ。……えーと、こっちの動画は? あれー、これセッションしているの大槻ちゃんじゃないのぉ? そして隣の娘は、……ん? んんん? このギター、歌うようなビブラート、そしてピンクのジャージ、みたことあるような……』
ひーーー。
ぼっちがその場に倒れる。耳を塞ぎ、現世を拒否する。
『もしかして、ギターヒーローってぼ……』
ぶちっ
唐突に映像が切れた。
「……原因はわかりませんが、配信元がとまったようですねぇ」
PAさんがなにやら手元のPCを操作。配信そのものが停止したことを確認してくれた。
ふう……。
ぼっちと仲間達は安堵する。何があったのかわからないけど、身バレせずにすんだのだ。
……危なかった。
新宿FOLT。たまたまきくりの配信を横で見ていたヨヨコとあくびも、同時にため息をついていた。
ギターヒーローの身バレを防ぐため、きくりの配信をとっさに止めたのはこのふたりだ。配信中のPCの電源を引っこ抜いたのだ。
「あれーーーー、なんかとまっちゃったよーーーー」
目の前のカメラとPCをぺしぺし叩きながらきくりが叫んでいるが、もちろん相手にしない。
「ホント、世話がやけるわね、後藤ひとり」
「やさしいっすね、ヨヨコ先輩」
「ばばばばバカな事いってるんじゃないわよ。電源コードに脚が引っかかっちゃっただけよ」
「ヨヨコちゃーん。スタジオのPC壊れちゃったら弁償してよぉ」
銀次店長の言葉に、ヨヨコが固まった。