またしても何も知らない魔法少女さん、ついに宇宙人説がでっちあげられてしまう……。
でもまぁ仲間内ですら本物の犬説が出ていた犬塚翼さん(25)よりはマシかもしれない。
僕が変身して現場に駆け付けた時、既に地球外知性体9号はサイボーグさんと交戦中だった。
3メートル近い巨体の黄金コウモリが、縦横無尽に飛び回りながら火炎弾を打ちまくっていた。
でもお姉さんも全然負けていなかった。
なんと……巨大な黒い鳥みたいなメカを下背部にジョイントして、黄金コウモリ以上の機動力で空中戦を繰り広げていたんだ。
翼を最大まで広げた両者は同じぐらいの大きさのシルエットに見える。
とりあえず僕はお姉さんのバイクからドラゴン頭のビーム砲を取り出して用意してみたけど、今回は使う必要もないかも……。
飛べない僕は、地面からお姉さんたちを見上げることしか出来なかった。
たぶん、お姉さんの後ろに合体しているあのメカが「ヤタガラス」って呼ばれていた合体パーツなんだと思う。
お姉さんのパワードスーツと同じ漆黒のボディで、鳥類っぽい形状のメカだ。
翼の下にジェットエンジンみたいな樽状の推進器がついていて、そこから推力を得ながら翼で姿勢制御をしているみたいだ。
カッコイイなぁ……。
鳥類って実はドラゴンと並ぶぐらいに、メカにしたら外さない鉄板モチーフなのかもしれない。
欲を言えば合体シーンを見せて欲しかったけど。
何にしても、起動できておめでとう。
「墜ちろぉっ!」
「ギャオオオオオオオッ!!」
終始優勢気味に戦っていたお姉さんが、ついに第9号の羽を蹴り折ることに成功して。
最後に両拳を組み合わせて振り下ろす攻撃を食らった第9号は、凄まじい勢いで墜落して地面を揺らした。
あの技、古い漫画なんかで見たことがあるけど地味に名前を知らないな……。*1
そして、ダウンしている9号へとサイボーグさんは急速落下からの追い打ちキックをぶちかました。
またまた凄い音と9号の悲鳴が聞こえた。
土埃が酷くて塞がれてしまった視界が、しばらくの後にひらけて。
地上に立っていたのは、案の定というべきかお姉さんだった。
しかも紫色の心臓部の摘出まで終わって、30センチぐらいの球体を両腕で抱えている状態だ。
……僕、最近ハートキャッチしてないな。
「御見事です。後は御任せください」
「……ああ」
ゆったりとお姉さんへと歩み寄って、受け取った心臓部を抱きしめてプリキュア的な謎エナジーを流してやって。
中から出てきた男性を道端に寝かせてやって、状況終了となった。
今回は早かったな……。
というか、本当に僕は最後の浄化しかしてないや。
「エンジンの調子は如何ですか?」
「今回はリミット解除してねぇからな。大丈夫だ」
お姉さんに不調になって欲しい訳じゃないけど。
必要無くなったら無くなったで、何だか寂しい気がするよ。
ロマンにあふれる身体をどさくさに紛れて触るチャンスが無くなっていく……。
あれだけ縦横無尽に空中戦ができるなら、もう僕を御姫様抱っこして一緒に空を跳び回るなんて機会も無くなるんだろうし。
ちくっと胸の奥が痛んだ。
「ん……? その9号の被疑者、もしかして4号の時のと同一人物か?」
「……言われてみれば、仰る通りですね」
あんまり気にしてなかったけど……まじまじと観察してみると被害者の中年男性には見覚えがある。
一度怪人に変えられてしまった人が、また怪人にされてしまうケースもあるのか。
まぁ僕の浄化も一時の効果に過ぎないだろうし、永続で保護効果がある訳じゃないんだろう。
その辺りはプリキュア的には別におかしくないから気にしなくていいと思うよ。
プリンセスプリキュアとかで、同じ人が何回も怪人にされていた気がするし。
「なぁ。前にも似たようなことを聞いたけどよ。地球外知性体を元の人間に戻すその力って、一体何なんだ?」
何なんだと言われましても……。
プリキュアってそういうものでしょ、としか答えようが無い。
敵怪人をプリキュアが浄化できるのは、そういうものだとしか説明が出来ない気がするんだけど。
そんなの理屈で考えて作業してないよ。
フィーリングで何とかなっているとしか言えないんだ。
……と思うんだけど、お姉さんがシリアスな雰囲気で聞いてきたものだから、適当には答えづらいなぁ。
「ヒマワリの花が太陽を追いかけるように茎を傾ける習性があるのを、御存知でしょうか?」
「そのぐらい小学生でも知ってらぁ」
実は年をとると首を振らなくなるんだけどね、ヒマワリ。
ヒマワリといえば揃って首を振ってるイメージがあるけど、アレって若くて成長真っ盛りのヒマワリに特有の動きなんだ。
一説には人間以上に正確な体内時計(概日リズム)を持っているとされるヒマワリの動きは、学生時代に理科の授業で習った人も多いと思う。*2
……けどね。
習性があるから首が回るんだ、っていうのは考え方として間違っている訳じゃないけど、必ずしも正しい訳でもないんだ。
「しかしそれは、まずヒマワリという花があって、それを観察して後から人々が理屈をつけたにすぎません。
「んんん……?」
お姉さん、考えこんじゃってる。
まぁ花って興味がない人はとことん興味がない分野だろうし……。
ハートキャッチプリキュアを全話みていても、花言葉を一つも覚えていない人とかザラに居るって聞いたことあるし、そんなものだと思うよ。
ちなみに花言葉ネタで言うと、キュアサマーにヤシの意匠が入ってることに気付くと、ヤシの花言葉を知った時にアハ体験が来るかもしれない……。*3
「…………なんで浄化できるのかお前自身も分からない、ってことか?」
「恥ずかしながら、仰る通りです」
恥ずかしながら、と言いながらも悪びれないスタンスで押し切ろう。
パーフェクト美少女の微笑万能説を信じろ。
まぁ今回はそれに加えて、ちょっとした詐術的なタネも蒔いた。
分かりにくい言い回しを使われると、それを解読した結果として現れた情報を信じ込みやすくなるっていうヤツだ。
「風杉マナと何か関係があるんじゃねぇか?」
コレにはちょっと驚いた。
余裕の微笑みはキープしてるけど、内心では結構驚いている。
お姉さん、もうマナちゃんにまで辿り着いたのか。
地球外知性体の騒動の前からキュアチェリーの絵を描いていたマナちゃんの存在は、隠し通すのは無理だ。
そこに思い当たる人間がいつか出るっていうのは最初から想定内だけど、こんなに早くバレるとは思わなかった。*4
「ふふ。
マナちゃんと僕で考えたキュアチェリーなのは間違いないんだけど、なぜ変身できるのかは僕にも分からないから、ハッキリ言えないんだよね。
これも現象が先にあって、理屈が分からないパターンだ。
実際超常現象の源になっているのがマナちゃんなのか僕なのか、それすら分からないんだから、明言できることが何も無い訳だし仕方ない。
とはいえプリキュアシリーズをベースに作られたキャラクターとしては特に不自然な事はしていないハズなので、問題ないと思う。
不定期に現れる怪人を倒して、浄化して元の人間に戻しているだけだし。
極めてオーソドックスで健全なプリキュア活動としか言えないな。
強いて言うなら武装と妖精枠が足りないのが気になるけど、バンダイカーン様がバックに居なかったらこんなもんでしょ。
自前の手札が徒手空拳と球体バリアだけなのは物足りないけれど、お姉さんの武装を頻繁に借りているから何だかんだで戦えてしまっているんだよね。
むしろ冷静に考えたら、サイボーグさんの方が一体何なんだ……?(今更感)
ブラペ枠と考えればプリキュア的にもそれほどおかしくはない気もするし、ツッコミをいれる程でも無いかなと思ってるけど。
「あたしは……ここまで強くなった。それでもまだ、0号の居場所は吐かねぇのか?」
どういうこと……?
お姉さんがどんどん強くなっているのはその通りだと思うけどさ。
レベルアップに応じて開示情報のグレードが上がるシステムみたいなものがあると思っていらっしゃる……?
そんな昭和のRPGみたいな都合の良いシステムなんて無いよ?
「0号の所在に関しては、
そういうのは、むしろ警察組織と協力関係にあるサイボーグさんの方から出して欲しい情報だよ。
野性のプリキュアに一体何を期待しているんだ。
というかブラペ枠なら猶更、お姉さんの方が絶対に情報は持ってるでしょ?(名推理)
お姉さんは……僕の言葉を聞いて黙ってしまった。
何だか、お姉さんの方でも0号の足取りに関する情報は全然無いっぽい?
それで最後の希望として僕に情報を求めてきた感じだったのかも……?
力になれなくてゴメンね……。
その後、警察の人たちが駆け付けてきたのを契機に、僕はいつもの光の花びらを巻き上げて退散したのだった。
お姉さん、早く0号に会えると良いね。
魔法少女さんの持っている情報だと本当にオーソドックスなプリキュアをやっているようにしか見えないとかいう、この世界のバグみたいな事実……。
しかも、当人はサイボーグさんを頻繁に曇らせていることにすら気付いていない模様。