ぼっちがいろんな人とセッションするおはなし   作:koshikoshikoshi

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廣井きくり その2

 

「なぁ、……結束バンドをゲストに呼んでくれるのはありがたいが、どうしていきなりぼっちちゃんと路上ライブなんだ?」

 

 ぼっちが心配で現場までついてきた星歌が、きくりに問う。その横では、やはりついてきた結束バンドのメンバー達が、三脚やカメラ、機材の準備をしている。

 

「いやー、こないだの大槻ちゃんとぼっちちゃん、……じゃなくてギターヒーローとのコラボ動画? FOLTにも結構反響があったみたいで、銀ちゃんが次はきちんと事前告知してチャンネルの宣伝にしたいって。で、お鉢が私にまわってきちゃったんだよねぇ」

 

 へらへらと応えるきくり。

 

「うそつけ! お前がぼっちちゃんとセッションしたかっただけだろ。で、どうして『路上』なんだ?」

 

「うーん、路上ライブこそロックの原点だから?」

 

「なに言ってやがる。おまえ、……ステージの上じゃできないようなこと、ここでやろうとしてるんじゃあるまいな。ぼっちちゃん巻き込んで」

 

「へへへへ、まぁ見ててよ先輩。悪いようにはならないからさぁ、……たぶん」

 

「不安しかないなぁ……。とりあえず、真っ昼間に高校生とライブするのに酒飲みながらはやめろ! 職質されるぞ」

 

「ははは、そういえばそうだねぇ」

 

 廣井きくりが鬼ころの紙パックをぐしゃりと潰す。そして振り向く。生配信でのコラボセッションの相手、後藤ひとりに顔を向ける。

 

 

 

 

(そういえば、廣井おねえさんと初めてセッションしたのも、路上だったなぁ)

 

 ぼっちは他人事のように思う。ここにいたってもなお、自分がこれから路上ライブをするのだという実感がわいてこない。

 

 あの時は、おねえさんが私に合わせてくれた。敵を見誤らないこと、そしてお客さんに喜んでもらうことの楽しさを教えてくれた。

 

 それを思い出せば、ちょっとだけ安心できる、……だろうか。

 

 びくり。

 

 ぼっちの身体が反応した。廣井お姉さんが肩を抱いたのだ。そして、耳許でささやく。

 

「さて、ぼっちちゃん。路上ライブは前にもやったことあるから観客は大丈夫、だよね?」

 

「あ、あれから何回か路上ライブはやりました、けど、なななななかなか慣れなくて……」

 

「ふむ。客を味方にすればいい、……なんて優等生的なお説教はしないよ、お姉さんは。代わりにいいことを教えてあげよう。路上ライブの客はね、ステージのライブの客と違って、金を払っていない。つまり……」

 

(つまり……?)

 

 ごくり。ぼっちは固唾を呑む。

 

「たとえ下手くそでも、間違っても、歌詞を忘れてもゲロ吐いても最悪泥酔して意識失ったって、責任を感じる必要がないってことだぁ!」

 

 は?

 

「客なんて慣れるまでは無視してればいいんだよ。なんなら目をつむっていてもいい。ついでに、今日は隣の私のことも意識しないでいいよ。そうだな、……私と私のベースのことはメトロノームだとでも思ってよ。そうすりゃ、いつもの押し入れと同じだろ?」

 

「えええええ? む、無理です。そんな失礼な」

 

「別に失礼じゃないよぉ。単純な演奏の腕ならいまやぼっちちゃんの方が上だからね。でも、私のこのスーパーウルトラ酒吞童子EXが刻むリズムだけは、聴いてやってくれないかい?」

 

「へ?」

 

「最低限、この子とリズムだけは合わせてね、って言ってるの。相手が人間じゃなくてメトロノームだと思えば、たとえ目をつむっていてもあわせられるでしょ? できる?」

 

 ギザギザの歯が、不敵に笑う。

 

「あ、え、は、はい。よくわからないけど、がんばります」

 

「よーし、ぼっちちゃんが合わせてくれるのなら、わたしも気合いがはいるわ。せっかくふたりで弾くんだから、大槻ちゃんみたいに一方的についていくだけなのはつまらないからねぇ。ああ、楽しくなりそう!」

 

「あ、………………はい」

 

 返事はしたものの、ぼっちの胸中には不安しかない。

 

 おねえさんのベースをメトロノームと思えって。……出来るだろうか? 

 

 

 

 

 

 ベンッ!

 

 きくりがベースをつま弾く。ギターヒーローと廣井きくり、セッションは静かにはじまった。

 

 

 

 

【うおおおおまた生配信?】

【最近配信多いなギターヒーローさん。うれしいです】

【いつもの部屋じゃないんだな。路上ライブ? 】

【顔は見えないけどまた女の子ふたりだ】

【女、……の子?】

【ピンクジャージがギターヒーローさんだよね?】

【ベースはだれ?】

【SICKHACKの廣井じゃね】

【下駄履きでバチつかう女ベーシストなんて廣井しかいない】

【FOLTチャンネルでも同時配信してる「SICKHACK廣井とギターヒーローコラボ」】

【これどこ? どこに行けばギターヒーローさんに会えるん?】

 

 

 

 

 

(やっぱりお客さんがいるといまでも緊張する。でも、言われてみれば路上ライブって、失敗しても逃げ出しちゃえばいいんだよね。自分の黒歴史になるだけで、何度だってやり直しがきく。なにより、おねえさんが隣にいてくれると思えば、ちょっとだけ安心、かも)

 

 ぼっちは、意外と落ち着いている自分におどろく。

 

(……おねえさんのベース、合わせやすい。メトロノームみたいにリズムが絶対に狂わない、だけじゃない。特に意識しなくても私の指が勝手に合っていく。これがカリスマ? 大槻さんの時ほど激しくはないけど、これはこれで楽しいな)

 

(ふむふむ、ぼっちちゃん大丈夫そうだね。ちゃんと私の音も聞こえている。楽しんでくれてるかな?)

 

 

 

 

 

 星歌とともに心配でついてきた結束バンドメンバー達は、ぼっちがとりあえず演奏を始めたことに胸をなでおろす。

 

「あのアル中とコラボで路上ライブなんてどうなるかと思ったけど、ぼっちちゃん普通にやれてるじゃない。安心したわ」

 

「お客さんを見ないのはあいかわらずだけどね。その点、廣井さんも今日は普通だわ。お客さんに暴言吐いたりしてないし」

 

「油断しない方がいい。あの人は絶対にこんなもんでは終わらない」

 

「もう、リョウはいつも心配しすぎなの。たとえアル中がなんかしたって、ぼっちちゃんなら大丈夫だって」

 

 

 

 

 

【はじまた】

【例によって普通に上手いなギターヒーロー】

【これなんて曲?】

【SICKHACKだな】

【こないだの放送事故でギターヒーローさんが妹ちゃんと合唱した曲】

【息ぴったりだ】

【シデロス大槻の時は超絶ソロテクニックのぶつけ合いだったけど廣井とだとこんなにしっとり噛み合うんだなギターヒーロー】

【やっぱり天才だわ】

【でも廣井にしちゃおとなしい】

【普通すぎる。メンバーじゃないから遠慮してるのか】

【これからだろ。あの女はアルコールが脳に回ってからが本領】

 

 

 

 

 きくりが刻む正確なベースのリズムが心地良い。ぼっちが特に意識しなくても、彼女の指は勝手にリズムにあわせて動く。

 

 ギタリストの本能の従うままに、まるで息をするように、ぼっちは自然体のままギターを弾いていた。きくりのベースを子守歌に、半分夢見心地と言ってもいいかもしれない。

 

(いいねぇ、ぼっちちゃん。こうまで完璧に合わせてくれると、ベース冥利に尽きるってやつだ)

 

 ぼっちを揺りかごであやすように、きくりのキレが増していく。そして……。

 

(……へっへっへ、鬼ころが脳に回って幸せな気持ちになってきたぞぉ。客もあったまってきたし、酒呑童子EXも単純なメトロノームに飽きたって言ってるし、そろそろ本気出していこうかぁ)

 

 ほれっ!

 

 突然ベースのテンポが変わった。

 

 どうする、ぼっちちゃん?

 

 えっ? なに? お姉さん間違った? もともとSICKHACKの曲なのに?

 

 ふふん。戸惑ってるようね。もうひとつ、ほれほれ!

 

 これ、ミスじゃない。もしかして、……誘っている?

 

 戸惑いながらも誘いにのってみる。お姉さんに合わせて、アドリブのフレーズを入れる。お姉さんならなんとかしてくれるだろうと信じて。

 

 さっすがぼっちちゃん。わかってくれた? じゃあ次、これはどうだ!

 

 えっ、えっ、いいの、おねえさん? こんなのが許されるの? じゃぁ、……こっちも!

 

 おおお、やるなぁ、これでどうだ!

 

 

 

 

【うわベースが突然狂った】

【え? どうした?】

【こんな曲だったか?】

【わざとだろ廣井らしいな】

【やっとアルコールが脳にまわったか】

【ギターヒーローもちゃんとついていくのが】

【いつのまにか全然別の曲になってる(笑 】

 

 

 

 

 それはまるで会話のよう。

 

 はじめは初対面同士のぎこちない会話。仲良しのおしゃべり。たまにケンカのようなフレーズを挟みながら、やがて恋人同士の愛のささやきに。

 

 超ハイレベルな技術を駆使したアドリブの応酬に、聴衆は大いに沸きあがる。

 

 

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