シナリオ100点道徳0点の世界に料理人をぶち込んだお話   作:エヴォルヴ

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ガジュマル。


十二品目 だれかとホットケーキ

四月 大樹の節 晴れ

 

 今日の朝、戦場を渡り歩いているというお医者様の一団がやってきた。

 

 このフォドラでは戦いが終わることがない。大きな戦争が終わったと思ったら、小さな戦争が水面下で続いている毎日。私が住んでいる場所にはまだその気配はないけれど、もしかしたらここも……嫌なことは考えたくない。楽しいことを考えよう。

 

 楽しいこと……そうそう、お医者様の一団の中に私と同じくらいの年齢の男の子がいた。お医者様の一団に料理を振舞っていた、私とほぼ同じくらいの背丈の男の子は、ご両親に連れられて私の家に挨拶にやってきた。フロム・アリアドネ。それがその子の名前らしい。

 

 アリアドネ……様々な物語に登場するヘンリー・アリアドネと同じ家名。何か関係があるのかしら。

 

 挨拶もそこそこに、彼はお医者様の一団や村の皆に料理を作ると言っていなくなってしまったけど、本も好きだと言っていたし、仲良くできそう。また話をできるかしら? 

 

 

 

 夜に振舞われた料理はとても美味しかった。何時間も煮込まれたシチューはまだ少し肌寒い日が続いている今日日、とても沁みる味だった。あの味をまだ私と同じか少し下くらいの男の子が作れるなんて、ちょっと悔しい。

 

 

 

 

 

四月 大樹の節 曇り

 

 お医者様の一団がやってきた翌日。私は早朝からパン作りに勤しんでいるフロム君を見かけて声をかけた。

 村で作っているライ麦で作るパンとは違った、白い生地はフワフワとしており、型に詰め込まれて焼かれたパンはとても甘い香りがしていた。

 

「食べる?」

 

 そう言って切り分けてくれた柔らかいパンを食べた瞬間、ライ麦パンとは全く違うと理解した。ライ麦パンよりも柔らかくて、少し甘い。ライ麦パンも好きだけれど、私はこっちの方が好きだと思う。

 本当に凄いと思って彼にそう伝えると、まだまだダメだと言っていた。こんなに美味しいのに、どこがダメなのかしら。

 

 パンをあらかた焼き終えた彼はお昼まで暇をしているみたいだったから、私の部屋で本を読まないかと誘った。あちこちを歩いているせいで本は料理や医療に関してのものしか持っていないという彼は、料理や医療の本以外の本を見て目を輝かせていた。たくさんの本を手に取っては優しく開いて読み漁るその姿を見て、本当に本が好きなんだなぁ、と思うのと同時に、何だか可愛らしかった。

 

 お昼の時間を過ぎても本を読んでいたせいで疲れてしまったのか、寝てしまったみたい。私のベッドに運んで寝かせてあげた。

 

 

 

 

 夜、慌てて飛び起きたフロム君は夜になっていたことに驚き、そして頭を抱えていた。ご両親からも起こさないであげてと言われていたけれど、起こした方が良かったのかしら。

 

 

 

 

 

五月 竪琴の節 晴れ

 

 村の男の子達がまた、フロム君のことを女男だ何だと言って揶揄っていた。……揶揄うというよりもいじめていた。当のフロム君は全く気にしていなかったけど、ああいう行為はあんまり好きじゃない。

 

 今日はガツンと言ってやろうと思っていたけど、そんなことは必要なかった。森の中に迷い込んでしまった男の子達をフロム君が助けたことで、村の男の子達もフロム君のことを仲間だと考えるようになったみたい。ただ、女男っていうあだ名をつけているのは良くないと思う。言い返さないフロム君にどうしてなのかを聞いたら、こんなことを言われた。

 

「お母さんに似ているって言われてるみたいで嬉しいから」

 

 似ているのが嬉しい……本当の両親を知らない私には分からない感覚だった。

 

 

 

 

いいなぁ。

 

 

 

 

 

六月 花冠の節 雨

 

 毎日幸せそうなフロム君を見て、フロム君と接して、フロム君が羨ましくて、フロム君が妬ましくて……酷いことを言ってしまった。

 

「家族がいる君に、捨てられて、ずっとひとりぼっちだった私の何が分かるの」

 

 私は赤ん坊の時にこの村の村長────つまり、私が住んでいるこの家の老夫婦に拾われたそうだ。森の中、綺麗な川があるけれど、そこに捨てられていたらしい。

 

 不自由なく育ててもらった。本もたくさん買ってもらって、色んなことを勉強させてもらっていた。でも……やっぱり私はひとりぼっち。血の繋がった人が誰もいない。村の人達もとっても優しくしてくれたけれど、血の繋がりはない。どこか一歩引いた場所で皆を見ていたのは、羨ましかったから。妬ましかったから。

 

 酷いことを言ってしまった自分が許せなくて、フロム君に拒絶されるのが怖くなって、何か言おうとしていたフロム君から逃げ出して、森の洞窟の中で今この日記を書いている。洞窟の中にはいるけれど、雨が降ってきたせいで凄く寒い。火を付けたくても、小枝も何もない小さな洞窟では暖を取ることはできない。

 

 

 

 

 

寒い。

 

寂しい。

 

苦しい。

 

暗い。

 

怖い。

 

嫌だ。

 

一人は、

 

ひとりぼっちは、嫌だ。

 

 

 

 

 

六月 花冠の節 曇り

 

 目覚めた時、私は家のベッドに寝ていた。その横には椅子に座ったまま寝ているフロム君がいた。

 熱が出ていたのか、少しだけぼんやりとしていた頭の中、入ってきた村長やフロム君のご両親にたくさん怒られた。どうやら私は、一週間も熱に魘されて眠っていたらしい。雨の中森へ向かい、暖を取らずに洞窟にいたせいだろう。

 

 そんな私を見つけたのはフロム君だったそうだ。よく見ると、彼の体にたくさんの包帯が巻かれている。木々をかき分けて私を探して、ボロボロになりながらも私をここまで運んでくれたらしい。……この一週間、ずっと私の看病をしてくれていたことも、聞いた。

 

 ずっと眠っていたから消化に良いものと水分をたくさん取れと言われ、言われるがままにお粥や水を飲んで少し休んでいると、椅子に座って寝ていたフロム君が起きた。私が目覚めているのを見た彼は、大粒の涙を流しながら私のことを抱きしめてくれた。

 

「ひとりなんて言わないでよ」

 

「ひとりじゃないよ」

 

「皆がお姉さんを探して走り回ったんだよ」

 

「皆、お姉さんのこと、家族だって思ってたよ」

 

「血の繋がりなんて関係ない。皆、お姉さんのことが大好きで、ひとりにしたくないって、必死で探してたんだよ」

 

「ひとりなんて悲しいこと言わないでよ」

 

 大粒の涙を零しながら言ってくれた言葉が、私にはとても温かくて。

 その後、私が起きたことを知って雪崩れ込むように入ってきた村の人達も、フロム君みたいに大泣きしながら私に「一人ぼっちなんて寂しいことを言うな」と言ってくれて。私は生まれて初めて、大きな声で泣いた。

 

 

 

 

 

七月 青海の節 快晴

 

 フロム君が、私の快気祝いと六月にできなかった誕生日のお祝いだと言って、小麦粉と卵と砂糖と牛の乳を混ぜたものをフライパンで焼いたものを出してくれた。

 ホットケーキというらしい。平べったくて少し厚みのある、甘くて香ばしい匂いのする素朴なケーキには、村の近くで収穫された蜂蜜がかけられている。

 

 まだ温かい状態のそれを一口食べると、素朴で優しい甘さが口の中に広がった。初めて食べるのにどこか懐かしい味がするホットケーキは一口食べると止まらず、お皿に乗せられていた二枚のホットケーキはすぐになくなってしまった。おかわりもあるよ、とすぐに焼いてくれたフロム君はちょっとおかしそうに笑っていて、何だか恥ずかしくなって顔を赤くしてしまった。

 

 ……あの時、フロム君に助けてもらった時から一ヶ月。彼の姿を追うことが多くなった。楽しそうに本を読んでいる時、村の男の子達に混ざって畑仕事や川遊びをしている時、料理を作っている時の真剣な姿……彼の姿を自然と目で追ってしまうようになってしまった。目を合わせると凄く恥ずかしくて目を逸らしてしまう。一緒にいるだけでドキドキする。

 お医者様の一団や、村の大人の女性、女の子達にそれを話すと、キャーキャーと楽しそうに騒がれる。皆、私が恋をしているって言う。

 

 恋。助けられただけで、恋に落ちるなんて。そう言うと、皆口々にこう言った。

 

 

「恋のきっかけなんて些細な事」

 

「ちょっとしたことで恋が始まることがある」

 

 

 なんて、無責任に、楽しそうに言ってきた。……恋。恋かぁ……

 

 

 

 

 

八月 翠雨の節 にわか雨

 

 認めよう。

 私は恋をしている。

 彼に、フロム君に、私は。恋をしてしまった。

 

 嬉しかった。あんなに酷いことを言ったのに探しに来てくれて、毎日毎日、ずっと看病してくれて。ひとりじゃないと言ってくれて、抱きしめてくれて。

 

 ふとした時に彼のことを思い浮かべてしまう。彼と一緒にいるだけでドキドキしてしまう。彼のああ、これが人を好きになるってことなんだ。

 

 文字に起こしていないと、おかしくなってしまいそうで、まだ夜じゃないのに日記を書いている。恋をするだけで、世界がとっても輝いて見える。

 

 

 何をしようとしても全然身にならない。…………うん、決めた。来月、村のお祭りがある。朝まで踊り明かすことで女神様に豊穣を祈るお祭りがある。そのお祭りで好きな人と一緒に踊ることで、恋が成就するという言い伝えがあるのだ。

 

 迷信だろうがなんだろうが縋りたくなってしまう。この想いを、あの子に伝えられるといいな。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「なぁフロム。好きな食べ物はあるのかい?」

 

「ねぇフロムさん。好きな食べ物はあるんですか?」

 

「なんだい突然。呪術師二人でいきなり」

 

 俺がぼんやり空を眺めていると、贔屓にしている呪術師が声をかけてきた。呪術師というか、本職は軍師とか魔術師らしいけど。……ボードゲーム弱いくせに軍師とはこれ如何に。

 

「いや何。少し気になってね」

 

「ええ、彼の言う通り、ただの気まぐれですよ」

 

「ああそう。……ホットケーキだよ」

 

 俺の好きな食べ物はホットケーキだ。素朴なやつ。焼いたやつに蜂蜜ぶっかけたやつが俺の好きな食べ物だ。

 

「驚いたな……もう少し手の込んだものが好きなのかと思っていたけれど」

 

「そうですね……正直驚きました」

 

「別にいいだろ」

 

「僕達を相手にその態度……本当に変わらないね」

 

「ええ、さすがは私達の半身といったところでしょうか」

 

「君達の半身になった覚えはないぞ」

 

 一度絞めた方がいいかなこの呪術師共。でも普通に強いんだよなこの二人。本当に記憶失ってるのかよって思うくらいには色々知ってるんだよな……ディミトリ君に渡している呪符もこの二人が作ってるものだし。何なんだろうねこの二人。

 

「僕達の記憶を取り戻す手伝いをする……君がそう言ったと記憶しているんだけどね」

 

「そもそも君達何者なのさ。記憶を取り戻すと言っても、何を手掛かりにすればいいのか分からなければ探せるものも探せないよ」

 

 ……まぁ、ソティスも何者なのか分からないんだけどさ。あと、この二人が用意してくれた鎧とか呪符とかは本当に有用だし……ただし盾、君はダメだ。なぜ爆発する。展開型の盾はやっぱり本職が作るに限るね。

 

「はぁ……まぁいいや。俺は明日の授業があるから帰るよ」

 

「ええ、分かりました。……ああ、そういえばフロムさん。最近、裏側がきな臭い。お気をつけて」

 

「……どーも」

 

 情報を集める能力もちゃんとあるんだけどなぁ……とても胡散臭い。その変なお面を外してフードを外せば胡散臭さが消えるんじゃないかな。

 ……久しぶりにホットケーキが食べたくなってきた。帰ったら作ろうかな。




クロスオーバーのタグを増やす時が来た。
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