また自爆技のバリエーションを増やそうとしたサイボーグさんに、ついに魔法少女さんが物申す。
意外とサイボーグさんも子供たちに人気があることを伝えてやる魔法少女さんであったが、手応えは今一つであった模様……。
生家の地下室に備わったラボの中で、なんとなくあたしはあの女のことを考えちまってた。
なんつーか、赤ん坊を抱きかかえてこっちに歩いてくるチェリーの姿を思い出すと……うまく言えねぇな。
そういう宗教画ありそうだな、って思うぐらい
慈愛の化身みたいな面したあの女が赤ん坊を抱いてると、内側から滲み出てくる母性みたいなのを感じるっつーか……。
薄々年上だと思ってたけど、コブ付きでも全然おかしくねぇなアイツ。
それぐらい堂々としてやがった。
あたしだって、ガキの一人や二人いてもおかしくない年齢ではあるけど……それは考えるのは止めとこう。
今のあたしの身体は人類最強のサイボーグだ。それでいい。
――見ての通りです。コウノトリが落としていったのかもしれませんね。
今思うと、あの台詞はあたしをガキ側だと見くびっての言い回しだったのかもしれねぇ。
つくづく見透かしたような物言いばっかりの女だ。
コウノトリの逸話なんて信じてる奴、いまどき中坊でも居ねーよ。
あらあらうふふ、みたいな後の反応から考えても、やっぱ年配者っぽい感じなんだよなぁ。
下手したら、母さんより年上だったりするのか……?
あと、20年前の事件の生き残りが選ばれて地球外知性体になってるのかと密かに思ってたけど、この仮説はハズレだったみてぇだな。
赤ん坊が地球外知性体になったってことは、夜明けの大火の被害者と直接的な関連は無かったのかもしれねぇ。
……ん?
待てよ、コウノトリ?
ひょっとして、ヤタガラス関連のヒントか?
コウノトリといえば赤ん坊を連れてくるって伝承がある鳥ではあるが、ヤタガラスで言ったら赤ん坊は何に相当する隠語だ?
ブラックボックスか?
でもブラックボックスに重要な情報が入っているってだけだと、わざわざ改めて匂わせる意味なんて無いよな。
まさか……ヤタガラスはブラックボックス以外にも重要な何かを地球に持ち込んでいるのか?
考えてみたら夜明けの大火の日に0号が宇宙から落ちてきたのは目撃されてるけど、ヤタガラスはどこからともなく現れたんだよな。
0号襲来前からヤタガラスが地上で活動していたとしたら……コイツは、一体どこで何をしていた?
何か重要なオブジェクトを地球に持ち込んだコイツが、0号との決戦前にそれを隠したとしたら?
ラボの片隅のパソコンで当時のヤタガラスの目撃情報を検索してみたが、それらしい情報は見つからなかった。
まぁそうだよな。
それぐらい政府の人らや母さんだって20年前に疑問に思って調べただろうし。
というか「ヤタガラス」って暗号名を一般人は知らないから、検索ワードは「カラス」「巨大」になっちまうんだよな。
さすがに該当項目が多すぎる……。
そうだなぁ、「カラス」「巨大」「落し物」だと……これも候補が多すぎるな。
うーむ、まさかとは思うが……暗喩じゃなくてストレートに「赤ちゃん」か?
一応それも検索ワードに突っ込んでみるか。
……なんか知り合いの名前のブログにぶち当たったわ。
子育て日記っぽい記事が並んでるんだけど、そのブログの主には心当たりがあった。
この父親……あたしとトウコが好きになった先輩じゃねぇか。
幸せそうに父親やってやがる。
なんでこんな関係無さそうなところから流れ弾で心にダメージ負わなきゃいけねぇんだよ……。
遡って見てみるとブログの始まりは、コウノトリならぬカラスから授かった子を育てるというところからだった。
日付は11年前だが、ブログの書き出しには巨大カラスから昔預かった黒い箱から不思議な赤ん坊が出てきた、とあるな。
確かにコレは、母さんたちが気づかなかったのも納得だな。
ヤタガラスの現物を既に確保してある状況で、事件から9年後に始まったブログ1つを注視するなんてことは無いだろうし。
ブログの更新は5年前で途絶えてるな。
上の娘が小学校にあがるときに、子供がこれ以上大きくなると個人情報を流しすぎるのも良くない、って判断して更新停止を宣言したみたいだ。
でも調べてみた感じ今でも同じ場所に住んでいるみたいだし、訪問することは出来そうだ。
結局あたしは、風杉家を訪れてブログの主から簡単な事情聴取を行うことにした。
訪れた先は、何の変哲もない一軒家だった。
あたしとトウコが好きになった先輩は、あたしの記憶よりも20年分も老けていて……幸せそうだった。
学校のレポートの題材にしたいからブツを見せてくれって頼んだら、夜明けの大火の前日に巨大カラスから預かった物は黒い箱だけだって話してくれて、それを近くの神社に預けたことも教えてくれて。
でも……最後まで、偽名を使ったあたしが誰なのか気付かなかった。
痛むはずのない胸が、ちょち痛んだ。
昔と同じ顔してるはずなんだけどな、あたし。
いや。昔と同じ顔をしてるからこそ、かもしれねぇけど。
その足で廃神社を回って、あたしは社の焼け跡から黒い箱を探し出した。
瓦礫の中から、未就学児なら二人は入れそうなサイズの黒い箱が姿を現した。
箱の外側にはこの星の物とは思えないような形状の文字が彫られてんな。
サイボーグボディの腕力なら運ぶのは余裕だけど、日が高いうちからあんまり目立つのも考えもんだ。
今は母さんに映像資料だけ送って、実物はもう一度深夜に回収に来るか。
ヤタガラスの持ち込んだ黒い箱から出てきたっていう娘の方は……今回は会えなかったけど、どういう処遇になるか分からねぇな。
嫌な話だが、その娘が地球外知性体を作り出している元凶だったりしたら、どうすりゃいいんだ?
先輩の幸せそうな家庭を壊すような結末になっちまうかもしれねぇ。
その辺りの処遇は、母さんたちの判断の方が重要なんだけどさ……。
……そのままラボに直帰しても良かったんだけど、何となくあたしは寄り道をしちまった。
当時通っていた中学校の前を、ふらっと通った。
もう少し歩くと、あたしらが行くはずだった高校が見えてくるはずなんだけど、そっちには思い入れは無いから別に良いかな。
昔の通学路をなぞって、あたしは歩いた。
川沿いの道を歩いていると、帰宅途中っぽい学生の姿がちらほら見えた。
「あっ、この間のお姉さん。こんにちはー?」
「マコト姉ちゃん、久しぶりだぜ!」
「おう。えーっと、テツヤとタイチ……だっけ?」
とぼとぼ歩いていたあたしに声をかけてきたのは、この間あたしの正体を見破りそうになった小学生男子たちだった。
ランドセルを背負っているコイツらの名前は……確か、テツヤとタイチだったよな? 苗字は思い出せねぇ。
機械の身体を看破される恐怖は今でも少しだけ感じるけど、気落ちしていたあたしは、逃げ出す気力も無かった。
そのまま土手の中腹に座って、何となく一緒に話す流れになっちまった。
一緒に歩くと足音から何か気付かれそうだったしな。
「お姉さん、何だか元気ない?」
勘の良いガキだ。
まぁその通りなんだがさ。
どこまで話して良いもんかね。
サイボーグ関連の事情がバレない範囲なら、とりあえず大丈夫か。
「昔、親友と同じ先輩を好きになっちまってな」
「昭和の昼ドラみたいだぜ……」
とりあえず古臭いものを昭和って言うのやめろタイチ!
お前その時代の昼ドラとか絶対知らないくせに。
さすがにその手の典型的な恋愛ものは令和の世にだってあるだろ。
……あるよな??
「いつの間にかその先輩は、あたしでもその親友でもない女とゴールインしてやがったんだ……」
「意味が分からない……」
うるせぇ、あたしの台詞だよそんなん。
トウコとはギクシャクしたまま別れる羽目になっちまうし、最悪だ。
つまんねぇ言い合いをして、トウコは自分のポケベルをあたしに投げつけて走り去っちまったんだよな。
それが、あたしが見た最後のトウコの姿になるなんて思わなかった。
あたしはその日の深夜にチャリでトウコの家の前まで行って、ポケベルをトウコの家の郵便受けに入れてやったんだ。
まぁミスって、あたしのポケベルの方を郵便受けに入れちまったんだけどな。
チャリで家に戻ってから気付いたんだけど、学校ですぐにまた会うだろうし、その時に交換すれば良いかと思っちまったんだ。
そんな日は一生訪れないなんて、思いもしなかった。
夜明けの大火が、あたしらのあるハズだった日常を焼き尽くしたんだ。
「その親友とは、仲直り出来たの?」
「仲直りする前に不幸な事故があってな、死んじまったよ」
ごめん、なんて気まずそうにしているテツヤに、気にすんなって声をかけてやって。
結局死体が見つからなかったというトウコに未練を捨てきれないあたし自身の弱さが、嫌になった。
20年前に行方不明になった人間が都合よく生きているなんてこと、そう起こる訳ないんだ。
「そっか。今もお姉さんが苦しいなら、お姉さんは今でも親友のことを好きなんだね」
「そう……なのか。そうかもしれねぇな」
あんまり、そう意識したことは無かったけど。
どうでも良い奴が相手だったら、確かにこんなに嫌な気分にならねぇよな。
今でもトウコのことが好きだから、っていうのは言われた通りだ。
「その人が死んじゃったことについては何も言えないけど、何かを好きで居続けることって難しいと思うし、素敵なことだって思うよ」
「俺の姉ちゃんを見てると、ホントそう思うぜ」
何だか……ちょっとだけ、救われた気分になった気がした。
胸の中が苦しいのも悪いことばっかりじゃない、って少しだけ前向きになれたような気がしたんだ。
こんなガキンチョに諭されるなんてな。
あたしも、自分で思ってる以上にガキなのかもしれねぇ。
中坊の頃に夜明けの大火に巻き込まれて18年間も寝てたから、仕方ないのかもしれねぇけど。
「お前らも、そういう相手が居んのか?」
恋バナなんて柄じゃねぇけどさ。
その場の雰囲気であたしは聞いちまった。
土手に一緒に座って、夕日を見ながらこういう話をするのって、いかにも古い漫画とか映画とかにありそうだ。
タイチたちに言わせたら、そういうのも昭和っぽいって言うのかもしれねぇ。
「僕は昔からヒーローが好きなんだけど……最近この街で戦ってる黒いパワードスーツの人のことが凄く格好良いと思うんだ」
失ったはずの心臓が、一瞬止まったかと思った。
いやまぁ、心臓に相当する部品は一応あるんだけどさ。
テツヤの言う好きっていうのは、友情や恋バナ的なものじゃなくて、憧れみたいなモンだろうな。
「くらえ、テツ兄ちゃん! ドラゴンビーム、ばーん!!」
「ぐあー!」
……そっか。
綺麗で大人びているキュアチェリーの奴が人気なのは知ってたけど。
戦ってるあたしを見て、そう思ってくれる人だって居るんだな。
憂鬱な気分が、少しだけ薄れた気がした。
我ながら現金なもんだな。
「そうかよ。でも、怪物が出た時に野次馬に行ったりとかはダメだぞ?」
一応クギだけは刺しとくけど、コイツらならそんな心配は要らなそうだな。
適当なところで会話を切り上げて、男子小学生コンビには帰らせて。
あたしは、もう少しだけ土手に座り込んでのんびりしていった。
何だか少しだけ……気が楽になったように思った。