ついにヤタガラスの起動および合体に成功したサイボーグさん。
しかし魔法少女さんの口を割らせるには、まだ何かが足りないようだ……。
あと、手がかりといえば……ヤタガラスのブラックボックスと、黒い揺り籠ぐらいか??
――あたしは……ここまで強くなった。それでもまだ、0号の居場所は吐かねぇのか?
――0号の所在に関しては、
相変わらず生家の地下ラボで、あたしはあのいけ好かない女の事ばっかり考えちまってた。
思い返してみると、あの女は惚けることはあっても、こっちを混乱させるための嘘みたいなのは言ったことが無い気がするんだよな。
基本的には、しらばくれるか暗喩でヒントをくれることが殆どだ。
背後の存在、っていう言葉に関しては、暗喩とかじゃなくてそのままの意味であたしの背中に合体してたヤタガラスのことだろうけどな。
あの女がヤタガラスのブラックボックスの解析を促すような言動を繰り返していたのは、そこに0号の手がかりがあると踏んでいたからだ……って考えると腑に落ちる部分はある。
キュアチェリーがブラックボックスの内容をある程度知っているのは間違いないが、全てを知ってる訳では無いってことだろうな。
あたしらがヤタガラスの起動を果たして合体可能になったことすら、あの女にとっては通過点に過ぎなかったんだ。
――ヒマワリの花が太陽を追いかけるように茎を傾ける習性があるのを、御存知でしょうか?
――しかしそれは、まずヒマワリという花があって、それを観察して後から人々が理屈をつけたにすぎません。
――
そういや暗喩で思い出したが、また太陽に関する言い回しが出てきてたな。
今までの傾向から考えると太陽はヤタガラスの事であることが多い。
そこから解釈すると……うーん?
太陽の後を追っている存在がキュアチェリー、と考えると?
キュアチェリーの持つ浄化能力も何らかの形でヤタガラスや風杉マナの後追いなんだけど、原理に関しては明言したくない理由があるってトコか。
ブラックボックスの記録にあった「太陽の子」の持つ怪物化耐性を発展させたのがあたしらの動力に使われている桜色の結晶体で、それを更に発展させたのがチェリーの奴の力なんだろう。
風杉マナとの関係も、明言しないノリだったけど殆ど肯定してるみたいなモンだった。
その辺りから推測するに、あの女にとって風杉マナは「特別」ではあっても「重要」ではないぐらいのポジションなんだろうな。
実際あたしらの科学力で調べても普通の人間でしかなかった訳だし、チェリーの奴がそういうスタンスなのも納得ではある。
故郷では「太陽の子」と呼ばれて重要な存在だったのかもしれんけど、地球ではごく普通の子供として暮らして欲しい、っていう親心みたいな心境でもあるんだろうかなぁ?
……おっと、母さんから追加レポートが来てるな。
風杉マナが発見された黒い揺り籠に関する研究の経過報告みたいだ。
専門用語が並んでいるところは正直あたしもあんまり分かんねぇけど、斜め読みで大意だけでも掴んどきたいもんだ。
どうもあの黒い揺り籠は、地球でいう所の3Dプリンターに近いらしい。
もちろん文明レベルが全然違うから起動方法も分からないし、母さんの勘に頼る部分が大きいみたいだ。
赤ん坊をコールドスリープさせて運んで来た揺り籠が3Dプリンターというのも妙だなと少しだけ思ったけど、たぶん現地でそれを使って何かを作らせるつもりだったんだろうな。
おそらく……0号に対抗するための切り札を作らせるための3Dプリンターなんだろう。
あの女の何もかも見通していると言わんばかりの余裕たっぷりの笑顔が頭の隅に浮かんだ。
あいつなら、その切り札の正体も知っていそうだな。
まったく、どこまであの女の掌の上なんだか……。
そして翌週、新たな地球外知性体の目撃情報が入った。
警察から回ってきた情報によると、どうも5号とソックリな外見らしい。
ヤタガラスを下背部に合体させたあたしは、左腕にドラゴンヘッドを装備して出動した。
空路を使うことで直線的に現場に到着できるのは新鮮な感覚だな。
バイクより、ずっと速い。
9号の時はバイクで現着後に母さんから連絡が入って、起動に成功して飛んで来たヤタガラスと現地で合体する羽目になったからな……。
で、眼下に見えてきた10号は……真っ赤なクワガタムシだった。
1号に瓜二つな巨大クワガタが、チェリーの奴に一方的にボコボコにされてやがる。
『マコト。地球外知性体10号と思しき対象は……通報とは、姿が違うわね?』
「妙だな……? ともかく、現場判断で対象撃破と要救の対処を行う」
……うん?
警察からの話だと、5号にクリソツな青いカブトムシって話だったよな?
カブトムシとクワガタムシを間違えるのは分かるけど、赤と青は間違えない気がするんだがな……?
とりあえず降りてチェリーに話を聞いてみっか。
地上だと羽を広げたままじゃ不便だし、ヤタガラスの羽は折り畳んどいたほうが良さそうだな。
どんな理屈なのか分からんけど、背部ユニットと化したヤタガラスはリュックサックぐらいまで羽を折り畳めるんだ。
謎のメカにも程があるが、これもそのうち母さんが原理を解明するだろ。たぶん。
そんなことより、今は推定10号の処理だ。
先に戦ってたチェリーの奴なら、何か知ってるはずだよな?
「待たせたな。コイツが10号……か?」
「そのようです。初めは第5号と同じ容姿でしたけれど、つい先程
1号の装甲ってかなり分厚くて、当時のあたしじゃぁリミット解除を使っても倒しきれない相手だったよな。
それをチェリーは普通にステゴロで対処できちまうのか……。
よく見たら装甲の継ぎ目みたいな部分を狙って抜き手を打ち込んだ跡が見えるな。
そんな鎧武者を処理するための暗殺術みたいな戦い方、どこで覚えてきたんだよお前??
まぁともかく、10号は既にボロボロだ。
あたしはリミット解除を使わずにドラゴンヘッドを構えた。
下背部に合体したヤタガラスの出力があるから、リミット解除をしなくても問題なく以前までと同等の砲撃が出来るんだよ。
「ファイアっ!!」
ヤタガラスの出力で上昇した身体能力に物を言わせて踏ん張りを効かせながら、ドラゴンヘッドからの粒子砲撃をぶちかました。
圧倒的な破壊の光に、10号が飲まれていく。
「やはり……先程と同じですね」
ところが10号は焼き払われる直前にビーム砲撃の波から脱出して……グニャグニャと姿を変え始めた。
最初は5号の姿で、今のは1号の姿だった訳だし、また姿を変えるのは不思議じゃぁない。
たぶん他の地球外知性体の姿に化けられるのが10号の特性なんだろう。
案の定、10号は新たな姿を現した。
全高2メートル程度で、全身真っ黒なその人型を……あたしは見たことがあった。
20年前、あたしらの運命が狂った日に火の海と化した町で見た、最悪の化物の姿だ。
視界が真っ赤に染まった気がした。
モニタの片隅で、あたしのストレス値が異常域に入っているのが見えた。
『マコト、落ち着いて! それはっ、そいつは……!』
「地球外知性体、0号……!!」
「そのニセモノ、ですよね?」
通信機越しの母さんすらも冷静さを欠いちまっている状況で、チェリーの奴の余裕ぶった声が、今は有難い。
あたしは、何とか気持ちを落ち着けた。
目の前のコイツは0号じゃなくて10号だ。
そう自分自身に言い聞かせて、なんとかあたしは冷静であろうとした。
よく思い出してみると0号は目だけは赤かった気がするし、目まで黒いコイツとは別個体だな。
背中から生えている2本の脚っぽい突起を引き抜いて剣のように使って、全高2メートルほどの巨人があたしらに斬りかかってきた。
ドラゴンヘッドを盾にしながら、あたしは攻撃を凌いだ。
チェリーの奴は相変わらず、ひらりひらりと重力なんて無いみたいな動きで回避してんな。
飛翔する隙を伺っていたあたしの頭部センサーが、10号の腹部に謎の発熱を感知した。
とっさに、あたしは後ろ飛びに逃げて、チェリーの奴は球体バリアを展開した。
「チェリー・シェード!」
チェリーの奴が両掌を突き出して球体バリアを張ったのは……チェリー自身の周囲じゃなくて、10号の周囲だった。
直後、10号の腹部から高熱を伴う光が放たれ、球体バリアの中は灼熱地獄と化した。
3号の時にも似たようなことやってたが、えげつない戦法だな……。
つーか、お前どうやって10号の腹部の熱源反応を察したんだよ?
まぁ、チェリーが理不尽なのは今に始まったことじゃねぇけど。
「リミット解除! ファイアっ!!」
そして焼かれた10号に隙が出来たところで、今度はリミット解除してからのビーム砲撃だ!
理論上はチェリーの奴が使う時よりも大威力が出るらしい特大ビーム砲撃を、あたしはドラゴンヘッドから繰り出した!
下背部に合体しているヤタガラスの黒羽を地面に刺して反動を耐えながらの、超威力砲撃だ。
ツーカーのタイミングで、あたしの砲撃が命中する直前でチェリーの球体バリアが消えて。
今度こそ、極太砲撃が10号へと直撃し、その身を焼き尽くした。
ボロボロになって倒れ伏した10号へと、チェリーの奴がフリフリの衣装を靡かせながら一目散に駆け寄っていて。
「ハート……キャッチ!!」
久々に聞いた、チェリーの気が抜けるような掛け声とともに、ボロボロの10号の身体から紫色の球体が引き抜かれた……。
30センチぐらいの球体を抱きしめて、初老ぐらいの男性の姿に戻してやっているチェリーの姿は、やっぱりいつも通りに妙な色気があった。
綺麗で、美しくて、慈愛の化身みたいな顔をして……人間を救っていた。
あたしは……そんなキュアチェリーの奇跡にも慣れ始めていた。
どんなにサイボーグとしてスペックアップしても、もっと根本の人間的な何かで、コイツには勝てないのかもしれないって心の中で思い始めていたんだ。
いけ好かないっていう気持ちがゼロになった訳じゃないけど、なんつーか。
キュアチェリーの作る流れに身を任せれば問答無用のハッピーエンドまで一直線に行けるんじゃないか、って思っちまったんだ。
そんな、無責任な希望が湧いてきたタイミングで。
『マコト、助けっ……』
電波に乗って、母さんの助けを求める声と大音響の爆音が聞こえた。
通信が、途絶した。