昔の片思いの相手が幸せな家庭を築いている現実を見せつけられて、メンタルにダメージを負うアラサー女サイボーグさん……。
まぁ大先生の書く
宇宙からヤタガラスが揺り籠を持ち込んだのが、今から20年前。
そして数年後に揺り籠から現れた赤ん坊が、今は11歳らしい。
あたしが回収してきた揺り籠は母さんたちが目下調査中だ。
ヤタガラスの隠し子に関するデータを母さんから回してもらって、ラボで資料を閲覧していたあたしは、三度驚く羽目になった。
――マコトさんもキュアチェリー様のファンなんですか!?
ヤタガラスの隠し子の地球での名前は、風杉マナ。
あたしが知っている女の子だった。
初めて会ったのは、4号と戦った後の瓦礫の山になった小学校跡だ。
あそこでキュアチェリーの真似をして遊んでいる姿を見た後も、会う機会があったっけ。
先輩のブログには娘当人の実名は書いてなかったし、マナとタイチからは苗字は聞いてなかったから、点と点が今までは繋がってなかったんだけどさ。
何だか嫌な偶然だ、と思っちまった。
ヤタガラスと地球外知性体0号の戦いから20年経った今になって、新手の地球外知性体になる地球人が続々と現れて、このタイミングでヤタガラスの隠し子が更に見つかって。
しかもその隠し子は、ヤタガラスのブラックボックス由来のサイボーグである
風杉マナのキュアチェリーに対する熱愛にすら、裏があるんじゃないかと思っちまう。
全てが仕組まれてたんじゃないか?
「……あの女、ホントに何をどこまで知ってんだ」
そして、あたしらの運命を仕組んだ存在として一番疑わしいのはキュアチェリーだ。どう考えてもな。
今まで地球外生命体なんて呼ばれてきた奴らは、0号以外は全て地球人だった。
でもここにきて0号と同様にガチモンの宇宙人である風杉マナという存在が線上に現れて……キュアチェリーの奴にも宇宙人疑惑が出てきたかもしれねぇ。
何でもかんでも宇宙人のせいにするのもナンセンスだと思うけど、あの女のどっか浮世離れした雰囲気を思い返してみると、ヤタガラスと一緒に地球に来たって言われてもおかしくない気もするんだよな。
……もしかして、風杉マナ自身がキュアチェリーか?
と一瞬疑っちまったけど、それは無さそうだな。
キュアチェリーに憧れて真似事をしてた風杉マナの人物像と、スカシ面の実物の人物像が一致しないんだよな。
既にキュアチェリーとして超人的な力を持っているなら、その真似事をして遊ぶことは無い気はする。
実物がコウノトリのヒントを出してきたところから察するに、キュアチェリーと風杉マナを繋ぐ線は確実に存在するんだけどな。
あたしにそのヒントを出してきたキュアチェリーの真意も気になるトコだ。
何をしても、あの女の掌の上で踊ってるだけな気がしちまうな……。
少なくとも人の命を軽んじるような冷血女じゃないとは信じたいけど、だからといって信頼が置ける相手じゃぁない。
尋問して素直に情報を吐いてくれる奴なら楽なんだがな。
のらりくらりと惚けるあの女の姿が想像できちまう……。
いつもいつも知らぬ存ぜぬを押し通す面の皮の厚さには、こっちも慣れっこになっちまってる。
と思ってたら、母さん経由で追加の資料が送られてきた。
なんでも、風杉マナ本人の身柄を確保して血液検査やらレントゲン撮影やら、各種調査をしたらしい。
もちろん手荒な方法じゃなくて、地球外知性体によって未知の病原体がばらまかれた可能性があるから、って嘘を吹き込んで検査を受けさせたみたいだ。
そんでもって結果は……99%以上の確率で、地球人と一致か。
現代医学では測れない特殊な素養を持ってる可能性もあるから何とも言えないトコだな。
あたしが本人と会った印象だと、本当に普通の子としか言えない小学生だったけど。
キュアチェリーの奴が出してきた情報が元な訳だし、無意味なはずは無いと思うんだが、風杉マナ本人には本当に何も無いのか……?
ひょっとすると、風杉マナじゃなくて揺り籠の方が重要なオブジェクトだった感じか?
そうなら後は母さんの研究結果待ちだな。
そして待つこと数日後。
黒い揺り籠の外面に掘られた文字を元に、母さんがヤタガラスのブラックボックスの新たな領域の解析に成功した。
その領域に綴られていたのは……一つの星の滅びゆく歴史だった。
ある日突然飛来した外宇宙生命体によって謎の因子がバラまかれ、その星の住人達は次々に異形の怪物へと変貌してったみたいだ。
まるで、今の地球で起こってることと一緒だ。
ただ異なっているのは、地球では夜明けの大火から20年の猶予があったのに対して、その星には時間が無かったってトコだな。
もちろんその星の人らもただ滅びるだけじゃなくて、懸命に対抗手段を探した。
執念の甲斐あって、怪物化の因子に対して高い抵抗力を持つ赤子が発見されたんだ。
その「太陽の子」と呼ばれた赤子を研究して、残った人々の必死の努力の末に生み出された反攻のための切り札は「王の石」と呼ばれた。
作られた「王の石」の放つ不思議な光に照らされている生物は、怪物へ変貌しないんだとさ。
でも、「王の石」が完成したころには既に星は滅亡不可避なステージまで進んじまってたんだ。
ここで、ヤタガラスに記された歴史は終わりを告げていた。
まぁここで記録が終わってるってことは、多分滅んだんだろうな……。
勝った奴らがそれを歴史に記さないなんてことは無いだろうし。
どう考えても「太陽の子」が風杉マナで、「王の石」はヤタガラスやあたしの背中のエンジンに使われている桜色の結晶体だ。
滅びが不可避だと覚悟した人々が「太陽の子」をコールドスリープみたいな技術で保存して、「王の石」と一緒にヤタガラスに乗せて宇宙へと逃がしたに違いない。
あとは、あたしらが知る通りなんだろう。
ヤタガラスに遅れて地球外知性体0号も地球に飛来して、夜明けの大火が起こった。
そして数年後にコールドスリープから目覚めた「太陽の子」が風杉マナだ。
比較してみると地球の滅亡スケジュールが大分遅い気はしてたけど、一応辻褄は合う……のか?
怪物化の因子に対して高い抵抗力を持つとされる風杉マナが平均的な地球人とほぼ同じ存在ってことは、大体の地球人が怪物化の因子に対して高い抵抗力を持ってるとしても不思議じゃぁない。
それでも耐性は完璧じゃないから、怪物化しちまう奴も出るって事なんかね。
にしても、0号襲来から20年経った今になって連続して怪物化する人間が出るってのも、何かタネがありそうなモンだな。
ここまでの情報をもう一度頭の中でリピートしてみて、何かが頭の片隅に引っかかった。
気味が悪く感じるというか、ちょっと妙っつーか。
滅亡過程そのものに不自然な点は無いんだがさ……なんか、キュアチェリーに相当する存在が影も形も無い感じだよな?
怪物化への耐性を持たせる桜色の結晶体にしても、既に怪物化した人らを元に戻せるわけでは無さそうだし。
地球外知性体へと変貌した人らを浄化して元に戻せるキュアチェリーとかいう都合の良い存在は、一体どこから出てきたんだ……??
というか、ヤタガラスと0号の地球来訪のタイムラグってどれぐらいあったんだ?
先輩の話だと夜明けの大火の前日に巨大カラスから黒い揺り籠を預けられたって話だったんだよな。
そう考えると、ヤタガラスと0号は殆ど同時期ぐらいに地球に来たと見た方が良さそうではある。
風杉先輩に接触する前のヤタガラスを鹵獲して解析した組織があったんなら、そんな見るからに重要部品な黒い揺り籠を見逃したりしないだろうし。
ってことは、母さんたち以外の地球人がヤタガラスのブラックボックスの中身を知ってるって事はほぼ無いハズなんだよ。
夜明けの大火の直前にヤタガラスに接触するチャンスがあった地球人はゼロではないにしても、ブラックボックスの中身を解析する時間は絶対的に足らないんだ。
ヤタガラスの現物は0号との戦闘直後から母さんたちが確保してて、他の組織には触らせてない訳だし。
――お天道様なら、全てお見通しかもしれませんね。
そうなると……キュアチェリーの奴は、「解析した」とかじゃなくてブラックボックスの中身を直接「知ってた」としか思えねぇんだよな。
母さんと繋がりのある研究者や政治絡みの人らのアリバイは、母さんも早い段階で洗ってるはずだし、仲間内にキュアチェリーが居るって線も無い。
というか仲間内にそんな事情通が居るなら、そもそも母さんにブラックボックスの研究をさせる意味が無い訳だし。
やっぱアイツ、ヤタガラスと一緒に宇宙から来てるだろ。
でも今回ブラックボックスから新たに解析された情報だと、少なくともヤタガラスの故郷では怪物を浄化できる存在なんて居なかったっぽいんだよなぁ……。
考えれば考えるほど、改めて意味が分からねぇぞ!
地球人説も宇宙人説も、どっちも不自然で筋が通らねぇ!
ホントに何なんだよあの女!!?