魔法少女さんとサイボーグさん   作:カードは慎重に選ぶ男

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前回のあらすじ

息を吐くように御姫様抱っことかしちゃう悪いお姉さんのせいで、魔法少女さんは『聞くメカバレ』という新たな性癖の境地へとひろがるスカイしてしまうのであった……。




第11話:サイボーグさんの戦う理由

 

 

 

 

 

 

 

――お前っ!? こうしてる間にもどんどん町が焼かれてんだぞ!? この状況でもまだカマトト面を続けるってのか!!?

――御容赦ください。……力不足を不甲斐なく思う心は、(わたくし)とて同じです。

 

 

怒鳴り散らしたあたしに対して頭を下げたあの女の姿は……どこまでも正しくて、美しかった。

なんだか、あたしは自分自身がとんでもなくちっぽけで惨めに思っちまってた。

 

泣き喚くことしか出来なかった、20年前の夜明けの大火のときから一歩も前に進めていないんだって突きつけられた気がしたんだ。

サイボーグとしての性能は上がっているし、戦闘経験も増えたはずなのに。

それでも……チェリーの方がずっと、「大人」だった。

 

あたしにだって隠さなきゃいけないことが山ほどあるのと同じように、サイボーグかアンドロイドか分からねぇけどチェリーの奴にだって言えないことはあるだろう。

それを全部飲み込んだうえで、チェリーは今やるべきことを冷静に考えて、あたしに頭を下げて助力を求めたんだ。

やっぱり実年齢はもっと上なんだろうな、というのは置いとくとしても、どうしてもあたし自身と比べて見ちまうところはあった。

 

なんとなく、あたしはチェリー自身のことを知りたいと思うようになっていた。

地球外知性体との戦いを有利に進めるための情報収集じゃなくて、チェリー個人のことだ。

 

 

(わたくし)を愛でてくださる方がいて、(わたくし)が愛おしく思う方が居ます。それだけでは……足りませんか?」

「優等生みてぇな御回答、どうもよ」

 

ここまで清廉潔白な模範解答が返ってくるとは思わなかったけどな。

ぶっちゃけ、今まで知らぬ存ぜぬでやり過ごしてきたこの女の言うことなんて、信じるだけバカを見るだけかもしれない。

けど、この女なら本気でそう思っていてもおかしくない、ってあたしは思っちまった。

バックにある組織が大きければ大きいほど、行動にも言動にも制限が付いて回るもんだが……その中でもこの女は、7号の被害を抑えるために最善を尽くそうとしたように見えたんだよ。

 

 

 

「お姉さんは……どうして、戦いに身を投じるのですか?」

 

だけど、澄んだ声ながらどこか控えめな態度で聞き返された質問に、あたしは答えかねた。

あたしが戦う理由は、実際には幾つもある。

 

例えば、母さんのためだ。

母さんが20年前に、黒炭と化した娘をどんな気持ちで切り刻んで機械に押し込んだのか。

18年間どんな思いであたしの目覚めを待ったのか。

それを想像しちまったら……母さんが創ってくれたこの身体は世界最高だって見せてやるのがせめてもの親孝行ってもんだろ。

でもそれは、オペレーターとして母さんが会話を聞いている戦闘前後じゃぁ口にしたくない。

 

 

「一つは、仕事だからって話だ。あたしが警察と連携できてる辺りから察してんだろうけど、地球外知性体と戦って治安を守ると偉い人からこっそり金が回ってくる仕組みがあんだよ」

 

チェリーの奴は珍しく真面目な顔をしながら、小さく頷いた。

まぁ、あっちもバックに何かしらの組織があるなら、これは最初から織り込み済みだろう。

つまり、この建前としての話はチェリーの質問の本質とはズレた話だ。

 

訳知り顔のキュアチェリー様が聞きたいのは、「木原マコト」っていう一人の人間の話だろ?

本音は……誰にも言おうと思ったことは無かった。

今しがた聞かされたチェリーの戦う理由と比べたら、あまりにちっぽけでガキ染みている考えだと自分自身でも分かっていたからだ。

けど……あたしは、出来る限り誠実にキュアチェリーの質問に答えたいと思った。

ついさっき感情的に怒鳴り散らしちまったっていう負い目もあるしな。

 

 

「それで最終的には……地球外知性体0号を殺したいんだ」

 

夜明けの大火に関しても、チェリーにとっては既知の情報だろう。

ヤタガラスとの交戦の後に行方不明になった漆黒の異形は、死んではいない。

全ての公式記録から抹消された本当の最初の地球外知性体を……事情を知る人間たちは0号って呼んでる。

まぁチェリーならその辺の事情は知ってるわな。

チェリーが神妙な顔で頷いてくれたのは、話すのはゆっくりで構わないと言いたいんだろう。

 

 

「地球外知性体0号を倒したって、失ったものが戻ってくる訳じゃない。頭じゃ分かってるんだよ。

でも……再び現れた0号をあたしらが倒したとしてさ。

その身体の中から遺体の無かった行方不明者がぽろっと生還するんじゃないか、って都合の良すぎる願望を今でも夢に見るんだ」

 

自分で言ってても、そんな可能性は万に一つも無いことぐらい分かってる。

けど、そんなものに縋るぐらいには、あたしは親友の死を受け入れられずに居るんだ。

未練がましく形見のポケベルを持ち歩いているぐらいには、さ。

もう電波なんて届く訳ないのにな。

 

少しでもあたしの話に思うところがあるなら隠してる事を教えてくれ、ってあたしはチェリーの奴にせがむべきだったのかもしれねぇ。

同情を誘ってでも、下手に出てでも、チェリーから情報を聞き出す千載一遇の機会のはずで。

でも……出来なかった。

今日あたしに頭を下げたあの女の姿を見た後じゃぁ、困らせるだけだって思っちまった。

 

結局、チェリーの奴はその後は終始無言だった。

いつの間にか、音も無くチェリーの姿は消えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。

メンテナンスも終わったあたしは、いつもの線が出ない服装で固めて7号の墜落地点に戻ってきていた。

特にそこに用事があった訳じゃないし、現場100回なんて刑事魂があるわけでもない。

ただ何となく、憂鬱な気分を晴らす何かが見つからないかと思って足を向けちまったんだ。

 

 

「たとえ人々の心が枯れ果てようとも……」

 

で、またまた聞き覚えのある名乗り口上を聞く羽目になった。

 

 

(わたくし)が最後の一華を咲かせてみせましょう!」

 

本物と比べて舌が回ってない、この声の持ち主は……えーと、名前なんだっけな。

 

 

「夢の使者、キュアチェリー。とくと御覧あれ!」

 

「思い出した。マナとタイチだったな、お前ら。飽きねぇ奴らだ」

「おっ、マコト姉ちゃん! 久しぶりだぜ!」

 

この姉弟は、また戦闘の跡地で楽しそうに遊んでたみたいだ。

姉の方がマナで、弟の方がタイチだったよな?

警察は何をやってんだという気持ちもあるが、実際仕方ないだろうな。

地球外知性体が出るたびに立ち入り禁止の黄色いテープを張ってるんだろうけど、その全部を管理できるかって言ったらまぁ無理だし。

あたしも小学生ぐらいのときには人には言えないような場所に忍び込んで遊ぶ側の悪ガキだったから、あんまこういうのに強く言えないんだよなぁ。

 

真似事の口上を聞かされて、あの女が人気者だと思わされるのは癪だったが、あたしは同時に納得もするようになっていた。

表面上の見た目や佇まいが綺麗なのも勿論だけど、その節々に感じる大人っぽさをガキどもこそ敏感に感じ取っているのかもしれない、ってな。

つーか、あたし自身もどっちかって言ったら多分ガキ側なんだよな……。

チェリーの奴は恐ろしく若作りだけど、十中八九年上だろうし。

 

 

「このお姉さん、マナちゃんたちの知り合い?」

「そっか。テツ君はこの前は居なかったんだっけ。木原マコトさんだって」

 

そんでもって、前回の姉弟に加えてもう一人、男子が遊び仲間に加わってんな。

名前は百木テツヤで、マナと同じ5年生だそうだ。

ごく普通の小学生だな。

でも、何か不思議なものを見る目でこっちを見てる……か?

なんだ、あたしのそっくりさんでも居たのか?

 

 

「お姉さん、ちょっとその場でジャンプしてみてもらって良い?」

「オイオイ、あたしからカツアゲしようとは良い度胸してんじゃねーか……」

 

まさか5年生からそんなん言われると思わねぇよ……。

まぁ小銭は持ってないから別にジャンプしても良いんだけどさ。

あれ、でも待てよ?

令和にもなってこんな古めかしいカツアゲの定型句を聞くことなんてあるのか……?

 

 

「「「かつあげ……?」」」

「金目的の脅しとか恐喝とかのことだな。最近は言わないのか……」

「マコト姉ちゃん、何だか昭和の人みたいだぜ」

 

うるせぇ、どうせあたしは昭和生まれだよ!

女に年の話を振っちゃいけねぇんだぞ、タイチ!

いや、あたしも死語かなって思ったけどさ。

こうもあからさまに通じないと、ちょち胸が痛くなるわ……。

 

 

「お姉さん、さっき歩いてくるとき何だか違和感があったんだよね。僕も上手く言えないんだけど……音、なのかなぁ」

 

でも……テツヤの質問を聞いた瞬間に、あたしは機械のはずの背筋がぞくっと冷えた気がした。

確かに母さんが技術の粋を集めてサイボーグボディを創ってくれたとはいえ、違和感を嗅ぎ取る人間はゼロじゃないんだ。

あたしは線の出ない服を選んで着てるけど、それでも気付く奴は気付くんだ。

さすがに全身サイボーグだなんてSF染みたものを一発で看破されるとは思わないけど、首を傾げているテツヤの目をあたしは恐れた。

 

 

「……痴漢撃退グッズで靴に鉄版仕込んでっからな。違和感はそのせいかもしれねぇな」

 

なんとかそれらしい嘘を捻り出すことは出来たけど、正直あたしはテンパってた。

早く帰らないと母さんにドヤされちまう、なんて嘯いて、あたしは小学生トリオから逃げ出した。

怖かった。

機械の身体だと感づかれるのが怖くて堪らなかった。

 

 

 

 

 

 

ラボに戻って来て、母さんが留守であることにホッとした。

こんなこと、母さんには絶対に言えないからだ。

 

冷や汗も涙も、一滴も出なかった。

そんな機能は、この身体には無かった。

 

 

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