魔法少女さんとサイボーグさん   作:カードは慎重に選ぶ男

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これまでのあらすじ

暴太郎戦隊を最後まで見た勢いで仮面ライダーアギトの再履修を始める作者。
そして何故か大先生たちの偉大な作品群をベースに、性転換とメカバレとおねショタを盛り込んだ闇鍋を調理し始めてしまうのであった……。というお話。





第1話:魔法少女さんの守りたい夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――テツくんなんて、大っ嫌いっ!!

 

 

5年ぶりに再会した幼馴染からの拒絶の声が、頭の中にこびりついて放課後まで消えなかった。

小学校にあがるときに僕が引っ越して、それ以来会っていなかった幼馴染の女の子との再会は最悪の幕開けを迎えたんだ。

どうしてこうなってしまったんだろう?

 

昔は仲よく遊んだ記憶ばっかりだし、ケンカ一つしていなかったはずなのに。

思い出の中の風杉マナちゃんはプリキュアに夢中な女の子だった。

僕は特撮ヒーローの方が好きだったけど、不思議と気が合って一緒に遊んだ関係だったはずだ。

マナちゃんが将来プリキュアになるって言ったら、僕も対抗して特撮ヒーローになるって言いだして。

それがいつの間にか僕の夢になっていた。

 

テレビの中の特撮ヒーローが御芝居だと理解できるようになってからも、僕の気持ちは変わらなかった。

引っ越し先で習っていた空手も続けたし、特撮ヒーローへの憧れは持ち続けた。

いつか特撮ヒーロー番組を作っている会社でたくさんアクションをするんだ。

僕はそう思っていたし、離れ離れになった幼馴染のマナちゃんも同じ気持ちだろうと勝手に思い込んでいた。

 

でも、5年ぶりに転校生として懐かしい街に帰ってきた僕を待っていたのは、思っていたのとは程遠い最悪の再会だった。

眼鏡をかけて少し落ち着いた感じに変わっていたけど、その子が風杉マナちゃんだと僕は一目で分かった。

だから休み時間になったらすぐに声をかけたんだ。

今でもプリキュアの絵を描いているのかどうか、何も気負わずに訪ねた。

 

その返事が、大粒の涙とともに吐き出された「大っ嫌い」だった。

大泣きしたマナちゃんに、僕は何を言えばよかったんだろう。

放課後になっても、僕は人気のない教室でそればかり考えてしまっていた。

 

 

「テツ兄ちゃん、ホントに帰って来てたんだ! 久しぶりだぜ!」

 

……と、閑散とした放課後の教室で後ろから声がかかった。

転校初日の僕は大体苗字で「百木くん」と呼ばれるし、下の名前で呼ぶにしても同級生からは兄ちゃんなんて呼ばれない。

でも僕をそう呼ぶ男子に心当たりは……一人だけ、ある。

 

 

「タイチくんかぁ。久しぶり、大きくなったね」

 

振り返ってみると、僕の記憶より大分大きくなった男の子がニカっと笑っていた。

マナちゃんの弟で、僕たちより1学年下の風杉タイチくんだ。

再会を喜ぶ気分もあったけど、それ以上に渡りに船だと思った。

姉弟としてマナちゃんとずっと一緒に居たタイチくんなら、マナちゃんの変化について何か知っているかもしれない。

僕はタイチくんへと事情を説明して情報提供を求めた。

 

 

「姉ちゃん、3年生の時にクラスの奴からバカにされて、それ以来プリキュアプリキュアって言わなくなったみたいなんだぜ……」

 

気まずそうなタイチくんの説明を聞いて、僕も少しだけ胸が痛くなった。

確かに引っ越し先の小学校でも僕の周りで、特撮ヒーロー番組から「卒業」する男子は居たんだ。

そして女の子の方が「卒業」の時期が少しだけ早いのかもしれないって薄々気づいていた。

僕としてはヒーローから心が離れてしまうのを「卒業」って呼ぶのはちょっとイヤな気分なんだけど、他に言い方を知らない。

なんだか、年をとったら心が離れて当たり前みたいな言い方がイヤなんだ。

 

 

「タイチくんは……今も、ヒーローは好きかい?」

「も()()んだぜ! このまえ東京ドームシティでサルブラザーと握手してきちゃったんだぜ!!」

 

何の脈絡もない唐突な下ネタよくないよ。

というかサルブラザー推しなんだね。

でも良い意味で変わらないタイチくんの姿には少しだけ救われた気がした。

ただ、姉であるマナちゃんの方はどうしたら良いものかな……。

 

 

 

……そんな僕の悩みを嘲笑うかのように、腹の底まで響くような音とともに地面が揺れた。

地震みたいな揺れじゃなくて、遠くで何かが爆発したみたいな振動だった。

教室の窓から外を見ると、町外れの区域から煙が上がっているのが見えた。

あのへんに荒れ果てた神社と御神木があって、昔は秘密基地にして遊んでいたのを覚えている。

 

そして、何とも形容しがたい感覚なんだけど、煙の上がっている方角に「何か」が居ると僕は解った。

虫の知らせよりも強い、確かに感じる嫌な気配だった。

今までこんな気配を感じたことは一度だって無かったのに。

 

 

「テツ兄ちゃん、アレって姉ちゃんだよな……?」

 

未知なる感覚に戸惑う僕を現実に引き戻してくれたのは、タイチくんだった。

教室の窓ごしにタイチくんが指さした後ろ姿は、マナちゃんだ。

校門の外に見える背中は……煙の上がる方へと走っている!

どうしてそんな危険なマネを!?

 

 

「僕はマナちゃんを呼び戻してくるよ! タイチくんは家族のところに!」

「姉ちゃんを頼んだぜ!」

 

即答されるぐらいには信用されてるんだな、僕って。

5年ぶりに会った直後だし、信用の距離感が少し怪しいかなって思ったけど、信じてくれて嬉しいよ。

全力で走り出した僕たちは、校門の前で二手に分かれた。

 

荒れ果てた神社が5年前と同様に残っているかは分からないけど、とにかくその辺りで大きな音が断続的に鳴り響いている。

僕の謎感覚は置いといても、音だけでも危険地帯だと分かる方向に行くなんてマナちゃんは何を考えているんだ?

 

あっちこっちから火の手があがっている街の中を、僕は夢中で駆けた。

でも避難する人の波にさえぎられて、マナちゃんの背中を見失ってしまった。

それでも……僕はマナちゃんの足取りから、その行き先を推測できていた。

人の手が入らずに荒れ果てた神社の中の、二番目に大きな建物だ。

僕たちの秘密基地だったあそこに、マナちゃんが向かった気がした。

 

 

走っている途中で、全長2メートルを超えるクワガタムシのような赤い異形が暴れまわっているのが見えた。

そいつからは本当に嫌な気配がしたけど、何かと戦っている様子で僕は襲われなかった。

相手は警察官たちだろうかと思いつつ、僕には脇目を振る余裕なんてない。

 

 

僕が廃神社に辿り着いたとき、既に社は炎に包まれていた。

柄杓で水を頭からかぶって、僕は社の扉を蹴破って突入した。

バックドラフトなんて言葉が脳裏をよぎったけど、幸い爆発みたいなものは起こらなかった。

 

社の最奥に安置されている空っぽの棺には、小さい頃に入って遊んだ思い出があった。

そのすぐ横に、マナちゃんは倒れていた。

煙を吸い過ぎたのかもしれない。

早く運び出さなくちゃ。

 

マナちゃんに駆け寄った僕は……1冊の古ぼけたノートに気づいた。

倒れているマナちゃんの傍らに、A4サイズのノートが落ちている。

どこかで見たことがある、と思ったのは一瞬のことだった。

熱風が吹き荒れ、パラパラとノートのページが捲れていった。

 

最初の方のページには、ピンクのクレヨンで描かれた辛うじて人型と分かる人物ばかりが居た。

それがページが捲れるにしたがって段々と線が細くなり、白とピンクに紛れて差し色の緑が入るようになっていった。

最後の方では、いかにも()()に有りそうなデザインのドレスが描かれていた。

 

 

……そっか。

そのノートこそが、マナちゃんが危険を冒してでも回収したかった宝物だったんだ。

好きなものを、ずっと好きで居続けてくれたんだ。

たったそれだけのことが……何よりも、嬉しかった。

 

 

でもそれを喜ぶ時間なんて無かった。

メキメキと嫌な音を響かせながら、社そのものが崩れ始めたんだ。

僕一人が走って逃げるならギリギリ何とかなったかもしれない。

でも僕はノートとマナちゃんを掴んで、古ぼけた棺に押し込んだ。

昔は一緒に入れたんだけど、お互いにあの頃よりも身体が大きくなってしまって、一緒に入るのは無理そうだった。

僕が棺を閉じるのと同時に、建物が崩壊して僕は瓦礫の下敷きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と思ったんだけど。

目を瞑ってしまった僕が崩落の大音響を聞いても、覚悟した衝撃は降りかからなかった。

ゆっくり僕が目をあけてみると、直系3メートル以上の薄いピンク色のバリアのようなものが、僕を中心にして球状に展開されていた。

お陰で僕も棺も無傷だったんだ。

 

さらに、僕自身にも変化が起こっていた。

両手は肘まで覆う白い長手袋で覆われているし、服装も白とピンクを基調にしたミニドレスに差し色の緑が入っている。

長髪が背中にかかるのも慣れない感じで、指で掬ってみたら基本的にピンクなんだけど毛先が緑へと変わるグラデーションが施されているのが分かった。

神社の備品と思しき罅割れた銅鏡を拾って覗き込んでみれば、中学生ぐらいの女の子と目が合った。瞳まで綺麗なピンク色だ。

 

あのノートに描かれていた姿と一緒だ、とすぐさま思った。

マナちゃんの想い描いた理想像だ。

指を握って開いてみると、今まで感じたことのない力強さを感じた。

 

 

がたん、なんて音とともに棺の蓋があけられた。

マナちゃんが意識を取り戻して、暗がりから脱出しようとしたんだろう。

燃え盛る神社の最奥で、球状バリアという密室の中で……マナちゃんが僕へと驚愕の目を向けた。

今のマナちゃんの心に、どのように僕は映っているんだろうか。

あのノートに描かれた理想の姿が目の前に現れて、驚くことしか出来ずにいる僕の幼馴染へ、何と声をかけたら良い?

 

 

「あの、貴女は……?」

 

僕は空手の先生に教わったみたいに、ピシッと背筋を伸ばした。

マナちゃんの理想の姿を借りている僕が格好悪かったらウソだ。

幸いにして、口上は二人で昔考えたものを覚えている。

細部の記憶は朧気だけど、自信満々な顔をして言えば押し通せるんじゃないかな。

 

 

「たとえ人々の心が枯れ果てようとも……」

 

鈴の音のような声、というヤツだろうか。

僕の喉から出た声は、いつもより少しばかり高かった。

僕自身も何が起こったか分からないし、内心では余裕なんて欠片もない。

でも顔だけでも凛として見えたら、それで良いんだ。

 

 

(わたくし)が最後の一華を咲かせてみせましょう!」

 

だって。

僕を見る、マナちゃんの瞳は。

5年前に絵を描いていた時と同じようにキラキラしていたから。

その輝きを守るためなら、この奇跡の正体は墓まで持っていってもいいと思った。

 

 

「夢の使者、キュアチェリー。とくと御覧あれ!」

 

 

 

まるで生まれた時から使い方を知っていたみたいに球状のバリアを解除した僕は、マナちゃんを抱えて大ジャンプで神社を飛び出した。

熱気に包まれた地獄から一気に解放された反動もあって、跳んでいる最中は空がいつもよりもずっと広く見えた。

普通の人間なら落下の衝撃だけで大怪我をする高さのジャンプだったけど、不思議と恐怖は感じなかった。

ピンクの長髪が風に靡く感覚が新鮮に思えた。

 

物理法則なんてあったもんじゃない、ふんわり着地をかましながら。

僕はマナちゃんを地面に降ろしてあげた。

返ってきた視線に交じった熱っぽさが、どこか心地良かった。

 

 

そして、この後やるべきことも分かっていた。

さっき大ジャンプをしたときに、赤い化物クワガタムシが市中で暴れている姿が見えたからだ。

戦って勝てるかどうかは分からないけど、大ジャンプできる機動力とさっきのバリアがあれば易々と殺されはしないだろう。

僕は戦場に足を向けた。

向けようとした。

 

 

「待って! 夢じゃ、ないんだよね? また会えるよね!?」

 

戦場へ立とうとした僕の背中を、呼び止める声があった。

何とも言えない、困る質問だ。

あの怪物クワガタみたいなのがそんなに頻繁に出現したら困る。

でも怪物が居ないときに変身する予定があるわけでもない。

 

 

 

「別れではありません。いつでも(わたくし)は、貴女の心の中にいます。……(わたくし)を好きで居てくれて、ありがとう」

 

その言葉を最後に、僕は足早に戦場へと駆けた。

自転車よりもずっと速く、景色が流れていった。

 

テレビの中のヒーローみたいに上手くは戦えないかもしれないけど。

この姿に恥じぬ戦いをしてみせよう。

そう、心に誓った。

 

 

 

 

 

 

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