妙に勘の良いショタのせいで曇らされてしまうサイボーグさん。
苦しくてもサイボーグに涙は存在しないのだ……。つらい。
――地球外知性体0号を倒したって、失ったものが戻ってくる訳じゃない。頭じゃ分かってるんだよ。
――でも……再び現れた0号をあたしらが倒したとしてさ。
――その身体の中から遺体の無かった行方不明者がぽろっと生還するんじゃないか、って都合の良すぎる願望がどうしても捨てられないんだ。
7号との戦闘から数日が経過してなお、僕はお姉さんの言葉が忘れられずにいた。
声を張り上げこそしていなかったけど、悲痛な声だと思った。
冷静に考えても20年前に行方不明になった人間が今でも生きているなんて都合の良いことは、まぁ無いと思う。
けどそんなことは、お姉さんも百も承知なんだ。
そのうえで、幻だと分かっている希望に縋るしかないぐらいに苦しんでいる。
なんて声をかけたら良いのか、本当に分からないや。
心中お察ししますなんて下手に言った日には銃弾が返ってきそうだ。
パーフェクト美少女のキュアチェリーにだって、出来ないことはある。
出来ることといったら、お姉さんが0号に辿り着くまで生き残れるように、一緒に戦い続けることぐらいか。
0号が本当にそのうち出てくるかどうかは分からないけど、その時までお姉さんと一緒に戦い抜けると良いな。
…………たまには、ちょっとだけ負傷して中身を見せてくれたりしないかなぁ。
そして翌週現れた新たな地球外知性体は……大きな樹木の形をしていた。
たぶん全高10メートルぐらいあって、地中から伸ばした根をウネウネと動かして外敵を威嚇している。
根がかなり多くて、接近するのは難しそうだ。
「なんだお前の方が先か。状況は?」
「根のせいで接近は困難ですけれども、機動力は皆無のように思えます」
遅れてきてくれたサイボーグさんに、僕は期待した。
黒銃はともかく、ドラゴン頭のビーム砲なら何とかなるんじゃないの?
……という僕の期待を察したみたいで、お姉さんはドラゴン頭を僕に放り投げてくれた。
何度見てもカッコイイな、この真っ赤なドラゴンの顔……。
お姉さんはリミット解除というリスクを負わないとビーム砲を使えないから、僕に試し打ちをさせるつもりなんだろう。
開幕必殺技は負けフラグだよ、なんて言葉を飲み込みながら僕はドラゴン頭を構えた。
「行きます! チェリーブロッサム・ハリケーン!!」
僕は気合で反動を耐えながら桜吹雪をぶちかました。
極太のビーム砲撃は、大樹の腹部を大きく削ることに成功した。
しかし元々の身体が大きいせいか、決定打には遠いみたいだ。
8号は身体を少しずつ再生させながら、木の根を器用に使って桃のような果実を投げてきた。
何となく今までの傾向から桃の正体を察した僕たちは、投擲された桃を回避した。
桃の正体は案の定爆弾で、着地と同時に大爆発を起こした。
予想外に威力も爆音も大きくて、耳が壊れるかと思った……。
7号の時のカブトムシ爆弾よりも遥かに強力だ。
お姉さんと顔を見合わせてしまった。
どうやら僕たちの意見は、意外と面倒くさい敵だという方面で一致したみたいだ。
根が一杯うねっているから接近は困難だけど、遠距離からだと絶妙に倒しきれない。
どうしようか。
「カービィの1面ボスみてぇな奴だ」
「果物を爆弾にするなど、バラ科の風上にも置けませんね」
あのリンゴ投げてくるヤツか。
名前なんていうんだっけ……。*1
お姉さんは20年前の事件の当事者だし、僕が知ってるスイッチ版のとは別の年代のカービィなんだろうけど。
……あいつそんなに昔からずっとカービィの1面ボスなの??
足踏みをしている僕たちを嘲笑うかのように、8号は……枝の先に無数の果実を膨らませ始めた。
10メートル級の大樹が枝を伸ばし、膨大な数の爆弾桃を少しずつ膨らませている。
アレが全部街に放たれたら、この間の7号の時の比じゃない被害が出るのは想像に難くない。
「ヤベェな……。奥の手があるんだが、ちょち手を借りても良いか」
「喜んで!」
お姉さんは、青いプラスチック外装に包まれた機械を懐から取り出した。
確か、前に僕が拾って届けてあげたヤツだよねソレ。
やっぱりサイボーグ体の部品だったのかな
お姉さんが青いプラスチック外装の一部を外すと、中から銀色の鍵のようなものが出てきた。
そして取り出した銀色の鍵を、お姉さんは僕に手渡してくれた。
「あたしの背中のエンジンにそいつを刺す穴がある。そこに鍵を入れて回せば、もう一段階リミット解除が出来るようになる」
お姉さんが背中を見せてくれた。
いつもの背面エンジンは小窓から桜色の光を漏らしているけど、よく見たらその小窓が鍵穴になってるのか。
僕は長手袋に包まれた指で銀色の鍵を握り、背面エンジンの鍵穴へと挿し込もうとした。
「……」
「どうした」
……差し込もうとしたんだけど、何だか嫌な予感がして手を止めてしまっていた。
本当に虫の知らせとしか言えなかった。
強いて勘の根拠をあげるなら、ビーム砲は投げ渡したお姉さんが、銀色の鍵は手から手へ渡したっていうぐらいだ。
このまま鍵穴へと銀色の鍵を挿したら、何か良くないことが起こる。
そう、思った。
「奥の手と言いましたよね。それを使用した場合の成功率……お姉さんの生還率は、どの程度でしょうか?」
「……うるせぇな。確率なんてモンは根性でいくらでも覆せるんだよ」
そんな、言えないような確率なんだね。お姉さん。
昭和じゃないんだから根性万能論なんてやめようよ。
いつものリミット解除の反動は少なくなってきたけど、それ以上となると使用後に僕が手当てできる保証も無いんだよ?
この頭昭和なサイボーグさんを、どうやって説得するべきか……。
じゃきん、なんて音が僕の頭の前で聞こえた。
さっきまで僕に背中を向けていたサイボーグさんが、いつの間にか半身になって僕の眉間に黒銃を突き付けていた。
ちゃんと、引き金に指がかかっている。
「
「ガタガタ言わずにやれ。あの無数の爆弾が放り投げられたらどうなるか、分かってんだろ」
僕は、一歩も退かずに真面目な顔でサイボーグさんへと向き直った。
内心では結構怖がっているんだけど、ここで言う通りにしちゃったらサイボーグさんが本当に死んでしまうような気がしたんだ。
だから、退かなかった。
お姉さんは顔を完全に隠すタイプのパワードスーツ装備だから確実にとは言えないけど、たぶん僕たちは目と目で意地の張り合いをしているんだと思う。
「その限界は、お姉さんを愛する人が、お姉さんの身を守るために設定したものですよね」
「……!」
サイボーグさんは、黒銃を握る手を降ろさなかった。
でも僕は、お姉さんの心が揺らいだのを何となく察した。
機械制御のサイボーグならポーカーフェイスなんて幾らでも出来るだろうから、僕の勘違いかもしれないけど……僕は自分の勘を信じた。
「限界というのは、超えてはいけないんですよ」
僕は、黒銃を構えたままのお姉さんの指を、そっと長手袋装備の両手で握った。
力尽くで黒銃を降ろさせるのではなく、あくまで心に訴えかけるスタンスだ。
「悲しむのは、その限界を設定した方だけではありません。お姉さん、御自身で思っているよりもファンが多いんですよ」
「ホントかよ……」
まぁそのファン筆頭は僕なんだけどね。
お姉さんも戦い続けるにつれて目撃情報も増えて、男の子を中心にファンは増えてきてるんだよ。
いつか、パーフェクト美少女のキュアチェリーに並ぶ日も来るかもしれない。
「……お前の方には、8号を倒す策が何かあんのか?」
それを言われると辛い……と、1分前までの僕なら言っていたところなんだけどさ。
実はついさっき、閃いたんだよ。
お姉さんのゴツくて硬い指を握って少しドキドキしてるときに、何だか力の流れみたいなのを感じたんだ。
長手袋ごしに握っているお姉さんの指から、黒銃に向けて力が流れているのを感じ取ったんだ。
だから……思い付きだけど、たぶんできるはず。
「
結局、僕はお姉さんを作戦に協力させた。
まぁ作戦とは言っても、シンプルすぎるものだ。
僕とお姉さんで一緒にドラゴン頭のビーム砲のグリップを握る。それだけだ。
お姉さんの指先から力が流れているのは、多分僕が魔法少女的な謎エナジーを流すのと近い感じなんだよ。
だから……単純に2倍の威力になるかどうかは分からないけど、2人で給電すれば威力は底上げできるハズ!
僕の方が小柄だから、僕が先にグリップを握って、バックハグみたいな体位でお姉さんにもグリップを握ってもらった。
うわぁ、さっきも少し思ったけど指までカチカチなんだね、お姉さん……!
何とか言いくるめて、本当に良かった。
これは役得じゃないか!
胸が高鳴って、いつも以上に魔法少女的な謎エナジーが溢れている気がするよ!
ドラゴン頭の中にも普段より多めのパワーが溜まっているのを感じる!
「その……
絆を感じる感じのヤツが良い!
何か、こう、二人の共同作業みたいな特別感があるヤツ!
えーと、何か無いかな?
なるべく花に関係あるネーミングで!
「面倒くさい女の戯言に付き合ってられるかよ! リミット解除、ファイアッ!!」
「デュアル・フラワーシャワー!!」
急かされて一瞬焦ったけど、無事に技名は捻り出した!
反動がいつも以上に激しかったけど、お姉さんが後ろから支えてくれていると思えばそんなものは
先程の第一射とは比べ物にならない超威力のビーム砲撃が、機動力皆無の8号へと直撃した。
8号は……枝や幹を上から順に焼き尽くされていった。
そして、露出した紫色の心臓部は周囲の幹が焼き尽くされた段階で放り出され、道端に転がる形となった。
これは今回に限っては力尽くでハートキャッチしなくても大丈夫だな。
道端に転がされた直系30センチ程度の紫色の球体へと駆け寄って抱きしめた僕は、いつも通りに謎のプリキュア的エナジーを球体に流してやった。
8号の心臓部を浄化して、現れた人間は……乳幼児と思しき、赤ちゃんだった。
いつもは適当な路肩に浄化後の人間を寝かせる僕だけど、流石に赤ちゃんは路肩に置きたくないな……。
とりあえず赤ちゃんを抱いたまま、お姉さんの所まで僕は戻ってきた。
なんだか、引っ越し前にマナちゃんの持っていた「はぐたん」*2をよく抱かされていたのを思い出した。
懐かしくて、少しだけ温かい気持ちになった気がした。
今でもたぶんマナちゃんの部屋にありそうだし今度見せてもらうか。
特大砲撃の反動でぶっ倒れていたお姉さんは、僕が歩いて戻ってきた時分にようやく上半身を起こすことが出来た。
そして、すやすや眠っている赤ちゃんを見て……何故だかお姉さんは驚愕している様子だった。
「赤ん坊、だと……? そいつが、8号から出てきたのか……?」
「見ての通りです。コウノトリが落としていったのかもしれませんね」
そういえば今までの被害者って全員大人で、未成年は一人も居なかったっけ。
だから初めて未成年が出てきて、お姉さんは驚いているみたい?
僕としては、被害者に共通点なんて無いという説が有力だと思ってたから、驚きは少なかったけど。
「……お前なぁ。今時中坊だって、そんな方便信じねぇだろ」
方便……?
え、コウノトリって、赤ちゃんを運んでくるんじゃないの……??
中学生じゃなくて本当は小学生なんだよ僕。知らなくても仕方ないじゃん。
とりあえずパーフェクト美少女の微笑みで誤魔化さなくちゃ!
「ふふ……。そうでしたか、不勉強なものでして」
口元を指で半分隠して、余裕の微笑だ。
お姉さんは、相変わらず言葉が信用できない女だ、みたいな呆れ方をしているっぽい?
微笑万能論は、やっぱり正しかった……!
その後、お姉さんの背中に片手を当てて調子を整えてあげて、ぐずり始めた赤ちゃんをもう片方の手で抱きながらあやしてあげて。
お姉さんが無線で呼び出したであろう警察隊に赤ちゃんを預けて、無事僕は退散することが出来たのだった……。
赤ちゃんが居るとパートナーの扱いが片手間になる女の図である(11歳男性)