ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし 作:koshikoshikoshi
「おはようございます」
ある日の新宿FOLT。大槻ヨヨコがいつものとおり無愛想な顔のまま店に入る。
「……おはようございますっす」
「お、……おはよーございますぅ」
「お〜はよう〜ございます〜」
すでにテーブルを囲んで座るSIDEROSの三人が、顔をあげずに挨拶を返した。
ん?
三人の様子に、ヨヨコが微妙に違和感を感じた。
なんだろ。いつもよりもちょっとよそよそしいような、……気のせいかしら?
「おはよー! ヨヨコちゃん」
ドスの効いた声に振り向くと、銀次郎店長だ。
(……店長はいつもどおりね)
ヨヨコは胸をなで下ろす。
「みてみてヨヨコちゃん、すごい反響よ」
上機嫌の銀次郎店長が、タブレットをかざす。
「なんのことですか?」
「動画。ヨヨコちゃんとギターヒーローとのコラボよ」
先日の大槻ヨヨコと後藤ひとりのセッション動画。
もともとはギターヒーローのチャンネルで公開されていたものだが、SIDEROSの宣伝のためにと編集したものをFOLTのチャンネルにもアップしたのだ。もちろん、ヨヨコの寝顔シーンはカット済みだ。
……あのセッションは、我ながらなかなか良いできだったわ。
ヨヨコはほくそ笑む。
演奏技術だけが異常に突出した天才、ギターヒーロー。あれほどのテクニックをもつ同年代のギタリストが存在するとは、ヨヨコにとって大きなショックだった。
しかし、セッションしてわかった。ギターヒーローは、技術はあっても、……いやもしかしたらあまりにも技術に特化しすぎているが故に(?)、他人と合わせることができない。
その点において、ヨヨコには一日の長があった。そんなヨヨコがサポートすることにより、ふたりのセッションはおおむね満足できる完成度になったと思う。
もちろん、ヨヨコはこのままで終わるつもりはない。いつか技術面でも絶対に追い越してやると心に誓っているのだが。
「は、反響って、……どんな?」
ヨヨコは、恐る恐る尋ねる。もしかして、第三者の反応は異なるのだろうか?
「ほとんどは好意的なものよ」
店長の言葉に胸をなで下ろす。
「たとえば『第二弾希望』『今度はライブをやって欲しい』とか」
「ふっ、当然ね」
「……あとは『ふたりはどんな仲?』『ギターヒーローの正体は?』とかも多いわね」
「なにそれ、セッションと関係ないじゃない!」
「…………雑誌の取材の申し込みなんかも来てるらしいっすよ」
うつむいたまま、ぶっきら棒な口調で、あくびがつぶやいた。
「断って!」
間髪を入れず、ヨヨコが応える。
「……どうしてっすか? ヨヨコ先輩、もっと有名になれるかもしれないのに」
あくびが顔をあげる。楓子と幽々も、いつのまにかヨヨコの顔を凝視している。
「だって、どうせギターヒーローとセットでの取材でしょ? 後藤ひとりが動画のコメントになんて応えるわけがないから、私あてに送ってきたのよね?」
「そう、……でしょうねぇ。でも、せっかくのチャンスっすよ!」
「私はSIDEROSのリーダーですもの」
へ?
あくびは目を丸くして停止する。
「取材と言ったって、どうせ『私とギターヒーローのセッションは今のバンドと比べてどうだ?』とか『ふたりで新しいバンド組む予定は?』とかくだらないこと聞かれるにきまってるわよ!」
「そりゃあ、……あんな凄いセッションきいちゃったら、だ、誰でも、そう思うっすよ」
……『誰でも』の部分に力がはいっていることに、ヨヨコは気付かない。
「たしかに後藤ひとりとのセッションは楽しかったし、またやりたいと思うけど、あくまでも一時的なものよ。私はSIDEROSのリーダーで、一番大事なのはSIDEROS。応援してくれる人達や、メンバーである貴方達をないがしろにするような無礼な取材とわかっていて、受けるわけないじゃない!!」
ヨヨコがテーブルに両手を叩きつける。SIDEROSのメンバーが黙る。周囲を沈黙がつつむ。
(あ、あれ? 私、おかしなこと言っちゃった?)
ヨヨコは不安になった。自分はしばしば、悪気がないまま他人を傷付けることを言ってしまう、という自覚があるのだ。
ひしっ。
突然、あくびがヨヨコの右手をとり、握りしめた。
な、なに?
何が起こったか理解できず動けないヨヨコの左手、こちらは楓子と幽々に握り締められる。
「な、なんなの、あなたたち!」
「だから言ったでしょお?」
銀次郎店長が、ニヤニヤしながら口をひらいた。
「この娘たち、あの動画みてから、ヨヨコちゃんがギターヒーローと新しいバンド組んじゃうんじゃないかって、心配してたのよぉ」
はぁ?
ヨヨコにはわけがわらない。
「私はね、ヨヨコちゃんって去る者は追わないけど、絶対に自分からメンバーを蔑ろになんかしないって、何度も何度も言ったんだけどねぇ」
「ば、ば、ばかねぇ、あなたたち」
ヨヨコは、瞳に涙がにじむのを必死に我慢する。この娘たちとバンド組んでホントよかった。
その様子を眺めながら、銀次郎がさらにニヤニヤしながらつぶやいた。
うーーん、青春ねぇ。……ところで、結束バンドの方は大丈夫かしら? ちょっと心配だけど、こればっかりは他人にはどうにも出来ない問題なのよねぇ。
「へへへへ、ぼっちちゃーーん!」
廣井きくりがいつものようにSTARRYに乱入してきたのは、その数日後のことだった。もちろんその手には、いつものように鬼ごろしの紙パックが握られている。
「お、おねえさん!」
硬直するぼっち。そしてその場で土下座。
「わわわ私ごときがおねえさんの曲を勝手に弾くなんて思い上がりでした。許してください。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
ぼっちは土下座を繰り返す。何度も何度も何度も何度も……。
「こら! おまえ、なにぼっちちゃんを虐めてるんだよ」
星歌店長が割って入る。
「えー、ちがうよ、先輩。今日は結束バンドにまたライブのゲストをお願いに来たんですよぉ」
「結束バンドに? あ、ありがたいですけど、……私達でいいんですか?」
きくりに対応するのは、虹夏だ。
「そーそー、前回やってもらったのがけっこう好評でさー。銀ちゃんも乗り気だし、またSIDEROSといっしょにさー」
「あ、あ、ありがとうございます! がんばります!!」
いまだ土下座体制のぼっちと並んで土下座する勢いの虹夏。だが、きくりの話はまだ続きがあった。
「きっと客もたくさん来るから銀ちゃんも喜ぶよー。でねぇ、ひとつだけ条件、……というか私と銀ちゃんからのお願いがあるんだけど、きいてくれる?」
きくりの濁った瞳がぼっちに向かう。そしてぎらりと光った。
「え、ええ? 路上ライブを配信するんですか? 私ときくりお姉さんがふたりで?」
野外、お天道様の下、ご機嫌の廣井きくりと並んでギターをもち呆然と路上に佇む後藤ひとりがいた。
新宿FOLTでの結束バンドライブ。その交換条件としてきくりがいいだしたのは、FOLTチャンネルでのきくりとギターヒーローとのコラボ。しかもふたりでの路上ライブだったのだ。
どどどうしてこんなことに?
現場まで連れてこられてもなお、ぼっちは困惑している
ここは、路上と言ってもはんぶん公園みたいなところ。人通りも多い。よくわからないけど、きちんと許可をとったということで、堂々と機材の準備中だ。
ぼっちは星形メガネで顔を隠しているとはいえ、真っ昼間。それなりの通行人の好奇の目にさらされている。
ギターを構えても心臓の鼓動がおさまらない。必死に深呼吸を繰り返す。
わたし、成長しないなぁ。